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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第六章 印歴二一九一年二月六日

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0124.まともなメシ

 「お兄ちゃん、次、何するの?」

 ティスとアマナが揃ってカウンター前……タマネギ臭の圏外ギリギリに立つ。

 「えーっと、そうだな……テーブルに紙皿とフォークを並べてくれないか?」

 「うん!」

 仕事を与えられた二人が、嬉々として作業に取り掛かる。


 ピナがパスタを袋から出し、一人前ずつに取り分けながら聞いた。

 「お兄ちゃん、これ、どうやって茹でるの?」

 「ん? クルィーロに余力がありそうなら、魔法でやってもらおうかなって」

 「ふーん。パスタ取るのにトングか何かあった方がよさそうだけど?」

 「あ、すまん、忘れてた。でも、フォーク二本使えば、イケそう……」

 「俺、取って来るッ!」

 少年兵モーフが返事も待たずに奥へ駆ける。


 ソルニャーク隊長が買物袋を(つか)み、その背を追った。

 「おいッ! 単独行動をするな! そもそもトングが何か知っているのか?」

 「あっ……」

 モーフが階段の手前で足を止める。追い付いた隊長は、溜め息混じりにトングの説明をし、二人揃って食堂へ向かった。


 ……悪い奴じゃなさそうなんだよな……人殺しだけど。


 レノはハムを切りながら、みんなの帰りを待った。



 十人が揃ったところで、薬師(くすし)が目を覚ました。水塊を受け取り、鍋三杯分くらいを手元に残すと、後は即席のバケツに移す。手元の水を加温し、塩を足してパスタ十人前を一気に茹でた。


 ピナとロークは、モーフが持って来たトングで、宙を漂う熱湯からパスタを抜いて紙皿に移す。

 クルィーロが外の(かまど)で炭に点火し、レノが具材を炒める。フライパンから香ばしい匂いが漂うと、みんなの腹が鳴った。


 ティスとアマナは、茹で上がったパスタをレノに渡し、レノが一人前ずつ具材とパスタソースに絡めて炒める。

 ソルニャーク隊長とメドヴェージが、出来あがったパスタを紙皿に取り分けて応接テーブルに運び、モーフがコップを用意した。

 仕上げに、ティスとアマナがパセリを振りかける。


 「できたー!」

 「まともなメシ、すげー久し振りだな」

 クルィーロとアマナの兄妹が明るい笑顔を向け合う。


 廃墟にみんなの笑顔が弾け、ここだけ生気が満ちる。


 「さぁ、冷めない内に食べよう」

 レノが、余りを盛ったフライパンを応接テーブルの中央に置き、声を掛けた。


 今日もやはり食前の祈りはなく、みんな一斉にパスタを口に運ぶ。

 飴色に炒めたタマネギの甘み、ピリリとスパイスの効いたハム、パスタの塩気、パセリの彩り。共に食事をする者の幸せな笑顔。その全てが食欲をそそり、夢中で食べる。


 あっという間に紙皿が空になり、モーフがフライパンにチラリと視線を送る。メドヴェージがその背を軽く叩いて笑った。

 「それっぽっちじゃ足りんだろ。遠慮しねぇで、おかわり欲しいって言えよ」

 言いながら、おっさんがモーフの紙皿にパスタを追加する。少年兵はイヤそうにしながらも、お節介なおっさんに一応、礼を言って受け取った。



 「私はもうおなかいっぱいなんで、お茶、淹れますね」

 湖の民の薬師(くすし)がティーバッグを取り、術で湯を沸かす。宙に浮いた水塊は、すぐにポコポコ泡立って沸騰した。

 アウェッラーナは熱湯をくにゃりと窪ませ、ティーバッグを乗せた。接した部分から(あか)い糸を垂らしたように紅茶が広がる。濡れたティーバッグが沈み、湯が一気に紅くなる。術者が糸を引くと、紅茶が踊って紅が深まった。



 食べ終わった紙皿を処分し、汚れたフォークをひとまとめにして片付ける。

 ピナがみんなに聞いて、希望者にスティックシュガーを配る。

 アウェッラーナが力ある言葉で命じると、宙に漂う紅茶がコップに舞い降りた。夢のように不思議な動きにしばし見蕩(みと)れる。


 すっきりしたテーブルで、食後のお茶を楽しんだ。

 薬効のある香草茶ではないが、その優雅な香気に心が和む。


 「なんか、生き返った気分だ」 

 クルィーロがポツリと呟く。

 みんな、満ち足りた気持ちでその言葉に同意した。

☆ティーバッグ/スティックシュガー/コップ……「0113.一階の拾得物」参照

☆タマネギ臭の圏外……「123.みんなで料理」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
[良い点] 時間のある時にちょこちょこ読んでいます。 複雑な世界観や多岐にわたる設定、楽しませていただいてます。 どこかで感想を書けたらなと思っていたところでの、この話。第六章の『0124.まともな…
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