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希望と絶望の潰える時、そして再誕

話は少し遡る。キッシュ…もとい、タイヤキが消滅したその時へと。



「りゅーちゃんが…りゅーちゃんを…りゅーちゃんの……」


「あ、葵ぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!!!」



キッシュだった物を斬り殺してしまった事に茫然とするソレイユに襲い掛かるクレア…あやつらは何も分かっておらぬから仕方ないのじゃ。キッシュがそんな簡単に………



「許さない、潰す。潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す」


「キッシュさんの仇っ…」


「わっちの大切な人を奪った報い、必ず受けてもらいます」


「マスターを滅した罪、その命を持って払ってもらう」


「いくらあんたでも、やっていい事と悪い事の判断つくと思ってたのに…」


「ソレイユちゃんはもう勇者なんかしゃない。お兄ちゃんを殺したただの殺人鬼だよ」



嫁と呼ばれた者たちが皆憤りを隠さずにおった。確かに怒りはもっともじゃ。が、それは………



「チェリア、何を落ち着いてるの。この指輪の色を見ても何とも思わないなら……あんたも敵よ」



イルムに言われて初めてキッシュから送られた指輪を見る。その色は今までの白銀に輝くものではなく………



「黒…じゃと………」



あの時、キッシュが骨となった後に指輪に細工をしてもろうておったのじゃ。わらわたちの力が及ばぬ時に何かあれば互いに危機を知らされるようにと。赤く光れば危機的な状況にあるのだと。それを過ぎれば…つまり、もうどうする事も出来ない状態ならばこの色に光るのじゃと。



『トリアージって事なん。この色に光ったら未亡人として頑張って生きて欲しいん。そして、ファミレスのバイト主人公と再婚すればええんでないかな。でも、指輪に込められた効果は永遠に守り続けるからペンダントにでも加工して持っててくれたら嬉しいのん』



そんな事をキッシュはあの時言っておった。黒に光れば元には戻れぬと。おそらく、わらわの力を使っても不可能な状況じゃと。そんなふざけた事を言うものじゃからぶん殴っておいた……のじゃが、あやつが嘘を言うものか。つまり、そういう事なのじゃろう。


わらわも皆に倣い斧を構え鎧を纏う。最初は親友の為と行った事じゃ…咎はある。じゃから、刺し違えるつもりじゃ。未亡人に再婚なぞ絶対にあり得ぬ。



「ソレイユよ。もはやこの世界も命も無意味なものじゃ……わらわたちはやはりあの時滅びるべきだったのかもしれぬ。わらわたちは決して犠牲にしてはならぬ者を…桐生柳を、キッシュを犠牲にしてしまったのじゃ。互いに償おうではないか。全てを以って」





本当の魔王たちと勇者の戦い…という命懸けの痴話喧嘩は血で血を洗う惨状へと変わり果てた。最初に倒れたのが誰だったのか、それも覚えていない程の激しい争い………



「おかしなものよ……娘たちを失っても涙1つ流れはせぬ………」


「兄さんが望んでない戦いだって分かりきってるのにね。何やってるんだろ、ホント……」



チェリアとクレアはボロボロになりながらも葵…いや、狂戦士と化したソレイユに相対していた。



「よくも…よくもよくもよくも…」


「それはこっちのセリフよ。勝手に居なくなって、散々兄さんを苦しめておいて、挙げ句に2度も殺すなんて許すわけないでしょっ……」


「元はこの世界とお主の甘さが招いた事じゃ。その責任はわらわにもある……じゃが、ここで全て終わらせるのじゃ。わらわは魔王らしく、この世界を滅しよう。全力で来るのじゃっ!」



チェリアから放たれる黒の一閃。それに対するように葵の手からは白の一閃が放たれる。しかし、その一閃の大きさは黒の比ではなかった。それこそ世界を滅ぼす一撃…神の一撃であった。



「それで良いのじゃ……やはり、最初からこうしておれば良かったのじゃ。済まぬなクレア……死出の旅に付き合わせて」


「覚悟してたわよ………兄さんの居ない世界に未練なんてないもの。そして、葵……兄さんと親友であったあたしたちを殺して永遠にひとりぼっちになりなさい。兄さんがあんたのせいでそうなったように」



光の渦に消える刹那、2人は最期にそんな言葉を残した。


その言葉は葵の心を壊すには十分な言葉であった。


そして、葵は再び白の一閃を放った。己を滅ぼす為に。


こうして、世界は潰えた。ガン・オブ・バレットを超え、他の書にも及んだ光の渦に飲まれて…


そして、女神が再び世界を作った。


桐生柳の存在しない新たなる世界を…………







小さな世界には人と魔族、機械人や魔物、亜人や天使と呼ばれる様々な種が混在していた。


一度は全て壊れた小さな世界……だが、過ちは繰り返す。


全てを敵と定め私利私欲の為に牛耳ろうとしたのはいつも人間であった。


彼のものが居ない世界で、歪んだ輪廻は繰り返す。



「………彼の残した物が彼女たちを導くのでしょう。皮肉なものですね。彼らが命を賭して救った魂ですら運命には抗えない…女神として、また巻き込んでしまうのですね。人間の醜い諍いに…」



理の輪廻から外された彼女たちは元の世界へ戻ったはずだった。だが、歴史は繰り返す。


いや、ただ元に戻ったというべきだろう。新たなる神の箱庭の下に…但し、今度は寄せ集めではなく彼の残し、消しきれなかった思いが呼ぶのだ。


村人が選んだ勇者たちとそれを支える思いが…それが悲劇を加速させるか止めるかは今はまだ分からない。

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