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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十二章 切断

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1218.通信網の破壊

 インターネット上に公開されたアンテナ基地、中継局、交換局の配置図と、別の地図サイトの衛星写真で位置を調べ、魔装兵ルベルの【索敵】と【刮目】で現地の状況を遠距離から確認する。

 工兵マーイと工兵班長ウートラが口述し、ルベルがタブレット端末で作成した報告書をラズートチク少尉に見せた。

 メールなどを送信すると足がつく。手帳感覚で端末機を手渡した。


 「では、私とマーイで現地を確認する。ウートラ班長は護符の素材調達を頼む」

 ラズートチク少尉が指示を出し、マーイを伴って別の隠れ家に【跳躍】した。



 工兵マールトは、三日で魔哮砲用の護符を作り上げた。

 魔装兵ルベルが【従魔の檻】から解放した魔哮砲にそっと触れる。やわらかな闇はいつも通り、あたたかい。


 「俺が、もういい離せと命令するまで、これを持ち続けよ」


 ルベルが力ある言葉で命じ、出来上がったばかりの護符を近付けると、闇の表面二カ所が兎の前足程度に隆起して受取った。

 ここだけ見れば、黒い小動物が両手で護符を抱えたようで可愛らしいが、全体を引きで見れば、大型バイク程度の黒い塊に護符がめり込んだようにしか見えない。


 魔哮砲から魔力の供給を受け、護符が淡い真珠色の光を放つ。【魔除け】の光を浴びた魔哮砲の身は、それでも深い闇のままだ。



 爆弾の調達は、工兵マールトが護符を作る間に済ませ、別の拠点に隠してある。

 「アーテル軍の動きはどうだ?」

 「インターネット上には弾薬の紛失に関する報道はありませんでした」

 ラズートチク少尉は、魔装兵ルベルの報告に頷いて付け加える。

 「それなりの規模の教会に警備員が配置され、警察官の巡回が増えた」

 「アーテル軍は、キルクルス教団と警察にだけ知らせたのですか?」

 工兵ナヤーブリが呆れる。


 「前回、同様の手口で盗まれた爆弾は、首都でルフス神学校の礼拝堂爆破に使用された。犯行声明は出されなかったが、ネモラリス憂撃隊の仕業だ」

 「今回も彼らの仕業だと思ったのですね」

 「その方が好都合だ。警察の目を神学校同様のテロ対策に向けられる」


 少尉と工兵たちの遣り取りにルベルの心が重くなる。

 ゲリラの【魔道士の涙】を呑んだ双頭狼が、ルフス光跡教会で殺戮を繰り広げた後、ネモラリス憂撃隊に目立った動きはない。


 本日実行する地上の爆破対象は三十八カ所の基地局と交換局だ。郊外は衛星アンテナ基地一カ所だけで、他は全て市街地にある。

 神学校の礼拝堂と同規模の爆発が生じれば、付近を走行中の車や歩行者にも被害が出る。


 何より、インターネットは科学文明国に於いて、電気、ガス、水道などと並ぶ重要な生命線だ。

 湖底ケーブルは電話回線と共用の為、大部分の企業が業務に支障を(きた)す。銀行や証券会社など金融機関の取引が停止すれば、アーテル経済は大混乱に陥るだろう。

 通院できない在宅患者の遠隔診察もできなくなると知った。

 医療に限らず、あらゆる分野の通信が途絶し、陸の孤島と化す。


 湖底ケーブル切断後も、地上のアンテナ設備などの破壊を継続する。

 全てのアーテル人が情報のない闇に放り出され、そこで何が起きようと、外部に助けを求める手段がなくなるのだ。


 ……でも、これが戦争なんだよな。


 アーテル共和国の非戦闘員にどれだけ被害が発生するか、魔装兵ルベルには全く予測できなかった。



 作戦当日、ルベルと工兵ナヤーブリは夜間の作戦に備え、ランテルナ島の地下街チェルノクニージニクで仮眠するよう命じられた。 

 日中は、ラズートチク少尉、工兵班長ウートラ、工兵マールトとマーイで通信設備の破壊工作を行う。



 ルベルとナヤーブリは安宿から一歩も出ず、持ち込んだ軽食をつまんで言葉少なに過ごす。

 寝たり起きたりを繰り返し、夕方になってタブレットッ端末の電源を入れた。



 テロか 通信交換局の爆破

 通信基地局 爆発の死傷者

 衛星アンテナの基地で爆発



 ポータルサイトの新着記事の見出しをつつく。

 工兵ナヤーブリもベッドに並んで腰掛け、横から画面を覗いた。


 速報記事は、首都ルフス郊外の衛星アンテナ基地や、大都市に配置された通信会社の通信基地局と交換局の爆発と、その付近に突然現れた魔獣の群を同時に伝え、現場に近付かないよう繰り返し呼掛ける。

 次々と上がる新着記事はいずれも似たような内容で、死傷者の数が増え、一部の身元が判明したことと目撃情報が追加されるが、原因や犯人については憶測の域を出る情報がない。


 「インターネットって、アンテナ壊してもフツーに使えるんですね」

 「端末で直接、受信できるからね。……俺も詳しくは知らないけど、機種によって、近くのアンテナから受信するのと、人工衛星から直接送受信できるのがあるらしいよ」

 「じゃあ、人工衛星を壊さない限り、使える端末が残るんですね」

 工員ナヤーブリが肩を落とす。


 ルベルは話題を変えてみた。

 「この魔獣の群ってどうしたんだろうな? 爆破地点全部に出たみたいだけど、何か聞いてる?」

 「いえ、私は何も……死体を扉にしたのでは……」

 ノックの音で口を噤み、ルベルが立ち上がる。

 少尉と班長が姿を見せると、工兵ナヤーブリも立った。


 「現場でネモラリス憂撃隊と鉢合わせした」

 「一カ所ですか?」

 「全部……いや、向こうの方が多い」

 少尉が手短に状況を説明する。

 ネモラリス憂撃隊も、政府軍と同じことを考え、あちらは【召喚符】と術を掛けた小動物の死骸を魔物召喚の扉として使用した。


 魔獣の群を何とかしない限り、プラスチック爆弾で破壊された設備の復旧に着手するどころか、負傷者の救助も不可能だ。


 「好都合なので、好きにさせた。ケーブルも予定通り行う」

 ラズートチク少尉が、魔装兵ルベルに小さなメダルを握らせる。ラクリマリス王家が敷いた湖上封鎖範囲内の航行許可証だ。

 ひやりとした感触に思わず背筋が伸びた。

☆ルフス神学校の礼拝堂爆破……「868.廃屋で留守番」「869.復讐派のテロ」「909.被害者の証言」参照

☆犯行声明は出されなかったが、ネモラリス憂撃隊の仕業……「911.復讐派を殲滅」参照

☆ゲリラの【魔道士の涙】を呑んだ双頭狼が、ルフス光跡教会で殺戮……「1072.中途半端な事」~「1077.涸れ果てた涙」参照

☆ラクリマリス王家が敷いた湖上封鎖範囲内の航行許可証……「749.身の置き場は」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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