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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五章 印歴二一九一年二月五日

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0106.分析と願望と◇

 レノは視線を上げ、ずっと遠くを見た。

 今夜はまだ時間が早いからか、それとも、西へ行ったきり戻らないのか、あの闇の塊は見えない。


 普通の魔物は、この世の生き物をみつけると襲ってくる。

 しかも、魔力を持つ者が好物だ。

 魔法使いが二人も居るのに、全く眼中にないかのように西へ去った。雑妖が取り込まれたのを見る限り、ロクな存在ではないだろう。


 昨夜、見たのがレノ一人なら、夢でも見たかと思うところだが、少年兵モーフも同じモノを見て、ちゃんとソルニャーク隊長に報告した。


 ……あいつが居るから、この辺丸ごと見捨てられたとか?


 そんな考えが頭をかすめたが、すぐ否定する。

 そもそも、被害状況の調査隊や、警察や消防の救助隊すら見かけないのだ。どうやって、あれの存在を知るのか。

 では、何の為にこの辺りが救護対象から外され、まるで存在しないかのように扱われるのか。



 敵軍……アーテル・ラニスタ連合軍の目的は、リストヴァー自治区のキルクルス教徒の救済だと言う。

 それが本当なら、現政権と魔法使いを一掃する為に、空襲と言う強硬手段に出たこと自体が、首を傾げたくなる暴挙だ。


 信仰の違いでバラバラになったとは言え、元はひとつの国だ。

 ネモラリス政府と話し合って、自治区民をアーテル共和国に移住させるなど、平和的な解決方法は幾らでもある。


 ネモラリス軍は何故、自治区周辺に展開しないのか。

 何故、友好国であるラクリマリス王国は、連合軍の戦闘機が領空を通過するのを黙認するのか。

 わからないことだらけだが、ラジオから流れる断片的な情報からは、大したことはわからない。


 ただ、ここに居ては危ないとは思う。


 食糧にしてもそうだ。

 いつまでも、クルィーロとアウェッラーナの二人だけに頼ってばかりはいられない。どうせ西へ行くなら、ミエーチ区を越えてゾーラタ区まで行ってみてはどうだろう。


 農村地帯がまだ無事なら、ゾーラタ区役所で手続きができるだろう。

 もしかすると、個人の厚意で非公式な避難所が開設されたかもしれない。

 納屋でも何でもいいから、ちゃんと屋根と壁のある建物で、妹たちを休ませてやりたかった。


 もし、ダメだったとしても、畑の焼け残りがあれば、当座の飢えはしのげる。

 今は冬だから、畑にはホウレンソウや冬キャベツなどの葉物野菜が多いだろう。麦はまだ撒いたばかり、根菜類もまだまだ小さいだろう。

 地上に育つ作物は無理でも、芋類ならまだ少しあるかもしれない。


 レノは、見張りの交代時間まで、ずっとそんなことを考えて過ごした。

☆あの闇の塊/雑妖が取り込まれた……「0089.夜に動く暗闇」参照

☆アーテル・ラニスタ連合軍の目的は、リストヴァー自治区のキルクルス教徒の救済……「0078.ラジオの報道」参照

 挿絵(By みてみん)

★第五章 あらすじ

 バラック街から焼け出されたアミエーラは、仕立屋の店長から情報と物資を与えられ、クブルム山脈の登山道へ向かう。

 行き先は、祖母の姉が暮らすと言うネモラリス島。

 一方、薬師アウェッラーナたち十人は、廃墟と化した市街地で安全な場所を求めて移動を開始する。


 ※ 登場人物紹介の一行目は呼称。

 用語と地名は「野茨の環シリーズ 設定資料」でご確認ください。

 【思考する梟】などの術の系統の説明は、「野茨の環シリーズ 設定資料」の「用語解説07.学派」にあります。


★登場人物紹介


 ◆湖の民の薬師(くすし) アウェッラーナ 呼称は「(ハシバミ)」の意。

 湖の民。フラクシヌス教徒。髪と瞳は緑色。

 隔世遺伝で一族では唯一の長命人種。外見は十五~十六歳の少女(半世紀の内乱中に生まれ、実年齢は五十八歳)

 父と姉、兄、甥姪など、身内で支え合って暮らす。実家はネーニア島中部の国境付近の街、ゼルノー市ジェリェーゾ区で漁業を営む。

 ゼルノー市ミエーチ区にあるアガート病院に勤務する薬師(くすし)

 魔法使い。使える術の系統は、【思考する(フクロウ)】【青き片翼(かたよく)】【(すなど)伽藍鳥(ペリカン)】【霊性の(ハト)

 真名(まな)は「ビィエーラヤ・オレーホヴカ・リスノーイ・アレーフ」


 ◆パン屋の青年 レノ

 力なき陸の民。フラクシヌス教徒。十九歳。濃い茶色の髪の青年。

 ネーニア島のゼルノー市スカラー区にあるパン屋「椿屋」の長男。

 両親と妹二人の五人家族。パン屋の修行中。

 レノは、髪の色と足が速いことからついた呼称。「馴鹿(トナカイ)」の意。


 ◆ピナティフィダ(愛称 ピナ) 呼称は生まれた季節に咲く花の名。

 力なき陸の民。フラクシヌス教徒。中学生。二年三組。濃い茶色の髪。

 レノの妹、エランティスの姉。しっかりしたお姉さん。


 ◆エランティス(愛称 ティス) 呼称は生まれた季節に咲く花の名。

 力なき陸の民。フラクシヌス教徒。小学生。五年二組。濃い茶色の髪。

 レノとピナティフィダの妹。アマナの同級生。大人しい性格。


 ◆工員 クルィーロ 呼称は「翼」の意。

 力ある陸の民。フラクシヌス教徒。工場勤務の青年。二十歳。金髪。

 パン屋の息子レノの幼馴染で親友。ゼルノー市スカラー区在住。

 両親と妹のアマナとの四人家族。隔世遺伝で、家族の中で一人だけ魔力がある。

 魔法使いだが修行を怠り、使える術の系統は【霊性の(ハト)】が少しだけ。

 機械に興味があるので、ゼルノー市グリャージ区のジョールトイ機械工業の音響機器工場に就職。


 ◆アマナ 呼称は生まれた季節に咲く花の名。

 力なき陸の民。フラクシヌス教徒。クルィーロの妹。金髪。

 小学生。五年二組。エランティスの同級生。ゼルノー市スカラー区在住。


 ◆少年 ローク 呼称は「角」の意。

 力なき陸の民。商業高校の男子生徒。十七歳。ディアファネス家の一人息子。

 ゼルノー市セリェブロー区在住。家族とは相容れなくなり、家出する。

 祖父たち自治区外の隠れ教徒と自治区の過激派が結託して、テロを計画していることを知りながら、漫然と放置してしまった。

 保身に走り、後悔しがち。


 ◆お針子 アミエーラ 呼称は「宿り木(ヤドリギ)」の意。

 陸の民。キルクルス教徒。十九歳の女性。金髪。青い瞳。仕立屋のお針子。

 工員の父親と二人暮らし。祖父母と母と弟妹は病死。弟妹はいずれも幼い頃に亡くなり、人数も憶えていない。泥棒が同情するレベルの赤貧。

 魔力はあるが、魔法が使えない。

 母方の祖母が力ある民。隔世遺伝で魔力を持つが、魔法を教わっておらず何もできない。


 ◆仕立屋の店長

 力なき陸の民。キルクルス教徒。一人暮らしの老婆。気前がいい。

 リストヴァー自治区の団地地区で、仕立屋を経営している。

 アミエーラの祖母の親友。ずっとお互いに助け合ってきた。


 ◆フリザンテーマ 呼称は「菊」の意。

 力ある陸の民。フラクシヌス教徒。アミエーラの祖母。クフシーンカの幼馴染で親友。

 力なき陸の民でキルクルス教徒の夫と結婚。内戦終了後はリストヴァー自治区に移住した。

 自治区では、魔法使いであることを隠す為、知り合いのいないバラック地帯で生活した。


 ◆カリンドゥラ

 力ある陸の民。長命人種。

 アミエーラの祖母フリザンテーマの姉。仕立屋の店長クフシーンカの幼馴染。

 無事なら現在も、ネモラリス島に住んでいる筈。


 ◆少年兵 モーフ 呼称は「(コケ)」の意。

 力なき陸の民。キルクルス教徒。星の道義勇軍の少年兵。十五~十六歳くらい。

 リストヴァー自治区のバラック地帯出身。

 アミエーラの近所のおばさんの息子。祖母と母、足が不自由な姉とモーフの四人家族。

 父は、かなり前に工場の事故で亡くなった。

 以前は工場などで下働きをしていた。自分の年齢さえはっきりしない。

 貧しい暮らしに嫌気が差し、家出してキルクルス教徒の団体「星の道義勇軍」に入った。


 ◆隊長 ソルニャーク 呼称は「雑草」の意。

 力なき陸の民。キルクルス教徒。星の道義勇軍・第三小隊の隊長。モーフたちの上官。おっさん。

 知識人。冷静な判断力を持つ。

 キルクルス教徒だが、狂信はしていない。自爆攻撃には否定的。

 陸の民らしい大地と同じ色の髪に、彫の深い精悍な顔立ち。空を映す湖のような瞳は、強い意志と知性の光を宿す。


 ◆元トラック運転手 メドヴェージ 呼称は「熊」の意。

 力なき陸の民。キルクルス教徒。星の道義勇軍の一兵士。おっさん。

 リストヴァー自治区のバラック地帯出身。

 以前はトラック運転手として、自治区と隣接するゼルノー市グリャージ区の工場を往復していた。

 仕事で大怪我をして、ゼルノー市ジェリェーゾ区にある中央市民病院に入院したことがある。


 ◆市民病院の呪医

 湖の民の男性。フラクシヌス教徒。髪と瞳は緑色。

 ゼルノー市立中央市民病院に勤務する唯一の呪医。

 【青き片翼】学派の術を修め、主に外科領域の治療を担当。

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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