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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十一章 求心

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1197.湖底ケーブル

 魔装兵ルベルは、ルフス北東部に位置する廃ビル最上階の窓から、ラキュス湖を眺めた。

 赤毛の哨戒兵が【索敵】で水底を探査する傍らでは、ネモラリス水軍の工兵が背後の警戒に当たる。

 二人とも、アーテル共和国ではありふれた作業服に身を包むが、これもまた、外から見えない場所に呪文や呪印を施された【鎧】だ。


 ラズートチク少尉が入手した情報によると、ラキュス湖の底には通信回線のケーブルが張り巡らされ、湖南地方と湖東地方、そして世界を繋ぐのだと言う。


 ……一体、いつの間にこんなものまで。



 北ザカート市に駐留する防空艦ノモスで行われた会議は、二日後、出席者を入替えて再び行われた。

 アル・ジャディ将軍と陸軍側は変わらず、シクールス陸軍将補、ラズートチク少尉、魔装兵ルベル。水軍側は、艦長と中佐の他は、工兵班長と三人の工兵に交代した。


 将軍は、防空艦ノモスの作戦司令所に呼ばれた工兵たちに問うた。

 「インターネットと言うものを知っているか?」

 「……いえ、寡聞(かぶん)にして存じません」

 工兵班長が代表で答え、部下たちは緊張の面持ちで居住まいを正す。


 彼らの所属は、艦載レーダーなど機械類の点検と整備を担う班のひとつだ。艦が破損した場合の応急修理なども担う。

 哨戒は【飛翔する蜂角鷹(ハチクマ)】学派の【索敵】が主力で、レーダーは予備的にしか使わない。半世紀の内乱時代の物を少しずつ改修して使い続け、アーテル空軍のステルス機など全く捕捉できない代物だ。


 この工兵班長は【飛翔する(タカ)】学派で戦闘も可能な武器職人だが、部下は【()葦切(ヨシキリ)】学派の道具類職人、【穿(うが)啄木鳥(キツツキ)】学派の土木職人、【飛翔する燕】学派の気象予報士で、いずれも普通は戦わない学派だ。

 勿論(もちろん)、兵学校で武器の訓練を受けたが、基本的に戦闘には参加できないと見た方がいい。


 魔装兵ルベルは、ラズートチク少尉から与えられた自軍の情報に胃が痛んだ。


 将軍に視線で促され、陸軍情報部のラズートチク少尉が、簡潔に説明する。

 「科学文明国の通信技術のひとつだ。衛星や有線、無線など回線網のある場所なら、世界中どこでも瞬時に繋ぐ」

 「どこでも、電話が使えるのですか?」

 班長が聞くと、少尉はよくぞ質問したとばかりに答えを与える。

 「電話では音声しか送受信できんが、インターネットはパーソナルコンピュータや、このようなタブレット端末、携帯用の電話機などの通信機器を使えば、音声の他、文字や写真、映像なども瞬時に遣り取り可能だ」


 工兵たちは瞳を輝かせて聞き入り、少尉が端末の画面を向けると、身を乗り出して食い入るように見詰めた。

 表示は、アーテルでダウンロードした詳細な地図だ。

 少尉の視線を受け、魔装兵ルベルはダウンロードした動画を再生させた。


 灰色の殺風景な作戦司令室に壮麗な歌声が響く。

 王都ラクリマリスで開かれた慈善コンサートで、ニプトラ・ネウマエが特別編成の合唱団と共に「すべて ひとしい ひとつの花」を歌う。


 曲が終わるのを待って、アル・ジャディ将軍が声を発した。

 「アーテルはインターネットを通じ、映像やニュースなど多様な手段を用いて世界中の共通語圏、(すなわ)ちキルクルス教圏にプロパガンダを展開し、一般人を装った工作員が口コミでデマを流して、我が国の国際的な信用を(おとし)めておる」

 「自国の人道上の罪を隠し、捏造(ねつぞう)した情報を世界中に拡散して、我が国を完全なる邪悪とする印象操作を行っておるのだ」

 シクールス陸軍将補が付け加えると、久し振りに聞いたであろう軍歌以外の曲の余韻が吹き飛び、工兵たちは表情を改めた。


 「北ザカート市南部でも、辛うじてラクリマリス領の電波を拾えるが、今回はどちらも、(あらかじ)めタブレット端末に記録したものだ。アーテル領では、どこでもこのように膨大な情報のやり取りが、子供でも簡単にできる」

 ラズートチク少尉の説明に工兵たちは呆然と頷いた。


 アル・ジャディ将軍が直々に命令を発する。

 「ラズートチク少尉、魔哮砲操手ルベル、防空艦ノモス工兵第二班四名に命ず。アーテル領内に潜入し、同国の通信設備を破壊せよ。目的は、アーテル共和国による一方的な情報拡散の阻止、及び、バルバツム連邦など()の国を支援する国家との連絡の遮断だ」


 魔装兵ルベルたちは起立し、敬礼して拝命した。

 擬装用の【鎧】と連絡に使う【花の耳】は、持参したシクールス陸軍将補が、急造の破壊工作隊一人一人に激励の言葉と共に手渡した。



 あの作戦会議から数日間は、ラズートチク少尉が工兵たちにアーテル領内での注意事項や交通機関の使い方、必要な物資の現地調達の仕方など講義して過ごした。

 予算と訓練期間の都合上、彼らにはタブレット端末を与えられないが、少尉とルベルが潜伏場所でニュースなどを見せ、情報共有する。


 ラズートチク少尉と工兵班長が地上の基地局とアンテナの調査、魔装兵ルベルと三人の工兵は、湖底ケーブルの探査に分かれた。

 ルベルたちの組はまず、少尉が拠点として選定した廃ビル内部に蔓延(はびこ)る魔物と雑妖を片付けた。



 現在、ルベルは【索敵】で湖底を調べ、工兵の一人はルベルの周囲を警戒、後の二人は地下街チェルノクニージニクの宿で待機中だ。少尉は、彼らにルベルが買ったラジオを渡し、情報収集を命じた。

 少尉と工兵班長の調査が終わり次第、破壊工作に移る。

☆北ザカート市に駐留する防空艦ノモスで行われた会議……「1170.陸水軍の会議」~「1172.対誘導弾防空」参照

☆王都ラクリマリスで開かれた慈善コンサート……「1005.初めての樫祭」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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