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5人の嫁と機械の世界その1

しばらく主役不在らしいですよ、どうなる事やら…

大和の世界から転移して早数日…未だにキッシュは現れぬのじゃ。わらわたちが放り出されたのは、かつて紫の国と呼ばれた地じゃった。多くの者に取り囲まれはしたのじゃが…まあ、わらわたちが易々と負けるはずも無く圧倒してしまったのじゃ。主にイルムが倒したのじゃがな…


取り囲んだのは6国連合とかいう6つの国の精鋭たちじゃった…キッシュが話しておった白、黒、赤、青、緑、黄の国からなるその連合の軍勢は紫の国の残党退治という事で集まっておったわけで、わらわたちがその残党と誤解されて取り囲まれたという事じゃった。



「ご主人はまだ見つからないのかっ!」


「まあまあ…キッシュさんだって無事ですよ」


「キッシュ殿ぉ…キッシュ殿ぉぉ…キッシュ殿ぉぉぉ…」



日毎に不安を膨らませて苛立つイルムと、皆を宥めているものの一番不安が顔に表れておるリンドウと、情緒不安定になってキッシュのぬいぐるみを作って抱きしめておる蓮華……それに加わらず祈り続けるアイリス。まあ、わらわも似たようなものじゃから、言えはせぬがあやつが居ないと不安であるのは事実なのじゃ…色んな意味で。



「皆様、かの英雄キッシュ様の捜索は各国の総力を持って行っております。あのお方の力はこの戦いには必要ですから」



そう話すのは6国連合のリーダーにして白の国の王女…そして、かつてキッシュと共にこの世界を制したメカニクルと呼ばれる鎧技師の少女、ブランじゃ。わらわたちの世話役も買って出ておる…お節介じゃが、感謝もしておる。


それにしても、キッシュが英雄のぉ……ゲームの名残りが強過ぎではあるのじゃが、諦めるしかない事なのじゃ。そのお陰で待遇は良いのも事実であるのじゃが…キッシュが英雄と呼ばれるのには違和感しかないのじゃ。どうせ、ブランに良いところ見せたいだけとしか思えぬ。狙っておったのはミエミエなのじゃ…


この連合には他のNPC扱いだった面々も参加しておる……いや、参加するしかないと言うのが実情じゃな。全ては地の鎧が起こした悲劇という話じゃ…鎧の勇者、クロバー・スリーフリート。わらわたちのかつての仲間で女神との戦いで死した機械生命体。あやつ程、人を恨みながらも人の為に戦った奴は居らんじゃろう。だからこそかもしれぬ。キッシュの話では、どちらにしろ地の鎧は悪者扱いじゃ…人を、罪無き者を手に掛けたのじゃから。


などと綺麗事を言える程の正義感は持ち合わせておらぬが、6国連合とは所詮…滅ぼされた国の残党に滅ぼされた国々の寄せ集めの義勇軍じゃ。更にタチの悪いのが滅ぼした側も滅ぼされた側も似たり寄ったり…復讐を復讐で清算する事になりつつある。寂しく嘆かわしい事じゃ…



「仮にキッシュと合流したとして…必ずしも味方になるとは限らぬ。場合によっては敵対するやもしれぬぞ?」


「その為のあなた方ではないですか」



人質扱いしようという事か……まあ、わらわとしては同じ勇者のよしみで止める事は吝かではない。じゃが、地の鎧を止めたとしてどのみち待っているのは流血の結末じゃ。あるいは地の鎧の力に囚われた新たな人間が過ちを繰り返すか。第一…女神との戦いで中身は壊れながらも鎧は無傷であった程の硬さをどう攻略するのやら。それこそ、キッシュが英雄と呼ばれる原因やもしれぬが…あやつならあの杖でどうにでも出来そうなのじゃ。



「……仮にキッシュが敵として現れたとして、その命を奪う事になれば……わらわたちは新たな厄災となるであろうがな」



その言葉にブランの顔も曇る…じゃが、当然であろう。最愛の人を失って狂った人間をわらわたちはよーく知っておる。だからこそクロバーの凶行も理解は出来る……正直言って、クロバーには借りもあるしやりにくいのは正直なところじゃ。とはいえ、安らかに眠らせてやらねば神魂の欠片を回収するのも難しい…面倒じゃの。



「それは……分かってます。ですが、もう希望はキッシュ様しか居ないのです。多くの鎧装士(アーマーナイト)が散っていきました…中には国の最高峰と言われた実力者も居ました。頼れるのはキッシュ様とあなた方しか居ないのです」



鎧を装着出来る人は限られておるらしい。また、ブランをはじめとした何人かはかつて鎧装士アーマーナイトだったそうじゃが、その資格を失ったようじゃ。原因は分からぬらしいがな…そして、ブラン以外の使っていたコアの適性が何故かわらわたちにあったという事で急造ながらもわらわたちの鎧が組み立てられておるそうじゃ。否が応でも戦わねばならぬ状況という事じゃ…正直、取り囲まれた時に鎧装士アーマーナイトを何人か再起不能にしてしまったのもかるからのぉ…イルムはやり過ぎじゃ。



「ご主人〜ご主人〜ご主人〜」


「ええい、少しは落ち着かぬかっ!」



蓮華からぬいぐるみを奪って頬擦りしておるイルムを叱り付ける。それより、蓮華が新たにキッシュのぬいぐるみをアイテムボックスから出したのも気になる…わらわの分もないのじゃろうか。ではなく、少しは悠然としておかねばならぬ…いったい、キッシュは何処で油を売っておるのじゃ。










まるで、この世界は少し未来のわたしたちの世界みたいだと思う。


沢山の国があって、沢山の目論見があって…そして、その結果がある。


もし、わたしの世界で似たような事が起これば…わたしもまた鎧と同じ道具になっていたはずで、全部失っていたはず。それを救ってくれた人は……パパは、今居ない。


昔、神に祈れば大丈夫と言っていたのが居た。その女神と戦うわけだけど。でも、祈らずには居られなかった。


それにしても、この世界に来て出会ったブランたち6人に…あの人たちににた雰囲気を感じるのは何故だろう?



「もう少し、ここは豊かな土地だった……それを奪ったのはあの忌々しい鎧と紫の国の連中だ。そして、他の地も同様の被害を受けている」


「なる程のぅ……さすがは地の鎧といったところじゃ。地を腐らせればいくら機械化とやが進んだ世界でも生きてはおれぬか」



ママが黒の国の鎧技師メカニクルのプレートと一緒に居る。ママはパパの事を気にしながらもこの世界をどうにかしようと動いている。わたしたちもそんなママに動かされるみたいに少しずつだけど頑張っている……勿論、パパを裏切るような事はしていない。それをすればイルムが真っ先に命を奪うって言った事も覚えているし、おそらくわたしがわたしを許さない。今はただ、早くパパに会いたい。








オレはドラゴンになってこの世界を翔けていた。背中にはアイリスと赤の国の鎧技師メカニクルのコキノさんを乗せて…


この世界にはキッシュさんが牧場で作ったよりも遥かに高い建物が沢山あった…但し、全て薙ぎ払われ崩れ倒れていた。



「また街が1つ崩壊しています……また助けられなかった」



コキノさんがそう嘆く声が聞こえてきた。きっと、多くの命が失われたんだろう…他人事ではないけれど、オレは実感が湧かないままだ。これをやった実際の相手を見ていないのが原因か、その惨状を見ながらキッシュさんに頼るしか出来ないこの世界の人たちに呆れているからなのかもしれない。


胡散臭い……少なくとも、オレはそう感じていた。何処へ行くにしても誰かが同行してこようとする。だからこそ、こちらも複数で行動しなければならない…キッシュさんと再会すればそんな必要も無くなるのだろうけど。



「リン…パパ居そう?」


『いえ…少なくとも、この姿を見れば何かしらの行動を起こしてくれるはずなんですけどね……』



未だにキッシュさんは見つからない。この世界に来てから既に10日が経った…既に世界を何周もしている。なのに、キッシュさんを見つけられていない………この世界に居ないなんて可能性はまず無い。なのに、見つけられない。


それは未だ見ぬ敵も同様だった。キッシュさんが敵の正体なんて事は考えられないけれど、その可能性があるのも事実…本当にどうすればいいのだろう………









水はどの世界でもなくてはならないものであって、わっちはその水を確保出来る力がある…



「お狐様のミネラルウォーターは1本で金貨1枚と交換……え、金貨が無いなら鎧のコアで良いでしょ」


「イルム殿…わっちは別にお金なんて………」


「ご主人なら稼げる時には稼ぐよ。それでもご主人の嫁かっ!?」



わっちはイルム殿と一緒に難民の方々が集まっているところへ水を提供しにやってきた…つもりだった。でも、この世界にはあまり魔法が浸透していないのか訝しげに見る人が多いというのに、イルム殿の発言である。


キッシュ殿だったら……それでも、せめて銀貨とかじゃないかなと思う。コップ1杯程しか入っていない瓶の中身にコア引き換えは無いと思う。その価値はわっちでも分かる。


それでも、水が欲しいという人は少なくない…ただ、対価が無いので言わないだけであって。



「生きていく以前にこんな生活機能が破綻した世界でお金なんて信用価値失った重たい鉄屑紙屑をいつまでも持ってる意味なんて無いでしょ。それを優しい優しいあたしたちが引き取って、代わりに水が手に入る……それを理解出来ないならいっそ死ね。氏ねじゃなくて死ね」


「イルム殿がキッシュ殿より酷く見えます……」



結局、誰も買わないまま日が暮れた。何をしに来たのか分からない…でも、難民の中にはキッシュ殿が居なかった。こんなやり取りをしていれば出てくるはずなのに…


わっちはキッシュ殿のぬいぐるみを出して抱き締める…イルム殿に強奪されてから全員分を作った。デフォルメしてあるけど、キッシュ殿を捜す際に役立てている…はず。



「ご主人…もしかして新しい嫁を見つけて古女房たちはお払い箱にしたのかもしれないね。今までが今までだったわけだし、あたしと蓮華にはまだ挽回のチャンスあるだろうけど」


「そんな悲しい事を言わないでください……」



完全に否定出来ないけれど、キッシュ殿がそんな人間だとは思いたくない。わっちが好きになった…愛した人は少しの事じゃ見捨てる事は無いと。なら、どうして来ないのか…



「そうでも思わないと…ご主人にまた捨てられたんだよ………」


「それは……はい………」



イルム殿は女神の所為とはいえキッシュ殿と離れ離れにされてしまった事はトラウマになっている。わっちも似たようなもので……



「……必ず見つけるけど、ご主人がわざと捨てたのなら……何か理由があるはず。その理由も突き止めないと」



理由……確かにそうでなければ説明がつかない。キッシュ殿は捨てられた痛みを誰よりも理解しているのだし、わっちをすぐ捨てる事なんて無いはず…そう信じて、今はできることをしようと思う。

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