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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十一章 求心

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1173.薄く軽い新聞

 レーチカ市は、以前より人が減って落ち着いたらしい。

 首都クレーヴェルのクーデターで避難民が流入したが、他所の街か難民キャンプなどに移動したからだろう。


 国営放送アナウンサーのジョールチが、バス停前の売店で新聞を各紙一部ずつ買う。新聞の値段は開戦前と同じだが、ページ数は半分以下でペラペラだ。


 ……実質値上げだけど、買える値段なだけ、まだマシなんだよな。


 葬儀屋アゴーニがレノとアミトスチグマに行った際、支援者のマリャーナにレーチカとギアツィントの新聞を頼まれた。

 難民キャンプ手前と奥地の情報格差を少しでも埋め合わせたいのだと言う。



 最初に井戸を掘り、水が出た所を中心に大森林の開拓を進める。

 技術者だけでなく、難民自身も木々を伐採し、根を掘り起こして丸木小屋を建てた。【穿(うが)啄木鳥(キツツキ)】学派の術での整地は、小屋の直下が優先だ。

 戦禍とクーデターで、難民は増える一方で減る気配がない。急増する人口に作業が追い付かず、対応しきれなかった。


 手前――パテンス市に近い草原のテント村から、森を拓いて丸木小屋を建てた数区画目までは、道の整備が進み、アンテナ車が入れるようになった。

 寄付されたタブレット端末が各集会所に配布され、周辺国のニュースなどで祖国ネモラリスの様子が間接的にわかる。また、車輌が侵入可能になったお陰で、パテンス市などの移動診療所や健診車も来られるようになった。

 魔物や魔獣を防ぐ対策も進み、ボランティアらも大勢来る。


 平野部のテント村は日当たりがいい分、魔物は少ないが、各種防護の術を施したテントは、力なき民では効果を発動できず、【魔力の水晶】頼みでは何とも心許ない。支援は厚いが、不安は大きかった。


 奥地――森林開拓の最前線は、第二十七区画だ。

 奥へ行くにつれ、道路が未整備で車輌が進入できなくなる。資材調達が思うように進まず、【魔除け】の(いしぶみ)や敷石が未設置で、力なき民のボランティアが入り(にく)い。術者が不足し、道路まで手が回らないのだ。

 呪歌【道守り】で、ある程度は何とかなるが、一週間から十日程度で掛け直さなければならなかった。


 車輌が通れる道路があれば、助かるのは百も承知だが、テントでは魔物への防禦が心許なく、丸木小屋の建設を急がざるを得なかった。

 森の奥へ進むに従い、魔物や魔獣に襲われる頻度が上がる。自警団を組織したものの、大半が戦いの心得がない素人だ。負傷者は絶えないが、それでも、夜間のテント村よりはマシらしい。



 葬儀屋アゴーニから聞いた難民キャンプの状況は、クルィーロの想像よりマシだが、安全・快適とは言い(がた)いようだ。【跳躍】による移動が、こんなところで弊害になるとは思わなかった。


 クルィーロは、タブレット端末で写真を見ながらアゴーニの話を聞いたので、わかりやすかった。

 写真を掲載したのは、ファーキルに教えてもらった「駐アミトスチグマ王国ネモラリス共和国大使館」のSNSアカウントだ。

 「アミトスチグマ」「難民キャンプ」のタグが付けられ、検索すれば一瞬で大量の画像付き投稿が表示される。

 現地で支援するボランティアの投稿が多いが、最近は大使館のものが増え、大量に拡散される為、優先表示された。


 ……一区画に一部とテント村に三部で合計三十部。少ないけど、発行部数も減らしてるだろうからな。


 数十万の難民相手にたった三十部。回し読みが行き渡るのに何日掛かるのか。

 ボランティアは、アミトスチグマ王国内で発行される新聞を難民キャンプに届けてくれるが、難民が最も知りたいネモラリス共和国の情報は薄い。

 インターネットの情報も同様で、タブレット端末がある区画でも、情報源が国際ニュースでは、国家単位の大きな動きしか入らないのだ。


 荷物持ちの袋は、中身が数十部もの新聞だとは思えない程、軽かった。湖上封鎖の影響で物資が不足し、紙とインクが高騰した為だ。


 祖国の様子を知ったところで、街を焼かれたネーニア島民や、ネミュス解放軍を恐れる力なき民は帰国できない。

 それでも、情報の有無で難民のストレスは大きく変わる。


 ……俺たちだって、ローク君のラジオがなかったら、焼け跡でもっと途方に暮れただろうからな。


 皮肉なものだが、ソルニャーク隊長が居たからこそ、星の道義勇軍の目的がわかり、アーテル軍の動きを推測できたのだ。


 薄くなった新聞には、アーテルとの戦況、ネミュス解放軍と首都クレーヴェルの状況、各地の復興状況、生活支援情報などが中心で、娯楽の(たぐい)を載せる余裕は一切なかった。

 記事によると、国内の仮設住宅はどこも満員で、難民が帰還しても住む所がないらしい。


 ……難民キャンプの人たちも、ネモラリスの様子がわかんなきゃ、帰っていいか留まった方がいいか、決めらんないもんな。


 クルィーロは、新聞を詰めた袋のあまりの軽さに泣きたい気持ちになった。

☆レーチカ市は、以前より人が減って落ち着いた……「606.人影のない港」「636.予期せぬ再会」「640.脱出する車列」~「649.口止めの魔法」「653.難民から聞く」「658.情報を交わす」参照

☆難民キャンプ……「415.非公式の視察」参照

☆戦禍とクーデターで、難民は増える一方で減る気配がない……「767.急増する難民」参照

☆技術者だけでなく、難民自身も木々を伐採し、根を掘り起こして丸木小屋を建てた……「771.平和の旗印を」「775.雪が降る前に」参照

☆アンテナ車……「771.平和の旗印を」「806.惑わせる情報」「1148.祈りを湖水に」参照

☆健診車……「819.地方ニュース」「1148.祈りを湖水に」参照

☆呪歌【道守り】……「928.呪歌に加わる」「929.慕われた人物」参照

☆ボランティアは、アミトスチグマ王国内で発行される新聞を難民キャンプに届けてくれる……新聞社の無料配布「812.SNSの反響」、ボランティア「1058.ワクチン不足」参照

☆湖上封鎖の影響で物資が不足し、紙とインクが高騰……「1047.乾電池がない」「1058.ワクチン不足」参照

☆「駐アミトスチグマ王国ネモラリス共和国大使館」のSNSアカウント……「1118.攻めの守りで」「1164.信任者の実数」参照

☆ローク君のラジオ……「0078.ラジオの報道」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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