屏風の虎を呼び出す愚行
というわけで、やってまいりました王国主催の大会…改め、王子の国葬。どうしてこうなったん、こんなイベント知らんのん。
「おお、王子よ。死んでしまうとは情けない」
コロッセオに用意された壇上でバカ殿…じゃなかった。国王が巨大な王子の看板に呼び掛けていた。え、写真じゃないのかって…俺に聞くな。後、あれ勇者にだけじゃなく誰にでも言うんやね。自分の息子に慈悲ないな国王。そして王子がM字ハゲに描かれとんや…
「王子の死因ってなんだっけ?」
「首から上が無かったと言ったではないか」
「ああ、そうだったそうだった」
朝、メイドが起こしに行ったら下は起きてたけど上は永眠しとったんやな。今度嫁たちにメイド服を…個人的にはメイドはどうでもいいんや。炎の鞭はどうなるのかって事が大事…負けない事投げ出さない事逃げ出さない事死んでない事。俺たち以外は門番の選んだ呼び選手も次々不可解な死を遂げたのだ…だから俺はやってない、子作りに勤しんでたというに。
「呪いじゃ…国王の持つ炎の鞭の呪いじゃ。ドエ…エンシェントドラゴン様の呪いじゃ。この国は呪われておる…早々に炎の鞭は手放すのじゃ」
会場の何処かから老婆の声が厳かな雰囲気を壊すように響き渡る。誰だ、声色を変えて魔法で響き渡るように細工している奴はっ!
え、俺じゃないよ。仮に俺だとしても俺という名の変態紳士だよ。結局俺だよ…嫁たち以外は気付いてない。気付いたらそいつが真犯人だけどさ。
会場が騒めき始めるが、国王の一喝で落ち着きを取り戻す。炎の鞭は手放す気無しですかい、そうですかい…
『我が名はドエムゴ…エンシェントドラゴンなり。我の鼻毛より作られし鞭を奪いし愚か者共よ…今すぐに返せ。でなければ我の尖兵がお前たちを地獄へと誘うであろう』
「キッシュさん…」
ドエムゴンの娘がジト目でこっち見てる。はい、俺ですよ。いや、言ったのは俺だがこの会場に人に変態…変体したドエムゴンの気配は感じ取ってるん。プライムも来とるん…せっかくの娘家族晴れ舞台がM字ハゲの葬儀に変更されて憤慨してるはずだ。いや、放置プレイとか思って悶えているやもしれん…というか、前の方に悶えてる白髪のおっさんはけーん。間違いない、あいつがル○ンだ。横にプライム居るし。
さて、今度は更に騒ぎが大きくなって会場から逃げ出す奴らも出てきた。尖兵がやって来たら終わりだものね。でも安心してください…逃げ出す奴らまで狙うような冷酷さは持ってます。が、面倒だしやらない。やったらチェリアとアイリスが怒るもん…
『ぷるぷるぷる。わて悪いスライムだよ…わての炎の鞭を奪った不届き者は滅ぼすでぇー。ドロドロに解かして食っちゃる』
「パパ、せめて似せて」
と言われてもプリン脳の考え方なんて知らんし…というか、のぶひこ連れてきてるならきちんと改名してやらないといけないと思うの。でも、気配は無いんな…というか、監視の目を潰すのに夢中で気配探知とか覚えてしもたん。どうすればええのん?
そんな余計な事を考えていると、何やら地下から変な気配を感じた。あれだ、ニュー○イプ的なのが走ったのだ。いや、これは少し真面目にしないといけないかもしれん。
「うぇいくあっぷ、ざひーろーの時間みたいだな」
「また訳の分からぬ事を…」
おや、慌ててないでお嫁さんは…この気配を感じないなんてヌルポ。ガッ、頑張ります。魔砲少女じゃないけれど俺の服装は白のジャケットですねん。
「いいから、投薬だっ!」
ちゅちゅるっちゅするのは後で構わない。強制的に不思議な薬で事を起こすんや。というわけで、余ってあった回復薬を飲み干す…ファイト百発、今夜ももげるぜ。
というわけで改めて白い指ぬき革手袋を装着用して光のオーロラ身にまといます。
「変…身っ!」
ポーズを決めて目の前にスパークと光を魔法で出現させる。良い子は真似しちゃダメだよ…すっげー目がジカジカするわ。それでもやめませんが。で、ベルトのバックルは当然新調しております。地デジチューナー内蔵のHDD式Blu-r○y録画機ですの…2つの盤が回転してるところが見えるだろう。とてもスケルトンです…
そっちに目が行ってる間に素早く着る。それだけの簡単作業でした…前の時よりちょっと早いね。という事で回転しながら飛んで高いところで名乗りをあげましょう。
「俺はテレビっ子、アナロベアァッRXっ!」
「く、曲者じゃー」
失敬な国王だな、まったく。横で名乗っただけでこの扱いか。こいつ、公開処刑決定。脳内で処刑用BGMかかりっぱなしなんだ。え、どのBGMか分からない…君の好きなのでええんやで。
そうこうしている間に群がってくる騎士団…俺んとこ来ないかと思える女騎士は居ません。瞬きもせずに光の渦に巻き込んでいいですとも…というわけで、巻き込みました。安心してください、ミンチより酷いですよ。 こちとらモンスター扱いのアナロベアRX様だぞ、モンスターに対する人間の抵抗無効なこの世界で何が出来ようか。
「それが貴様らの答えか。ならば、炎の鞭はお前たちを滅ぼしてから返してもらうとしよう」
何か俺、悪役っぽい…いやいや、悪いのはパクる側だ。ラ○ダーパクってるとか言うな、これはオマージュだリスペクトだ。
そんな事をしていると地下からの気配が増大してきた。コロッセオの地面に亀裂が走ると同時に地響きと振動が会場に居る人々を襲う。正直、ありがちな展開になってきたようだ。
「王よ。貴様は…いや、貴様たちは何をやった。どうして地下に多くのモンスターの気配がするんだ…」
「し、知らぬ。朕は何も知らぬ…」
うわー…自分の事を朕とか言う奴初めて見たわ。ではなく、どうやら炎の鞭はここには無いみたいだ。大会じゃなく国葬になったから持参してないな、こいつ…しかし、後で探せば良い。というわけで、俺は守りたい者を守る。俺は愛の戦士だからなっ!
「トゥッ!」
「パパ、はしゃぎ過ぎ」
「こんな地割れまで作らなくても…」
飛んで戻ってくると嫁たちが叱ってきた。戦場ではしゃぐわけないじゃない、地割れは俺じゃなくゴル○ムの仕業です。それに、はしゃいでいるように見えたとしても通常のキッシュくんですよ…
「俺は憎しみと憤りの王子っ…バイオロボベアァッRXっ!」
というわけで強化パーツという名の追加装甲と武器をアイテムボックスから取り出し装備する…アイリスとリンドウの目が冷たい。が、さすが歴戦のロリババアだよ…この異常に気付いてじっと地面を見ている。他人の振りしてるわけじゃないよな?
「名無し砲セットオン………ファイア」
とりま、左手に構えたオリハルコン製の長銃をぶっ放す。水平線の終わりにはあああーって感じで地面が大幅に抉れ水柱っぽいものが噴き上がる。しかし、虹の橋を作るであろう水が噴き出したわけじゃない…その水柱っぽいものは黄色かった。
「犯人はお前だっ!」
『ふはははは…こうも易々と居場所を悟られるとはな。さすがリンドヴルムの認めた男だ』
黄色いのがキャァァァ喋るわな、それは。どう見でもブ○スライムです。嫁はベスで義母はノーマル、俺は熊でチェリアとアイリスはスベスベマンジュウガニ…うん、意味分からん。
その黄色スライムは次第に形を人型に変えていく…その姿はM字ハゲだった。うわぁ気持ちワリィ、黄疸ってレベルじゃないぞ。人になりきれてない黄色い何かだよ。魔人っぽい…リンドウがこんなんなら即離婚ものだね。
『さあ、私の花嫁リンドヴルムよ。ドラゴンの血を引く私は今スライムの体を手に入れた。更に多くのモンスターを取り込みその力はエンシェントドラゴンをも凌ぐ事間違いない。2人で世界を支配しようぞ』
あ、ストーカーだよこの王子。世界半分やるから剣寄越せって言うようなタイプのストーカーだよ…幼女なら渡してたけどM字ハゲの黄色いスライムだもんね。
「あなたが…あなたのような人間が居るから…キッシュさんがおかしくなるんですっ!」
新妻に変人扱いされた。震えながらも懸命に立ち向かい言い放った言葉がそれなんですか…
「それにオレはキッシュさんの妻です。あなたの花嫁なんかじゃないっ!」
先にそれを言えと。後でたっぷり可愛がりますよ、ええ。
『くくく…ハハハハハ。こいつに私が屈するとでも思ったか。良いだろう、私の真の力を見せてしんぜよう』
ストーカー王子、以下ストー王がその姿を変えていく…いや、まずその状態で戦ってから変身しろよ。どうせまだ2回くらい変身するんだろ…
『これはこの前洞窟で食らったモンスターたちの姿だ。さすがのエンシェントドラゴンでもこの化け物たちは倒せまい』
黄色いストー王が変身したそれはまるでキマイラのような異形の姿…2匹のトラにウサギとライオンの顔を持つ合成獣。分かっていたさ、その気配を感じないなんて主人失格だもんな。
「……お前は俺を本気にさせた。その罪、数え終わる前に倒してやるっ!」
と○てつ、バー○ー、さすおに、くぎゅうの顔をした化け物に俺はアマダンタイトの剣を突きつける。
もう許さない…人がふざけている内に命乞いしなかった事を後悔する前に航海させてやる。M字ハゲ、お前の末路は遠洋漁業だっ!




