2つの己と別れのロンド…ン橋落ちたけど知らんがな
呼び掛けに応じる必要がないとは思うものの、兄さんが姿をくらませてから数日が過ぎて変化が無いので仕方なく応じる事にした。
向こうからの提案は2つ。1つはシノノメ、皐月雨へのアレア、カレアの体の譲渡について。正直、これは相手の不意打ち覚悟で挑む懸案だと思う。
そして、もう1つは…
「そんな事をすれば、あたしたちが兄さんの敵になるじゃない……」
荒野に設けられた席に向かい合うのはあたしたちと葵と共に戦い抜いた勇者たちも加えて少数の人間…ではない者たちばかり。キッカ…ううん、イルムから聞いたところによると兄さんのハーレムって事だし、一応義理の姉というか何というか…
その中で、兄さんの第1夫人な魔王チェリアはあたしたちがアバターであるがゆえに肉体を得たいのであれば自らの体を差し出すとか言ってきたわけ。
正直、肉体が欲しいとは思う。けど、どうでもよくなったってのもある。そりゃ、最初は奪い取るとか思った。だけど……奪い取った後はどうなるのだろうと。それが出来なかったからこそ兄さんを立ち直らせる事も出来なかったわけだし。
そういう意味では志は大した差がないと思う。誰かの為に役立ちたいとか……自己犠牲も大概にしろって感じだ。
「それでも、わらわたちが出来る償いはそれしかないのじゃ。かつての友として、同じ時を生きた者として、このような結果を招いた者として……そして何より、わらわたちがそうして終わらせなければ何も始まらぬ。わらわたちでは無理だったのじゃ…わらわたちの言葉では、思いではソレイユを、葵と呼ばれた少女を救えなかった。ならば、託せる者に託すしか残されておらぬ」
「何だか訳わからん話をしているところに呼ばれず飛び出てジャンジャカジャンなん。この戦、我々ゾンビ騎士団が貰い受ける…双方共、滅びろんなん」
真面目な話をしているのに、変な兄さんが突然現れた…
◇
小競り合いすら起こらなかった数日間で暇を持て余してゾンビアバターがスタンピード起こしたん…共食いしてタイランマッキー以外残らなかったん。孤独な蠱毒のマッキーでふ…更に残念な事にアレカレとクレアのアジトにお邪魔女したけど不在だから食料アバターになってもうたん。つまり、タイランマッキーは特別な存在です。いや、ゾンゾンするような日和は送りたくないんなー。
さて、本来ならば全面戦争の所に介入して戦争を駆逐する勢いでヘイトを集める予定だったんですが、何がどうなったのか知らんがお茶会やってましたのん。え、もしかしてオイラ居なくても仲良く喧嘩しなモードだったんでぃすか?
後、騎士団って言ってもタイランマッキーとオイラだけなん………あれ、勝てる気しないぞ。勝つつもり無いけど。
「キッシュ殿、またそんな格好をして……今、とても大事なお話をしているんですから邪魔しないでください」
「マスター、隣の異形の者を処分しても宜しいでしょうか。宜しいですね、ロックオンしました」
いきなり蓮華とカンナが戦闘モードなん…いや、お前らじゃなくてアレカレとシノサミが連携して倒して欲しいんやけど……仕方ない。あの手でいくとするん。
「キッシュ、マスター………はてさて、何のことやら。似た顔のアバターと間違えているのではないか。我が名は『斬離徒2943』だ。え、ありふれた名前に痛い当て字とか言うななん。殴るぞ?」
「キッシュさん、誰が聞いてもバレバレです…」
「パパ、何処で何してたか後で問い詰めるから、今は正座してる」
リンドウとアイリスも容赦無いしノリ悪いんなー。ここはもう少し平和的に共闘して仲良しこよしハッピーエンドと行こうやないかい。そして、村人さんは静かに退場するパターンでしょうに……というわけで、愛棒の真エスカリボルケインではなく、双剣・黒影と魔月を構える。て○をじゃないならの○ひこで行けばええんやで。
「よかろう。喧嘩を売るお前たちのその感情叩き直してやるん。常々思ってるんさー、お前ら態度違い過ぎなん。蓮華とカンナはまだマシだし、リンドウはまだ反省の色見えるん…でも魔王と勇者の母娘は容赦無い気がするん。お仕置きだべーなん」
「ご主人ご主人、キャラがブレてるよ」
「兄さん、一体何がしたいのよ…」
こっちの新規勇者さんたちは呆れた表情しとるん。はて、やぁってやるぜな恨み辛みの感情が読み取れないん………戦争を始める前に始める理由が無さそうなん。まあ、教頭すればええんやけど…え、ハゲるんですか。女アバターにもハゲの髪型はあったん…需要は無かったんやけどね。え、ハゲをバカにするなって…別にバカにはしてないん。ハゲた奴がバカなわけじゃなく、単にバカな奴がハゲた時にしかバカにしないん。
「さあ、お仕置きの時間なん。タイランマッキー行けなん」
『バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン』
バンバラバンバンバンな勢いで、おめでとうタイランマッキーはハチノスマッキーに進化した。あれ、タイランマッキー弱過ぎワロエナイ。嫁たち容赦ねぇっす……だけどね、タイランマッキーは滅びねぇん、何度でも蘇るん。ゾンビ化の力こそ、アバターの夢か何かなん…というか悪夢なん。でも、その悪夢に集中砲火浴びせる嫁たちもなかなか悪魔なん。
そんな事を思ってる間にハチノスマッキーは回復したん。アバター総数までは数えてないけど、イルムと同じように食ったの合わせての総合能力持ってるユニークモンスター化しとる上にオラのペット扱いだからしぶといんなー…飼い主に似たんです、しぶといですよオラは。
それはさておき、ハンドガンやらライフルやらマシンガンやらショットガンやらロケットランチャーやら………嫁たち容赦ねぇっす。クレアはテーザー銃だというのに。刺さってオイラが痺れてるけど効果ないんなー。でも、誤射はあかんと思うん。いや、シノノメと皐月雨はこっち撃ってきてた。お陰でオラの髪の毛はアフロったん…ダンスでもしろというのか?
嫁たちは銃器を引き続き構えている。特にアレアのはチェリアの斧と同じ神器っぽいからヤバいと思うん。形状変わるし、魔法弾も放てる仕様の壊れ武器ですし…え、壊れアバターのお前が言うなってか。
「タイランマッキーは強いぞ硬いぞ焼けるぞ溶けるぞ〜なん。生き物じゃないんなー」
「はいはい、下らない事言ってないで兄貴は感電してて」
「まったくだ」
シノノメと皐月雨のテーザー銃が火を吹く…いや、火を吹いたら火炎放射器だと思うん。実際にアチーチアチ燃えてるんだろうが…やったらやり返すん。倍々ゲームなん。倍の倍の倍、チンチロリンなん……探偵でチンチロリンしたかったん。
さあ、シノノメと皐月雨よ…ゼロに還れ。
「貫け一閃、煌めけ天閃。秘技、クロスラッシュ……バカな、効かないだとっ!?」
「いや、ここ銃と拳以外マイナス補正掛かるし」
「お兄ちゃん、わざとだよね?」
剣戟のラッシュにアレカレの冷たい言葉がクロスカウンターで突き刺さる…むしろ、こっちの方がダメージ甚大なん。オラより強かったアバターなホモ双子に剣の攻撃は効かないん。そこまで見越してるのは計画通りなん………だって、これは茶番だもの。
蠱毒な展開で生み出されたバケモノことタイランマッキー………それを超えたいならやるべき事は1つか2つしかないと思うん。つまり、オラはアバターを辞めるぞって事なん。退職金をください…え、無いって?
「………仕方あるまい。ジョグ○ス進化してやろうではないか。俺はキッシュである事を、桐生柳であった事を棄ててただの怪物くんになってかいかい病を振りまいてやるん。いざ、サラダバー」
自殺願望があるってわけではないん。でも、もしこのボスに値する敵が居るとするならば間違いなくアバターであり、その中の最強だと思うん。つまり、神魂を失ったオラは適任者そのものなん……そもそも、これは勇者が女神に囚われた仲間を解き放つって展開であり、失踪した恋人を見つけてぶん殴って慰謝料請求するオイラのお話ではないん。その役目はクレア…いや、みずきが適任でありオイラは必要無い存在でしか無いと思うんよー。
それに、慰謝料が満額支払われたならオラの屍は踏み越えることが出来ないん。満たされたらおかわり出来ないん…オラの幸せは、嫁たちの幸せなん。その幸せにオラの存在は不要だと思うん。だって、桐生柳が前世である限り、オラには要らん過去が纏わりつくん…
だから、かつての仲間とか、仲間の親類縁者とか、親友に加護を与えるのはまだ構わないとしても、恋愛対象者に与えるのは重いん。重い愛は要らんですたい…重いのは愛よりアンコで十分だっちゃ。ああ、吹雪饅頭食いたい。
そんな事を考えながら、オイラはもう何も怖くない状態になったん……悲しみの〜向こうへと〜辿り着けるんな。ハーレム主人公の末路とか言うなし。
◇
目の前でキッシュがタイランマッキーと呼ばれた壊れアバターに首から上を食われた………え?
「キッシュ、なんであんた食われてんのよっ!?」
「お、お、お、お兄ちゃんっ!?」
バリバリボリボリと咀嚼されるキッシュの……キッシュの………
それはまさに阿鼻叫喚だった…はずなんだけど、そこに違和感が生じる。
こんな事が前にもあったと……壊れた女神を抑える為に全てを捧げたバカな親友が居たと。
そう考えた瞬間、鼓動が高ぶった。「ドクン」と1度だけ…そして、不思議な事が目の前で始まろうとしていた………




