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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五章 印歴二一九一年二月五日

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0105.夜の考えごと

 冬の星が冴え冴えと輝き、青白い光で時を刻む。

 最初の見張り、レノとメドヴェージ以外の者が横になる。


 レノとメドヴェージは、焚火を挟んで背中合わせに座り、別々の方向を見張る。

 この焚火と【灯】の他、地上には光がない。


 ……昨日の奴らは、どこでどうやって生き残ったんだろう?


 ロークは、西の方からニェフリート運河に沿って歩いて来た、と言った。

 あの乱闘の様子では、魔法使いではないらしい。


 ミエーチ区の北半分、セリェブロー区の西半分は、ゼルノー市の行政や商業の中心街だ。役所や会社の建物は、鉄筋コンクリートが多い。

 南のピスチャーニク区とミエーチ区の西隣には、広大なゾーラタ丘陵が広がる。ゾーラタ区は農業地帯で民家は少ない。


 レノは、これまでに歴史の授業で習ったこと、本や新聞から得た知識を総動員して、状況を分析した。



 敵は、キルクルス教徒の軍だから、一番の攻撃目標は「魔法使い」の筈だ。

 兵糧攻(ひょうろうぜ)めの為に穀倉地帯を燃やすのは、もっと戦局が悪化してからだろう。


 アーテル共和国は当初、「リストヴァー自治区のキルクルス教徒を救う」と言う名目で空襲を行った。

 何もかも破壊し尽くしたのでは、自治区民も生活できなくなってしまう。


 ……自治区が焼けたのって、空襲の前だったよな。タダの火事にしちゃ、火の回りが早過ぎる。


 レノはそっと寝床を(うかが)った。

 ティスが、ピナにだっこしてもらって静かに寝息を立てる。

 クルィーロはアマナを抱きしめ、湖の民の薬師(くすし)アウェッラーナは、クルィーロとピナの間で眠り、ロークと少年兵モーフ、ソルニャーク隊長の三人は、ピナと焚火の間に横たわる。

 断熱シートを敷いたお蔭で、昨日よりよく眠れるようだ。


 レノは炭の塊をふたつ、みっつ取り、焚火に()べた。

 パチパチと音を立て、火の粉が()ぜる。


 「あの……質問、いいですか?」

 「ん? 何だ?」

 レノが小声で呼び掛けると、メドヴェージはすぐに振り向いた。


 「自治区にも、消防用の設備や消防団って……ありますよね?」

 「ん? あぁ、あるぞ。工場には消防車もあるが、バラック街は道がねぇからバケツリレーだな」

 「……そうですか。そうですよね。ありますよね。ありがとうございます」

 レノが礼を言い、背を向けようとすると、呼び止められた。

 「ちょ、ちょっと待て。今頃そんなの聞いて、どうすんだ?」


 「う~ん……隊長さん、言ってましたよね? リストヴァー自治区の周りには結界があるから、魔法では出入りできないって」

 「あぁ、俺も初耳だったけどよ」

 「自治区外の魔法使いが、土地勘もないのに、夜中、入り組んだバラック街に徒歩で侵入して、火を()けて、無事に逃げられるとは思えません」

 「無理心中ってこともあらぁな」


 メドヴェージの言葉を否定せず、レノは続けた。

 「そうだったとしても、消火が追い付かない規模でって言うのは、普通に考えれば、無理です」

 「無理か?」

 メドヴェージが首を傾げる。


 「そんな凄い魔力の持ち主なんて、そうそう居ませんよ。この焚火を作るだけでもあんなに疲れてるのに」

 クルィーロは、魚を焼く火力の維持だけでもバテていた。

 薬師(くすし)アウェッラーナはクルィーロより魔力が強いようだが、それでも、あの水の橋を一人で支えるのは無理だった。メドヴェージも思い出したのか、寝床にチラリと目を遣り、「そうだな」と頷いた。


 「何となく、なんですけど、放火犯は大勢居て、複数の場所で同時に火を放ったんじゃないかなって」

 「なんだと?」

 メドヴェージが思わず声を上げた。

 レノは、手真似で静かにするよう伝え、寝床を窺った。


 誰も起きない。


 小さく息を吐き、レノは続けた。

 「……それも、先に消火設備を使えなくしてって言う、計画的で組織的な」

 「どこのどいつが、そこまで手の込んだコトするってんだ?」

 今度は小声で問い詰められる。レノは首を横に振った。


 「わかりません。ただ、普通のうっかりした火事や、個人で突発的にやった放火じゃなくって、大勢で一斉にやったっぽい気がするってだけです」

 メドヴェージは難しい顔で黙った。


 レノは焚火に背を向け、持ち場に視線を戻す。【簡易結界】の外を雑妖が我が物顔で闊歩した。

☆昨日の奴ら……「0082.よくない報せ」~「0086.名前も知らぬ」参照

☆「リストヴァー自治区のキルクルス教徒を救う」と言う名目……「0078.ラジオの報道」参照

☆自治区が焼けたのって、空襲の前……「0054.自治区の災厄」「0055.山積みの号外」、空襲は「0056.最終バスの客」参照

☆リストヴァー自治区の周りには結界があるから、魔法では出入りできない……「0067.事故か報復か」参照

☆あの水の橋を一人で支えるのは無理……「0095.仮橋をかける」参照

 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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