表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十章 蒼生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1161/3509

1131.あり得ぬ接点

 魔装兵ルベルは翌朝、ラズートチク少尉と共に報告を聞いた。


 「リストヴァー自治区の者が、ネミュス解放軍だけでなく、外部の力ある民とも結託……か」

 少尉は、兵を元の配置に戻らせて呟いた。


 ルベルにも、(にわ)かには信じられなかったが、【()かし水鏡(みかがみ)】を使ったのだから、間違いないのだろう。

 ネミュス解放軍との協定を知った時も衝撃を受けたが、今回はそれ以上だ。


 昨日、魔獣に捕食される寸前で救助された三人は、リストヴァー自治区から抜け出したキルクルス教徒だった。

 三人とも疲労と脱水による衰弱が激しい為、昨夜は身元と、立入制限区域の北ザカート市に無許可侵入した理由と経路だけを聞き取った。

 詳しい尋問は、数日休ませた後で行う。


 ……いや、でも、そんなのって有り得るのか?


 三人共、国際テロ組織「星の(しるべ)」の構成員だと言う。

 彼らは事前に解放軍の動きを知り、妻子をネモラリス島やアーテル共和国領へ逃がした。

 ネミュス解放軍は自治区襲撃後、区長らと密約を結んだ。内容は、国営放送リストヴァー支局が放送し、ラジオで耳にした者なら子供でも知っている。


 その後、ネミュス解放軍はクブルム街道を再整備し、自主的に帰還したゾーラタ区民と自治区民との交流が始まった。

 クブルム街道を通じ、解放軍とは別の「平和を目指す団体」とも交流が始まり、彼らは定期的に街道沿いの避難小屋へ救援物資を届けるようになった。


 星の(しるべ)団員は、聖典の学習を強制され、彼らの「原理主義思想」は誤りであったと再教育された。


 十一人が自治区を脱走したのは、再教育から逃れる為、また、妻子と合流する為だ。

 自治区とグリャージ港に駐留する政府軍の目を避け、クブルム街道を経由してクルブニーカ市の手前で下山する。その後、トポリ港を目指し、自治区外で暮らす隠れキルクルス教徒に手引きさせ、妻子と同じ経路でネモラリス島やアーテル領へ行く予定だった。


 小屋には、平和を目指す団体が用意した「物資運搬用のリュックを盗むと呪いが発動する」との貼り紙があったが、一人が「どうせハッタリだ」とせせら笑って持ち出した。

 その者は、両手の指先が化膿し、半日経つ頃には、壊死が肘まで進行した。

 日没と同時に、腐敗した腕から魔物が涌き、十人は仲間と救援物資のリュックを捨てて逃げた。


 どうにか予定の場所で下山したが、呪われた者を喰らい尽して受肉したモノに追いつかれ、レサルーブ古道を西へ追い立てられた。

 一人減り、二人減りして、残り五人になった時、別の魔物が現れ、先の魔獣を食い殺した。あの背の毒(せのどく)は、手負いになりながらも五人を追い、北ザカート市に着く頃には三人にまで減ってしまった。



 「彼らは……何かに使えそうだな」

 命からがら逃れた彼らは、しばらくは生かされるらしい。

 国際テロ組織の一員と知り、ルベルは微妙な気持ちになったが、敢えてラズートチク少尉に逆らおうとは思わなかった。


 「平和を目指す団体……ネミュス解放軍と接点があるんでしょうか?」

 「不明だ」



 二択で答えを示す【()かし水鏡(みかがみ)】は、どちらとも言えない事柄に対しては、蓄えた水が渦を巻く。

 解放軍との関係は、星の(しるべ)の三人だけでなく、政府軍兵士の問いでもはっきりしなかった。


 そもそも、質問の仕方が難しい。

 「ネミュス解放軍と関係があるか」では、クーデターの影響で、ネモラリス共和国の民なら誰でも、何らかの関係ができてしまった。

 繋がりの強さなど、定量化できない事柄は、【()かし水鏡(みかがみ)】への質問に盛り込めない。



 平和を目指す団体とやらは、何を目的とするのか。

 どれだけの規模があり、どんな力を持つ集団なのか。

 本当に平和を目指すとして、どんな手段を用いるのか。


 魔法使いがどこでどう、自治区と接点を持ったのか。

 星の(しるべ)の残党やネミュス解放軍と手を結んだのか。

 ネモラリス政府軍と敵対することはないのか。


 完全に正体不明で、何ひとつわからない。



 「一部隊、クブルム街道に派遣する。尋問の続きは結果が出てからだ」

 「俺はどうしましょう?」

 「お前はここに残れ」

 「了解」

 万が一、ネミュス解放軍や正体不明の団体と鉢合わせしては、厄介だ。ルベルが逆らう理由などなかった。


 「恐らく、運搬用の袋には【渡る白鳥】学派の呪いが掛かっていたのだろう。他の護法もあれば、魔獣に齧られずに済んだやも知れん」

 「回収できれば、少しは関係者を把握できますね」

 「何も知らぬ職人や、騙されて運んだ者しか網に掛からん可能性もあるがな」


 ラズートチク少尉は、ルベルが思いもよらない視点で物事を見る。


 「どこか、外国政府の差し金と言う可能性も捨てきれん……まぁ、全ては調査してブツが回収できてからの話だ」

 「そうですね」


 回収できた場合は、アル・ジャディ将軍ら軍幹部に報告されるだろう。

 一介の魔装兵でしかないルベルには、彼ら上層部がどう判断するか、全く見当もつかなかった。

☆リストヴァー自治区が、ネミュス解放軍だけでなく、外部の力ある民とも結託……「0940.事後処理開始」~「0943.これから大変」参照

☆ネミュス解放軍との協定/ネミュス解放軍は自治区襲撃後、区長らと密約……「919.区長との対面」~「921.一致する利害」参照

☆知った時も衝撃を受けた/内容は、国営放送リストヴァー支局が放送……「0955.ラジオの録音」参照

☆彼らは事前に解放軍の動きを知り、妻子をネモラリス島やアーテル共和国領へ逃がした……「724.利用するもの」「786.束の間の幸せ」「796.共通の話題で」参照

☆ネミュス解放軍は自治区襲撃……「893.動きだす作戦」~「906.魔獣の犠牲者」参照

☆「物資運搬用のリュックを盗むと呪いが発動する」との貼り紙……「1038.逃げた者たち」参照

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ