そして牧場へ
リンドウが戸締りを確認して土ミミズを集落の人へ託した。旅立ちの時である…ドエムゴンへの挨拶なんて無いさ。ポケ○ンだってあっさりしたものだっただろう。他のゲームだってわざわざ引き止める親なんて居ない…ちょっと危機管理能力足りてないよな。
「で、ここから牧場とやらまでは近いのか?」
「あ…飛べば近いんですけどね。この人数だと…」
そう言いつつリンドウがドラゴン化した。サラマンダーですね、赤いし翼あるし早そうです。やだ、寝取られそう。
「がうがうがうがうー(移動方法はまかせろー)」
バリバリ張り切る俺は前と同じように嫁を両脇に抱えた。「やめてっ!」とは言われてない。だから進撃の巨熊で行こうと思う。
「キッシュよ、走るつもりか?」
「パパ、無謀」
やめてという顔をしていた。あれれ、おかしいぞ。自転車なんて移動手段は無いんだから必然的に徒歩移動になるというのにそれで良いのか…いや、良くない。
そうか、持ち方が悪いのか…とはいえ、2人も抱えるには両脇しか方法無いし。俺だって背負いたいさ、感触楽しみたい。でも俺、着ぐるみだった。仕方あるまい…熊といえば某教養番組にも存在していたな。ちょっと工作するべか。
「がうがうがうがうがうがう(作って遊ぶなら子作りの方が良い)」
というわけで、都市で拾い集めておいた材料を元にリヤカー作ってみた。人力車じゃないよ、熊力で動かすんだもの。あんまりワクワクしないね。
「ほぅ…面白い物を作ったものじゃ」
「これ、乗れば良いの?」
「がうがうがうがうがうがう(乗るなら腹の上に乗れ)」
『オレも飛ぶよりこっちに乗っても…』
「がうがうがうがう(だから腹の上に乗れ)」
ドラゴンより早い事を望まれたのかリンドウも人型になってリヤカーに乗り込んだ。ちなみにリヤカーの床にはクッション性能に富んだ木材を使用し、横にも化粧板として貼り付け、更に雨除けに丈夫なテント生地を設置。リヤカーじゃない、馬車じゃないかよだって…馬じゃない熊だ。熊車だと言ってるだろ。こまけぇ事は良いんだよ。リヤカーなんてサイズに収まってないんだし。
クッションにトイレやベッド、テーブルなどなど…ちょっとしたキャンピングカー仕様ですわ。軽量化してるとはいえコランダムシステム必須ですわ。でも、快適性は損なわないのが俺クオリティー…ワクワクしたいのだ、床で。
「なんか、申し訳ないのじゃ」
「パパ、頑張れ」
「お、お願いします」
3人が乗り込み、コランダムシステムを使う…俺、ロボで鎧作ったら本格的なキャンピングカー作るんだ。そして、その中で毎晩嫁たちともげるんだ。
で、走り始めて4時間…時速80キロとして、それそろ到着だ。意外と短いだって…そんなものだろ。それに、ゲーム中では表が牧場のある東側、裏がドエムゴンの住んでる山のある西側で進み、中央の王都で決戦なわけだし…
ちなみに、東と西でモンスターの生息が違うとかは無い。続編になる度にモンスターが増える仕様なんて無い。そんなのゲームスタッフに求めてない。
後、丈夫に作ってあるからリヤカーは壊れてない。そんなものさ…でも、馬車馬の気持ちが分かる今日この頃。俺も中の会話に混ざりたい…というか、ロリ嫁が余計な事を吹き込んでないか心配だ。丈夫に作り過ぎて中の会話が漏れ聞こえる事もないし…もげるための防音設備が仇になってる。
そんな事を考えていると牧場が見えてきた…俺、生まれ変わったら牧場経営してハーレム作ると共に幼女も育成して嫁にする物語を始めるんだ。ついでに人妻にも手を広げて村を俺のハーレムにするんだ…
牧場に到着し、リヤカーを置いて3人を降ろす。おや、フラフラしているぞ。オレが働いているのに酒飲んで酔ってるなんて立派なご身分だな…などとは言わない、嫁だもの。酔ったなら熊の胆嚢が良いらしいよ…でも、パンの顔みたいに簡単にあげられないんだ、ごめんよ。
「気持ち悪いのじゃ…」
「抱えられた方が、良かった…」
「次からは飛んでいきます…」
何故か乗り心地は不評だった。え、もしかしなくても乗り物酔いなの。リヤカーだから振動吸収無視したのダメだったのか?
これは改善の余地ありか。そもそももげてる最中にモンスターの襲撃あったらおしまいだものね…よし、改造しよう。でも疲れたからまた今度な。
その時、牧場の小屋の扉が開いた音がして人が出てきた。まあ、人というかスライムなんですけどね。しかも未亡人じゃなくてただのバツイチ育児放棄スライムなんですけどね…あ、一応リンドウ成人してたわ。俺の感覚ではまだ女子校生気分なんだけどね。
「どちら様ですかー?」
言動もさる事ながら、ふわっとした髪に目を惹く胸を持った実スライム…いや、ミス・ライムが現れた。昔は魅力的に見えたが今は人妻には興味が無いんでね。あ、うちの嫁は別やで。というか、ヒロインらしいヒロインが人妻スライムしか居なかったゲーム時代の件について議論していたな…何故か荒れてなかった。やはり胸か。ゲーム内で1、2を争う胸か…ただの贅肉どころかスライムが中に詰まってるのの何処がいいんだ。俺が惹かれたのは水色の髪の毛だし…そんな俺は今では青銀の髪の毛だ。それが何故か虚しい…
「母上、オレです。実は話したい事があって来ました」
「がうがうがうがうがうがう(お義母さん娘さんを嫁にください)」
「あらー、そうなの。じゃあ中に入りましょうか」
リンドウの姿に気付いたミス・ライムが3人を中へと案内する…そう、リンドウにチェリアとアイリスの3人が案内され俺はハブられた。「そこの熊さんは中に入れないでねー…お部屋が汚れちゃうから」と言われた…いや、中に俺が入ってますよ。別に汚しやしませんよ…三毛別とかしませんよ?
だが、無情にも扉は閉ざされた。ここは大人しく待っておくべきか、それとも着ぐるみ脱いで入るべきか………大人気なく舞っておこう。3分間程な。虚しいから、休憩したらリヤカーを改造しよう。劇的になんという事にしてやろうと思う。都市からハゲガエルの軽トラパクってくれば良かったなぁ…いや、突入目的でなく部品掻っ払う目的で。いや待て……あったな、部品。
数時間後、壊れていた戦車を改造したリヤカーが爆誕した。元々、戦車で欲しかったのは銃火器の部分だったわけだから足回りは要らなかったがここで役に立つとは…いや、コランダムシステム使っても重いから時速30くらいが限度なんですがね。でも快適性には変えられない。きちんとサスペンションは機能してるし、キャンピングカー仕様だから居住環境もバッチリでモンスターの襲撃も防げる。欠点らしい欠点といえば…牧場以外の世界は移動するの少ないから使い道がこの世界しかなさそうなだけだ。せっかく定員10人仕様にしたというのに…えんたーえんたーみっしょーん出来るよ。早く嫁においでって言おう。
というか、外でこれだけの作業しているというのに様子を見に来る事も無く、飯も与えられないという状況…完全に熊が外に居るから外出控えてって感じじゃね?
もしかしなくても、モンスター扱いだから1日1食とかじゃないよね…それとも狩りやれと。せめて釣竿ください。すごい釣竿ください。
◇
遡る事、数時間前…牧場の小屋の中へと案内された直後からの事である。
「キッシュの奴、ちょっと仕置が必要なのじゃ」
「パパの、張り切り方…間違いだらけ」
愚痴を言っても仕方がないし、キッシュの考えている事も理解出来なくは無いのじゃが何処か足りてないのじゃ。わらわかアイリスのどちらかを担いで、もう1人はリンドウに運ばせれば良かったというのに…熊の件にしてもそうじゃ。あそこまでなりきらずとも良いではないか。排泄とかどうするつもりなのじゃ、あやつは…
気持ち悪いからと伝えると、出してもらえた水を飲みつつ、そんな事を考えている横でリンドウは母親であるミス・ライムとやらに事情を説明しておった。こうして見てみると実の親子らしい感じがするのぉ…わらわとアイリスもそうありたいものじゃ。とはいえ、そう考えられるのも…
「まあ…張り切らなければ良い奴なんじゃがの…」
「パパは、いつも張り切り過ぎ…特に夜」
否定はせぬのじゃ…あやつは欲望にだけは忠実じゃ。似たようなのが昔、1人居たのぉ…
「あの…お久し振りです。チェリア様」
「うむ…まさか、あの時のスライムがエンシェントドラゴンの嫁だったとはな。他の連中が聞いたら驚くのじゃ」
母娘の話が終わったようで、母の方が改めて声を掛けてきた。
昔、わらわたちが女神を封じる…正確には倒す旅をしていた中で助けたスライムが居たのじゃ。それがミス・ライムと名乗り目の前に居る…何故じゃろう。敗北感がするのじゃ…
リンドウから2人の馴れ初めを聞きはしたが、絶対に話が大袈裟じゃったというのに…わらわも結婚して娘も居るというのに、何故敗北感を覚えねばならぬのじゃ…
いいや、夫には多少の難はあるが愛されておる自信はあるのじゃ。むしろ、愛され過ぎて怖いのじゃ。では、何が…………相手はスライムじゃ。胸の大きさなぞ調整出来よう。キッシュはわらわたちの大きさでも満足しておるのじゃ。そうじゃ、そうなのじゃ。決して負けてはおらぬ。負けてはおらぬのじゃ。
「ママ、話見えない。久し振りって何?」
「あ、オレも分からないです…」
ふむ。母親の武勇伝を語るというのも悪いものではないのじゃ。ましてや、きちんと語った事もなかったので良い機会じゃな。




