0114.ビルの探索へ
「まぁ、念の為、だな。乗った途端、段が抜けたらヤだろ?」
「えっ? 魔法は切れてねーんだろ?」
モーフは驚いて魔法使いの工員を見た。
「天井とか落ちてるだろ? ビル本体は大丈夫でも、中の細かい部材にまでは魔法……【補強】を掛けてなさそうなんだよな」
言われて、頭上を仰ぐ。
蛍光灯がなかった。ついさっき、床に散らばった破片をモーフ自身が掃いて片付けたばかりだ。天井の薄い板も所々ない。
「まぁ、多分、大丈夫だと思うけど、念の為に一応、な」
クルィーロは、階段を箒の柄でつつき、階段に足を掛けた。
モーフはまどろっこしく思ったが、隊長が何も言わないので、黙ってクルィーロの動きを見詰めた。
クルィーロが踊り場まで上がると、やっと隊長が後に続いた。
時間を掛けて、慎重に二階へ上がる。
少年兵モーフは、二階の廊下に出た途端、盛大に溜め息を吐いた。
二人が、案内板を見て相談する。
「一階の天井があれだから、ここはなるべく端を通った方がいいでしょうね」
「そうだな。壁伝いに行こう」
モーフは、クルィーロと隊長が出した結論に、言葉もなく従った。
ここも、天井の石膏ボードが落下し、粉々に砕けて床に散乱する。
……例えば、缶詰すげーいっぱい見付けて、ここ通ったら、ヤバくないか?
少年兵モーフは、恐る恐るソルニャーク隊長の後について行く。
一階と違い、二階には給湯室がなかった。がっかりしたが、ないものは仕方がない。
クルィーロが、箒の柄に【灯】を点した。
窓が割れた側の部屋は、鍵が掛けてあった。
「資料室らしいんで、食べ物はないでしょう。ここは無理に開けなくてもいいと思いますよ」
反対側は、資料室と会議室だ。
誰も居ないことを確認し、三階へ上がる。
案内板を読んだ二人が、三階はスタジオと編集室、音源保管庫だと言う。
モーフが初めて目にする機械がたくさんあって物珍しいが、食糧はなかった。
食糧がみつかることを願って、把手に手を掛けて歩く。
「あ、ここ……」
モーフは無施錠の戸を見付けた。
クルィーロが戸のプレートを読み、隙間から箒の【灯】を差し込んで中を見た。
「音源保管室……あぁ、レコードとかの倉庫なんだ」
「れこーど?」
「え? レコード知らないのか?」
クルィーロが、モーフの呟きに驚いた顔で振り向く。少年兵モーフは何となく恥ずかしくなり、目を逸らした。
「あぁ、まぁ、用がなきゃ見ないもんな。俺は、音響機器メーカーで働いてたから……」
クルィーロは申し訳なさそうに言い訳めいた言葉を口にした。
「えーっと、レコードって言うのは、音声を記録した媒体だ。例えば、歌を記録しとくと、その歌手が居ないとこでも、再生機とレコードがあれば、いつでもその歌が聴けるんだ」
クルィーロは言葉を選んで説明し、音源保管庫に入った。
隊長も入室し、人などが潜んでいないか調べる。
モーフは、倉庫の棚に圧倒され、呆然と立ち尽くした。
天井まである巨大な棚が、薄い何かでぎっしり埋まる。人一人やっと通れるくらいの通路の他は、全て棚だ。
二人が通路の奥に姿を消す。【灯】が遠ざかり、棚が見えなくなってやっと、モーフは我に返った。




