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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第六章 印歴二一九一年二月六日

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0114.ビルの探索へ

 「まぁ、念の為、だな。乗った途端、段が抜けたらヤだろ?」

 「えっ? 魔法は切れてねーんだろ?」

 モーフは驚いて魔法使いの工員を見た。


 「天井とか落ちてるだろ? ビル本体は大丈夫でも、中の細かい部材にまでは魔法……【補強】を掛けてなさそうなんだよな」

 言われて、頭上を仰ぐ。

 蛍光灯がなかった。ついさっき、床に散らばった破片をモーフ自身が掃いて片付けたばかりだ。天井の薄い板も所々ない。


 「まぁ、多分、大丈夫だと思うけど、念の為に一応、な」

 クルィーロは、階段を(ほうき)の柄でつつき、階段に足を掛けた。


 モーフはまどろっこしく思ったが、隊長が何も言わないので、黙ってクルィーロの動きを見詰めた。

 クルィーロが踊り場まで上がると、やっと隊長が後に続いた。

 時間を掛けて、慎重に二階へ上がる。



 少年兵モーフは、二階の廊下に出た途端、盛大に溜め息を()いた。

 二人が、案内板を見て相談する。

 「一階の天井があれだから、ここはなるべく端を通った方がいいでしょうね」

 「そうだな。壁伝いに行こう」


 モーフは、クルィーロと隊長が出した結論に、言葉もなく従った。

 ここも、天井の石膏ボードが落下し、粉々に砕けて床に散乱する。


 ……例えば、缶詰すげーいっぱい見付けて、ここ通ったら、ヤバくないか?


 少年兵モーフは、恐る恐るソルニャーク隊長の後について行く。

 一階と違い、二階には給湯室がなかった。がっかりしたが、ないものは仕方がない。


 クルィーロが、(ほうき)の柄に【灯】を(とも)した。

 窓が割れた側の部屋は、鍵が掛けてあった。


 「資料室らしいんで、食べ物はないでしょう。ここは無理に開けなくてもいいと思いますよ」

 反対側は、資料室と会議室だ。

 誰も居ないことを確認し、三階へ上がる。



 案内板を読んだ二人が、三階はスタジオと編集室、音源保管庫だと言う。

 モーフが初めて目にする機械がたくさんあって物珍しいが、食糧はなかった。


 食糧がみつかることを願って、把手(とって)に手を掛けて歩く。

 「あ、ここ……」

 モーフは無施錠の戸を見付けた。


 クルィーロが戸のプレートを読み、隙間から(ほうき)の【灯】を差し込んで中を見た。

 「音源保管室……あぁ、レコードとかの倉庫なんだ」

 「れこーど?」

 「え? レコード知らないのか?」

 クルィーロが、モーフの呟きに驚いた顔で振り向く。少年兵モーフは何となく恥ずかしくなり、目を()らした。


 「あぁ、まぁ、用がなきゃ見ないもんな。俺は、音響機器メーカーで働いてたから……」

 クルィーロは申し訳なさそうに言い訳めいた言葉を口にした。


 「えーっと、レコードって言うのは、音声を記録した媒体だ。例えば、歌を記録しとくと、その歌手が居ないとこでも、再生機とレコードがあれば、いつでもその歌が聴けるんだ」

 クルィーロは言葉を選んで説明し、音源保管庫に入った。

 隊長も入室し、人などが潜んでいないか調べる。


 モーフは、倉庫の棚に圧倒され、呆然と立ち尽くした。

 天井まである巨大な棚が、薄い何かでぎっしり埋まる。人一人やっと通れるくらいの通路の他は、全て棚だ。


 二人が通路の奥に姿を消す。【灯】が遠ざかり、棚が見えなくなってやっと、モーフは我に返った。

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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