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『ブレイブ・スクール』導入

『ブレイブ・スクール』


この世界には魔王が存在している。


魔王を倒せるのは選ばれた8人の勇者のみとされ、その証明として体には勇者の紋章が現れるといわれている。


今回選ばれた勇者たちはまだ若く、世界の首脳たちは彼らを纏めてとある学園へと入学させた。


炎剣の勇者である青年、ヴァン

風斧の勇者である青年、エグニス

雷槍の勇者である少年、ムルド

地拳の勇者である少年、トルス

閃光の勇者である青年、フィルムット

氷剣の勇者である少女、シャルロッテ

風雷の勇者である少女、ルーチェ

聖命の勇者である少女、リリアン

無限の勇者である少女、アイリス


そう。何故か8人であるはずの勇者は9人存在していたのだ。明らかなる魔王の仕業と察知した神は偽りの勇者を暴き、勇者たちと共に魔王を討つ存在を送り込んだ。


賢者とも呼ぶべきその存在こそがプレイヤーだった。




というのが表ストーリーの導入部分だったはずだ。で、ここからは大まかな差異が2つあった。1つは性別。もう1つは年齢によるものだ。


性別は同性のイベントが幾つか発生するというネカマやネナベ以外は美味しくないものが含まれているものだ。


年齢は10代までかそれ以上かで生徒として関わるか、担任として関わるか程度の文章変更だ。


勿論、俺は男子生徒として見たくもないイベントを見せられたわけだが、どのみち異性と恋仲になるでもなく、むしろしたくもない応援を勝手にさせられる始末のストーリーになっている。つまり、NPCの恋愛応援だ…それで拳のスキルアップするんだから学園の壁は穴だらけなんじゃなかろうか?


それはさておき。その後、プレイヤーで一番人気のリーダーである閃光の勇者ことフィルムットと同性異性問わず残り者同士仲良くなるのだが、ところがどっこい…フィルムットが魔王の手先でした。しかも、それを勇者たちが暴いて、お前らリーダーに散々世話になっておいてその仕打ちかという勢いで斬殺。正直ドン引きする展開の上に、安直な学園長が魔王でした。卒業試験ついでに倒しましたという学園の今後とかどうするんだよって展開で終わるわけだ…ちなみに、教科とかの担当が四天王で、可愛い教え子たちに無事惨殺されましたってのもある。それでいいのかとも思うが、「元が元だからな」とか「最初だからこれくらいふざけてるのがマシ」なんて感想でスルーされた。


むしろ、ここで愚痴言う奴らはだいたい続かなかった。俺の場合は所詮NPCと割り切っていたし、昔の知り合いとさっさとパーティ組んでたからパーティ補助要員でしかない勇者たちなんてどうでもよかった。結局、その程度という事だ。


だが、パーティが組めない今となってはそれのありがたみは増す。パーティは最大4人で組む事が出来る典型的なスタイルだった…まあ、それはあくまでもプレイヤー側の話でNPCは同行者として何人でも連れていけるわけだが。


つまりは、ここに来たのは武器と防具が調達出来てある程度の資金を稼ぐ事が目的だ。裏ストーリーとはいえアイテム販売はしているし、ストーリー上では学園からの支給品もあるのでボロボロの装備でも無いよりはマシだった。ちなみに、鞭と銃は販売されていないが材料さえあれば製作は可能でもあるのでそちらも行うつもりだ。


だが、それも目的の1つに過ぎない。噂程度の書き込みでは裏ストーリーをクリアすると任意のNPC1人が他のストーリーでも使えるようになる…らしい。勿論、噂程度の情報だし似たような話は他の裏ストーリーをクリアするとあるらしい。眉唾だけどな…


さすがにこれが夢でも現実でも1人でなんていうのは辛い。NPCでも居れば気は紛れるだろうと思った次第だ。







そんな事を考えていると、いつの間にか見慣れた空間へと転移させられていた。表なら、闇の中に女神が現れて先程の導入部分が語られるわけだが…



「久しいな。キッシュ」



そこにはピンクブロンドの髪をした幼女…もとい学園長改め魔王が居た。というより、ここは学園長室だ。



「魔王、チェリア・ブロッサム…」


「うむ。いかにもわらわはチェリアじゃ。8人の勇者に倒されたと思ったか…じゃが、ここは書物の中。ページを戻せばわらわは無事じゃ。それに、お主は…いや、お主たち『ゲームプレイヤー』は正当な方法でわらわを倒さなかった。お主を含めた賢者が勇者に加わった事で8人の勇者のみという制約が破られておる」



なんか、とてもメタい発言を聞いた気がする。こんな導入だったのか、裏ストーリーは…最初の選択肢を間違えた気分になったが、チェリアの口は閉じる事は無かった。



「それに。フィルムットが殺された時点でその制約はそもそも存在しないのじゃ…確かに、あやつの弱みを握って金を渡しておったのは事実。じゃが、果たしてあやつは本当に勇者ではなかったのか?」



フィルムットと残り者同士になった時にストーリー上で妹が病を患い、莫大な資金が必要という話を聞いた。勇者として魔王を倒せば祖国からの褒賞金で賄えるとも。


だが、魔王の配下である魔物から金を受け取る姿を始めとした怪しげな光景を何人かの勇者が目撃した。それをきっかけにとある場所で問い詰めた結果、戦闘となり斬殺するに至ったわけだ。



「そして、わらわを無事に倒したと思い込んだ連中が行った事をお主は知らぬ。お主はわらわを倒した時点でお役御免じゃからな…戦争が起きたよ。フィルムットの祖国は偽の勇者を送り込んだ汚名を着せられて滅ぼされた。あやつの妹もその戦禍で死んだ…」



チェリアは悲しげに告げた。俺の脳裏には表ストーリーの彼女の最期の言葉がリフレインしていた。



『わらわを殺す事がどういう事かをお主たちは知るじゃろう。その時、お主たちは本当に勇者であり続けられるか楽しみじゃ』



まあ、魔王を倒せば各国は脅威から解放される。それが同時に国と国との諍いになるのは明白だし、フィルムットの祖国は国力は低いが豊かな土地だ…



「今度はその領地を巡って戦争が起きたか…」


「ご名答じゃ。あの国は全ての国と隣接しておったからな。後は、血を血で洗う世界大戦じゃ…ある勇者は恋仲であった勇者を殺し、ある勇者たちは国を捨てて逃亡し。まあ、勇者たちは英雄とも戦犯とも言われたよ…そして、矛先はこの学園に関係した者たちへも向けられた。魔王の洗脳によって戦争を引き起こしたとな…」



この学園は国とは無縁の中立組織として存在していた。そして、世界で数少ない教育機関であり王族や貴族の多くが通っているという設定だ。


だが、世界は王族や貴族だけで成り立つものじゃない。それ以外の方が大多数で、その大多数の人が戦争に巻き込まれるのは現実でもそう対して変わらない。



「結果、どうなったかは語るまでも無いじゃろ…お主たちプレイヤーがわらわを排した時点でこの世界は終わったのじゃ。じゃから、償いのチャンスを与えよう…」



ここまで違和感はあったが概ね攻略サイトの通りだ。展開として、今度はプレイヤーが魔王の協力者として勇者たちを倒すという話になる。夢だから違う言葉も入っているんだろう。



「わらわたちの仲間となって、復活した魔王を倒すのじゃ」


「………ん?」



お前はお前自身を倒してくれというのか?


まったく意味が分からない。これだから夢って奴は…

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