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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十一章 求心

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1191.一人前の戦士

 湖の民のアビエースが用件を告げると、村長宅の扉はすぐに開いた。


 漁師の爺さんと同じ緑髪の青年が、モーフに視線を止めて緑色の目を丸くする。メドヴェージが視線を辿って説明した。

 「あぁ、こいつぁ自警団の一員として戦ったコトあるんだ」

 「えっ? あの……いえ、しかし……」

 村長の息子は、少年兵モーフに不安に満ちた眼差しを注ぐ。


 「銃の扱いなら心得てる。もしアレだったら、猟銃の手入れだけでもさせてやってくんねぇか」

 モーフは胸を張った。

 「心配すんな。乱戦になる前だったら、幾らぶっぱなしても味方にゃ当たンねぇよ」

 「誤射ではなく、君を心配してるんだよ。力なき民の中学生だよね?」


 ……また子供扱いかよ。


 遙か上にある緑の目を睨んでやったが、村長の息子は一向に(こた)えた様子がない。それどころか、メドヴェージと漁師の爺さんに批難がましい顔を向けた。

 「うん、まぁ、さっきも言ったが、銃の手入れなら任せて安心だ。もう長ぇこと使ってねぇんだろ?」

 「それは……そうですが」

 村長の息子は尚も渋る。

 老いた母親も顔を出し、助太刀を申し出た他所者を息子の肩越しに見詰める。漁師の爺さんが奥に目をやり、不安げな村長婦人に聞く。

 「村長さんはご在宅ですか?」

 「いえ、明日の件で隣村です」

 「じゃあ、鉄砲持ってって狩人さんと村長さんに聞いてみりゃいい。二人にダメだっつわれたら、諦めるよ」

 少年兵モーフが殊更に明るい声で言うと、村長の家族は難しい顔で考え込んだ。


 しばらく石のように黙ったが、同時に溜め息を()くと、諦めた声で【跳躍】を唱え、三人を連れて行った。



 夏の日は長い。

 お茶の時間になっても、隣村はまだまだ暑かった。

 学校の体育館に集まった人々が、床で輪になって相談する。


 「村長さん、遅くなってすまねぇ。ウチからは三人出せる」

 「それから、武器も調達しました」

 漁師の爺さんが、前から持っていたとは言わずに魔法の矢の束を見せると、三箇村から集められた自警団員がざわめいた。半分くらいは、メドヴェージが持つ旧王国時代の剣に注目する。

 少年兵モーフは、村長の息子が持つ細長い木箱を指差した。

 「俺、銃の扱い方知ってるし、実戦で化け物やっつけたコトもあるんだ」

 自警団のざわめきの種類が変わり、大きくなる。


 村長の妻がみんなを見回して言った。

 「私は、小さい子が戦うなんて反対です。大人が何とかしなくちゃ」

 「でも、この村にゃ銃を扱える奴が居ねぇんだろ?」

 モーフが苛立って言うと、村長は困った顔で頷いて、東隣の村の狩人を見た。

 「俺はずっと弓使いだからな」

 「ホントにこんな小さい子が?」

 「ゼルノー市は一体どうなってるんだ?」

 「こいつは、早くに父ちゃん亡くして、母ちゃんと足が不自由な姉ちゃんを守ろうと、自警団で腕磨いたんだ。嘘だと思うんなら、銃の手入れでもさせてみりゃいい。いっちょ前の仕事すっからよ」

 メドヴェージが説明にほんのり嘘を混ぜると、緑髪の村人たちは黙って顔を見合わせた。


 「機械油とボロ布がありゃすぐだ」

 モーフが言うと、一人が立ち上がった。

 「整備だけでもしてもらえれば、俺たちでも威嚇射撃くらいはできると思うんですが、どうでしょう?」

 「まぁなぁ」

 「取って来る」

 別の者が体育館を飛び出し、村長の妻が泣きそうな目で見送る。

 息子は把手(とって)付きの細長い木箱を輪の中心に置き、村長の隣に腰を下ろした。


 留め具に錆が浮き、少年兵モーフは一瞬、不安になったが、手応えは固いもののどうにか開けられた。蓋の裏には、手入れ用の工具と朽ちかけたボロ布、弾丸ケースがピッタリ収まる。


 ……知ってる奴だ。


 本体は、半世紀の内乱時代に大量生産されたライフルだ。ありふれた型で、星の道義勇軍の訓練で扱ったことがある。

 モーフはホッとして弾数を確認した。普通の弾丸が二十一発。銀の弾や力ある言葉が刻まれたものは一発もない。

 ライフル本体は、長い間触れなかったにしては、錆ひとつなくキレイだ。


 「これは【錆止め】の術か」

 横から覗いた漁師の爺さんが、銃身に刻まれた文字を指でなぞって、複雑な顔をする。

 「昔は、命中精度を上げる術を掛けたのも出回ってたんだがな」

 「そんなの、俺が当てりゃいいんだ」


 訓練では、空き缶が横から高く投げられた。モーフは高所で動く標的でも、何回かに一回は当てられた。地面に居る魔獣なら、もう少し当てやすいだろう。


 分解してみたが、手入れの必要がないキレイさを確認したようなものだ。一応、村人から布と油を受取り、一通り拭いて点検して組み立て直す。

 モーフが弾を装填すると、慣れた手つきに自警団から驚きの声が上がった。


 「調達できたのは、【祓魔(ふつま)の矢】十三本と【真水(さみず)の壁】の呪符が三枚、他にも少し。【壁】で守れば何とかなりそうですが」

 漁師の爺さんが、近隣の村々から集まった自警団を見回す。


 「いざとなったら【跳躍】で逃がしてあげればいいですよね」

 「そうだな」

 「でも、こんな小さい子が……」

 「いや、この子はもう一端(いっぱし)の戦士だ」

 反対したのは村長の妻一人で、あっさりモーフの参加が決まった。

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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