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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五章 印歴二一九一年二月五日

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0102.時を越える物

 日が傾く頃、やっと分かれ道の石碑に辿(たど)り着いた。

 石碑を中心にちょっとした広場がある。トラックを二台は停められそうだ。


 石碑が示す西の道はピスチャーニク区。南はラクリマリス王国への道が続く。道があるらしいのは、太い樹木がないことで辛うじてわかるが、石畳は降り積もった落ち葉と土砂で全く見えない。


 刻まれた文字は(こけ)に埋もれて見えず、石碑自体も半ば落ち葉に埋もれる。

 形の定かでない雑妖が、背の低い常緑樹の木陰からこちらを(うかが)った。

 空はまだ薄明るいが、これ以上進むのは体力的に無理だ。


 ……今日はもう、ここで休もうかな。そう言えば、お昼ごはんもまだだし。


 雑妖なら、店長が用意してくれたたくさんの【魔除け】で防げる。寒さはこの服を脱がない限り、大丈夫だ。今は山道を歩いて来たせいで汗までかいた。

 こんな道を老婆と幼児の足で登り、日が落ちる前に帰宅できるのか。


 ……あぁ、そうだ。あれは、お祖母ちゃんの魔法だったんだ。


 バラック小屋から、人気のない森の入口まで歩いた。それから、あの花の小道まで、魔法で移動したのだ。



 「絶対、誰にも内緒よ」

 「うん。ないしょ」

 「お父さんとお母さんにも内緒よ」

 「うん。ないしょ」

 「おばあちゃん、アミエーラと一緒に居られなくなるからね」

 並木道が終わった所でもう一度、魔法で移動した。


 この石碑にも見覚えがあった。


 「ここより北は国境だから、魔法では越えられないのよ」



 祖母の顔はもう思い出せないが、厳しい表情でそう言われたことは忘れなかった。そして、ここに何か大切な物を埋めたのだ。

 二人で元通りに土を埋め戻し、誰にもわからないように落ち葉を掛けた。



 「アミエーラ。本当に困った時は、これを出して使いなさい」

 「使えるの?」

 首を傾げたのは、こんな物が何の役に立つのか、幼いアミエーラには、まだ想像もつかなかったからだ。

 「使えるように、うんとお勉強を頑張るのよ」

 祖母は苦笑して、アミエーラの頭を撫でてくれた。



 ……確か、石碑の南側。


 あの時、枝で落ち葉をかき分けるのを手伝った。

 祖母が土を掘って埋めた。


 アミエーラは荷物を下ろし、あの日と同じように石碑の根元に積もった落ち葉をかき分けた。

 この場所は吹き溜まりなのか、落ち葉がアミエーラの膝下まで積もる。()ける端から崩れて来るので、思ったより広い範囲で除けなければならなかった。


 やっと、平たい石と湿った土が(あら)わになる。

 アミエーラは掌大(てのひらだい)の石を拾い、その石があった場所を掘った。

 祖母も、この石でここを掘った。土を除け、穴を広げながら深く掘る。


 硬い手応えにドキリとした。石を枝に持ち替え、硬い物の(ふち)に沿って土を掘り進めると、四角い輪郭が現れた。



 掘り出した物は両手に乗るくらいの金属の箱だ。

 落ち葉で包んで()むと、こびり付いた土が落ちた。蓋もすっかり錆びついて固かったが、石で叩くと辛うじて開けられた。勢い余って中身をぶちまける。

 アミエーラは慌てて拾い上げた。


 ビニール袋で厳重に包んである。手袋を外し、慎重に梱包を外した。

☆店長が用意してくれたたくさんの【魔除け】……「0091.魔除けの護符」参照

☆寒さはこの服を脱がない限り、大丈夫……「0081.製品引き渡し」「0099.山中の魔除け」参照

☆こんな道を老婆と幼児の足で登り……「0101.赤い花の並木」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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