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『ジパング見聞録』導入

『ジパング見聞録』


舞台は昔の日本に近い大和という島国だ…都市とは直接の関わりは無い。宇宙戦艦とはもっと無い。


魑魅魍魎な跋扈しているこの世界をNPCと駆け抜け倒していくというのが表のストーリーである。そのためにプレイヤー枠は1つ削られるという悲惨な仕様。安心してください、嫁は削りませんよ。プレイヤーの時も3人だったから大丈夫でしたし。


で、そのNPCの巫女巫女なこの世界のヒロイン橘蓮華たちばなれんげと8匹の大妖怪を倒し最後のボス九尾狐を倒してめでたしめでたしなのが表の大まか過ぎる流れだ。


8匹の大妖怪が守る妖怪の世界の穴を塞ぎ、取りまとめてた九尾狐を倒すんだってばよ。そして、ハッピーエンドなんだってばよ…って思ってた時期が俺にもありました。


それを打ち砕いたのが裏ストーリーの導入部。九尾狐は良いキツネでした…自分のしっぽをちぎって8匹の大妖怪を産んで塞ぐ事の出来ない穴を管理し人間を守っていた良い妖怪だったのです。な、なんだってー!?


つまり、キツネを殺して妖怪の所為なのねそうなのねな事案が急増してしまうんですな、これが。悪霊退散ドーマン○ーマンしたら増やしてしもたんって事で新しい九尾狐(表の九尾狐の子ども)と一緒に妖怪変化もぶっ飛ばし塚モ○ルでお買い物しつつ穴から出てくる悪しき妖怪を倒して、ちぎったしっぽを使って制御するというのが大まかな裏ストーリーの流れ。この場合は穴さえ何とかなれば良いので8匹の妖怪を倒せばクリアだ。


とはいえ、カタタや残念少女はまだしもイレギュラーなストーキングが出現したのだから油断は出来ないと思ってはいた。だから、ここに来た途端に起こりうるであろう状況はいくつか考えていた。


とはいえ、この状況は予想内で予想外です。






『汝は…また過ちを犯した。わっちたちの、死はこの世界を混沌に陥れるだけというのに…』


「何を…何をしたんですかっ!?」



目の前に広がるのは今、事切れようとしているしっぽの無い化けギツネとキツネの耳としっぽのある巫女姿の少女の姿だった。おそらく、先程まで彼女は極普通の姿だったのだろう…変わってしまった己の姿に戸惑いを隠せずパニックになっている。


それを見て更に戸惑う嫁たちとペットをよそに、俺は化けギツネへと近付いていく…



「……後の事は任せてゆっくり休め」


『……懐かしい…キッシュ殿か。わっちは間違えた。汝にも、多くの者たちにも間違った事をさせてしまった…そして、また繰り返してしまう。あの子を……お頼み申す…………』



それが、化けギツネの……俺たちプレイヤーがよく知る13代目橘蓮華の最期の言葉だった。彼女の亡骸は化けギツネの姿から俺たちがよく知る彼女の姿へと変わっていった。


最初から居た彼女と同じ巫女姿の巨乳な姿…あ、最初から居た彼女は俺好みの平さですよ。今はどうでもいい事だが。


橘蓮華の名は代々受け継いできたもので、名と共に「水の薙刀」も受け継がれてきたという話が表ストーリーで語られた。つまり、この物語は代々母を殺し、それを悔いて母の遺志を受け継いだ子が自らを削り妖怪を抑えながら子を実家に託す事を繰り返してきた過ちの輪廻の物語なのだ。


何となく薙刀の件を聞いた時に思い至ったが…まさか、俺の知る蓮華が娘蓮華に殺され絶命する瞬間に立ち会う事になるとは皮肉極まりないんじゃないの?



「な、何が…その服は……」


「キッシュよ、蘇生するのじゃっ!」


「パパ、早くっ!」



混乱する娘蓮華と事態を察して蘇生を促す母娘…だが、蓮華の体は光り出した。粒子になって消えていくのだ。妖怪だからメダルが必要とかではなく、俺たちが倒した九尾狐は100年近く生きていたというし寿命を超えていたのだろう。それを魔法でどうにか出来るとは思わない…悲しいけど、寿命を左右出来る程の力無いのよね。もし、先に命属性のスキルを上限突破させていればとも思うが…


俺が出来る最大の魔法をどれだけ使っても蓮華が消えていくのを俺は、俺たちはただ見送る事しか出来ない。



「14代目…混乱していないで、ちゃんと別れを言うんだ。お前の母の…黄泉の国への旅立ちだ。母親を安心させて送り出してやれ」


「………え……九尾狐が、この人が…かあ、さま………」



俺の言葉に少しだけ正気を取り戻した14代目の蓮華はフラフラとした足取りでゆっくり近付いて来た。最後の別れを告げるでもなく、受け入れられない現実へと引き寄せられるように…


その事実を隠しておく事も出来た。母を手に掛けたのだという事実を知って狂わないわけが無いだろう。だが、それは橘蓮華という名前を受け継いだ時から繰り返してきた運命なのだ。


橘の花言葉は「追憶」、蓮華の花言葉は「感化」だ。その名前を受け継いだ彼女は…彼女たちはその絶望を繰り返してきた。母を殺し、子に殺されるという運命。だが、そんな悲しい繰り返しは俺が終わらせてやる。


目一杯、魔力を使って試みた…だが、粒子は止まらない。流○やっちゅーにって感じにもならない。なったら困るが…


もしも、もっと力があれば救えた命があったのだろうかと後悔をまたした。イルムが居なかったら…俺はきっと牧場を壊して女神のところに乗り込んだだろうさ。







桐生柳の人生で、人の死の瞬間を見る事は無かった。瞬間は無くとも親類の葬儀に立ち会った事は多々あるが、所謂心電図が「ピー」っとフラットになって医者が「ご臨終です」と言われる瞬間には立ち会っていない。それが幸せかと聞かれたら不幸そのものでしかないと言える。最後の言葉さえ聞けなかったのだから。


まあ、幼い子どもの頃は死なんてよく分からなかったし、大人になれば割り切れるようになったさ。ただ、1度だけを除いて。まあ、しつこいからこの話はカットで。






「げへっ、ぐばごは…」


「ご主人が起きたよっ!」



イルムの声よりも、人が魔力尽きて気絶して倒れたところに回復薬を瓶ごと口に突っ込む奴が居るかと。気管に入って溺れかけたわ。薬に溺れるならよく聞くが薬で溺れる体験なぞしとうなかったっ!


むせながらも改めて周囲を確認する。場所は表ストーリーのラストダンジョン紺混城こんこんじょうの最上階…誰だよ、そのネーミング考えたの。


で、居るのは嫁たちと溺死させようとした実行犯イルム…それに橘さんちの14代目。先代の姿は無く、既に旅立った後だ。近くの山並みも燃えている……いや、ただの火事ですやん。自然鎮火するやろ…


さて。14代目のフォローもしないとならないが、色々気になる事もあるし蓮華との約束もある。頼まれたのだから拒まないのが俺のポリシーだ…いや、嫁云々の事はさて置くとして肝心なのは負の連鎖なんてのは終わらせなければならない。だから…



「とりあえず、自死して母の後を追うなんてのは無しだ。これは少しだけ預かっておく」


「あっ…」



茫然自失となりながらも強く握り締めていた水の薙刀を強引に奪う。自殺なんてされたら繰り返しは解決しても浮かばれないし、そもそもこんな運命を押し付けた連中の思う壺かもしれない。女神への怨念がまた増えた。



「思い出なら幾つか語れる。それを聞いてからでも遅くはないし、俺はお前をあいつに託された。簡単に死んであいつの願いを裏切るなら俺はお前を殺してでも止めてやる」


「また本末転倒な事を…」


「レン、今は泣けばいい」


「あ、えっと…その…」



14代目の戸惑いは仕方ない。まだ自己紹介してないし…というわけでサクッと自己紹介を済ます。というか、いつまでも城に留まる理由も無いし転移して屋敷に戻りますか…後、アイリスさんや。リンとレン呼びはちょっと危ないんじゃないかのぉ…いや、俺は初音○クを買ったけど使い方がよく分からなかったし構わないんだけどさ。鼻歌なら簡単に作れるのに。



「ご主人、後で剥いて男じゃないって確認しておくよ」


「イルム有能過ぎワラエナイ」



先読みし過ぎで怖いです。さて、とりあえず屋敷に戻って泣けばいいと思う。大切な人が死んで泣けない奴は云々なんて言うつもりはないが、泣きたいなら泣けば良い。泣かずに他でバランス取ろうなんて考えたら壊れるのは目に見えてるからな。


その前に城の宝箱漁っておこう…というか、城を解体して材料のヒヒイロカネとかリサイクルしようと思う。火事場泥棒違う、当初の目的通りやねん。ヒヒイロカネ見つけて、イルムに埋め込んで双剣双銃の使い手にとかしないが、武器は用意しとこう。



「とりあえず、リンドウは手伝ってくれ。適当な妖怪居たらテイムして構わないからな。イルムも来るなら好きに食って構わないからな」


「うわ、ご主人がモンスター扱いする」



モンスターだもの。せめて、たくさん食べて大きくなれよという下心を理解出来んのか……俺の目標、ようこそここへパラダイス的な下心です。あ、蓮華は食うなよと言っておかないと。おそらく、既に神魂の欠片を手にしているだろうし、あれで進化しかねないが食ったらイルムはただの化け物に落ちるわけだし…


とりあえず、少しの間だけ蓮華の事は初代の仲間であるチェリアとその娘のアイリスに任せようと思う。その光景を横目に「水の薙刀」をちょっと見てみる。NPCのくせに生意気だと思われていた固定装備だけあって強い…が、よく観察すると手入れされているがくたびれている感じは否めない。チェリアたち勇者の面々がそれぞれの本に入ったのは同時期だが歳月はマチマチなのはここでも同じという事か。まあ、チェリアが現時点で若くない以外は他の面々は若いから気にする事じゃないな。


とりあえず、さっさとヒヒイロカネをゲットして立ち去りますか。

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