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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五章 印歴二一九一年二月五日

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0101.赤い花の並木

 行く手に赤い花を咲かせた枝が見えた。

 樹皮の黒さと、赤い花の対比が鮮烈だ。


 同じ種類の木が登山道に沿って並ぶ。人の手で植えられたのだろう。冬枯れのくすんだ色の中で、ここだけ夢のように鮮やかな花が咲き乱れる。

 どこか懐かしさのある甘い香りは、アミエーラの疲れた身体をやさしく癒してくれた。


 ……キレイ……こんなの今まで見たこと……ん?


 アミエーラは、自分がこの花の香を知っているような気がした。

 赤い並木道に足を踏み入れ、幹に手を当てて立ち止まる。梢を見上げると、薄青い寒空に黒い枝と赤い花が、広げたドレスの裾模様のように見えた。


 ……これ、見たことある。


 アミエーラは歩きながら記憶を手繰(たぐ)った。

 就職してからではない。

 学校に通った頃でもない。


 校庭にも植木はあったが、こんな花を咲かせるものではなかった。

 生徒や職員の空腹を紛らす為、食べられる実をつける果樹が植えられたが、熟す前に近隣住民がみんな持って行ってしまうので、アミエーラは学校の果物を食べたことがない。


 余計なことまで思い出してしまった。

 気持ちが暗く沈まないよう、鮮やかな花に目を向ける。


 ……あれは、もっと小さい頃だった。誰と……?


 そんな幼い頃に、一人でこんな場所まで来られる筈がない。

 アミエーラは足を止め、根元にしゃがんで花を見上げた。あの頃の視点で、もう一度考える。


 緑色の小鳥が花に頭を入れ、顔を花粉で黄色に染めて蜜を吸う。


 ……お祖母ちゃん。


 そこまで思い出すと、裁縫箱をひっくり返したように、思い出のかけらが次々と甦った。



 初めての山。

 足下はふかふかの落ち葉。

 アミエーラは、手を繋いだ祖母を見上げ、あれこれ質問して歩いた。

 祖母は、にこにこ笑って答えてくれた。


 お父さんとお母さんにお土産。

 ポケットいっぱいのドングリ。

 あの頃はまだ、母が生きていた。

 初めて食べたドングリの味。



 顔形(かおかたち)は忘れてしまったのに、笑顔だったと思い出せたのが不思議だ。

 どう言う経緯だったのか、前後の脈絡は思い出せない。だが、アミエーラは幼い頃、確かに、祖母と二人でこの道を歩いた。


 並木道は十分程歩くと途切れ、また冬枯れの木立に戻った。

 樹種はバラバラ。天然の植生だ。

 時折、鳥の声がする他は、アミエーラが枯葉を踏みしめる乾いた音だけが山道に響いた。


 日が落ちれば、雑妖や魔物が活発になる。

 それまでに街へ降りたいが、どう考えても無理だ。


 日が高く昇り、正午を過ぎたが、まだ分かれ道の石碑すら見えない。

 アミエーラは額の汗を拭い、ゆるやかに蛇行する山道を黙々と登った。

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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