光と闇のセプテット…但し奏でるとは言ってない
わらわはアイリスと共にキッシュから離れた。キッシュが地の鎧を抑えている間に奴らを倒せとの事じゃ…気は進まぬところはあるのじゃが、キッシュの言葉を信じてみようと思うのじゃ。
『1度作られたのならまた作り直せばいいんなー。それが出来る技術があるなら尚更なん…そうでなければ俺だって存在する事自体が怪しいん』
確かに、キッシュの事を考えれば大した事ではないとも思うのじゃ。それに、わらわたちが目指したのは共存であって戦乱ではない。ましてや一方的な虐殺であるはずがない……キッシュはやり過ぎではあるのじゃが、キッシュがやる事に比べたら女神の所業は……
ともかく、わらわたちを追って2人がやってきたのじゃ。青の国のアスルと緑の国のグリュン……あまりよい相手ではないのじゃが、わらわたちを倒すには力不足も甚だしいのじゃ。
「ママ、あいつらいけ好かない」
「それは同感じゃの」
ニタニタと笑いながら近付いてくる輩2人に対しては嫌悪感しか抱けぬ。これならば、まだ置いてきた四天王の方がマシじゃ………人体の完全機械化であったか。欠損や強化ならいざ知らず、強制的な人体実験によって犠牲となった者は多いと聞いた。
前に…とはいえ、ここでは数十年が過ぎておるのじゃが、その時は多少まともであったのじゃがな。洗脳された結果なのじゃろうな……自業自得と言えばそれまでじゃが、焦点が合ってもいない壊れた輩の相手は正直億劫なのじゃ。
「クックック……見慣れぬ鎧を纏っていますね。ですが、この『量産型ラ・フレシア』の前では紙屑同然ですよ」
「久しぶりに人間の分解が出来ますね」
ここは普通、他の機械人を滅した事に対する恨み節を吐き捨てるのじゃが、これが洗脳の結果か元々の気質か……どちらにせよ、キッシュと似たようなものじゃ。もっとも、ニタニタと笑わぬだけキッシュの方がまともにも思えてくるのじゃ…
それにしても、量産型の地の鎧……クロバーが捧げたものの大きさに比べ貧相なものよ。あくまでも偽物は偽物じゃ…そう思えるのは、キッシュが用意した鎧が地の鎧を凌駕しかねない代物だからなのじゃ。正直、キッシュにレベルを渡しても余りある増強をさせられた。
自惚れは良くないと思いつつも、わらわはかつて強敵と戦った事もあるので理解は出来る。というより、事実も含まれておるのか……キッシュが作った物は今までの理屈を覆す物であると。そして、何より…
「紙屑かどうかは試してみなければ分からぬのじゃ……所詮量産型の二番煎じと、あやつが作ったわらわたちだけの鎧と…どちらが紙屑かをな」
「……ママが怒ってる。わたしも怒ってる」
アイリスも同感のようじゃ。最愛の男が死ぬ程に考えに考えて作り上げたこの鎧たちを紙屑などと侮辱するなぞ万死に値するのじゃ。
既にわらわもアイリスも鎧を身につけておる。互いが互いに距離を取ったのは邪魔にならぬようにするためじゃ…特にイルムのに巻き込まれでもすれば命がいくつあっても足りぬのじゃ。
じゃが、アイリスは純然たる後衛タイプじゃ…万が一という事があっても困ると思い行動を共にした。とはいえ、地の鎧も後衛が主であり、盾代わりなものじゃ。その量産型にして、何の工夫も見られぬ。弾道が変わるわけでもなく、防げぬ程の速さも強さも無い。わらわが斧で弾かずとも、この鎧が弾いてくれるし……わらわが無理せずとも、無傷は確定なのじゃ。されど、悲しい習性か体ら動いてしまうのじゃ…
2人からは雨のように砲撃が来るのじゃが、本家本元の砲撃に比べたら小雨にもならぬ。
「何故だ、何故攻撃が通じないんだっ!?」
「このままではこちらがエネルギー切れですね…」
吐き出す言葉も小物じゃの。そんな小物たちを倒そうと後ろではアイリスが脚部のアンカーを降ろして必殺の一撃を放つ準備を終えておる。正直、手加減するつもりも無い相手じゃ…むしろ、そのような事をしてキッシュにあらぬ疑いを抱かれては困るのじゃ。感化されておるのは致し方ないの…
『あーテステス。こちら付き人A、付き人A。ロリ魔王以下俺の嫁に告げる。機械人の弱点は雷属性の攻撃なり。繰り返す、ブラ○クサンダーとかホワ○トサンダーとか万○目サンダーとかで倒すん。え、雷属性を持ってないから出来ない…ライジングフォームは標準装備してありますぜ。オラっちを熱く蘇らせたんだから同然ですよ。さあ、叫ぶのん…フォームチェンジ《百花繚乱》と』
唐突にキッシュの声が耳元で響いてきたのじゃ…あやつ、何やら細工をしておったのじゃな。未だに鎧を完全に動かせていないというのに、パワーアップしろというのか…というより、きっちり改良しておるではないか。
『あ、フォームチェンジと言っても中間フォームなん。最強だとか思い込んで無理やらかさないようにするん…その思い込みが油断を誘って負ける事になりかねないん。俺の嫁なら完全勝利しろ…後の事なんて気にしないで思う存分やってやれ。パーツ回収なんてどうとでもなる…俺の現地嫁のパーツの為にお前たちが傷付くのは見たくない』
言っておる事は最低なのじゃ…とはいえ、油断して倒されておっては女神と戦うなど夢のまた夢。少なからず、不埒な思考を持っておるこやつらを野放しにするつもりも無いのじゃ。
「仕方あるまい…アイリスよ、共にキッシュの言う中間フォームというのになってやるのじゃ」
「うん…」
どちらが合図するでもないのじゃが、わらわはアイリスと声を重ねた…
「「百花繚乱」」
◇
南方の魔王嫁と勇者嫁から強化の承認音声入力が来たん。目の前の巨大なハリボテと戦いながらも強化パーツを作るん…え、作ってなかったのかって。材料のハリボテがありますがな、目の前に…
カンナにこんなごつがましい鎧なんて似合わない…だから、倒すついでに削いだりもいだり精錬したりたりらりらーんしたりしないとダメなんですよ。でかすぎてカンナに兄さんとか呼ばれそうなん……手から和菓子出す魔法は覚えたいんなー。
というわけでまずは余分な羽からもぐん。重量のある物体の翼とか飾りなん…必要なのはブースターやエンジンやねん。飛行機みたいに空気抵抗を計算しとるならともかく、単なる羽パーツなんてデッドウェイトやねん。だから、付け根の砲を除いた4枚羽をサクッと刈り取ってみる。
『ギャォォォォォォ』
「いっちょまえに悲鳴なんてあげんななん」
これが美少女のなら躊躇するけど、所詮は鎧なん…萎えるん。え、中に誰も居ませんよ…既に生体反応は確認済みなん。機械人に生体反応も生活反応も関係無いんですけどねー。
さて、今回の材料は4枚の羽なん。それをサクッと改造して腕に付けれる刃にしてみたん…え、羽として使わないんかだって。魔王嫁にそれは嫌味でしかないん…あいつ羽を失って斧を手に入れたんなら未練は無いと思うん。飛べない魔王嫁はただの魔王嫁で十分なん。飛んだらパンツだから恥ずかしいと思うん。
さて、2組の双剣が完成したん。これを使ってチェリアとアイリスにはあれやってもらうん。所謂合体攻撃なん、ロイヤルなハートブレイカーなん。シンクロアタックなん。ユニゾンでコアを蹴り壊せばええと思うよ……え、双剣要らないとか言うなや。アイハブコントロールとかって言ってみたいだろ…え、どうでもええって?
とりあえず、黒の双剣と白の双剣を魔王嫁と勇者娘の所へ投げ飛ばすん。その後は他の嫁の為に解体作業をするんなー……変身タイム終了まで後32秒なん。変身バンクって意外と長いようで短いんなー。
◇
百花繚乱と言った刹那、体に電気が走ったのじゃ…痺れたともいえる。別にそれがどうというレベルではないのじゃ…女神の雷やあやつの攻撃で少なからず耐性は付いておる。じゃが、その瞬間に鎧がまるで自分自身の体のように感じられたのじゃ。
無論、痛覚が共有したわけでもないのじゃが、服を着ている以上の軽さを感じるというところじゃ。本当にとんでもないものを作りおるのじゃ…
更にいつの間にか目の前の地面に突き刺さっておる黒光りする2本の剣……アイリスの方にも白く輝く剣が2本。あまり剣術は得意ではないのじゃが、それを使えとばかりに目の前にあっては無視するわけにもいかぬ。
元より、こうして同じ武器をわらわたちに渡してきたキッシュの意図を汲み取るべきなのじゃ……というより、人が体の一部を賭して作った斧より強そうに見えるのじゃが、理不尽と思うのはワガママなのじゃろうか?
いや、実際理不尽そのものじゃ…
「な、何故、空から剣が……」
「チクショウ、チクショウ、チクショウ…」
敵対しておった2人も目の前の地面に倒れ伏しておる。ご丁寧に剣が突き刺さってじゃ。
『変身中に奇襲しようとした罰なん。嫁を襲って良いのは俺っちだけなん』
キッシュが何やら不穏当な事を言っておるが、気にしては負けなのじゃ。
『さあ、俺っちのマイワイフたちよ。その双剣を使えば無と命属性以外の属性攻撃も可能なん。ラルクってレインボーな攻撃をやってやれぜなん。魔王と勇者の重奏七属性の見せ場なん……え、そんな事しなくても相手は虫の息だって。オーバーキル上等なんなー。ボーナス加算あるはずなん、目指せプラチナなん。ディスコはねぇん』
「キッシュよ、少し黙るのじゃ…」
頭が痛くなってきたのじゃ。アイリスも遠い目をしておるではないか…気を取り直すとしよう。目の前の敵はキッシュが言うように虫の息なのじゃ。最早、楽にしてやった方が良い程の…
『ところがギッチョン。ロボは合体するんなー。俺っちたちも合体するんなー』
「人の心を読むではないわっ!」
キッシュの言動に腹を立ててはならぬと思いつつもムカムカするのじゃ………憂さ晴らしをせねばやっておれぬわ。
◇
「こうして、ムカムカする魔王嫁とそれに追従した勇者嫁によって機械人の一角であるスケサンカクサンは倒されたのであった。これにて一件落着…さすが魔王なん。男には慈悲無かったんなー」
用意しとった俺の必殺技を何なくぶちかまして塵すら残らず青いのと緑色のは消滅したん…まあ、男のパーツなんか要らんし構わないんですけどね。どうして男装の麗人キャラが居ないんだろうかである……あ、あいつら生き残らせてイフォルマくんを機械のロリ体に脳移植すれば良かったんでなかろうか。惜しい変態を亡くしたかもしれないとも微塵だけ思った今日この頃。
さて、チェリアとアイリスが憂さ晴らし足りずにこちらへ向かってくる前に他の嫁の追加パーツ作るんなー。え、戦闘の描写が乏しいんじゃないかって………絶対勝つの分かってるのにそんなの要るか。戦闘パートのアニメーションはスキップするタイプなんすよ、俺っち。
まあ、具体的に音で表現すれば「グサッ」「グチュ」「ズビシッ!」「ドスッ!」「ドバババー」なん……え、分からないって。考えるな、感じて早速察しろなん。俺っちも見てないから分からんし。
まあ、過剰な武器という事が分かっただけで満足なん。万が一俺っちが洗脳とかされて敵対したとしてもチェリアとアイリスなら使いこなして倒してくれるべや。亡き者にしてくれる為のセプテットなん…シューティングは不得意分野なんよ。
まあ、それを言ったら捨てそうだから言わんけど。




