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オクタグラム チェインテイルズ  作者: 紅満月
7章 偽典・箱庭編
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召喚されし者、但し狂う歴史

「まあ、知ってたんだけどね。あたしが養女なんてさ…それを16の誕生日だからって延々と涙ながら聞かされてもねぇー」



学校の帰り道、今日何度目か分からない同じ愚痴を聞かされている私も昨日の彼女とおんなじような気持ちになっているといえば納得してくれるんだろうか……無理だよね。無理なん、絶対なん…


彼女…桐生みずきちゃんは養女である。幼い時に事故で両親と双子の妹を失い、子どもの居ない・・・伯父夫婦の養女になった。そして、私と出会って親友となった。たまに亡くなった妹を私に重ねてお姉さんヅラするけれど、まあうん…そこは我慢しよう。


みずきちゃんにはいじめられているのを助けてもらったり、勉強を教えてもらったりと感謝してもしきれないわけだし……


私、日向葵としては苦笑いしておけば済む話だし……構わないけど帰って表情筋マッサージしておこう。



「あ、そんな同じ話はもういいとして…今年もやるからね。プレゼント交換……明日さっそく行きましょ」


「あ、うん……」



みずきちゃんの言ったプレゼント交換。それは互いの誕生日にプレゼントを交換する……なんてものじゃなく、みずきちゃんが養女であまり自由にお金を使えないって思い込みから始めた、私の提案した誕生日プレゼントの渡し方。


そんなに高くない値段のものを同じ額だけ互いに贈り合うってもの。けど、私の時にはそれを無視して一方的に高い物を贈って来ようとするからみずきちゃんには困ったものです。渡すのはかなり嫌がるのに、くれるには遠慮しないから妥協点を見つけるまでどれだけ苦労した事か……


まあ、ケチという倹約家なんだと思いたい。お金なんて天下の回りものなのに……まあ、回らなければ首も回らなくなるらしいけどね。







翌日。休日って事もあって、あたしは葵と一緒に繁華街へとやってきていた。


まあ、正直に言ってプレゼント交換なんて名目でプレゼントを集るのはあまりいい気分ではない。とはいえ、アニメのグッズとか変なオモチャとかセンスのない衣料品を贈られるよりはマシという事から妥協するしかないのが現状だったりする。


ブティックやアクセサリー店、本屋や文房具店を回ってみたけど、これといって欲しいものやめぼしいものが見つからなかった。



「ねえ、もう推し松さんでいいんじゃないかな?」


「絶対要らない」



そんな無駄話をしながら通りを歩いていると路地裏にひっそりとやってる怪しげな露店が目に入ってきた。怪しげな露店ではあるけれど、欲しくもないグッズを押し付けられるよりはマシという事にしておこう。



「………いらはい」



あたしたちが露店の前にやってくると無愛想な挨拶を店主らしきパーカーの女の子がしてきた。いかにも怪しげだけど、通報した方が良いんじゃないだろうか?



「うわぁ………どれもこれも綺麗だよ、みずきちゃん」



そんな事はどうでもいいとばかりに間抜けな声が連れ合いの方からしてくるわけだけど……広げられているシートの上には色とりどりの宝石みたいなイミテーションが並んでいた。イミテーション………よね?



「全部本物、鑑定書付き…後、曰く付き」



胡散臭さが更に倍増した。鑑定書付きに曰く付きって…宝石強盗して手に入れたとかじゃん。立ち去りたいけど、葵は夢中になってるからテコでも動かないと思う。



「そっちは80万、それは120万……それは48万」


「買ったっ!」


「買えるかっ!」



露店商と葵の理不尽なやり取りに思わず突っ込んでしまった……48万とか出せるか。葵みたいな金持ち剣道場の娘じゃないっての、こっちは。



「冷やかしか………なら、これとこれやるから帰れ」



シッシと手で追い払う仕草をしながらも反対の手で露店商はあたしたちの前に2つの指輪を突きつけてきた。


1つはヒマワリの、もう1つはみずきの花をあしらった黒い指輪……そして、その子の指にも似たような指輪が…


そして、そのみずきの花をあしらった指輪を見た瞬間…あたしの心臓が不意に高鳴った。それと同時に涙が溢れそうになった。理由は分からない。ただ、そうなっただけだ。


そして、あたしたちはそれぞれ指輪を手にした。



「1つ1,500円。合わせて3千円…毎度」



しっかりとお金は取られたけど…葵と互いの分を払いあって、その指輪をプレゼントとしたから良しとしよう。






あの時、世界は滅んだ。大切な人と大切な人が大切に思う人たち、大切な人を大切に思う人たちを残して。


そして再生が始まり、世界は小さな世界へと収束した。異物を世界から排除して…


そして、その異物を世界は再び取り込もうと動き出した。だから、先手を打っておかなきゃいけなくなった。


大切な人が遺した状態異常無効化の祝福が施された大切な証……これさえあればある程度の守りにはなる。



そして………



「ここから、復活の旅が始まる………ソレイユ、クレア。それに……思い出して。これが望まぬ世界であると」



もうすぐ始まる偽の冒険……表は神の、ソレイユの復活を目指したのだと言った。なら、ここからの物語は………


一足先に向こうで待っているから。さっさと来て皆を解放して……






いつの頃からか、不思議な夢を見るようになった。


みずきちゃんにお兄さんが居て、そのお兄さんに優しくしてもらう夢……


繰り返し繰り返し見る夢の終わりはいつも永遠の別離だった。悪夢とも思える夢…



「またあの夢を見たよ……」


「あーはいはい。居もしないあたしの兄さんね。葵がそんな事言うようになってからあたしまで見るようになったんだから……あたしに兄さんなんて居ないの。兄弟は死んだ双子の妹だけ……まあ、兄さんになったかもしれない人が居たかもしれないけど」



いつもの登校の道すがら、みずきちゃんに愚痴る…最近は私の方が愚痴る事が多い気もする。まあ、たまにはいいんじゃないかな。


みずきちゃんの話では、養父母である伯父さん伯母さんの間に子どもが生まれてくる予定であったが……後はお察しくださいって事らしい。つまり、悪霊になってるんじゃないかなって思う。


そんな事はともかく、お祓いにでも行かなきゃならないのか、心療内科に通うべきか……現実逃避が一番だよね。いや、夢なんだけど…



「新作のラノベを買いに行ってストレス発散しようと思う」


「人の話聞けよ」



みずきちゃんが冷ややかな目で見てくる。ちゃんと聞いてるよ……ただ、人様の家庭事情程重い話はないんだよ。それが生死の話なら尚更……


ラノベとかの話なら死人を生き返らせるとかってのは定番中の定番。私に憑いてる悪霊がそれを望むのかはさておき、そんなのは夢物語もいいとこなん。



「もし、もしもだよ……あの夢が平行世界の私たちだったならとか思う事だってあるよ。でも、私たちにはそんなお兄さんなんて初めから居ないわけだし、居たとしても復活とか出来る球とか無いんだよ」


「球て……」


「あるとしたら…ただこの指輪とかくらいの物だよ。露店商のところにもう一度行って7個といわず、10個くらい纏めて………」


「ないわー」



まあ、みずきちゃんが言うように無いのは分かってる。けど、思えばこの左手薬指につけた指輪をプレゼント交換で貰った日くらいから悪夢を見るようになったんじゃないかなと……これ、呪いのアイテム?


なんてバカバカしい事を考えていただけ………つまり、フラグを立ててしまったという事なわけで………


突然、私の足元が光り出した。これは……召喚魔法っ!


んなバカな。まだ上にUFOがあってキャトルミュったら痛そう過ぎますって方が説得力あるよ。でも、上空には見当たらない…光学迷彩ですか?


とりあえず、ヘルプミーって事でみずきちゃんに抱き着いた。



「みずきちゃん、巻き込まれ召喚させてください」


「あー……葵がバカな事言ってる。今度は何のラノベ読んだのよ?」



足元が光っているのに気付かないと申すか。バカなのはそっちですぞ、桐生殿。次第に光度が増してく足元に気付いた時には既に遅し。ガッチリとホールド決まってるから逃がさないのん。だいしゅきホールドを舐めちゃ駄目なん。


え、ゆるく百合ってるんじゃないかって……親愛の証と言って欲しいですよ。アッオイーンって呼んでくれても構わないですよ?







突然の閃光……以上に突然の抱き付きによって身動き取れなくなったあたしは気付けば変な場所に居た。とりあえず、痴女あおいも横に居る…というか寝てる。何か、事後って気がして嫌な気分になってくる。あたしにそういう趣味は無い。


改めて周りを見てみる………なんか居た。真っ黒な空間なのに暗いわけでもなく寒さを感じるでもない。そんな中に名状し難い何かが蠢いていた。明らかにヤバイ奴だ、これ。一言で言うなら……肉塊?



『久しぶりですね、生命の勇者クレア。いえ、あなたにとっては前世の出来事ですね……』



頭に突然響いてきた女の声……何となく、目の前の肉塊が語りかけているんじゃないかって思うのはあたしがおかしい状態になっているんじゃないかと思うわけで…


でも、その声に何故か聞き覚えがあると思ってしまう。そして、目の前の肉塊は色んな事を語った……ほぼ自分語りだったけど。


これから俗物的に言うと異世界へ召喚される事。


召喚されたのは葵だけであった事…まあ、一応剣道場の娘だから見込まれたんじゃないですかね。


そして、これから行く世界には魔法があるとかあたしたち以外の人種が多いとかって注意事項。


そして………



『2度と元の世界に帰る事は出来ません。神である私が言うのですから間違いありません』



という希望をぶっ壊す問題発言な訳だ。まあ、召喚したのは打倒魔王を企む国の連中らしいからこの肉塊の自称神には責任無いのかもしれないけど、苛立ちは覚えるわよね、当然。


とはいえ、あたしはまだいい。伯父さん伯母さんには申し訳ないけど、あたしが帰る場所は本当の意味で既に無いに等しいわけだし、葵だけ居なくなるなら付いてきたのは…訂正、巻き込まれたのはそう悪い結果でもない。



『ですから、詫びとしてあなたにはかつての力を与えます。天性の能力を持ち、召喚の加護による力を持つ横の忌まわしい勇者にも負けぬ本来の力を』



そう言うと肉塊神はあたしに何かした。何かが何か分からないけど、何かされた気がする。いや、あたしも意味分からないけど…


少なくとも、嫌な気分ではない。ただ、とてつもなく悲しい気持ちになった気がすると共に眠気を覚えた。



『いつか間違えた道を今度は正しく歩んでください。その先にきっと……また会える日を楽しみにしています』



最後に肉塊神はそう言った気がする。そして、あたしは意識を手放した。







召喚ものにはお決まりのパターンがあるけれど、これはダメな方だなと目覚めてすぐに分かってしまった。



「亜人を200人使って小娘2人か…まあ上出来だな」



なんて言われたら、目の前の神官連中がろくでもないって分かってしまうん。これはあれですな……別に滅ぼしてしまっても構わんのだろうパターンですん。


というわけで、頭に浮かんだマジックワードをぶちかますん…



「エクスシャイニングッ!」



しかし、何も起こらない………あれ、マジックパワーが足りないのかな?


横を見るとみずきちゃんが冷ややかな目でこっちを見ていた。で、唱えたのですよ……エクスシャイニングと。


そしたら目の前で大大大大大爆発だー、ダダッダーなんです。いや、火の玉じゃなくて閃光なんだけどね………掴めプライドー、掴めサクセス。これ、私が巻き込まれた方かダメな方扱いだよね?


まあ………金魚のフンですけれども、前々から。え、プライド無いのかって…なにそれ?おいしいの?



「みずきさん、ドド○アさん。とりあえずやっておしまい」


「へいへい…後、そのネタもう飽きたから」



みずきちゃんのノリが悪いでやんす。○ドリアさんって誰だよって言うくらい構わないと思うでやんす。


とりあえず、みずきちゃんもさっきの発言に憤っているようだし、亜人と呼ばれた人たちに弔いでもしますん。後ろを振り返って南無南無と手を合わせる……おや、暗闇の向こうで何かが蠢いていますぞ、みずき殿。



「親分、後ろに女の子が……それも2人」


「はいはい、どうせ生け贄にされたけど運良く助かったって子たちでしょ。そういうラノベ、前に押し付けてきたじゃない」



そういうラノベもあったかもしれない気もする。でも押し付けていない、布教活動だ。とりあえず、気を付けつつ介抱する事に致しましょう……もしかしたら天空のお城に連れて行ってくれるやもしれないし。あ、高いとこ苦手なんですけどね、私。

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