さあ、旅に出よう
世の中にはタイミングというものがあると思うんだ……人型に戻ったリンドウを押し倒した形に見られる段階で釣りキチとコミットさんが戻ってきて誤解されました。どうして服着てなかったリンドウよ…更に弁明せず、はぐれの如き速さで逃げ出したし。
「それでも、パパ…ギルティ」
「じゃの…帰って来るのがもう少し遅かったらヤっておったじゃろう、お主」
一方、事情説明と正座を求められた俺はきちんと応じましたさ。ダメスライムソファーの危険もついでに伝えたが、それはどうでもいいと言われた…というか、前々からソファーに扮して部屋に入れ込んでたとアイリスが自白した。知らんかった…だからもげようとしなかったのか、こいつら。
でだ。誤解は解けたが理解はされていない。家族になろうよというリンドウとするのは当然だ…が、いつかドエムゴンみたいな変態性と不倫スライムみたいなプリン脳にだけはなりとうない。まあ、婚前はやらないさ…やっぱ合体は新婚じゃないと。ベッドの上でガンガンするのは旦那の役目ですからな。だから、俺はル○派だっつうの。ロリ万歳、ツルペタ万歳。
「愛に殉じる旦那に対してその言い草…奥さんとネオ奥さん酷いわぁ…」
そう言いながら俺は風呂の時でも外さなかった腕輪を外す…いや、火竜とか封じてるわけじゃないよ。2人が贈ってくれた結婚腕輪だよ。
その様子を見ていた2人の表情が一気に青ざめた…さっきまで怒っていた威勢は何処へやら。その視線は腕輪に釘付けだ…
「キ、キッシュよ…離婚か、三行半なのか。わらわたちが言い過ぎたのじゃ…」
「パパ、奴隷でもいいから捨てないで…」
最早号泣寸前である…というか、捨てたら離婚って風習でもあるんですかい。というか個人的には体に巻くもの苦手なんですけどね…
だいたい捨てるわけないだろうに。苦手でも嫌というわけじゃない…が、これはあくまでも俺がチェリアとアイリスの夫という証に過ぎない。
「リンドウ用に何か掘って足さないといけないだろうが。それとも、新しく作り直すかしないといけないだろ…」
さすがに嫁入り前の娘さんの裸を見て責任取らない程のラッキースケベではありませんよ…あ、アイリスの元仲間とかビッチとかは除く。
どちらにしても、リンドウはそれを望んでいるのだ。リンドウが望む理想を叶えてやっても良いとは思う…だって、ドエムゴンとプリンスライム(以降プライムと呼称)と共に生活させたらろくな子にならない。将来は女王様か娼婦かだろ、間違いなく。それは嫌だ…こんな俺でも一時でも幸せに出来るのならと思うわけだ。どれくらい寿命あるか知らんけど…
「そ、それならそうと早く言うのじゃ…」
「パパ、意地悪…」
安堵しているが酷い言い草だ。行為拒否は十分離婚理由になるというのに…他人の家だからとか色々言われないため宿屋並みの建物にしたというのに。やはり都市暮らしが長過ぎてファンタジーとのギャップが出てしまったのか…まあ、リンドウがあそこまで言ったんだ。ここに留まる理由も無くなった…
「とにかく、これを作り直してくれ。チェリアが作ったものなんだろ?」
「デザインしたが作ったのはウィローじゃ」
あら意外。まさかの義理の息子からの祝福品だったとは…なら、溶かしたりするの惜しいな。家族の繋がりってやつなら尚更。俺は右腕に腕輪を嵌め直した。まあ、気に入ってたからね…今度、きちんと塗装しよう。掘りは綺麗だけど色が無いからな。
「なら、今度はもう少しシンプルなので頼む。材料は用意するし俺が作る…但し、後から追加出来るようなデザインで桜と菖蒲と竜胆を入れてくれ」
「お主、言っとる事は最低じゃぞ…」
「うん、さいてー」
「分かってるっての…いつ愛想尽かされて捨てられるかも知れない最低男だって事くらいは」
実際、捨てられてますからな。もう恋なんてしないなんて言わないよ、二次ならと意気込んでいた頃が懐かしい…そう考えたらチェリアとアイリスは二次の延長上になるわけなんですがね。リンドウに好意持ってるとか…ゲーム中では会話らしい会話しなかったキャラだというのに…
まあ、単に羨ましかったってのもあるんだろうな。だから好意を持てた…ドエムゴンとプライムは軽蔑に値するけど。それでも、親を大切に思うその姿が……俺が全国の恥さらし者になってでも呼びかけたのに両親の元へ帰らなかったあいつとは全然違うからな。
「そんな事するはずが無かろうがっ…お主の話はきちんと聞いておる。お主を捨てた奴と同じ事だけは絶対にせぬわ」
「うん。捨てたりしない…パパの本当の優しさ、知ってるから」
本当に余計な事を考え無しに話してしまったものだと思う。賢者タイムも考え物だ…捨てられる心配はそれで無くなったとは思うが、依存度高過ぎだろ。病みそうで怖い…
そんな事よりもげもげタイムのチャンスじゃないか…が残念、キッシュくんは腹が痛い。唐辛子効果あり過ぎ笑えない。なのにバッドステータス無いんですよ、不思議だね…あ、俺は蜥蜴派ですよ。だからリンドウに好意的なのかもしれぬ。でも、一番お得なのは黄色ですよ…あざと過ぎるだろ、電気ネズミ。
とりあえず嫁を愛でよう。もげるだけが全てじゃないよ…リンドウと同じように撫で回す事も嫁を平等に扱うという精神ですぞ。さあ、わしゃわしゃしよう。とりあえず、頭からだな…
その夜、もげるだけが愛じゃないと悟った俺はプライムの部屋を訪ねていた。いや、変な事するわけじゃないよ。きちんと報告しなきゃいけないからな…寝た振りしてる間に出て行ってやるから寝とけってな。
「やっと出て行くんですかー。ちょっと滞在し過ぎだと思っていました。あ、これ今日までの食費をまとめたものです」
せめてかっこ付けさせてやろうと思ったのに、滞在費用を請求されました。というか、釣りキチや俺が仕入れた食材の分引いとけやプライム。むしろ、牧場の大改造した費用を請求しても良いよな…出て行く前に搾取してやる。いや、結納金として踏み倒されそうだ…プリン脳ならやりかねん。
「いいだろう。その程度なら払ってやる…が、2度とここには戻ってこないからな」
「それで構いません。それが娘のためですよー…それに、桐生柳さん。貴方のためでもあります」
「桐生柳言うな…俺はキッシュだ。お前の娘を拐う悪党だ」
「悪党は自分から悪党だと名乗りませんよー」
やかましいわ、プライムのくせに。本当にチェリアは話し過ぎだろ…要らん心配しなくても、確証の無い事は信じないんだっつうの。それに信じたところで今更だし…
と、それはどうでもいい話だ。今はさっさと洞窟の場所聞き出して戦車引っ張って行かなきゃいけないんだ。この目で確かめるために…
「とにかく、洞窟の場所を教えろ。俺だって失いたくないもののためなら何だってするんだからな…ドエムゴンと怪獣大決戦したくないなら早よ吐けや」
「あらあら、酷いですねー」
そう言いつつもプライムは地図を広げて教えてくれるのだった…そこは王都の南にある小さな洞窟だった。暇を持て余していた俺がモンスターたちのレベル上げの拠点として使っていた何も無いちっぽけな洞窟…間違いなく、俺の仲間が居る。そう確信するしかなかった…
「…1つ聞いて良いか。誰情報だよ、それ」
「あらあら、秘密は女の武器ですよー」
秘密にする程不倫してるだろうが、お前の分体は…というか、実際どれだけ野に放ってるんだよ。ここに来た時よりお前、明らかに幼妻っぽくなってんぞ…いや、ロリ体型なのに胸のスライムは変わらないとかどれだけ拘ってんだよ。そんな駄肉で俺が釣られると思っているなら大きな間違いだっ!
釣られなかったですとも。俺はロリ巨乳なんてジャンルが大っ嫌いだ。部屋に戻って再び嫁たちを愛でよう…後、リンドウはギリギリセーフだ。手から溢れ出るサイズはアウトだが、プライムの娘なら体の調整出来るんじゃ無いのかとも思う。
と、思いつつ部屋の前まで戻ってきたのだが中からリンドウの声もする。あーでも無いこーでも無いパーリナイッというかしまし娘たち…防音対策不完全だなと思う。嫌がるわけだ、チェリア声大きいからな。ではなく、新しい腕輪のデザインを考えているようだ…今入るのは野暮だな。別の場所でリンドウの指輪でも作りますか。後、リグナとかのアクセサリーも作ってみますか…あ、嫁フードも必要だな。早ければ明日から飛脚熊にならなきゃいけないのに腹がキリキリ痛くて寝れないのが悪いんだ。アイリスには近い内に眠れない夜を与えてやるのん。リンドウのフードはドラゴンでいいよね…チェリアは犬から狼にしよう。大して変わらないか。
フードはさておき、アクセサリーは何にするかな。ゲーム中においてはテイムモンスターのお洒落目的だったわけだが、能力アップの効果もある物も無いわけじゃない。が、効果もある物はだいたいダサいし店売りが多い。後はドロップ品かプレイヤー用品の転用か。
俺はと○てつには耳飾り、バー○ーには首輪、さすおににはアンクレット、くぎゅうにはリボンをそれぞれ与えていた。が、今回はどうするべきか…リグナにはマフラーか帽子、チギリにはスカーフ、てつをには勿論革手袋だな。俺もギチギチって変身したい…どうせ作るなら自分の分も作ろう。
ゲームの応用で昔にはあまり出来なかった裁縫とかもお手軽に出来ちまうこの体が素晴らしい………もしかしなくても、自ら人体改造して変身出来るんじゃね?
医療技術とか無かったよ。裁縫とかしながら色々考えたけど、魔法でどうにか出来るものじゃなかった…来世に期待しよう。とりあえず、今は早着替えでそれっぽく見せよう。接着とか言うべきなん…剥がし材要りそうだから考えよう。
それより朝だ、朝だよ。朝ごはん食べて旅に行くよ…熊へ変身する前に目の下にクマ出来てないですかね。というか、手当たり次第にやってたけどハゲガエルの弓だけは素材不足で直せなかったよ。何処にあるんだよ、世界樹って…
で、土ミミズの尻尾ステーキを食べたわけですよ。頭残してするから3日も再生にかかるわけで尻尾だけなら半日掛からず再生するのでプライムも納得した新たな養殖法です…んな事はどうでも良い。嫁たちは夜更かししてしまったからか起きてこなかったので部屋から連れ出して戦車へ押し込めた。モンスターたちも同様だ。
「強引かつ乱暴な出発ですねー…まだ夜明けから1時間も経ってませんよ?」
「早ければ早い方が良いからな。まあ、優勝してそのまま次へなんてしないさ…それに、一時とはいえ別れるのに湿っぽいのはな」
「いえ、リンドウの家は向こうですからね。慣れてますよ」
そういえばそうだったなと見送りに来たプライムの言葉に納得する…というかドエムゴンは元気だろうか。追ってこなかったから放置プレイと思っているやもしれん。
「キッシュさん…娘たちをよろしくお願いしますね」
「ああ。よろしくしといてやる。だから、牧場潰さないようにしろよ…俺が手掛けた一大牧場テーマパークなんだからな」
とはいえ、俺が幼少の時に行ったその手のテーマパークは潰れたわけだから観光目的にはあまりしてない。その手のゲームだって淡々と食べ物とか出荷してるだけだし。というか近くに町とかないから訪れるの居ないもんな。明らかに廃業パターン…だが、ミミズの増加で畜産の目処は立ってる。
そんな無駄な事を考えている時間が惜しい。早く変身して走り出そう。というわけで、早速作った黒色の指ぬき革手袋を装着し、あのポーズを構える。
『ギチギチ』
「変……身っ!」
革手袋にギチギチ言わせるのに苦労したが成功した。で、素早くポーズを決めてベルトを装着。バックルには昔懐かしいブラウン管テレビを模し、中に映ったイの字が高速回転する仕様…これも作るの大変だった。で、これが注目されている間に素早く着ぐるみを装備する。勿論、魔法で蒸気を出すのも忘れない。
「アナロベアァッ!」
ポーズを決めつつ名乗る。完璧だ…
「そんなバカな事をやってないで早く行ってくださいねー」
「これだからプリン脳は…」
この浪漫とファンタジーが理解出来ないとは。さてはゴル○ムの仕業だな、ゆ゛る゛ざん゛…さっさと行こう。君は見たか熊が真っ赤に燃えるのをって感じでコランダムシステム使って。
こうして、プライムと暫しの別れとなった。数時間後、もう少しまともな出発がしたかったと嫁たちの愚痴を聞かされる事になるとは知らずに…




