過去を過去に出来ないままに
ゲーム時代の俺はこの洞窟を拠点としてモンスターたちのレベル上げをしていた。洞窟といっても深くもなければ危ないモンスターが居る訳でもない。紅いブタが住んでいそうな光差し込む洞窟だ。そして、そこでは何故か牧場と街の育て屋でしか行えない配合が行えるお得な場所だった。まあ、プレイヤーのみのお得スポットって所だと思う…全然イベント無かったし。とはいえ、回復も無料で出来たので俺だけでなく多くのプレイヤーには有難かった。
さて、話を変えて俺の自慢のテイムモンスターたちの話をしよう。え、さっさと本題に入れ…お前、伏線って言葉知ってるなら少しは聞けよ。付き合い悪いな…
最初のテイムモンスターのと○てつとバー○ー…詳しい事は省く。何回か言ってるし…でだ。あいつらは特徴があったんだ。と○てつは右耳が少し切れてる…よくある避妊したからとかじゃないぞ。バトルで傷付いたからでゲームなのに無駄に手込んでる仕様だ。
一方のバー○ーは左耳が折れてる。レアグラフィックらしいが、それがどうした。大した差は無い…むしろプライム在庫処分品だろとも思う。まあ、個性ですよ個性。
で、さすおには八重歯だった。いや、ライオンで八重歯ってどういう事よ…左上だけだから大丈夫だ、問題あるだろ。オスの八重歯とか微妙だわ。でも慣れれば悪くは無い…
そして、くぎゅうだ。実は配合とかもした末に生まれたのがこいつ。かなりの苦労したが所詮は雑魚ベース…レベル到達限界を上げても伝説モンスターに毛の生えた最終成長しかしなかった。しかも遺伝でかぎしっぽなわけだ。
以上が俺の愛すべきテイムモンスターの特徴だ。そして、俺がずっと見てきたあいつらの目印であった。だから、見間違うはずが無いのだ。
洞窟の中はドス黒い赤で彩られていた。その中で不自然に落ちていたもの…
少し裂けている緑色のトラ耳と鈍く輝く耳飾り…
ドス黒い赤に汚れながらも赤く艶やかな毛をもつ折れたウサ耳と、首輪…
光を反射し、一際目立つ白く輝く八重歯とアンクレット…
黄色と黒の虎柄で、ドス黒い赤に汚れたリボンを巻きつけたかぎしっぽ…
「……………………」
遅過ぎたのだと気付くにはあまりにも心が追いついていなかった。どれだけの時間、立ち尽くしていただろう…俺は何をしていたのだろう。この世界に…いや、この体になって最初に探さなければいけなかったのはこいつらだったというのに。ここでずっと待っていたというのに…
ゲームだったから、データでしか無かったからと割り切れるものではない。このおびただしい血の量を見れば、肉片の数の多さを見れば、決して入口にへと続いていない血痕を見れば…あいつらが何者かに食い殺されたのは間違いなかった。
「っ!」
俺は急いで皆の元へ戻った。杞憂ならそれで構わない…また失う事だけは嫌だった。全てを失った俺はきっと…
結果からして、チェリアたちは無事だった。というか、顔面蒼白になっていただろうというのに荒い息してた俺が近寄ってきたらビンタされました…まあ、血生臭いのとかあったからだね。俺の純粋さ返せ。
とはいえ、そのビンタのお陰で理性が少しだけ戻った。内心は悲しみと怒りでロボになるかバイオになるか分からない程ぐっちゃぐちゃではあるが。
今度は全員で洞窟へと入って確認をした…「ほら、汚い洞窟だろ。嘘見たいだろ。全部血で汚れてるんだぜ、それ…」なんて冗談めかして言ったら「目が死んでる」とアイリスに指摘されました…うん、知ってる。
嫁たちは悟ってくれたのか多くを聞いて来なかった。俺が淡々とあいつらの肉片を集める一方、チェリアは魔法で血を集め、アイリスとリンドウは周囲の警戒をしてくれていた。実感は無いのだ。もしかしたら別のモンスターのとかあるだろ…いや、理解は出来てる。柳の時に体験したペットロスとかってのと似てる気がしないでもない。
でも、ケータイ越しに飼っていただけなのだ。いうなれは、たまご○ちとかデジ○ンと同じようなものなのだ…ここが俺のシオン○ウンか。
「ほーら、餌だぞー」
特徴的な部分は別にして、どれがどれか分からない肉片をヨダレ垂らしてるリグナとチギリに渡す。一応、のぶひこの分も確保しておく。
「な、何をやっておるのじゃ、お主は。気でも狂ったのかっ!?」
最初に気付いた釣りキチにキチガイ呼ばわりされました。いや、正統な弱肉強食ですよ…むしろ火葬とかではなくエ○ァとかでもあったでしょうが。敵の機関を取り込んでパワーアップ的な…くぎゅうたちの肉片なら技も沢山あるしレベル上がりまくりだぞ。強くなる事を強いているんだっ!
という建前を話したら「覇気無い」とアイリスに言われた。俺の第2夫人は聡明でいらっしゃる。やりたくてやっているわけじゃない…でも、どう足掻いても1匹分の肉片にすらならないのだから復活するのは不可能なのだ。
俺のモンスターはくぎゅうが99でレベルカンストしてはいたが強さでは俺より弱かった。が、4匹の連携はそれなりのものだった…なのに、この有様だ。あいつらを殺した何かがいるのだ。更に血の乾き具合と肉片が腐敗していないところを見ると極最近の出来事だ。ネギには酢がいいな…時は巻き戻せない。そんなユニーク魔法は今のところ持ってない。
そんな強いグローバルモンスターはここらに居ない。むしろ、グローバルモンスターは倒してこいつらに食わせた。シカ型モンスターでした…雷属性のな。土なら二足歩行しそうです。どうでもいいか。
まあ、狂っているのは理解している。これを犬猫とかに置き換えてみろ…前のペットの死骸を新しいペットに食わせてるんだぜ。何処ぞの頭だけ交換出来るパン野郎と同じくらい狂ったのか発想しているのは理解出来る。
だが、仇討つにしても何にしても強くなければならないのだ。グローバルモンスターでなければ王国の大会に出てくるモンスターの中に居るかもしれない、乱入してくるかもしれない。勿論、俺が倒すがこいつらまで失ったら泣くのは誰だ誰だ誰だ…お嫁ちゃんじゃないですか。
きっと、チェリアたちが居なかったら俺は今すぐこの世界を滅ぼしていたのだろう…が、俺にこいつらの代わりは務まらないと思う。少なからずチェリアはリグナを、アイリスはチギリを子のように思っているのは理解している。子を失って狂わない奴は居ないだろ…
ああ、多少なりとも俺もそう思っているのかもしれない。狂い方が逸脱しているだけで…ヤンデレ間際なのかな。あいつらの肉片を食えば一緒にとか考えてしまっているのだ。そこまでくれば狂人だ。というか、俺は釣った魚とか店で死に掛けてる魚とかを飼いたいと思う人間だった…それもそれで程よく狂ってる気もする。狂ってるからこそ人は人であれるんや。
なんて事を考えている余裕も無い。チェリアとアイリスがそんな事はやめろと、しがみついてきてますねん。あははは、あははは…
あいつが居なくなった時、事件や事故に巻き込まれたと思った。居るかどうかも分からない犯人に向け、抑えきれない殺意を抱き続け心が病んだ。
だから、逃げたんだと思う事にした。実際、事件や事故の目撃や痕跡は無かったのだからそちらの方が妥当だった…少しだけ心は安らいだ。が、じわりじわりと病み続けた。愛情は憎悪に、そして嫌悪と諦めに…
俺の心は腐っても、家族の絆は変わらないと思っていた。だから、世界が俺を嘲笑っても良いと信じた……その結果、俺は世界を棄てた。世界は俺を棄てた。
だけど、それは桐生柳の話…
「……痛いんだが」
「お主が悪食しようとするからじゃっ!」
「パパ、生肉は危ない」
チェリアからはビンタ、アイリスからは腹パンを連続でいただいてました。さすがに痛いです…だが、それだけの痛覚を失う程錯乱してたんだな…というか、食おうとしていたのか。狂ってんなぁ…というか、何日か経った生肉を食ってる子同然の2匹の事はええんか?
「あの…キッシュさん。お願いがあります」
そして、傍観者の新妻がとんでもない事を言い出したんだがどうしましょう…いや、俺としては構わないんですがね。その方が良いとは理解しているし…もし、ゲーム中であったなら迷う事無くそうしたであろう。だが…
「……モンスター扱いって事にならないか、それは…」
リンドウは「オレも継ぎたい」と言ったのだ。くぎゅうたちの力を、技を…そして何もかも。つまり、モンスターとして食うという意味だ。
「…キッシュさんのテイムモンスターは…オレにとっても家族です。チェリアさんやアイリスには無理かもだけど、オレは家族として遺せるものは受け取りたい。その方が…この子たちも安らかに眠れると思うから…」
リンドウは決意の表情で俺に伝えてきた。不倫じゃないよ強化だよと…え、ちょっと違うって。知ってる…
ここに埋めていくのも間違いではないと思う…が、正しいとも思えない。ずっと待っていた…なのに、殺されてまた捨て置かれる。恨まれているだろうさ…それでも、呪われても枕元に立たれても俺は魂だけでも傍に居て欲しい。
と○てつの右耳…
バー○ーの左耳…
さすおにの八重歯…
くぎゅうのしっぽ…
「…分かった。その代わり、人型で食うのはやめてください、お願いします」
それぞれの特徴で好きだった部分。俺はそれをリンドウに差し出した…土下座しながら。嫁に出す気分ですねん。だから、せめてスライムで消化吸収して欲しい。人の形でバリボリはやめて欲しい。それされたらマジ発狂する。




