表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第三十八章 理趣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1117/3508

1089.誰が伝えるか

 移動放送局プラエテルミッサの面々は、夕飯を食べながら呪医セプテントリオーの話に耳を傾ける。


 重傷のコルチャークと付添いのメーラが無事に入院できたことは、同行して先に戻った村長の息子から聞いた。

 呪医は、運び屋フィアールカと偶然出会い、歌手ニプトラ・ネウマエ主宰の「音楽仲間の趣味の集まり」と称する非公式会合に参加して遅くなったと言う。


 「話し合いの結果、AMシェリアクで、特別番組『花の約束』の続編を放送することが決まりました。」

 「じゃ、俺もアミトスチグマかラクリマリスに行って、打合せした方がいいッスね?」

 DJレーフが勢い込んで言うと、呪医セプテントリオーは困ったように曖昧な笑みを浮かべた。

 「費用の問題がありますからね。ラクエウス先生とラゾールニクさんが会議の報告書をまとめて、マリャーナさんに会社と交渉していただくそうです」

 「あぁ、やっぱ、そうなりますよね」


 総合商社パルンビナ株式会社の取締役会で、放送枠の買取り許可が出なければ、次の行動には移れない。


 少し先になるとみて、クルィーロは言った。

 「こっちも色々話し合って、カピヨー支部長にワクチンの件、相談するコトになったんですよ」

 「どなたが行かれるのですか?」

 DJレーフが湖の民の呪医に答える。

 「医療の話なんで、呪医(せんせい)かアウェッラーナさんと、支部長に気に入られちゃった俺かクルィーロ君が、一緒に行くのがいいかなって思うんですけどね」

 「妹は葬儀屋さんと二人で、アミトスチグマとチェルノクニージニクに行って、今夜はあちらに泊まって、明日の夕方、戻る予定なんですよ」

 老漁師アビエースが、申し訳なさそうに説明する。

 「四眼狼(しがんろう)の群を狩るのに怪我人が多くて、毒消しの薬がたくさん欲しいって頼まれましてね」


 呪医セプテントリオーが修めた【青き片翼】学派では、解毒や完全に壊死した部分は、対応できない。コルチャークの足がどうなったか、村長の口から広まり、自警団が怖気付いて魔獣狩りが滞ってしまったと言う。


 アナウンサーのジョールチが呪医に言った。

 「アウェッラーナさんの帰りを待って改めて話し合うか、まだその辺りも決まっていませんが、取敢えず、誰かが行くことだけが決まりました」

 「呪医(せんせい)が行くとしたら、魔獣に襲われたらどうしようって心配があるんですけどね」

 クルィーロ自身、自分が行くことに抵抗はないが、アマナは何とも言えない顔で兄を見詰め、今日はこの話が出てから一言も口をきいてくれない。父が賛成したのも気に入らないのだろう。


 ……心配してくれるのはいいけど、何て言い聞かせりゃいいんだろうな。


 ラクエウス議員たちが、星の(しるべ)の支部に聖職者用の聖典を送りつけて以来、爆弾テロと呪符泥棒が激減して、前よりずっと安全になったのだ。



 「どんなとこに気を付けて話せばいいか、教えてもらえたら、俺とクルィーロ君で行っても大丈夫だと思いますけど」

 「彼らがどの程度、情報を把握したかも聞き出したいのでな。なるべく早い方がいいのだが……」

 ソルニャーク隊長が、空いた食器を重ねながら言う。

 「私は、感染症や公衆衛生に関して、そんなに詳しくないのですよ」

 意外に思ったのは、クルィーロだけではないらしい。呪医がみんなの視線を受けて付け加える。

 「アウェッラーナさんは内乱後、大学に進学されたそうですから、新しい知見を総合的に学んで、私よりずっと詳しいですよ」


 呪医セプテントリオーは、何百年も前に【青き片翼】学派の術を専門的に学び、軍医として勤めた後は、公立病院の実務の中で公衆衛生などを学んだと言う。


 彼が申し訳なさそうに食器を置くと、ピナティフィダが言った。

 「今日も呪医(せんせい)が三人と【跳躍】した後、村の人たちが落ち着かなくなって、【結界】があって大丈夫な畑でも、行けなくなった人が居たんですよ」

 「あまり頼られ過ぎても困るのですが……」

 呪医が苦笑する。

 この分では、魔獣退治が完全に終わるまで、解放してもらえないかもしれない。


 老漁師アビエースが食後のお茶を淹れ、レノがみんなに配りながら言った。

 「でも、解放軍に魔獣退治を頼むの、何かヤなんですよね」

 「命の恩人だってんで、あいつらの共鳴者(シンパ)が増えンのは困るしよ」

 メドヴェージが言うと、少年兵モーフが頷いた。

 「村の奴らでも、ちょっとずつやっつけられンだし、ねーちゃんの薬がありゃ、その内なんとかなるって」

 呪医セプテントリオーが、自治区民二人の話にそれもそうだと頷いた。



 朝食後、移動放送局のみんなが村の門まで見送りに来てくれた。アマナは父と手を繋ぎ、下唇を噛んでクルィーロを見上げる。

 「お兄さんたち、どちらへ?」

 畑へ行く村の男性たちが、不安な面持ちで聞いて呪医を見た。

 「少し遠くの偉い人の所です。この地域の状況をお知らせして、相談に行くのですよ」

 国営放送アナウンサーのジョールチが説明すると、村人たちは明るい顔で何度も礼を言った。


 DJレーフが苦笑交じりに釘を刺す。

 「遠いとこの人だし、自分の地元が最優先だから、必ず頼みを聞いてもらえる訳じゃありませんよ」

 「九割方、断られるつもりで行くんで、期待しないで下さい」

 クルィーロがダメ押ししたが、村人たちは更に礼を言った。

 「ここのことが他所に伝わるだけでも有難いです」

 「話が伝われば、何かの拍子に、どこか別の所から助けていただけるかもしれませんからね」

 「大したお礼はできませんが、よろしくお願いします」


 クルィーロとDJレーフは、レノたちパン屋の兄姉妹(きょうだい)が焼いてくれたクッキーを手土産にクリュークウァ市へ【跳躍】した

☆ラクエウス議員たちが、星の(しるべ)の支部に聖職者用の聖典を送りつけ……「0944.聖典の取寄せ」「0958.聖典を届ける」「0976.贈られた聖典」参照

☆アウェッラーナさんは内乱後、大学に進学……「266.初めての授業」「0930.戦い用の薬を」参照

☆支部長に気に入られちゃった俺かクルィーロ君……レーフ「919.区長との対面」「920.自治区の和平」、クルィーロ「0960.支部長の自宅」参照

☆呪医が三人を連れて【跳躍】……「1083.初めての外国」参照

☆解放軍に魔獣退治を頼むのは、何かヤなんです……「1056.連絡の可否は」参照


 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ