0121.食堂の備蓄品
……よく考えなくても、この人たちって人殺しなんだよな。
だが、今こうしてクルィーロたちと行動を共にし、生き延びる為に協力する。
彼ら星の道義勇軍はキルクルス教徒だが、生きる為に仕方なく妥協して魔法使いや異教徒と一緒に居る感じはない。
空襲から運よく生き残り、偶然居合わせ、成り行きで自然に集団行動するだけに見えた。
クルィーロたちも何故か、街を焼いた仇の彼らを受け容れた。
冷静に考えれば妙な状況だが、クルィーロ自身、自分のこの気持ちを上手く説明できない。
……生存本能って奴なのかな?
もっと大きな脅威が他にあるから、憎しみをぶつけ合わず、助け合うのか。
それも何だかしっくりこない気がする。
……ま、いっか。それより今は、これだ。
クルィーロたちは今、放送局五階の食堂に居る。
同じフロアには、他に支局長室と立派な応接室もあった。
支局長室の金庫は、扉が開け放たれて空っぽ、応接室は爆風でどうしようもない惨状だ。
予想通り、厨房には食材が残っていた。
業務用の缶詰はどれも五百グラムから千グラムの大型だ。調味料も大ボトル。
未開封のパスタは五キロ入りの袋が十二袋。小麦粉十キロ入りの袋が五袋、開封済みで半分残ったのが一袋。キノコの乾物は大袋で二袋と少し。
冷蔵庫の中には、ハム、チーズ、バター、生野菜もあった。
冬とは言え、切った野菜には黴が生え、葉物野菜は萎びてしまったが、未開封のハムとチーズ、丸ごとのタマネギは無事だ。
厨房の隅で、貨物用の小さなリフトをみつけた。
操作盤の説明では、耐荷重量は三十キロ、人が乗るのは禁止。地下二階と五階の厨房との直通運転のみらしい。
「ってことはつまり、地下一階が自家発電とかの設備室で、地下二階は駐車場なんだろうな」
クルィーロの呟きに、ソルニャーク隊長が同意する。
「だろうな。だが、停電中ではリフトを使えん。君は自家発電装置を動かせるのか?」
「んー……見てみないとわかりません。小型のだったら、嵐の時に使ったコトあるんですけど、こんなビル丸ごとの大型のは、機種も違うでしょうし」
それに、燃料の有無もわからない。
起動できたとしても、問題はある。
内装がこれだけ爆風でやられたとなると、通電した瞬間、漏電する恐れがある。ビル本体は【耐火】で火災にはならないかも知れないが、どの途、使い物にはならない。
クルィーロは、危険性を簡潔に説明した。
「そうか。ならば、なるべく安全を取った方がいい。担いで下ろそう」
隊長はあっさり決断し、みつけた食糧を仕分けし始めた。
食堂側は、窓に近い所がめちゃめちゃだ。三人で廊下側に運ぶ。
「折角これだけみつけても、十人じゃ持ち歩けそうにないなぁ」
クルィーロはぼやいた。
小学生のアマナとエランティスに、こんな重い物を運ばせるのは無理だ。
「車がありゃいいのになぁ」
少年兵モーフも小麦の袋を運びながら言う。
クルィーロの頭の中で単語が繋がった。
……車か……地下……駐車場は【耐火】を掛けられないから、ダメかもな。
車庫全体に【耐火】の術を掛けると、エンジンが掛からなくなる。
燃料置き場やガソリン携行缶には【耐火】を掛けることが法律で義務付けられ、ガソリンスタンドには【耐火】責任者として必ず、最低一人は魔法使いが雇われる。呪符は高価で、人を雇う店が多かった。
……燃料は、ガソリンスタンドで手に入るかもしれないな。
「一回、地下の駐車場も見てみましょう。一台でも動くのがあれば、儲けものってコトで」
食糧を一カ所に運び終え、クルィーロが言う。
隊長は、額の汗を拭いながら同意した。
「そうだな。では、持てるだけ持って一旦、降りるか」
「あ、ちょっと待って」
クルィーロは言うが早いか、缶詰を袋に入れようとするモーフの手を掴んだ。少年兵が怪訝な顔で工員を見る。
「缶詰が当たると割れるかもしれないから、レコードは手で持って行こう」
モーフは素直に従い、レコードを大事そうに取り出してテーブルに置いた。缶ジュースだけになった買物袋にパスタソースと果物の缶詰を入れる。
クルィーロは、キノコの乾物と塩とパスタ、隊長はハムとチーズとタマネギを入れた。
三人が一階に戻ると、留守番組は喜びに沸いた。
「お兄ちゃあぁあぁぁんッ!」
アマナが泣きながら飛びつく。
クルィーロは、妹をしっかり抱きとめ、落ち着くのを待った。
レノが、幼馴染の肩に食い込む荷物をそっと取る。
「お、ありがと」
「いいよ。どうだった?」
「人は居なかった。食堂が五階にあって、食糧はいっぱい見つかったけど、下ろすのがホネだな」
みんなの顔に別の喜びが広がった。
☆レコード……「0114.ビルの探索へ」「0115.昔の音の部屋」参照




