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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十章 蒼生

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1137.アーテル文化

 文庫本には通し番号が振ってあるが、続きモノのようでいて、そうでもないと言う。

 少年兵モーフには、何の為の番号なのかわからなかったが、それがアーテルの文化なのだろうと納得し、誰にも質問しなかった。


 「一冊ずつ完結で最初に登場人物一覧があるし、どこからでも読めそうね」

 ピナの提案に反対する者はなく、本人は四巻から、ピナの妹エランティスは三巻、アマナは二巻、モーフは一巻から読むと決まった。


 大人たちはあんなコトを言ったが、この本を読んでアーテル共和国の文化を知って、同世代のアーテル人と共通の話題ができても、あちらに行かなければ、彼らと話す機会などない。

 少年兵モーフには、小説「冒険者カクタケア」を全部読んだところで、平和に近付けるとは思えなかった。


 ……でも、ピナとは話せるよな。


 大人たちは、みんな忙しくて読む暇がない。

 ラジオのおっちゃんジョールチが、アーテルの選挙結果が届いたら、この村で二回目の放送をすると言ったが、いつになるかわからなかった。



 モーフは昼過ぎになってやっと、派手な色使いの表紙を捲った。


 魔法使いの工員クルィーロは、既に【跳躍】でランテルナ島に渡った。

 地下街チェルノクニージニクで、ロークと一緒に会ったことのない仲間と合流して、その魔女の【跳躍】で本土へ渡るらしい。選挙が終わるまで、地下街の宿に泊まって、移動放送局プラエテルミッサのトラックには戻らない。


 ……情報収集しに行くんだから、アマナの兄貴が読んだ方がいいんじゃねぇか?


 アマナを窺うと、木箱に腰掛けて目が凄い速さで文字を追う。手許を見ると、もう三分の一も読み進んでいた。

 ピナを見ると、こちらは半分近く読み終え、モーフの視線に気付かないくらい夢中だ。

 モーフは、頭から余計な考えを追い出して読み始めた。



 主人公のカクタケアは、イグニカーンス市出身の軍人だ。

 小さい頃、聖職者になろうと思ったくらい信心深かったが、腕っ節が強いから軍人になったらしい。



 少年兵モーフは、魔獣に追われて北ヴィエートフィ大橋を渡った直後に鉢合わせしたアーテル兵を思い出した。

 ソルニャーク隊長に言い(くる)められた兵士たちは、信心深くてお人好(ひとよ)しだった。


 ……でも、正直にフラクシヌス教徒も居るっつってたら、()られただろうな。



 アクイロー基地のアーテル兵は攻撃対象(ターゲット)だった。

 少年兵モーフの手で何人始末できたか不明だが、ネモラリス人有志ゲリラの魔法と銃火器、呪符で召喚した魔獣の力が、ほぼ壊滅状態にまで追い込んだ。

 モーフより後で拠点に戻ったロークは、タクティカルベストの手榴弾ポケットの膨らみが(ほとん)どなかった。


 ……ローク兄ちゃん、何人()ったんだろうな。


 ぼんやり考えながらページを(めく)る。

 長ったらしい上に難しい単語にぶつかり、ページから目を上げた。

 トラックの荷台は【耐暑符】のお陰で涼しいが、外はよく晴れて、いかにも暑そうだ。小中一貫校のグラウンドは、日に焼けた土が白っぽく見えた。


 「わからないとこある?」

 ピナに声を掛けられ、危うく本を落としそうになった。

 「えっ、あっ、あぁ、こ、これ……」

 「これ? “対魔獣特殊作戦群”ね」

 「アーテルの中学生ってこんな難しい字ィ読めるんだな」

 「そうね。ラジオのニュースや新聞で聞いたり読んだりするのかもね。この部隊が出動して魔獣をやっつけました、とか」

 「教科書で習うんじゃなくて?」

 モーフが驚くと、ピナは当たり前のように頷いた。

 「学校で教えてもらえることなんて、ほんのちょっとよ。基礎を習って、後は自分で色んなとこから勉強するの」

 「へ、へぇ~……」


 どこからどう学べばいいか、わからないことをソルニャーク隊長たちに質問する以外、思いつけなかった。


 「わかんないとこがあったら、遠慮しないで聞いてね」

 「お、おうっ、ありがと」

 モーフの胸の奥にあたたかな(あかり)(とも)った。


 ピナは早くも読み終え、四巻を片付けて五巻を手に取った。

 モーフはまだ一冊目の十ページ目だ。急いで本に目を戻す。



 カクタケアは、対魔獣特殊作戦群の一員として、普通の武器で魔獣と戦った。トドメ用の弾は銀製だが、それ以外は通常弾、近接戦闘では、聖アストルム教会で(きよ)められた特別な剣を(ふる)う。


 ……アーテル軍でも剣とか使うのか。


 てっきり、近代兵器ばかりだと思っていた。これは書いた奴の作り話だから、眉唾モノだと思い直して読み進める。

 現実のアーテルはキルクルス教国で、友好国のバルバツムなどに復興支援され、この三十年で科学を飛躍的に進歩させた。無人機の大編隊を飛ばすに到ったと言うのに、力なき民が剣で魔獣相手に戦うとは思えない。


 ……まぁ、魔獣が出たからって、街には爆撃しねぇんだろうけど。


 数ページ読み進めると、唐突に挿絵が現れた。

 「これ……!」

 思わず漏らした声にピナと妹、アマナがモーフの手許を覗く。挿絵を指差すと、女の子三人も息を呑んで固まった。


 「ん? どうした? 四人掛かりでも読めねぇ字があんのか?」

 「見せてご覧」

 メドヴェージとパドールリクも寄ってきた。


 絵の中で、主人公のカクタケアが化け物相手に剣を揮う。本文によると、聖アストルム教会で聖められた「光ノ剣」と言う特別な剣らしい。


 刃には、見覚えのある印が刻んである。


 「これ、ヘンな恰好の店長がくれたのと同じ奴だ」

 モーフが呟くと、みんなの眼が荷台の鉤に掛けた魔法の剣に集まった。

☆大人たちはあんなコトを言った……「1132.事実より強く」「1133.人・物・カネ」参照

☆魔獣に追われて北ヴィエートフィ大橋を渡った……「299.道を塞ぐ魔獣」~「303.ネットの圏外」「307.聖なる星の旗」「308.祈りの言葉を」参照

☆直後に鉢合わせしたアーテル兵……「312.アーテルの門」~「314.ランテルナ島」参照

☆アクイロー基地のアーテル兵……「460.魔獣と陽動隊」「462.兵舎の片付け」「463.警備員の問い」参照

☆魔法と銃火器、呪符で召喚した魔獣の力でほぼ壊滅状態にまで追い込んだ……「465.管制室の戦い」参照

☆モーフより後で拠点に戻ったローク……「466.ゲリラの帰還」参照

☆無人機の大編隊を飛ばす……「307.聖なる星の旗」参照

☆参照ヘンな恰好の店長……「414.修行の厳しさ」

☆店長がくれたのと同じ奴……「443.正答なき問い」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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