忘れ物、取りに来ました。思い出込みで
新訳・八芒星物語集
第四章 『陰陽双極記』
妖怪にも善と悪はある。なんか妖怪と言って笑ったら善い妖怪、襲い掛かってきたら悪い妖怪である。そんなアホな。
争うのは人間も妖怪も同じ事である。そこに西洋とか東洋とか関係ない。バックベアードみたいなロリコンを叱る妖怪だっている…善悪はともかくオラの敵である。こいよバグベアである。
で、やる事は至極簡単である。悪の妖怪を倒すだけである。悪側に付く事は出来ません。何故なら、悪側に萌えキャラは居ないからである。可愛いのは正義である、醜いのは悪である。改心するなら可愛くなれという話だ。
魔王軍と天使軍みたいなどちらかに肩入れするという展開は今回ありはしない。何故なら、嫁と妾とその他大勢が待っているからだ。そして、案の定あった魔王と仲違いしたアホ魔族の設定を利用しているからだ。
まあ、今世の偽魔王チェリアたんとは縁もゆかりも無い駄妖怪ですが。
そして、もう一つ…俺はある方法を取る事でそうさ悲しみを優しさにって訳です。少しくらい神らしい事をしてもバチ当たらないだろうという判断である。ましてや、それが間違いでないと確信しているのなら。
ひとつくらい家族の奇跡ってやつを起こしても構わないだろう?
伏魔殿こと橘邸である。スタート地点にして拠点なのは相変わらずである。今日からここで板前修業をするんなー。とりあえず、桑の実使って作ればええんやろ?
「懐かしいのじゃ…」
「うん」
「そうですね。あの頃は色々ありました」
「また、妖怪退治なんですか?」
4人の嫁たちが懐かしんでいる。それはええねん…妖怪退治は既定ルートなん。一方で蒟蒻者たちは和式の建築物に対して訝しげな表情ですん…あ、イリスは理解しているみたいなん。木で出来ているとかはええねん、ただそこ、大きな小屋とか言うな。元廃屋暮らしの駄猫の癖に。
とりあえず、呼び鈴とか鳴らしてみよう…あ、そんな文明的なの無かったわ。とりあえず、玄関先に半鐘設置しておきますねー。そして連打である。新作音楽体感型アーケードゲーム、半鐘でハラショー…近日未公開なん。
「やかましいっ!」
まず怒ったのは腹黒狸です。嫁や蒟蒻者たちには耳栓と防音魔法施しておきましたからね。で、腹黒豆狸は御立腹であらせられる。手には相変わらずポン刀を持っている。ドスドスと肩を怒らせて玄関戸を勢いよく開けてきたのだ。え、容姿は変えてないよ。ロリ豆狸でこの性格ならただのクソガキじゃん。萌えるわけない。
とりあえず、サクッと記憶戻す。え、躊躇とかしない。霞に健気さとか求めてないから。額に手を当て押し倒す程の力を込めてショック療法である。掌底ともいう。
「ふぎゃっ…」
「「「「うわぁ…」」」」
蒟蒻者たちは若干引いているが、これは愛憎表現である。何だかんだいって気に入っているのだ、非常食を。でも、アナグマは美味しいらしいが狸は不味いらしい。でも、美味いという人も居るらしい…まあ、地鶏の長男がもう養鶏場レベルで居るから当分は食わないけども。
さて、半鐘でハラショー再開ですん。カンカンカンカン…焼肉食いたい、家焼くか。とりあえず、この後牛頭とかでも狩りに行くんなー。焼いたら食べ放題なん…え、もう魔族食とか妖怪食とか慣れました。慣れって怖いなー。でも、ゲテモノは無理です。特に変態系の元同僚とかな。あんなの栄養にしたら腐る。
音に反応して次々湧いて出てくる妖怪たち。だが、何故か肝心のあいつらが出てこない。入浴でもしているんだろうか。本当に火事だったら逃げ遅れるぞ…あ、水属性だから大丈夫か。
そうこうしてたら、湯上りのあいつらがやってきたのだ。浴衣姿です…それは構わないんですが、雪ババア溶けてないとか不思議不思議摩訶不思議アドベンチャー。牛魔王は国産黒毛和牛A5ランクだと思うから狩りに行こう。娘…そんなのは要らん。ご飯山盛りの方がええん。チチは無い方が好きやねん。
で、その中の1人が飛びついてきたのだ。まあ、当然である。そいつの記憶は最初からクリアしていない。してはいけないと分かっていたからだ。
「どうして娘を、世界を…きちんと守ってくれなかったんですかっ!」
抱擁ではない、ただのチョークスリーパーですん。まあ、これくらいは予想出来た。むしろ、これが普通なのである。そういう点ではリンドウとスズランは生易しいのだ。だが、こいつは違う…運命に負け、誰かに託す事しか出来なかった。死しても子を思い続けるバカな親である。むしろ、親の鑑とも言える。
「紅蓮…知り合いの方ですか?」
「あ、いえ…昔馴染みです。はい」
湯上りロリババ狐に紅蓮と呼ばれたファイターな鬼…この世界で唯一記憶を奪わなかったのは、かつてNPCとして活躍し、その命を散らしたアバターのよく知るダメ巫女である。13代目橘蓮華…現世名、姫橘紅蓮。種族は鬼である。さすがに妖狐としての転生は無理でしたん。だから、蓮華の側近として、母の記憶を与えるのが精一杯。
少しくらいは幸せ感じてもいいだろうと。たとえ親と言えなくても、子を見る事が出来るなら…幸せに寄り添う事が出来るなら、それは少なくとも不幸ではないはずだ。だが幸せかどうか感じるのは個人の自由である。
それと同時に、俺にはあんな守り方しか出来ないのだと声を大にして言いたい。お前と同じで器用な生き方なぞ出来ぬわ、ボケが。そして、今の蓮華に親殺しの記憶なんて必要でもなかろうがである。だからいい加減その駄肉当てるのやめーや。
だが、そんな家族ごっこも終わりである。ごっこ遊びではなく、本当の家族に戻るべきなのだ…つまり、つららにも掌底をかまし、蓮華には指輪を渡す。という算段だったが、つららに避けられた。
「ソールさん、我が記憶を失っているとでも思っていましたか?」
「なん……だと……」
記憶保持しているとのたもうた大妖怪雪ババア…まあ何ら不思議ではないか。下手すればうちのロリババア以上の年月を過ごしてきたババアオブババアなわけだし、その正体は自虐一族の黒幕だから干渉出来てなかったのも不思議ではない。
ならいいや。蓮華だけでも思い出させなければならない。指輪をつけようと…
「させません。させるわけがないじゃないですか。娘を不幸にした男に2度も渡すものですか」
紅蓮なお義母様が阻止してきた。しかも、指輪を奪い取って投げ捨てやがった。キラーンと空の彼方へ飛んでった。後で魔法使って回収するん…そして分かった。こいつクソトメや、紛う事なき毒親クソトメや。不幸にしたのは貴様も同じではないかと殴りかかりたい。まあ、後でええねん。とりあえず今は板場へ行って焼肉と桑の実の準備なん。桑の実なんて食った事無いけどな。
とりあえず、お屋形様な蓮華が客として迎え入れてくれたので、オラたちは中に入る事となったわけです。蓮華を再び嫁に迎え入れるのは前途多難ではあるのだが。どーしてこうなったのだ?