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釣り上げられた魚の捌き方

翌日…


結局、学園の魔法担当兼学園医の中○彬先生が片玉の勇者の手術をする羽目になったので昨日は授業を受けられなかったという事になり繰り越しだ。


あ、手術は見事成功して名実共に片玉の勇者になれたようだよ…失敗して取るしかなかったら良かったのに。


学園には多種多様な学科があるが勇者クラスの授業は週3回で、日本でいうところの月水金のみ。他の本では週が6日とか週自体が存在しないのもあるが、ここは週が7日の土日休みのゆとり教育制だ。


現在のところ勇者クラスは俺を除いて1年生のみ。ゲーム中では簡略化されていて1授業終了で1単位が貰え、10単位を取得すると進級試験に挑める仕様だったが、そこは大差ない。つまり、順当にいけば週ごとに進級する事が出来て6週目に卒業…魔王討伐のハッピーバッドエンドだ。


しかし、片玉の勇者の活躍でその計画は狂った。明日の午前中に10単位を取得するのは不可能な上に勇者たちは結託して片玉復帰まで進級しないらしい。


どのみち、俺は授業も試験も受けなくていいんだけど計画上そういうわけにもいかない。それに、せっかく食いついた魚を取り逃がすのも面倒だ。


というわけで、俺は釘バットの製作に必要となる釘の調達の代わりに鉄鉱石を取りに鉱山へやってきていた。素材自体はロリ魔王たちが用意してくれるらしいがそれでは心苦しいというか、ロリ魔王と四天王が持てば憧れた一般生徒による購入が増えて、市場の釘の数が足りない事態へとなりそうなので素材を仕入れて高騰したところで売れば儲かると悟ったからだ。それに、この鉱山はミスリルとか極稀に出てくるからそういう期待もある。


鉱山へは学園で申請しておけば誰でも入れるし、学園都市のギルドでの申請をすれば鉱石の買い取りもやれる。素材を集めるにしても稼ぐにしても有用な場所の1つだ。


だが、他の場所は申請無しで入れるのに鉱山は申請が必要だ。それは何故か…危ないからに決まってる。落盤とか、鉱石を食べる魔物が居たりと危険も多い。申請するという事は落盤とか魔物の襲撃によって死んでも構わないという申請でもある。


つまり、俺はこの鉱山で釣れた魚を捌くつもりだ。そのための準備もロリ魔王が行ってくれている。とはいえ、ロリ魔王が勇者殺しに忌避感を持っているし覚悟が足りないのは分かっている。だから、殺しは最小限だ。釘バットには強い興味を示したくせにヴァンの手術が成功するのを祈っていたような奴だ。だから、社会的な抹殺を軸にしてどうにかして殺し飼いにするという方法で落ち着いた。偽者は例外だが…そもそも偽者は勇者どころか生徒の資格すらないのだから当然だ。


とはいえ、それが誰か特定するのは難しい…というか、本物かどうかの判断が出来ない。ヴァンは単なる恨みつらみで半殺したが、偽者かどうかは分からない。ただ、表ストーリーでプレイヤーがやった事を全て自分の手柄と書かれる展開がウザい主人公扱いのキャラだから腹立たしいというのがプレイヤーの大多数意見だ。


そして、もう1つ…



「お話がありますわ」



鉱山の坑道奥深く。袋小路でミスリル採掘をしていると、予定通りに釣れた魚が声をかけてきた。


ツンデレの勇者シャルロッテのご登場だ。展開通り、表も裏も最初に個別イベントを起こすのはシャルロッテ…表ではイフォルマくんを退けた場合は好意的に、負けた場合は高圧的にの差異はあるが接してきてそのまま敵に絡まれて共に戦闘を行う。その後、敵の最後っ屁を庇う事で信頼を得る事になるちょろイン…だと思っていたのに、親しくなると片想いの相手ヴァンの事を相談されるというどんでん返し。しかも、相手がいつもいがみ合っているウザキャラという事でウザインにクラスチェンジだ。


そんな事もあって加速度的に片玉の勇者が不評を増す。更にロリ魔王の話によるとストーリー後は相思相愛だったくせに国へそれぞれ戻った後は殺し合う中に発展。もう訳が分からないよ…


で、裏ストーリーだとヴァンに勝てば称賛と指導を願われ、負ければ罵倒を受けるらしい初期イベントだが、わざわざ負ける奴は居ないので罵倒は憶測に過ぎない。



「偽者のくせにヴァンをあそこまでするなんて、卑怯ですわ。ヴァンが悪い部分が無かったとは言いませんが仮にも一度卒業しているのでしたら手加減して…」



が、何か罵倒を受ける予感…そうはさせないけどな。俺は手筈通り坑道に響くよう拍手をする。



「な、何のつもりですの?」


「ご明察。確かに俺は偽者だ…それを褒め称えているだけだよ」


「バカにしてますの。学園長が魔王という事も会話から分かりましたわ」



まあ、聞いて理解出来なきゃただのバカだが。魔王が勇者を監視していないとか思わなかったのかね、こいつ。誰に相談するでもなく、したのは俺の後を追って鉱山に行く申請をした程度で単身、偽者と分かっている俺のところへやってきた。ゲームの展開と同じように…脳内お花畑と揶揄されているバカなのは変わらないだろ。


裏ストーリー本来の初期イベントを街中ではなく人気の無い場所で起こした場合、選択肢が現れる。ここで殺すか否か。殺さなければ後のイベントで他の勇者と一緒にという事になるが、殺すを選んだら戦闘だ。


だが、相手は姫騎士…学園外での装備は超高級品を集め、低レベルではあるがある程度の装備が必要となる。ましてや、俺の今の状態は汚れても良いよう…というか採掘運を上げる坑夫の服に採掘用のツルハシ。服はイベントで中古を入手し、ツルハシは鉱山の入り口でレンタルしたものだ。普通なら勝てない…まあ、レベル差あり過ぎて勝てるけど。後、殺した後に奪い取れない装備品の仕様が虚しい。奪い取っても使ったり売ったりすればバレるから仕方ないが。



「バカにしてるさ。そこまで分かっていながら、1人でこんなところへやって来たんだからな…先生、出番です」


「先生っ…まさか、罠?」



当然だろ。じゃないと袋小路で採掘なんかしてないし。ただ、先生といっても四天王の誰かが居るわけでもない。こういうダンジョン系の場所にはグローバルモンスターの類いが生息している。しかも、ロリ魔王よりハイスペックなのが…それを従えれるのは人望あるからだな、うん。



「グォォォォ」


「こ、コランダムベア?」



背後から現れたオッドアイの熊にあばばばしてるシャルロッテ。コランダムベアはその名前の通り赤と青のオッドアイの熊で主食はコランダムだ。採掘で幾つか手に入れる事が出来たので、それを手に取って見せつけてやると「殺ってやるクマー」と言わんばかりの雄叫びを上げた。交渉成立のようだ。


ロリ魔王に頼んだのは、コランダムベアをけしかけてシャルロッテを半殺しにする事だ。報酬は採掘出来たコランダムなので元手も掛からないお得な取り引きだ。勿論、表ストーリーみたいに共闘したり庇うつもりは更々無い。高みの見物、やっておしまいコランダムベアさんといったところだ。


当然の如く、相対するツンデレの勇者と我らの化身アナロ…ではなくコランダムベア。初撃の熊パンチで軽々とシャルロッテのミスリルレイピアを叩き折る。そんな装備しても中身が弱いから大丈夫じゃなかった。



「なっ…ミスリルですのに…」



ミスリルの武器がいきなり折れた事で衝撃を受けている事に笑撃しかない。表ストーリーを知っているから尚更だ…


表ストーリーではシャルロッテの弱さが伺える会話がある。姫騎士などと言われていても、実際には護衛騎士に守られて簡単なダンジョンを攻略しただけの同行者に過ぎなかった事を話したのだ。つまり、ろくな実戦を経験していない。勿論、レベルが上がれば使えるキャラになるが今のツンデレの勇者はレイピアを斬るために使う武器と認識しているおバカキャラなのだ。


レイピアは本来刺突を主とする剣だ。ゲーム中でも斬撃、打撃、刺突の隠れ属性が存在し武器には特性、防具には耐性の有無が与えられている。その反面、武器スキルにおける習得技も多岐に渡り技によって武器を活かしも殺しもする。


閑話休題。このおバカ勇者はそれすら知らずコランダムベアという刺突耐性の高い魔物に斬るには心許ないレイピアで挑んだだけの話だ。氷剣という2つ名を捨てれず、かといって非力だから軽い剣しか持てない故の驕りと結果。ほら、ミスリルで出来た胸当てとかもボドボド…いや、ボロボロだ。熊パンチと熊クローによって、オラオラオラオラされている。ミスリルの高い防御力があるから辛うじて死んでない状態だ。体中が傷だらけになってもまだくっ殺発言が飛び出さない。別のものは垂れ流しているが…


ちなみに、そんな発言しても俺は手出ししない。こんなところで襲って痕跡残したら危ないし…あくまで、無謀にも坑道の最奥に来た愚かなツンデレの勇者がコランダムベアに襲われて血痕を残して行方不明。捜索されたら血の付いた武器や防具だけしか見つからず何かしらの魔物に食われたであろう。従って死亡したと推定するまでが氷剣の勇者シャルロッテの最期だ。



「た、た、た…助け「ない」」



こちらを振り返って助けを乞うてきたが、笑顔で被せてやった。「ねぇねぇ今どんな気持ち?」と言わないだけ優しいな、俺。第一、こいつも俺を厨二扱いしてるんだから腕くらいロケットパンチしてやっても構わないのに慈悲深いと思ってもらわないといけないはずだ。そんな事を考えていると熊パンチが顔に炸裂した。



「おい、顔はやめな。ボディーにしな、ボディーに」


「ガウ」


「や、やめ…」



あくまで熊だからやめろと言われてやめるわけがない。俺を上回るコランダムを持っていたら別だが無理だろ。そんな事をしたらコランダムベアもろとも俺が相手するだけだ。


というか、グローバルモンスターじゃなかったらテイムして使いたかったぞコランダムベア。でも、食費が大変だから無理か…あ、張り切り過ぎたコランダムベアが熊クローでシャルロッテをドーナツにしやがった。腹に何処かの赤い水泳部みたいに爪突き立てて…まあ、仮に死んだとしても蘇生出来ますから安心してください、死んでいいですよ。

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