父親として願う事
食後の話も一段落したので入浴プレイをしようとしたら嫁たちに拒まれた…せっかく露天風呂があるというのに何故だ。まあ、明日からの事を決めてないのに足腰立たかったら問題だわな。そう思う事にしよう…最近嫁たちが冷たい。
とりあえず、嫁たちが先に入浴するのでその間にドエムドラゴンのところに行って話をつけてこようと思う。え、普通ならそこは風呂場突入すべきだって…リンドウも一緒に入ってるからちょっとな。まだそこまで親密度上げてないのに突入したら嫌われフラグになりかねない。突入は計画的に。
アナロベアになって、炎の鞭をリンドウから借りてドエムドラゴンのところに来た。そういえば、上限突破してないから使っても壊れないのだろうな…ハゲの弓を直さないといけないの思い出した。
『何用だ、ババアの旦那よ』
「ロリババアだ、少しは覚えろ」
人の嫁をババア扱いするなんて…というかお前エンシェントだろ。チェリアより遥かに年上だろと言いたい。やっぱりたたきにして食ってやろうか。まあ、そんな事はいつでも出来る。こちとら、偉大なる先達が「イ」の字を映し出した時から世界最強ゆるキャラと確定した熊界の大御所様だぞと。
「そんな事はともかくとして…お前の末路を聞こうか。チェリアは殺されず世界の末路を見た。ハゲガエルは水乃ちゃんに懇願されて独裁者になった。お前が倒された後でこの世界はどうなった?」
『……プレイヤーの話か。それならば簡単だ。我はこの世界を滅ぼした。表も裏も変わらずな』
「……リンドウとミス・ライムも巻き添えにしてか?」
『左様。娘を辱め殺した報いを受けるのは必然だ』
やはり、そんな展開か。ドエムドラゴン…略してドエムゴンの話だと、どう足掻いてもリンドウは片方の炎の鞭を手にそこそこのテイマーになるが王国の大会で敗北し相手に全て奪われるらしい。だからこそ炎の鞭を失った事に安堵していたが行動力ある娘は母スライムの持つもう1本を手に戻ってきたという展開。このままでは敗北ルート待った無しだな、うん。
「安心しろ。俺が幸せにしてやるから」
『貴様、ババアとその娘では飽き足らず我が娘にまで手を出すつもりかっ!』
「神魂の欠片を持ち、炎の鞭を使う勇者が必要なんだろ。女神倒すには…リンドウ以上の適任者居るのか。お前が行くとか言うなよ…妻と喧嘩別れしてリンドウから母の温もりを奪ったお前に勇者の資格なんてねぇんだよっ!」
勇者とは何ぞやと言われたら大抵の連中なら英雄だとか救世主だとか2号ロボと合体してパワーアップするんだろと答えるだろう。でも、目の前のドエムゴンは赤の他人を助けるために嫁を手放した愚か者だ。そんな奴が娘の報復に世界を滅ぼした時点で何が勇者だ。それも元を辿ればお前の責任だろうが。
そんなんならまだハゲガエルの方がマシだ。炎の鞭なんか噛み砕いて家族仲良くひっそり暮らす事もせずにただ父親面してるだけのドエムゴンに滅ぼされる世界なら俺が今すぐ滅ぼしてやんよ。
「本当に娘が大切と思うなら今すぐ国王のところに乗り込んで奪われたの取り戻してこいよ」
『そ、それは出来ぬ話だ。我が行っては人々が…』
「なら、親なんてやめてしまえ。リンドウは今泣いてんだぞっ!」
何となく、とある弟っぽい台詞になってしまった。が、自分の所為だと泣いていたリンドウのためなら汚名なんて気にせず守るのが親ってもんだろ。自分の子を守れないで何が守護者だ。何が勇者だ…
『ぐっ…それは…』
「お前らボス張れる最強モンスターの子がテイム出来るこんな鞭を人の社会に生きるモンスターや混血に使われてみろ。犠牲になるのは使われた奴らだけなんかじゃない。それを持ち出して無くしたリンドウの心が犠牲になるんだ。お前が動かなかった所為でなっ!」
まあ、取り返すために襲いに行ったとしても傷付くのは目に見えてるが、他人の命云々しか考えられないドエムゴンの事なんか気にしない。むしろ、悟られないようにせねばならぬ。この問答が面倒だからだ…単にスライム嫁と仲直りしろよと言いに来ただけなのにちょっと熱血し過ぎた。
もう面倒だからテイムしても良いよね。え、システム的には出来ない…システムが出来なくとも心折って従わすのは出来るだろうよ。
「だから、俺は今からお前のその曲がり腐った根性を叩き直してやるっ!」
『応、好きなだけ叩けっ!』
やだ、このドエムゴン期待してやがる。バッチコイって発情してやがる…何かやだ。物凄く嫌だ…ドウシテコウナッタ?
とりあえず、好きなだけ叩いて帰ってきた。やな汗かいた…もう、これ以上されたいならスライム嫁にしてもらえと言っておいた。納得しやがったよ。まあ、俺もスライム嫁に鞭の使い方教わった1プレイヤーだからどうにかなるんじゃないかな。リンドウの件はテイム無しで落とすと約束したら納得した。むしろ、父親としてもドラゴンとしても威厳の無くなった変態を尊重してやる自分自身を褒めてやりたい。
そして、叩いて叩いて明日はこっちだって程やって日付け変わってたから嫁たち寝てた。リンドウの家はログハウスっぽいワンルームだからもげれない。嫁入り前の娘さんの横ではしないよ。オラ紳士だもの…とりあえず、露天風呂を楽しもう。
というわけで誰も望んでいない野郎の入浴シーンだよ。もう体洗って湯船の中だけどなっ!
そんな事はともかく、未だに叩いた感触が残ってて気持ち悪い。穢された気分だ…いつか嫁たちに試したいと思った気持ちが完全に萎えた。この俺にトラウマを植え付けるとは…やるな、ドエムゴン。右手に封じた邪龍が今にも目覚めると言わんばかりに震えてやがる…そこ、ただの打ち過ぎからくる痙攣とか言わない。
「はぁ…」
溜め息1つ吐き出し、俺は空を見上げた。あいつは分かっていながらまた繰り返そうとしていたのに気付かないのかという苛立ち。それが表立ってしまった…可愛い娘が酷い扱いされて世界滅ぼすなら、まず止められなかった己を呪えよ。俺の知ってる父親はそうだったぞ。
まだ忘るる事の出来ない思い出か…そりゃあ、俺だって世界滅ぼすくらいの気持ちを理解出来ないわけじゃない。むしろ嫌な程理解出来てしまう…だけど、それで失ったものが帰ってくるわけじゃない。それが物ならまだしも命なら尚更だ。
そう考えると俺の両親はどうだったのだろうと思えてくる。まあ、はっきり死んだと分かっているから構わないか。親不孝ではあるがあいつを失った時点で誰かと子孫繁栄なんて気にならなかったのでその時点で親不孝だと思うし。
まあ、それはどうでもいい。正直、ドエムゴンに殴られる覚悟をしていたのだ…いや、ご褒美的な意味でなく、よくある娘を奪う馬の骨にってやつだ。柳の時にはあったが殴られ損だった…今回はリンドウにまだ何のアプローチしてもいないが殴られる事をするつもりだった。それがあんな結果になるとは思わなかった。夢に出そうだ…誰か酒持ってこい、酒。いや、下戸だから飲まんけど…
まあ、将来娘が出来て同じような事になったらきちんと義理の息子を殴ってやろうと思う…そういえば義理の息子居たわ、俺。今度会ったら殴ろう。
そんな事を考えていると背後に気配を感じた。なんかニュルニュルって音がする…まあ、何となく誰か分かるけど。うちの嫁たちはゲル化しないし。




