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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十章 蒼生

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1130.逃亡者の事情

 魔獣駆除業者に擬装(ぎそう)した正規兵は、救助した三人を比較的森に近い別の拠点に案内した。


 ……まぁ、パジョーモク議員たちと知り合いだったら、何かと面倒だし、妥当だろうな。


 魔装兵ルベルは念の為、【化粧】の首飾りを掛けてついてゆく。

 こちらは、レサルーブの森から北ザカート市内に流入する魔獣などを駆除する為の拠点だ。先程の説明は嘘ではなく、本物の魔獣駆除業者も詰める。


 間近で見ても、男たちの衣服は本当に何の術もなく、あちこち破れ、汗や埃で汚れてかなり臭った。

 「ちょっとそこで待ってろ」

 地に降り立った正規兵は、補修した廃墟に一人で入った。


 魔装兵ルベルは、何も知らない風を装い、少し離れた所から声を掛けた。

 「あんたたち、何者だ? 見たとこ、力なき民みたいだけど」

 赤毛の大男に声を掛けられ、三人は震え上がったが、どうにか愛想笑いを浮かべて声を絞り出した。

 「あぁ、力なき民だよ」

 「レサルーブ古道を通って来たんだ」


 先程と同じ問答を繰り返し、三人は、どこから来た何者であるか、のらりくらり明言を避けた。男たちの眼に生気がないのは、疲労と脱水のせいだろう。


 夕闇が濃くなり、手を入れた廃墟に【灯】が(とも)る。周囲の道路は瓦礫を片付けてあり、雑妖は魔哮砲の餌にした為、一匹も居なかった。


 五人の駆除業者が、水塊と共に出て来る。

 三人は本物の駆除業者だ。

 「よっ、お疲れさん。俺らは今から一仕事」

 「テキトーに狩って来るよ」

 「ご安全に」

 ルベルは笑顔で三人を見送る。


 民間業者に扮した魔装兵二人は、命拾いした男たちを問答無用で丸洗いした。宙に浮かせた水塊にマグカップを突っ込んで差し出す。

 「大変だったな。まぁ、飲めよ」

 「喉乾いたろ?」

 汚れを排出した水はキレイだが、三人はカップを受取ろうとしない。


 「見ての通り、水はたくさんあるから、遠慮しなくていい」

 「飲まなきゃ今度は脱水で死ぬぞ」

 三人は恐る恐る受取ったが、ひとたび口を付けると一気に飲み干した。


 「力なき民が手ぶらで、クルブニーカからレサルーブの森を歩いて東から西の端まで突っ切って来たなんて……俺には到底、信じられん。詳しい話を聞かせてくんねぇか?」

 魔獣を倒した兵が、もう一人に水塊を預けて聞く。


 「元々は十一人居て、保存食も持ってたんだ」

 「後の八人はどうした?」

 「食われちまった」

 「さっきの奴にか?」

 「いや、別の奴だ」

 「よく逃げられたな」

 水を【無尽の瓶】に片付けた兵が、声に呆れと(さげす)みを籠める。


 「武器は?」

 「そんなモンあったって……」

 「俺たちゃみんな、力なき民なんだ」

 「あんたらに何がわかるッ?」


 仲間が食われる隙に逃げる。

 草食動物ならば、よくある生存戦略だ。足の遅い者、弱った者から死んでゆく。


 「戦えないんなら、仕方ないんだろうな」

 魔装兵ルベルがぽつりと呟くと、三人は驚いた目を向けたが、一斉に頷いた。

 「そ、そうなんだ」

 「留まったって、助けられるワケじゃねぇ」

 「一緒に食われンのがオチだ」


 兵たちが肩の力を抜く。

 「仕方ない……か」

 「入れよ。ハラ減ってんだろ?」

 「中で詳しく聞かせてもらおう」



 術で守られた部屋に入り、安堵と涼しさで男たちの顔色がよくなった。

 堅パンと缶詰の野菜スープで、この拠点に詰める隊員と共に食卓を囲む。


 彼らは何日食わずに来たのか、あっという間に平らげ、隊員の分を物欲しげに見詰めた。

 「絶食後にあんまりガッついたんじゃ、身体に毒だぞ」

 命の恩人がやさしい声音で案じてみせると、三人は素直に頷いた。


 彼が呼称とは違う偽名で自己紹介すると、三人も名乗った。あちらも本当の呼称である保証はないが、信じたフリで話を続ける。

 「クルブニーカに人が残ってるとは思わなかったよ。まだ居ンのか?」

 「空襲が止んだみてぇだし、一回戻って貴重品とか持って出ようとしたんだ」

 「力なき民だけでか?」

 「く、車で来たんだ」

 「歩きって言わなかったか?」

 「パンクして乗り捨てて……」


 突っ込みどころ満載の話に言い訳を重ねる。


 「疲れたろ?」

 「寝床へ案内するよ」

 信用に値しないと見切りを付け、一人ずつ【()かし水鏡(みかがみ)】を置いた部屋に案内する。こちらの拠点にも、業者の選定用に置いてあった。


 魔哮砲の給餌は中途半端に終わったが、仕方がない。

 「じゃあ、明日、ラズートチク少尉にまとめて報告をお願いします」

 「了解」

 足音が遠ざかるのを待って、ルベルはもうひとつの拠点に引き揚げた。

☆パジョーモク議員たち……「1078.交渉材料確保」「1100.議員への質問」「1101.間諜への尋問」参照

☆先程の説明……「1129.追われる連中」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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