再会という名の初対面(前編)
いやぁ、生きてるって素晴らしい事ですね。恐慌状態のアイリスを回復させるの疲れたともいう。まったく、こんな風に育てた親の顔が見てみたいですわ……え、鏡見ろって。冴えない村人見て何が楽しいんすか。
後、命を救う形になったウエオ娘たちから「お父様」などと呼ばれるようになってしまった。誰がフラスコの中の小人やねん……え、野菜な息子なんて居ないよな。ポッドに詰められてポイってされないよな。心がぴょんぴょんする展開キボンヌ。
「個体認証を設定。以降ソール・クーヘンをマスターと認識します。確定事項なので異論は認められません」
「もう好きにしてください」
カンナに再会した早々、色々と鑑定されてしもうた。ええ仕事してるんやと……査定額はプライスレスだったけどなっ!
ちなみに鑑定結果はほぼほぼキッシュと同体って事だったん…遺伝子レベルで。いつの間にオラはコーディ化したったんやろ。種割れしてもハイライト消えて欲しくないわー。
それはともかく、もう1人のよーく知ってるようで全然知らない元蒟蒻者……もとい、婚約者ガイル。待ち状態なのが怖いです。あ、でもオイラもガイル使いだったわ。つまり、このままタイムアップ狙うんなー。え、それだと判定負けですか?
「マスター。この日向葵は意識の統合思念体であり、かつてのクソみたいなアバズレ婚約者の水立葵とは遺伝子レベルでは同位体であり残念な思考能力であるものの別人と断定しても構いません。分かりやすく言えば他人のセーブデータで強くてニューゲームした三流主人公です」
「おお、分かりやすく言ったつもりかもしれんがとっても分かりにくい説明乙」
とりあえず、嫌という程ソレイユ・フルールなるダメ勇者以下数多の名前を持つ飯野君な葵の噂は聞くに耐えないものでござるの巻。
それが桐生柳の居ない世界でも遺憾無く発揮されただけに留まらず、色ボケなかったのだからキッシュ濃縮数倍化並みになっているのはお察しください……つまり、訳が分からないよ。
だが、よくよく考えてみれば俺が居なくてもこんな世界に召喚されるという確定事項があるのだからどうあがいても絶望でしたよね。むしろ、この世界を滅ぼせる実力は元々兼ね備えて居た訳です。つまり、アルティメット葵たんですね。誰がほむほむなん?
まあ、そういう現実逃避は止めよう。この葵は人畜有害でもそれを実行したのとは別個体ですわ。つまり、通りすがりの単車乗りですわ。
「俺はキッシュでも桐生柳でもなく、ましてやウィローでもないただの村人ソール・クーヘンです。訳あって今はポンコツ姫と不愉快な仲間たちの付き人兼荷物持ち兼雑用係を仰せつかっています」
そう自己紹介すると勇者以下数多の視線がポンコツ姫と不愉快な仲間たちに向けられる。「お前ら愛しい人に何させたんだ、いてこますぞ」的な侮蔑の視線です……何このヤンキー勇者とその舎妹ども。
まあ、そこで俺の嫁だから仕方ないとか割り切れないのは生に対する執着が希薄だからなのか、単に愛情枯渇しているからなのか分からないがキッシュの時に持って居たものの多くを失った気分なのであります。まあ、そもそもキッシュ自体がハゲガエルの息子に擬態した葵の抜け殻にミキシングされてぶっこまれた物体Xだった訳だけども。
まあ、俺は最初から抜け殻だったのだからそこに大差は無いが。大切な人を失って狂ったのは俺だけではなかっただけの話。変わったものを変わらないまま愛せはしないのが本能……逆に言えば、ウィローの魂も受け継ぐワイにはポンコツ姫の方が現時点で好感度高いわけで………
「我が主人であるポンコツ姫と不愉快な仲間たちをその様な目で見ないでいただきたい。この様な村人のために胃の血を掛けてくださった方々ですぞ」
え、単なるストレス性胃潰瘍ですよ。命懸けなのはこっちだっつーの。今夜の飯どーしよ…もう日暮れですがな。とりあえず、襲われた対価として持て成しくらいして欲しいもんです。
とか口に出してたみたいで、カンナに基地へと連行される羽目になってしもた。あれ、また牢屋フラグですん?
というわけで連れて来られた地下基地にはホワイトな木馬がありました……回れ回れメリーゴーランド、もう止まってますがな。基地というか、廃墟ですわ。見覚えのある遊園地の………さて、問題です。ここの遊園地で何人死んだでしょう。答えは死神探偵の黙示録・遊園地編で……
え、どうせ誰も居なくなるから心配するなって。ジェットコースターで首が飛んだり、観覧車が爆破されて元タカラジェンヌが止められないみたいなコ◯ン展開ではなくてバイオテロエンドですものね……どーしてそうなった?
本当にどうしてこうなったのやら。存在しなくてもいい書物の中の廃墟がこうやって地下にある……あってはいけないもの、存在してはならないものがあまりにもこの世界には多過ぎる。まあ、その際たるものが俺自身なわけですが。
「ここまでして、俺なんてちっぽけな村人ニートの為に世界を歪めるかねぇ………」
「否定します。マスター……マスターが何を考えているかは察します。ですが、どの世界においてもマスター不在の未来は悲惨な結末しか迎えないというデータが既に存在しています」
カンナが何かくどい説明を始めた。
カンナ曰く、この世界は悪魔ほむなチェリアによって何回も過去に巻き戻っているらしい…のは知っていたが、それは延命でもなければ俺を探すためだけというものでもなかったらしい。
ほら、ラスボスの向こうには隠しボスってど定番があるじゃないですか。それ、実在するようですよ。しかも、複数。
ある時は玉無し魔王な偽勇者バージョン過渡期とか、またある時はシャッフルしそうな名前の軍団とか、またある時は金色のスライムMとか、またまたある時は真魔王と愉快な魔族とか、またまたまたある時は蘇ったメタルなロボ娘とか、またまたまたまたある時は打ち捨てられた支配人アバターとか、またまたまたまたまたある時は迷探偵なびっくり人間とか………何処かで見たり聞いたりしたようなのが出るらしいです。
そして、何故か勇者たちはそれに太刀打ち出来ない………ぶっちゃけ、神を殺したのがただの杖だったから経験値そこまで貯まらずレベル差が激しいらしいのです。時を百数十年遡れる程度の経験値しか入手出来てないとか………絶対、若返りに無駄遣いしていらっしゃると思うのですが、それは。
さて、そんな昔話と起こるかどうかも分からない家庭…いや、過程…でもなく仮定の話はええねん。
ここへ来たのは小さな姫の勇敢なストーリーに賛同したからであって、仲間が欲しいですって事しか目的はない。つまり、隠しボスは永遠に隠れとけって話です。
まあ、級友な旧友と交渉していらっシャルロッテの手腕次第なんです。え、お前が交渉しないのかって……村人にそんなスキルありませんわ。あるのはガラクタを組み合わせて何かを作るくらいの才能でござんす。
シャルロッテが望むのは愉快な姉妹の協力……ぶっちゃけ、モブに近いから元大手OSメーカーの会長っぽい名前の一般兵と刺し違えるんやないかな。つまり、戦力外通告、問題外です…今夜はコロッケいっぱい食いたいんなー。
だが、その日の夕食は孔明な料理人が作った料理だったとさ…そこは前々前世から変わらんのかい。むしろ、レベルダウンしていらっしゃる……勇者とか貴族には効果無かったが、毒味役の村人には大ダメージでしたよ。見るからに毒なのを無毒化するのは大変なんさ。げぷっ……え、1人で完食したとか言うな。ただ早く毒耐性得たかっただけなん。
それから数刻。倒れたワイは個室に運ばれた。カンナにお姫様抱っこされてな……来世こそツインテの幼女になろうと誓うしかないじゃない。それはさておき、ベッドで毒ダメージ食らい続けていると、飯野くんではなく良いノックが鳴り響いてきた。そんなノックで大丈夫か……2回はトイレなん。あ、汚物扱いされているんですか、分かりました。
「あの、入ります」
しまったのん。入ってますと言わなかったから入ってきたのん……毒使いの外道勇者な葵が。汚物は消毒される宿命、いざサラダバー。ポテトサラダはしばらく食いとうない。