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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十一章 求心

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1170.陸水軍の会議

 魔装兵ルベルは、ラズートチク少尉の声に慌ててタブレット端末の表示を切替えた。扉越しに再度、呼ばれる。

 「ルベル、起きろ。ノモスに移動する」

 「了解」

 端末の電源を切り、ウェストポーチに押し込んで廊下に出たが、既に少尉の姿はなかった。

 いつの間にか日が傾き、夏の夕日に照らされた灰色の瓦礫が、このひとときだけ黄金色に輝く。

 ルベルは、北ザカート市中心部の廃ビルからザカート港に【跳躍】した。



 工兵たちが作業の後片付けに忙しくする中、ルベルと同じ【飛翔する蜂角鷹(ハチクマ)】学派の哨戒兵たちが、【索敵】情報を引継ぐ声があちこちで飛び交う。


 「ルベル、遅れるな。艦橋だ」

 「申し訳ありません」

 ラズートチク少尉が、防空艦ノモスの甲板から手を振る。

 魔装兵ルベルが艦橋の作戦司令室に駆け込むと、アル・ジャディ将軍とノモスの艦長、シクールス陸軍将補は既に席に着いて雑談していた。


 ラズートチク少尉は渋い顔だが、アル・ジャディ将軍はやさしい声で魔哮砲の操手を迎えた。

 「まぁ、座れ。水軍の者が揃ったら始めよう」

 ルベルは恐縮し、円卓の扉に近い席に浅く腰掛けた。


 やや遅れて、防空艦ノモスの佐官たちが席に着く。陸軍情報部のラズートチク少尉が扉を閉め、何か術を掛けてルベルの隣に座った。


 ノモスの艦長が場を仕切る。

 「時間がない為、前置きと挨拶は省略。これより、リストヴァー自治区と外部勢力の接触について、情報共有と対策協議を行う」


 「今月に入って、北ザカート市東部に力なき民が三名、侵入しました」

 艦長に目顔で促され、ラズートチク少尉が簡潔に事態察知の経緯を語る。



 魔獣に追われる男たちを発見。魔獣駆除業者に擬装した魔装兵が救助した。

 彼らが何者で、どこから、何故、この廃墟の街に来たのか。

 質問の答えはあまりにも不自然で、明らかに虚偽だと思われた。

 不審者たちに【強制】した上で【()かし水鏡(みかがみ)】を使用し、尋問を行ったところ、彼らがリストヴァー自治区の住民だとわかった。

 力なき民が徒歩でネーニア島を横断するなど、不可能に思われた。

 更に聞くと、途中で下山したが、クブルム街道が再整備され、安全に通行できる場所が増えたと言う。



 「一体、何者が?」

 防空艦ノモスの佐官が(いぶか)る。


 クブルム街道は、半世紀の内乱後、放棄された旧道だ。

 その遙か以前、現在は「レサルーブ古道」と呼ばれる「レサルーブの森横断道」の開通で交通量が大幅に減り、半世紀の内乱以前から、狩人や林業組合、山菜採りで入山する里人程度しか利用者がなかった。


 「ネミュス解放軍です」

 ラズートチク少尉の短い答えに艦長以外の水軍関係者が息を呑む。

 「奴ら、救援要請を出さなかったか? 解放軍の襲撃を受けたなどと……」

 「それも事実です」


 ネミュス解放軍の一部が暴走した結果が、リストヴァー自治区への攻撃だ。

 目的は、星の(しるべ)の殲滅。だが、事態を知ったウヌク・エルハイア将軍が自ら自治区へ赴き、攻撃を中止させた上、自治区側と和平協定を結んだ。


 水軍佐官の一人が首を捻り、他の者たちも、ラズートチク少尉に疑問の目を向ける。最も年若い少佐が質問した。

 「和平協定? キルクルス教徒が湖の民と取引を?」

 「そのようです」


 合意内容は、国営放送リストヴァー支局を通じ、自治区民全体に伝達された。

 解放軍は賠償として、自治区内の瓦礫処理とクブルム街道の再整備を行い、自治区側は星の(しるべ)の武装解除と再教育を行う。

 ネミュス解放軍は、首都クレーヴェルのネモラリス建設業組合の術者を動員し、直ちに履行した。


 「瓦礫の撤去と街道の再整備が粗方済んでから、正規軍に助けを求めたのです」

 「二度と襲撃されない為にか?」

 「いえ、これも協定によるもので、星の(しるべ)残党の監視と、魔物や魔獣への対策が目的です」


 星の(しるべ)は自警団も兼ねたが、武装解除された。解放軍に武器の大部分を破壊、または没収された為、自治区民は魔獣から身を守れなくなった。

 東地区には星の道義勇軍がいたが、ゼルノー市襲撃事件とその後のバラック街火災で壊滅した。

 北ザカート市に逃げ込んだ三人は星の(しるべ)だ。政府軍の目を逃れる為、クブルム街道を西進してクルブニーカ市の手前で下山、トポリ市を目指す予定だったが、魔獣に追われ、レサルーブ古道を西へ逃げて来たと言う。


 「自治区民が街道の小屋で、外部のボランティアや、無断で帰還したゾーラタ区民らと連絡を取り合うことが判明しました」

 「報告を受け、陸軍から人を遣って街道と自治区内の様子を探らせたところ、そのボランティアとやらは、ラクエウス議員ら亡命議員の集まりとわかった」

 シクールス陸軍将補が、ラズートチク少尉の報告に付け加えた。

 「議員宿舎襲撃事件を生き延び、アミトスチグマに亡命して機密を漏洩した上、まだ、そのような……」

 「あの老いぼれめが……!」

 「静まれい!」

 艦長が一括して、ざわつく水軍佐官たちを黙らせた。

☆タブレット端末の表示……「1164.信任者の実数」参照

☆シクールス陸軍将補……「704.特殊部隊捕縛」~「707.奪われたもの」「726.増殖したモノ」「776.使い魔の契約」参照

☆事態察知の経緯……「1129.追われる連中」~「1131.あり得ぬ接点」参照

☆レサルーブ古道……「192.医療産業都市」~「196.森を駆ける道」「283.トラック出発」参照

☆林業組合……「0134.山道に降る雨」参照

☆解放軍の襲撃を受けた/リストヴァー自治区への攻撃……「893.動きだす作戦」~「906.魔獣の犠牲者」参照

☆ネミュス解放軍の一部が暴走/ウヌク・エルハイア将軍が自ら自治区へ赴き……「916.解放軍の将軍」~「918.主戦場の被害」参照

☆自治区側と和平協定……「919.区長との対面」~「921.一致する利害」「0937.帰れない理由」~「0939.諜報員の報告」参照

☆ゼルノー市襲撃事件……「0011.街の被害状況」「0013.星の道義勇軍」「034.高校生の嘆き」~「036.義勇軍の計画」参照

☆バラック街火災……「054.自治区の災厄」「055.山積みの号外」「212.自治区の様子」~「214.老いた姉と弟」参照

☆議員宿舎襲撃事件……「273.調理に紛れて」「277.深夜の脱出行」参照

☆機密を漏洩……「496.動画での告発」「497.協力の呼掛け」参照


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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