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オクタグラム チェインテイルズ  作者: 紅満月
7章 偽典・箱庭編
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過去と向き合うということ、過去を乗り越えようとすることは別問題

目の前に突然現れた敵はあまりにも強過ぎた。



「あの人を2度も殺しておいて、のうのうと転生して生きている……それだけでも許せないのに、あなたも忘れてしまったのですか。あの人の事をっ!」


「あの人なんて言われても分からんのん。ちゃんと実名報道しないと伝わるものも伝わらんのん」


「ふざけた事をっ!」



ふざけた事を考えてる余裕なんて無いけど口から出るのは仕方ないん。既に在庫切れで手に持ってる銅剣が最後の砦……ミズキッキと愉快な動物フレンズは後方のメダ◯ットと妖怪ウ◯ッチと激闘ジャーなん。あっちは2対3なのに、こっちはガチなのが負けるしかないじゃない。しかも首から食われるじゃないって展開…………あれ、そんな展開どこかで見たなー。


そう、あれは夢の中………夢の中で私はハーレムを築いていた。なんでやねん……まあ、よくある話ですよね。その中で私は確実に誰かの傍に居た…


そう。私は2度も殺しておいてのうのうと転生して生きているらしい。つまり、私には恨まれる理由がある………待て待て待て。そんなので恨まれたら世界の理とか滅茶苦茶なん。



「それに、あの人なる御方さんが弱いのが悪いんと違いますのん。弱い奴は死ぬ……それだけの話ですん」


「………ならば、死んでください。強くなるその時まで」



刹那、私はマミった………え?










私は婚姻届を出しに行く前にするべき事があった。さすがに学校へ指輪は持っていけなかった…没収されてしまう可能性があったから。だから、りゅーちゃんと後で合流する事にして家まで指輪を取りに帰った。


りゅーちゃんがくれた婚約指輪を家まで取りに行き、りゅーちゃんが待つ場所へと戻る途中で私は謎の光に呑み込まれた。


よくある異世界転移ものの展開……私は勇者として召喚されてしまった。でも、私はそんな事にワクワクする事は無かった。ただただりゅーちゃんのところへ帰りたいと願った。でも、それは叶わない…王様やその取り巻きは言った。「魔王を倒せば帰れるはずだ」と…そんな言葉を信じられる人がどれだけ居るのだろうか。


結局、私は障害となるものを斬る事にした。どんなに血で汚れたとしても必ず帰ってみせると……………でも、その瞬間私は不思議な空間に居た。


女神がそこには居た。そして、私は2つに分けられた。ただ純粋に勇者として魔王を倒す為の存在ソレイユと、この境遇を恨み全てを滅ぼしてでもりゅーちゃんのところに帰ろうとする葵とに。


後は簡単な話だ。ソレイユは勇者として旅をし、葵は女神に監禁された。そして、葵は女神を吸収して全てを壊す事を決め、いずれ勇者と相対した。


勇者は勝った。憎しみが負けるなんて事は往々にしてある事だから。でも、女神と化した葵は世界を壊そうと動いた。それを止める術を直感で思い付いたソレイユは本来の姿に戻った。日向葵というただ1人の男を望む少女に………


だからこそ、世界は壊れた。他の勇者がかろうじて書物に押し込めたからこそ死滅が避けられただけの事であり、それすらも望まない葵と、仲間の信じたソレイユの葛藤は続く中彼女は眠りについた。


そして、勝ったのは葵であった。負けたソレイユの意識は欠片となり何処かへと消え去った。歪みに歪んだ女神は世界の壁を超えて桐生柳の命を奪った。そして、自らの体を与えて転生させた。都合良く記憶を改竄させた勇者たちの力を借りて自らの解放を手伝わせつつ。


だが、暗躍する元女神や転生させた桐生柳への誤算、勇者たちのイレギュラーな行動やクレアの登場によって計画は歪んだ。


何より一番の歪みは桐生柳の魂を一部しか取り込めなかった事。更に言えば本当の桐生柳の魂は別の存在へと転生していたのを見逃してしまった事が響いた。ウィローが与えた腕輪の監視魔法も黙殺していた事が悪影響となった。


結局、彼の選んだのは破滅でしかなかった。それも、私とは真逆の方向の自己犠牲……彼は自らの肉体であるアバターを捨てる事で本来とは違う役割を果たそうとした。私はそれに気付かず彼を切り捨てた。いや、正確には本体に戻ったソレイユの意識はというのが正しい。


一瞬だけ葵としての意識が封じられたその隙に……封じたのは紛れもなくりゅーちゃんことウィローの仕業だろう。


後は簡単な話……帰れないならこちらに来ないりゅーちゃんが悪いのだと歪んだ思考で殺したわたしは暴走した。彼の一部が全てだったと誤認したままに。そして、彼の願いは叶えられた。


いや、違う。正確には私たちは………








数秒後の世界は崩壊し、その崩壊たる根本的原因である1人の男を想う私の………いや、世界そのものから彼が消えた事により原因と結果が異なり始めた。


彼が居なければ私は今の私を形作り、みずきちゃんも今のままに………


そして、チェリアたちは…………



「…………思い出した」



取れたはずの首と胴体は繋がっていた。そして、さっきまで居た場所とは全く異なる空間に居た。


そこは長い間私が居た場所。女神と化した私が狂い、年老いたりゅーちゃんに失望して雷で葬った場所……私は神の座と呼んでいた。


そこには赤い肉塊………もとい、世界を吸収しつくしたスライムが鎮座していた。



「………ただいま、菊花ちゃん。ううん、今はイルムって呼んだ方がいいよね」


「………ただいまじゃないわよ。とんでもない事を仕出かして、それでのうのうと帰ってきて………それでも、もう戻れない。神が一度行った事は覆せない。あの時あなたは女神の力を全て捨てて身勝手な勇者として世界を滅ぼした。そのせいで女神の力は腐れ外道のカスミへと戻り、ご主人は願いを叶えた。もうあたしたちは会えないのよ……あの人には」



うん、知ってる。今みんながやろうとしてる事は私を………正確にはりゅーちゃんが叶えた願いによって崩壊する世界に残されたソレイユとしての怨念を消し去る事だ。


既に世界は巻き戻り別の世界軸で動き出している。そこには単なる勇者として召喚された私がチェリアたちと一緒になって世界平和を目指したり、チェリアと相対したりしているのがあるのかもしれない。


でも、このりゅーちゃんが消え去った後の世界でしか生きられない人たちだって居る。りゅーちゃんが居なければ『八芒星物語集』としてのこの世界は生まれなかった。


つまり、アイリスちゃんもリンドウちゃんも蓮華ちゃんもカンナちゃんもイルムも存在しない。それを理解した上でりゅーちゃんは事を起こした……もしかしたらあるかもしれないりゅーちゃんだけが存在しない幸せな世界を夢見て。


少しの間だけ本当の意味で一心同体だった私には分かる。だからこそ、私は今残されたみんながやろうとしてる事も理解出来る。みんなの中にも私が居たのだから。



「…もし、世界が今日終わったとしても、昨日終わっていたなら意味は無いけれど………明日を生きたい人も居るよね」



私の中では、りゅーちゃんを失った時点でもう終わった世界だった。でも、キッシュとして生きた証は残さなきゃいけない。りゅーちゃんが残したかったものを残すのは婚約者止まりの私の唯一出来る事だ。



「…行こう。その方法があるんでしょ?」


「あんたは性急すぎ。まあ、今のあんたならどうにか出来るか………元あんたの守護霊が太鼓判押しとくわよ」


「うん。ありがと」



私はかつて手放した一本の剣をイルムから受け取る。それは、私が大切なものと引き換えとして手に入れた剣を使い始めた際に捨てたかつての相棒………聖剣マグスマリナ。大切なものを……捨てちゃいけなかったものを取り戻しに行こうか。



「あたしも行くわ………あのカス神に取って代わられた勇者の座。みずきだけじゃ荷が重すぎだし」


「そうだね………行こう。全てを解き放って」










「………荒療治過ぎたのじゃが、どうやら成功したらしいの」


「…………あんたら、他にやり方なかったの?」



一度殺して再強化……もとい、最強化させられたのは葵だけじゃなくあたしも同様。むしろ、アイリス以外の皆がそうなった。


兄さんが作っていた鎧をアバター化してそれを本体に取り込むという作戦……逆に私はクレアのアバターを取り込んだし、アレアとカレアは2つも取り込んだ。


これでも勝てる見込みは少ないらしい。もう何が何だか………



「今から戻った時は動き出すのじゃ。良いな……今度は無いぞ」



さっきアイリスを除いて全滅したとは思えないチェリアの言い草だ。


何がどうなったか簡単に説明しておくと、葵が死んだ。そして死体は消えた……まあ、正確にはイルムに託してパワーアップさせるつもりでやった事だったらしいけど………フィクションとファンタジーなら何でもありよね。球使えば生き返るみたいだし。


で、あたしたちはそのまま乱戦に移行。結果はアイリスの一人勝ち………射撃武器きたない。まあ、あたしはコチョウのパイルバンカーで串刺しにされたんだけれども。そのコチョウすら矢ダルマにするってどうよ?



「今度は油断しない。ちゃんとパパが作ってくれた鎧も使う……そして、あれをパパの体だとか生き返るとかは思わない」


「………少しずつだけど、あの人の事を忘れていっている自分自身が許せません。それでも、オレは後悔はしないと思う…多分」



リンドウの言う通り、あたしも戻ったはずの前世の記憶が少しずつ欠落してきている。いや、塗り替えられていってるといった方が正しいのかもしれない。


あたしたちの認識は既に別の世界軸に支配されつつある。既にあれはキッシュの体を使って復活した葵……ではなくて、味方のふりをしていたラスボスという認識に変わり始めている。


乗り越えなきゃいけない過去さえ消えて無くなってしまう………そして、あたしたちはそれが正しいのだと思い込んでしまう。情けないものね……さっきまでのあたしに戻るだけなのに。



「………わらわたちもどうなるか分からぬ。ただ、言えるのは…………勝っても負けてもわらわたちは敗者なのじゃ。あまりにも、失ったものが多過ぎた」


「………それでも、守りたいものがあります。大切な人たちが守り続けていたこの世界をわっちたちが守らないと………」


「マスターの、皆の遺志を継ぐ……それが勇者としての役目だと推察します。だからこそマスターは………最初から自身を村人と罵っていたのだとも」


「………どちらにしても、進むしか無いのよね。くそったれな勇者の役割押し付けられた以上は……」


「………それでも、今のボクたちには前の力以上のものがあるんだよ。前のアバターの力もさっきのアバターの力も。だからこそ、今度は負けちゃいけないんだよ………けど、本当は………」



アレアとカレアはそれぞれ2つのアバターを取り込んで瞳も回復してオッドアイの姿になった。アイリスを除き、あたしを含めた他の皆もアバターの力や異世界の能力を取り込んで変化している。


2つの武器、合わさった鎧、混ざり合った存在………本当にどうしてこうなったのやら。


でも、これなら間違いなく勝てる。


転生した妹の居場所を奪い、味方を騙した悪女神カスミを…………いや、カスミの名を騙った偽者を。


そうか、そういう改変か。なら、遠慮する事は無いわね。

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