決戦前の楽しみ方
イフォルマくんは翌日に行動を起こすと確信した俺は部屋で塞ぎ込んでいるフィルムットとアイリスを学園の外にある街へと連れ出した。勿論、チェリアも一緒だ。とりあえず、オープンカフェで一息つく事にして、ついでに慰める事となった。
「騒げ、食え飲めとは言わぬ。じゃが、死体を確認した訳ではないのじゃ…希望を捨てず勇者として前を向いていかねばならぬ」
「学園長…」
「お前たちには悪い事をした。気持ちを優先してやりたかったが、この様だ…無理にでも引き止めておけば良かった」
「いや、キッシュの責任じゃない。あれは事故があったからだ…そして、坑道を甘く見ていた。あの時君が僕たちを止めてくれたからこそ3次遭難にならなかったと思っている。あのままなら僕たちはあの中で倒れていただろう」
いや、計画完遂したの確認出来たからさっさと帰りたかっただけですが。そう言ってやりたいが、この2人は敵に回さないとチェリアに言った手前言い出せない。仕方ないね…
「いや…シャルロッテを偽者と決めて残りのメンバーを鍛える方法を取らなかった監視者としての判断ミスだ。トルスに言われていたのにな…結局欠けさせてしまった」
あくまで反省してまーすを装って受け答えする。あー、メンドクセ…チェリアとデートするだけにしとけば良かった。
「トルス…」
あ、ヤバい。地雷踏んだ…アイリスの好きな奴の名前出してしまった。今ごろはネコ勇者として頑張っているよ、うん。サキュバス先生に可愛がられている姿を見せたら幻滅するだろうからなんて荒療治はしないでやろう。だからロリ魔王、こっち睨むな。
結局、気分を害したアイリスとそれに付き添う形でフィルムットが帰ってしまった。俺には慰めるなんて無理だ。というか、フィルムット殺したくせに卒業試験間際にデートしたメンタルの強さは何処へ捨て置いてきたと問いたい。やはり展開を急ぎすぎたか…最初の計画では5年の試験で片玉が偽者と発覚しフィルムット雄から雌への生まれ変わりを計画していたのだがやっぱり急いだらダメだな。
「ろくな事をせぬな、お主は」
「へいへい…まあ、トルスは真実の愛を見つけたんだ。失恋くらいで落ち込むなって全て終われば言える日がくるさ」
「そんな日は来ない方が良いのじゃ…」
いや、来るって必ず。むしろ、このままではフィルムットとアイリスがくっつきそうな気がして心配なんだが、俺は…妹寝取られのショックが和らぐのでそれだけは阻止しなければならない。絶対にだ。
それはさておき。このまま帰るというのも退屈だし、せっかくデート名目で来たのだからロリ魔王を楽しませてやりたいが…焼肉でも食いに行くか?
「とりあえず、心の傷はいつか癒えるだろ…フィルムットの死亡は回避出来たも同然。奴の妹もこちらへ移送中…アイリスも目的を達成出来るはずだからな」
「アイリス生徒の目的…何なのじゃ、それは?」
「…教えられないなぁ…アイリスがウィローと同じようにお前の細胞から作られた娘で、片玉を処分した後に感動の母娘対面があるなんて、とても俺の口からは言えないなぁ…」
「言っておる、言っておるのじゃ」
どのみち片玉倒したら言うつもりだったし、好きな女には誠実にしとかなきゃダメだろ…だから言った。面倒だからではない。キリッ。
「…あー、うん。お主が言うところの表ストーリーでは娘に殺されたんじゃな、わらわ…」
「だな。ついでに裏ストーリーでは殺す側だ。片玉の前に…アイリスの最期の言葉は『お母さんに会いたかった』だったらしい」
「そんな話も聞きとうなかったっ!」
実際に産んだわけじゃないから母性無いだろと思ったが、そうでもなかったようだ。まあ、生徒思いの良い奴だしそれもそうか。
「まあ、きちんと暴露してやるから。俺たちの娘になるんだし」
「お主、さらっと凄い事を言うのぉ…あれか。親子丼狙いか?」
「そこまでしねぇよ」
こいつも大概だと思うし凄い事を言うじゃないか。まあ、勇者の中では個人的に一番好きなキャラだったが…とか言うとチェリアの後釜が居なくなるので色々問題あるから言わないが。とはいえ、出会えた母娘をすぐ引き離すのも気分が悪いか…
「まあ、アイリスが卒業するまでに考えれば良いか…本人の意向もあるし」
「わらわは親子丼でも歓迎じゃぞ?」
「そんな話はしてないが、そんなに食いたいなら昼食を焼肉から親子丼にしてやる」
焼肉が良いと喚いているが、親子丼に決定だ。覆るものか。
親子丼を2人で食べ、街を散策する。何だかんだ言って、食ったら満足するのだから単純なものだ。
「…のぅ、本当に良いのか。最初、わらわはお主に強いた。なのに…」
「何を今更…このゲームを現実に、クソゲーにしたのはお前たちだろ。何を悔やんでるか知らないが、きちんと責任取れ。俺だって責任取ってやるから」
「いや、そういうのではなく…」
先に防具屋の軒先に置いてあったコランダムベアの着ぐるみを着せてきたのはお前だ。確認したら割りと防御力あったので買って使おうとしたら引いているロリ魔王…俺は見た目より数値を取る方だ。多少暑いが、拳スキルまで使えるこの魅力的な防具を逃す手は無い。今ならあのドーナツ作りも出来る気がする。
勿論、購入させてもらったさ。お値段破格の25000G…後で頭にアンテナを付けようと思う。元の世界で絶滅したあの熊を意識して。かなりの出費だったのは否めないから、また釘バットの内職もしないとなぁ…っと、チェリアに作ったアレ渡すの忘れるところだった。
「ほら、チェリア。死亡フラグ渡しとく」
俺はそれをチェリアに向け放り投げた…が、「そんなの要らんのじゃ」とはたき落された。なん…だと…
「…やっぱりアイリスに乗り換えるか」
はたき落されたミスリルの指輪を拾い、そう呟く…半分冗談だったが、かなりのショック受けた。鬱だ、この世界滅ぼそう。
「わ、悪かったのじゃ。結婚指輪なら先にそうと言え」
「いや、隷属の指輪だ」
「なんでじゃっ!?」
本当に冗談が通じない奴だ。縛るという意味では大した違いは無いだろ。俺は半ば強引にチェリアの左手を取り、薬指に指輪を嵌めた。勿論、隷属の呪いとかしてるわけがない。
「…良いのか。本当に…」
「ああ。今のところ正妻はお前だ」
「なんか、色々と台無しなのじゃ。じゃが、英雄色を好むとも言うからのぉ…仕方あるまい」
「ちなみに。俺の魔法具アクセサリーは指輪にしてるからお揃いの結婚指輪とかないからな」
「だから、なんでじゃっ!」
仕方ないだろ、宝石を埋め込んだアクセサリーを8つも装備するなら両手の親指以外の指に指輪くらいしか思いつかなかったし。シンプルなミスリルの指輪をするなら、俺は実益を取る。キリッ。
「…はぁ…お主は酷い奴なのじゃ。これではわらわが本当に隷属させられた気分なのじゃ」
「嫌なら外して捨てろ。好かれてない女を無理やりどうこうするのはあまり好みじゃない。アイリスはお前の娘だからターゲットから除外しただけで、寝取られは傍観するのが一番だ」
「酷い言い草なのじゃ…」
最初は他の女勇者をハーレムになんて考えもしたのは事実だから仕方ないだろ。ただ、あそこまで敵意剥き出しで見てきたら寝取る気力も無くすわ。解剖するか幻惑で誑かすかしないと屈服しないなら尚更だ…それにタワー建設に成功した中古物件を今更引き取る気も無い。コランダムベアの子どもも見たいし。
「じゃが、安心するが良い。お主のそういう酷いながらも時折見せる優しいところにわらわは惚れておる。アイリスの件、まだ受け入れ難いが感謝しておるよ」
「そうか…とんだマゾだな」
「そういう言動を慎めばもっと好きになるのじゃ」
それは無理だ、諦めろん。そんなやり取りがある意味楽しいんだし、素直に言ったら耐性無いお前が顔真っ赤にしてオタオタするに決まってる。それはそれで楽しそうではあるが街中でする事じゃない…いや、今の時点で学園長としての威厳を考慮する必要無いんだけど。ほら、店員や客がニヨニヨと生温かい視線でこっち見てるし。
と、その中に先程まで水晶で見ていた金髪の優男ことイフォルマくんが居た。これは声を掛けて武器や防具を渡すフラグだ、全プレイヤーを代表して今までの恩返しをしないといけない。
「あー、そこの君…何見とんじゃワレェ」
「ヒッ…済みません済みません」
「お主は何をしておるのじゃ………我が校の生徒ではないか。確か魔法科のイフォルマ生徒だったな」
脅迫するつもりはあった、後悔はしてない。掴みはバッチリだ、チェリアが。
「が、学園長先生…」
「おい、キッシュ。いくらお主がわらわの伴侶になったといえど…いや、だからこそ尚更生徒を脅すなどという事は許さんのじゃ」
「誰が伴侶だ。ご主人様だろ」
チェリアが地味に脛を蹴ってくるがダメージ無い。ロリ魔王の攻撃力はそんなに強くないのは知ってる。まあ、じゃれ合うのはこれくらいにしよう。
「で、魔法科の生徒がなんでフルプレートなんか見てるんだ…ゴーレムでも創るつもりか?」
「いえ、それは……あの。場所を変えて良いですか。今回の勇者行方不明の件で伝えたい事があります」
信頼出来る人間にチェリア共々選ばれたらしい…単独で襲ってという展開になったらコランダムベアの着ぐるみを着て颯爽と現れる計画が破綻した。残念だ…
その後、学園長室に場所を移してイフォルマくんの手紙に基づく推論を伝えられた。明朝、退院して学園にやってきたヴァンを一騎討ちで倒すから見届けて欲しいと…だから、ミスリルの武器やら防具を渡したさ。後、そんな美味しいイベントに介入しないわけないじゃないか。
イフォルマくんが退出し、俺は早速行動を起こす。チェリアは止めたが窮鼠は猫しか噛めないんだよ。俺は言いふらして回った…
「片玉、勇者じゃないんだってよ」




