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再誕と決別……にしたかったが、やっぱりこうなった

まあ、当然監視しているのだからこの騒ぎを知りだいたいの連中が部屋に押し掛けてきた。


トチ狂った展開はどうやら…というより当然受け入れられるはずの無い出来事を受け入れられたのは少数だったようだ。具体的には、キッシュを知らない者は受け入れる以前に呆れ、そうでない者は………



「どうして…どうしてパパであろうとする事を否定するんですか……」



アイリスは泣きながら拒絶の意思を示す。当然ではあるが、愛の深さはウィローも知ったところであるので当然であろう。病んでいるともいう。



「生体に異常はありません。仮にあったとしてもカンナのマスターはキッシュであり、そのキッシュは桐生柳の意思によって動かされたアバターです。ならば、何の違いがありましょうか?」


「まあ、どんなにキッシュを演じて居たとしても本質はあんたなんだし……そもそも最初に、好きになったのはキッシュじゃなく……ソレイユが話す桐生柳なんだし」


「そういう事だよ、お兄ちゃん。それに体が違うなんて事はこっちだって同じ事なんだし。関係ないよ」



カンナ、アレア、カレアの3人は寛容というか何というか……むしろ、俺より清々しいわけだが。一度死んでるからそんなの割り切れてるって感じだ。


そして、最後の1人は………



「……どっちにしても、よくある話なんだよ。転生して知識も記憶もある人だけど、前世のアイデンティティは失われて今世のアイデンティティに吸収される。だけど、その前世のアイデンティティが強烈過ぎたらこうなる。それがキッシュであり狂っていた時のお前なんだ」


「そう言われても困ります……いきなり杖で刺されて自分の半身を持っていかれた気分ですよ、こっちは。それに、さっきまであった桐生柳さんに対する感情だって霧散した感じですし……」



詭弁にすら反応が鈍くなった葵は半ば錯乱中だった。


それで構わないのではないだろうかという疑問はさておき、多少の寂しさは感じざるを得ない。だが、もう別人なのだから仕方がないものと既に前世であるウィローの時に割り切り済みだ。


そして、そんなかつての恋心に取り憑かれ続けているのは他にも居るわけで…



「どちらにせよ、キッシュとしての情も桐生柳としての立場も俺にとっては既に過去の遺物で不要なものだ。今の俺はソール・クーヘンであり、それ以外の何者でもない。レベルも低く、キッシュの生まれ変わりでもなければウィローとしての前世にしがみつく必要も無い。つまり、ここでお前たちとの縁は完全に切れるわけだ」



そもそも、桐生柳には未練など何一つ無かった。愛も情も全て失った男は素直に死を受け入れた。


ウィローとて同じ…ただ、少しだけ同情する相手が居て利用する事で歪んだ世界を終わらせる手伝いをした。


そして今の俺には何も無い。という事になるはずだ。


キッシュという異物を放り出した瞬間、あの杖は何処かへと飛び去った。つまり、人柱として俺は不適格だったのか、あるいはここからが本番なのか……


どちらにせよ、キッシュの幻影を追い求める勇者一行や、どうでもいい他人の為に他人を利用しようとする王女たちとこれ以上関わるつもりは毛頭無い。


というより、関わったが最後。どうせならスローライフしてるつもりが世界を救ってた的な展開にしたい。ならないだろうが。


役割を演じるのはゲーム内だけで充分だ。


とりあえず、地上へ戻ろうと部屋を出ようとすると立ち塞がる者が現れた。



「お待ちなさい。あなたがどのような理由でここを去ろうとするのか、わたくしには理解出来ませんが流す程愚かではありませんわ」


「……なら、理解させてやろう。お前の…かつての姿を」



立ち塞がるシャルロッテに右手をかざす。それだけで思い出されるはずだ……かつての忌まわしい記憶が。そういう仕組みを俺は前世で開発した。こいつの体を使って。


まあ、不快な記憶も消してやろうとした結果でもあるわけだが、順調に作用したようだ。



「ああああああああああああああっ……………」



かつての記憶、それと記録を脳に焼き付け直す。それが正しいかどうかは俺の匙加減だ…だからこそ、幸せな日々までは焼き付かない。これ以上巻き込まない為には必要な事だ。


とはいえ、急に脳へと多大な情報をぶち込めば受ける負担も甚大。シャルロッテが倒れるのも無理はない。


そして、その隙に転移魔法なんて便利なものがあれば良いのだが、無いので裏技を使わせてもらう。未だにこの世界が作られしものであるからこそ可能な芸当を。






「やっぱりか………」


裏技…というか、ゲームでお馴染みのロードしたところからやり直しである。ここは、とあるお貴族様の屋敷…はい、略してマルフォイ邸です。伏せなくてええってもう。めんどくさいし。


俺の考えが正しいなら、ここは再生された世界とかじゃなく神の箱庭…つまり、俺がよく知るゲームの最終ステージという事になる。もっとも、それすら色んな奴らの介入によって変わり果てた姿であろうが。


壊れた女神の一撃によって壊れた世界を俺たちの願望によって作り上げられたキッシュが救い、そのキッシュを救おうとした壊れた世界の壊れた嫁たちが壊し、結局いつも通り壊れた世界の残滓を寄せ集めて形作られた箱庭にぶち込んだだけの残飯クッキング。つまり、坩堝だ。むしろドツボだ。


都合の良い世界だからこそ、更に都合良く出来る……なら、その先はどうなるというのか。所詮この世界は女神の作った仮想現実でしかない。ならば本当の世界はどうだというのだろう?


目指すべき世界の未来はハッピーエンドとは限らない。ヒロインたちとハーレム作って終わりなんて在り来たりの先が問題なのだ。


そもそも…



「必ずしも俺=キッシュではない時点でモブキャラなんだから勘違いしないで欲しいものだ」



何処ぞの国民的ゲームの1つみたいに夢と現実が再び融合するとかって展開なぞあるわけないじゃん。あったら俺は間違いなく妹キャラと添い遂げとるわ……あ、うちの義妹の事じゃないからな。あ、定義的には2人おるやん。


さて、ここからの行動を考えるとしよう。まずは屋敷内の家捜し。これロープレの基本な。


そして、さっきの愉快な勇者軍団からの逃亡。舞台は世界な鬼ごっこだ…それを行いつつ目的とするのは変革したこの箱庭のクリア。表ルートは勇者を倒しつつ女神を解放するって陳腐な展開だ。が、裏ルートは誰も攻略していない。時間の都合ともいう……裏ルート解放してから終了までが短すぎんねん。


まあ、ありきたりな展開ならば女神しばいて終わりだろう。勇者と一緒にな……だが、それでは前回のパターン、キッシュの犠牲の名の下に世界は救われるわけもなくトチ狂った勇者軍団による振り出しへ戻る。通称、初期化パッチの強制インストールは目に見えている。というか、これが何回目のやり直しか分からないのが事実でもある。


目的としては単独で女神……もとい、この元凶たるカス神などをしばく。その為には最強装備が必要だ。


…………なーんて、都合良く出来るわけないじゃないですか。俺、いつから催眠魔法にかかって都合の良い夢を見させられているのか。流石に気付くっての。


こちとら低レベルの村人ですよ。最強合体キング嫁ザウラー軍団に勝てるわけねぇ…おしまいだぁ…って誰がM字ハゲやねん。


そもそも、わざわざ密林にやって来させるなんて「らしく」ないのだ。嫁たちなら音速どころか光速超えてやって来るはずだ。


だいたい、前にシャルロッテに記憶復元試したら失敗したのに今回成功するとかありえないじゃん。本当に都合の良い夢ですこと。


さて、夢からの目覚め方には魔法とか強い暗示とか色々あると思う。でも、これが勇者の高レベル催眠魔法ならば無意味っぽい気がしてならない。なら、死に戻りしかないじゃない。


壁に飾ってあった宝剣っぽいなまくらを手に取り、伝統芸能のハラキリをやってみる………あ、これ夢じゃないわ。マジ痛い。



「………何をやっているのですか、あなたは」



だが、その甲斐あってか新たな勇者が召喚され………誰だお前は?


突然目の前に現れた謎のメイド。その正体はいかに…え、ただのメイドなわけないじゃん。だって、コスプレなんだぜ……本場のメイドはもう少し落ち着いた色の服を着ているはずだ。なんやねん、メタリックグリーンとメタリックパープルのメイド服って。


あ、なんかよーく知ってる気もする。

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