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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十一章 求心

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1158.学びの予定を

 クルィーロは、徹夜した頭で【跳躍】する自信がなく、地下街チェルノクニージニクの宿で少し寝かせてもらった。移動放送局プラエテルミッサのトラックに戻ったのは夕飯の少し前だ。


 村の家々から美味そうな匂いが漂うが、野良仕事へ出た者たちが戻るにはまだ早く、静かで落ち着いた時間帯。以前なら、アマナが村の門で待ち構え、兄の姿を見るなり飛びついたが、今は居ない。

 少し淋しいが、クルィーロの不在が妹の心に負担を与えなくなったのは有難かった。


 ……スキーヌム君って凄いよなぁ。


 感謝と同時に感嘆し、トラックの荷台に上がった。

 焼き立てパンとスープの煮える匂いに迎えられ、腹が鳴る。

 レノとピナティフィダは【炉】の呪文をすっかり覚え、力ある民が居ない時も、作用力を補う【魔力の水晶】があれば、調理できるようになった。


 ……俺も頑張らないとな。


 手提げ袋には、アーテル共和国の選挙結果を報じる新聞と、大判の封筒を入れて帰った。

 封筒は、地下街チェルノクニージニクからの帰り際、ロークがくれたものだ。クラウストラから預かった魔道書のコピーだと言う。


 鱗蜘蛛(ウロコグモ)との戦いの際、警察に呪符と呪文のメモをもらった。メモを見て【飛翔する蜂角鷹(ハチクマ)】学派の【真水(さみず)の壁】を勉強中だが、自力で発動できる気がしない。

 薬師(くすし)アウェッラーナが買った呪符のメモも同じだ。呪文は丸暗記できたが、魔力の巡らせ方がわからず、高価な呪符がなければ発動できない。


 クラウストラがくれたのは、防禦中心の【飛翔する蜂角鷹(ハチクマ)】学派、何でも戦いに活用する【飛翔する(タカ)】学派、そして、攻撃中心の【急降下する(ワシ)】学派の魔道書の一部だ。

 それも、初心者向け教本の最初の数ページと、初歩の初歩として習う術ひとつだけ。どれかひとつでも使えるようになれば儲けものだ。


 ……頑張ってもムリなら向いてないってコトで、他のを頑張ろう。



 「ただいまー」

 「おかえりー」

 クルィーロが声を掛けても、アマナは文庫本から顔を上げもせず、生返事するだけだ。

 レノが苦笑する。

 「おかえり。どうだった?」

 「どのくらい効果あったかわかんないけど、平和を呼び掛けた党がちょっとだけ当選してた」


 アナウンサーのジョールチが、荷台奥の係員室から出て荷物を受け取る。

 「お疲れ様です。帰って早々で申し訳ありませんが、詳しく聞かせていただけませんか」

 「勿論(もちろん)、いいですよ」

 クルィーロは、ジョールチが淹れたお茶を受け取ったところで、人が少ないのに気付いた。

 「あれっ? モーフ君たちは?」

 「メドヴェージさんと一緒に畑を手伝いに行きましたよ」

 「あー……じっと本を読むより、身体を動かす方が(しょう)に合うんでしょうね」


 クルィーロたちの父パドールリクは、薬師(くすし)アウェッラーナと共にアミトスチグマに行き、呪医セプテントリオーは学校の保健室で治療、葬儀屋アゴーニとDJレーフ、ソルニャーク隊長はレーチカ市へ行った。

 今日、トラックに帰るのは、呪医とモーフ、メドヴェージだけだと言う。


 「レーチカ? 何でまた急に」

 「北東部の件で、臨時政府の動きを探るのと、後は普通の情報収集ですね」

 「動きを探るって、そんなのできるんですか?」

 クルィーロは、誰か保健省の役人に顔が利くのかと驚いたが、ジョールチは見透かしたように苦笑を浮かべた。


 「潜入するだけが調査じゃないんですよ」

 「どうするんですか?」

 「発表済みの情報には、意外と手掛かりや重要な情報が含まれているものです」


 その気になれば、新聞や役所のポスター、広報紙、官報などからも、多くの情報が読み取れると言う。

 「官報は、役所の掲示板に貼り出されます。掲出期間後も公開請求を出すか、月遅れでもよければ、公立図書館で普通に読めますからね」

 「へぇー……全然知りませんでした」

 「一般の方は、なかなか意識しない物ですから」


 官報が通行人の視界に入っても、読まなければ、風景の一部でしかない。

 彼は当たり前のようにさらりと言うが、クルィーロは申し訳なくなった。


 「街に行ったら、必ず読みます」

 「じゃあ、明後日辺り、一緒に行きましょうか」

 急な話に思わずアマナを見た。妹は小説に夢中で、こちらの遣り取りは全く耳に入らないらしい。

 「お願いしていいですか?」

 「こちらこそ、よろしく。情報収集の視点やコツを身に着けてもらえたら、私としても助かります」

 クルィーロは表情を引き締め、深く頷いた。



 父不在の食事だが、アマナは気にする風もなく、せっせと食べ進める。下手に聞いて泣かれても困るので、クルィーロは何も言わずにおいた。


 ……父さんが居なくても平気だなんてな。


 冒険者カクタケアの何がそこまで、妹を夢中にさせるのか。作者の気弱そうな顔を思い出し、元神学生の才能を意外に思った。


 ……お礼と言っちゃアレだけど、絶対黙っとこ。


 小説家アル・ファルドこと元神学生のスキーヌムが、何故あんなにもロークに知られることを恐れるのか知らないが、本人が嫌がるなら詮索すまいと心に誓った。

☆鱗蜘蛛との戦い……「0931.毒を食らわば」~「0936.報酬の穴埋め」参照

☆警察に呪符と呪文のメモをもらった……「0931.毒を食らわば」参照

☆薬師アウェッラーナが買った呪符……「857.国を跨ぐ作戦」参照

☆北東部の件……「1090.行くなの理由」参照

☆小説家アル・ファルド……「795.謎の覆面作家」「1123.覆面作家の顔」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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