ひとまずの終わりの後に
片玉の逆襲…もとい、魔王カタタ・マーキンの討伐によってクリア条件は達成されたようだが、まだ他の本へ移動するつもりは無い。チェリアの後継者を決めたり、イフォルマくんとフィルムットの妹とのイベントを起こしたり、アイリスの件だってあるのだ。
「……とりあえず、ケガをした生徒は治療科を中心としたチームによって回復を行ってもらうのじゃ。この戦いの後始末は土木科の生徒を中心に…後は教師の何人かは魔王カタタの部屋の捜索じゃ」
死んだ目をしたチェリアが淡々と指示を出していた。やはり、目の前で生徒が死んだのに堪えたんだろう…大丈夫、俺は殺ってねぇ。火葬しただけだ。
「…後、キッシュはわらわと学園長室じゃ」
「あ、はい」
これは説教間違いないなと覚悟しておく。俺だってさすがにやり過ぎた感はある。戦闘を派手にするためとはいえ多くの生徒にケガさせたし、最後の最後で美味しいとこ持って行ったし、魔王の名前に片玉って酷いの使ったし…正座するの覚悟で麻痺耐性薬飲んどこ。
学園長室に移動し、正座させられるのかと思いきや、そんな事は無かった。
「いくら演出とはいえ、こんな事をするのはもうやめて欲しいのじゃ。一瞬心臓が止まったのじゃ」
確かに叱られてはいるが、チェリアは献身的に俺の傷の治療をしてくれていた。いや、大したダメージじゃないし少し右の二の腕を掠る程度で血も止まってるんだけどな。
好かれてるという事なんだろうな…逆の立場なら片玉殺してただろうし。いや、そう考えると表でこいつを…泣きながら包帯を巻いてくれるこいつを殺したのはあいつだった。もう少し苦しめて殺すべきだったかとも思うが…
「安心しろ…心臓が止まったとしても生き返らせてやるよ。何回だってな」
俺はきつく抱き締めて頭を撫でてやる事にした。で、そのまま押し倒して…
「何をする気じゃ、お主…」
「クリアイベントに決まってるだろ。分かってるくせに…」
「…っっっっ!」
『バチィィィィンンン』
からかったと思われたのか、掠ったより遥かにダメージの大きいビンタをいただきました。マジで1割持ってかれた。本気だったというのに…
「そ、そういうのはムードと準備が大事なのじゃっ…それに学園でするのはダメじゃっ!」
真っ赤な顔してイヤイヤと首を振りつつそう言うチェリア…そういうのするから押し倒したくなるんじゃないか。
まあ、ムードと準備と学園外をクリアすれば良いのだろう。言質は取ったし、焦る事じゃないと思う事にしよう。1割持ってかれたのは久しぶりだから乙女は怖いのよーく分かったし。
チェリアが落ち着きを取り戻したので俺は今後の事を改めて話した。下手すれば帝国と学園の戦争になりかねないからな。いや、その時は本当の魔王軍が出て支配するだけなんだが…学園に他の国が加担するけどな。
「伊達に数百年生きておらぬ。交渉は任せるのじゃ」
「あー…うん」
ロリババアなのは知ってるから気にしてない。魔族の寿命は長いらしいからな…寿命か。それは追々考えよう。
「書面以外ではせぬから安心せい。それに、いざとなったら学園は切り捨てる決意はした…もう、わらわが居なくともこの学園は安心じゃ。いざとなれば、わらわと帝国の戦争じゃ」
チェリアなりに考えがあるようだ…まあ、そんな事になるなら帝国は滅ぼすがな。この世界はレベル低いから無双出来るし。
「じゃから、暫く時間が欲しい。交渉を終えて、残りの勇者の安全を確保して、後任の学園長と魔王を決めねばならぬのじゃ…」
「まあ、勇者の安全という点なら俺も協力出来る事があるからな…安全を確保するなら強くなれば良い。守られてばかりではいられないからな」
フィルムットとアイリス。それにイフォルマくんとパーティ組んでやれば良いと思う。週6日授業にすれば2週半で卒業だ…
「ウィローを学園長兼魔王に、ウィローの後釜をイフォルマくんが。フィルムットを親善大使的なポジションに置けば良いだろう?」
「…アイリスはどうするのじゃ?」
「母親の許可次第だ…イフォルマくんが断る可能性もあるからな」
とりあえずは教師としての就職先を予定しつつという事にしておこう。義理の父としても夢は応援してやりたいが、現実との兼ね合いとかあるし。
あー、表ストーリーのイベントって同世代として見るんじゃなくて親として見れば微笑ましい…わけないだろ。
「とりあえず、4年の試験をクリアした時に伝える事にしようと思う。それまでに色々片付けておいてくれ」
「分かったのじゃ…問題はお主の案じゃと四天王が足りなくなるのじゃが…」
「コランダムベアが居るだろ」
あいつが四天王に入ったら無敵だろうよ。間違いなく…ちょっと食費に難があるが。
そんな打ち合わせを終え、俺たちは勇者クラスへとやって来た。今後の事を伝えるためにだ。
「…魔王は死に、勇者の役割は終わった。学園に留まる理由は無い…じゃが、生徒である事に変わりは無い。国へと戻り魔王を倒した勇者として敬われるか、人として生きる術を学び己の居場所を見つけるかは自由じゃ…」
チェリアがそう告げると僅か2人しか居ない部屋は静寂に包まれた。仲間と思っていたのが偽者どころか魔王だったという事にショックは少なくないのは分かる…というか、ゲームの時はそんなの無かったのがおかしい。次々と勇者が死んでいくのに平然としていた…だから探偵ストーリーが作られたわけだが。
「…フィルムット。お前の妹は保護してこちらへ移送中だ。お前が卒業後に学園の…いや、世界の平和のために尽力するなら学園は支援を惜しまない」
「なっ…それは…」
「人質というわけではない。勇者の価値は魔王を失っても変わらぬ…いや、より強くなる。それを一国が独占すれば世界は争乱へと進む。出来ればお主たちにはこの学園と同じよう中立であって欲しいのじゃ…せっかく手に入れた平和を壊す存在にはなって欲しくないだけじゃ」
チェリアの言葉は本心だ。寝取りとかには難色示すが、妹の病をどげんかせんといかんと思っているのも事実。まあ、俺なら即完治出来そうだけどさ…合法ロリは構わないが違法ロリは要らん。変なフラグは邪魔なだけだ。
「アイリスについてもそれは同じだ。フィルムット同様、国に弱みを握られているのなら話して欲しい。俺たちは協力を惜しまない」
「……考えとく」
まあ、急にそんな事を言っても動くわけないか。それに昨日の今日で色々な事があり過ぎた。いや、この1週間でというのが正しい。月曜に集められた勇者のクラスが始まり、翌週には2人しか残ってない。もう少し時間掛ける必要あったんじゃないかと思うが、ここへ来るまで色々あったんだよ。うん…じゃないと俺だけ除け者みたいに扱われなかったはずだ。なんか、涙が出ちゃう…花粉症かな?
「キッシュ、何故泣くのじゃ…」
「いや、ちょっとな…とりあえず色々考える事はあると思う。だが、考えてばかりでは進めない事もある…せっかくだ。体を動かしてみないか?」
ちょっと憂さ晴らしに進級試験で苦しむ様を見て楽しんでやろう。イフォルマくんは完全な巻き添えになってしまうが、このクラスに死者を弔うとか似合わない。次々と仲間が死んでいくというのに、能天気にしているくらいがいいんだ。