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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十三章 途絶

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1249.病の情報拡散

 不安で胸いっぱいでも、腹は減る。

 レノとクルィーロは、手頃な店で具だくさんのスープを食べながら、ファーキルに連絡した。


 ……ラクリマリスからは、アミトスチグマのファーキル君と一瞬で連絡できるなんて、いつの間にか外国は便利になってたんだな。


 何度目になるかわからない感慨を籠めて、クルィーロがつつくタブレット端末を見詰める。


 ネモラリス共和国からアミトスチグマ王国に連絡する場合、国際電話を掛けられるのは、首都クレーヴェルやレーチカなどの大都市に限られる。

 国際郵便の船便なら片道三日。料金が高い【跳躍】便でも一日掛かる。

 電話局や郵便局を通さず、個人に頼めば却って謝礼が高くついた。


 だが、ラクリマリス王国でインターネットを使えば、アミトスチグマ王国までほんの一瞬だ。

 どちらの国も、インターネット回線が使える場所は限られるようだが、王都と夏の都なら確実に繋がる。


 ……アーテル人は、この便利さに慣れ切ってるんだよな。


 独立後、科学文明に舵を切ったアーテル共和国は、何者かに回線網を物理的に破壊され、インターネットから切り離された。

 今、どうなっているのか。現地まで直接見に行かない限りわからないが、多数の魔物が出たとの情報もあり、迂闊に行けない状況だ。


 「ネモラリスは元々インターネットとかないから、外国に噂が伝わるのって、直接顔を合わせて喋って広まったってコトだよな」

 ファーキルからの返事を待つ間、クルィーロはニュースサイトを表示させ、あれこれ単語を変えてそれらしい記事を探す。

 「出所は、フラクシヌス教の聖職者かボランティアってコト?」

 「その線もあるけど、リャビーナの星の(しるべ)の方が」

 「えっ? 何で?」

 レノには幼馴染の推測が全くわからない。


 クルィーロは素早く視線を巡らせ、声を(ひそ)めた。

 「カイラーとカーメンシクにも結構、居ただろ?」

 「あ、あぁ……」

 隠れキルクルス教徒や星の(しるべ)の構成員が、地元の力なき民に元々どれだけ居て、ネーニア島からの避難民のどこまで根を下ろしたか、見当もつかなかった。


 ラクエウス議員とファーキルの働きで、爆弾テロは鳴りを潜めたが、ネモラリス共和国の星の(しるべ)が解体されたワケではない。聖典を送られて、キルクルス教の信仰は更に深まっただろう。


 「役所が交通規制する前にどうにかしてリャビーナの支部に知らせて、あっちの連中が、ディケアとか周りの国の仲間にネットで伝えて、噂を広めてるんじゃないかって思うんだ」

 「えっ? 何で?」


 ……そんなコトして、連中に何の得があるんだ?


 レノが首を傾げると、クルィーロは端末に少し前の報告書を表示させた。

 「ワクチン作ってる工場で機械壊れて品薄になってるだろ?」

 「うん。でも、もう直ったって言ってなかったか?」

 「直ったには直ったけど、生産が追い付かなくて当分こっちに来ないって」

 「あー、そう言やジョールチさんたち、言ってたなぁ」

 言われるとだんだん思い出してきたが、まだ話が見えない。


 「それで、ネモラリスのどこかで麻疹(はしか)が流行ってるって噂流したら、外国から来る一般人のボランティアは減るんじゃないか?」

 「あ……!」

 しかも、根も葉もない嘘ではなく、本当のことだ。

 「臨時政府ってボランティアに注意喚起しないのか?」

 「俺もそう思って検索したんだけど、公式発表のニュースは、一個もみつかんないんだよな」

 レノは窓に目を向けた。


 湖に近い雑居ビルの二階からは、ラクリマリス港がよく見える。

 冬の薄日を受けて出航するあの魔道機船がどこ行きか知らないが、レーチカ市と王都ラクリマリス、そして夏の都を結ぶ難民輸送船は、まだ運行中だ。


 「ワクチンが足りない疫病が出たってなったら、難民キャンプに連れてってもらうどころか、王都に入るのも断られるかもしれない」

 クルィーロはますます声を潜めたが、レノの耳には囁きが鋭く突き刺さった。

 「でも、黙ってたら外国にも……って言うか、キャンプ地で流行ったらそれこそオオゴトじゃないか?」

 「そうなんだよなぁ。あの辺は空襲に遭わなかったから、難民キャンプに行く人は居ないって判断して、何も言わないのかもしれないけど」

 「どうしてそう思うんだ?」

 「ミャータ辺りはもっと早くにアレしてたろ」


 レノたち移動放送局プラエテルミッサが、今も滞在する村に着いたのは夏だ。

 村人たちの話を総合すると、ミャータ市ではその少し前から麻疹(はしか)の流行があったらしい。


 「あー……じゃあ、噂バラ撒くのもその辺から?」

 いつ頃、ラクリマリスまで伝わったのかわからないが、ネモラリス難民が文字通りバイ菌扱いされないか気懸(きがか)りだ。

 スープで腹はあたたまったが、心がうっすら寒くなる。



 「あ、返事来た」


 ファーキルがラクエウス議員から聞き出した話によると、昨日、ルニフェラ共和国に駐在するザミルザーニィ大使が、現地の製薬会社からワクチン輸出の了承を取りつけたと言う。


 「でも、国際空港はトポリしかないし、湖上封鎖で便数に制限があるから、一度にたくさんはムリだって」

 「それでも、来るには来るんだよな?」

 「早かったら、最初の分は二十日後くらいに大使自身が付き添って運ぶってさ」

 「やった!」

 何人分来るかわからないが、何もないよりずっといい。

 「まぁ、でも大使が運ぶってコトは、正規ルートって言うか、臨時政府の保健省に行っちゃうんだよな」

 「あっ……!」

 クルィーロが肩を落とし、レノの浮かれた気持ちは地に着いた。


 「でも、ないよりマシだ」

 ミャータやカーメンシクに回るのがいつになるか不明だが、今は明るい兆しが見えただけでも良しとするしかなかった。

☆国際電話を掛けられるのは、首都クレーヴェルやレーチカなどの大都市に限られる……「876.警備員の道程」参照

☆どちらの国も、インターネット回線が使える場所は限られる

 ラクリマリス=田舎は無理……「270.歌を記録する」「280.目印となる歌」参照

 アミトスチグマ=難民キャンプ奥地などは無理……「806.惑わせる情報」「1148.祈りを湖水に」参照


☆何者かに回線網を物理的に破壊……「1218.通信網の破壊」~「1222.水底を流れる」参照

☆多数の魔物が出たとの情報……「1234.長期化を予想」参照


☆カイラーとカーメンシクにも結構、居た……星の(しるべ)の拠点は各地にある「808.散らばる拠点」参照

 カイラー……「1020.この街の治安」参照

 カーメンシク……「1041.治安と買い物」「1042.工場がアジト」参照


☆ラクエウス議員とファーキルの働きで、爆弾テロは鳴りを潜めた……「0958.聖典を届ける」「0959.敵国で広める」「0989.ピアノの老人」参照

☆ワクチン作ってる工場で機械壊れて品薄……「1058.ワクチン不足」「1090.行くなの理由」参照

☆もう直った……「1167.流れを変える」「1211.懸念を伝える」参照

☆当分こっちに来ない……「1117.一対一の対話」「1118.攻めの守りで」参照

☆レーチカ市と王都ラクリマリス、そして夏の都を結ぶ難民輸送船……「767.急増する難民」参照

☆ルニフェラ共和国に駐在するザミルザーニィ大使……「1195.外交官の連携」参照

☆国際空港はトポリしかない/湖上封鎖で便数に制限がある……「634.銀行の手続き」「750.魔装兵の休日」参照


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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