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オクタグラム チェインテイルズ  作者: 紅満月
7章 偽典・箱庭編
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封じられしケモノたち

この世界には大小様々な山があれど晶と付く山は3つの山…魔晶山、妖晶山、機晶山しかない。つまりは、ドラゴンに狐に鎧がそれぞれ封じられているという事。


わたしの仲間は……あの瞬間命を落とした。勿論、わたし自身も含めて。でも、力の暴走とあの人がした不可解な行動が全てを巻き戻そうとした。


存在する事を許されない程の力の本流にわたしたちは消える宿命だった……けれど、それを防ごうと動いたのはかつての勇者たちだった。


あるハゲは天使の力をわたしに授け、ある変態ドラゴンはその体を大地に変え、その妻のドエスライムは消えゆく者たちを封じた。


その結果が今の世界。それを保っているのは神を代行している不思議生物のお陰………そして、わたしたちの目的は力を制御してあの瞬間に戻る事。その為には対抗出来る手段と方法を考えなければならなかった。


それにはまず……あの忌々しい勇者を鍛えるしかない。



「さあ、そろそろ起きて。あの人の為に出来る事をしよう。新しい体と名前は用意してある………白き竜王スズラン。呪われし妖狐シオン。破壊の神機コチョウ………あの人の残した偽りの体を使って演じよう。かつて勇者が歩んだ無駄の先へと進む為に」








北の魔族領をスルーして東へ進む私ら一行………暗雲立ち込める魔晶山にハイキングなん。これ、どう考えてもツアーガイドは中止の判断下す天候だよね。



「ガイドさんガイドさん。即刻お家帰ってあったかい布団で眠りたいからでんでんでんぐり返しでサヨナラバイバイしたいん」


「誰がガイドじゃっ!」


「お家無いから、この世界には」



キルシュたんの強烈ツッコミとミズキッキの冷めたツッコミが襲ってくる……場を和ませる事さえ許してくれないのうず。


後ろでシェルパ役を買って出たケモノ友達も苦笑いしている声が聞こえるん。そこは高らかに笑えばええと思うよ?


そんな事を考えながらも時折出てくる魔物やら山賊やらの敵対生物を駆逐してやるって勢いで頑張ってますん……レベルが上がってるとかキルシュたんに言われてるけど実感無いん。生き物滅殺して成長するとか無いわー。それなら死刑囚とか最強ですやん。


つまり、最強は殺人鬼なんですん………え、ホッケーマスクは防具屋にありますん?



「私、いつかは電動ノコギリ振り回してみたいからよろしくなのん」


「はいはい、あたしらは既にあんたに振り回されてるわよ」



誰が電動ノコギリですのん…ちなみに本家は電動ノコギリ使ってないんなー。鉈とかなん…でも、鉈使ったらヤンデレそうで嫌やんな。



「それにしても、こんな軽装備で山頂まで行くんですか?」


「シーラはそんなバカをわらわが行うと思っておるのか。登ったとしても中腹までじゃ。山頂には鉱石も何も無いからの……光神山とか違っての」



あら、山頂まで行って朝日を拝むとかのつもりだったのに中腹までしか行かない発言キタコレ。


まあ、別に天気観測とかじゃないし望遠鏡担いで見えないもの見ようとするわけじゃないから構わないのん。


というか、そこらへんの石ころ拾って帰ったので良くないっすか。そもそも石ころ拾って魔王に届けて保護してくれるんすかね……石ころ拾って褒美くれるなら誰しもやってると思うんでげす。異世界まで来て石拾いとか苦行じゃね?


まあ、ゲーム並みに展開が良すぎるんですのん。キルシュたんの目的……山登り愛好会の設立ですね、分かります。


……………そろそろ真面目に考えなきゃいけない。私はこの世界を知らない。けれど、似たような冒険をする夢を度々見た。


勇者である私と、桜色の魔王と金髪の双子。魔王討伐に呼ばれて、魔王から世界の真意を教えられて…それでも歩みを止めなかった冒険の夢。


昨日も見た。起きたらエクスシャイニングが使えるようになっていた……なんて事はないけれど、何となくこの冒険の結末が分かってきている。だから、勇者になんてなるものじゃない。







案の定というか、当然のように立ち塞がる2人組がおった。



「………一応の敵であるわらわたちの前に立ち塞がってくるというのじゃな。今度はお主が」



かつて、わらわたちは神敵として天使や変態ドラゴンやらに狙われる立場であった……とはいえ、それすらも神を欺く為のものだったのじゃが。


今の神を代行する者を知るわらわとしては単になぞっておるとは分かるが、やはり本体の解放はわらわたち同様に困難という事じゃな。



「桜樹に獅王と狼王………それに蒼穹と動地と海流。後3つはサルベージ中。指輪の中の鎧が使えない限り、これを元にするしかない」


「あのー…知り合い?」



ふむ。クレアとしての記憶が曖昧なのは理解出来るが、顔や容姿がほぼ変わらぬのに分からぬとは……転生とは厄介なものじゃ。



「ミズキッキがボケてきたんなー……この指輪くれた露天商じゃあーりませんか。お疲れサマンサなん」


「乙」



何故か葵と友好的なのじゃ……幾ら何でも殺されかけたというのにそんなにフランクで良いのかアイリスよ……いや、今はシエルだったかの。


というより露天商などという事をやって良いと言った覚えは無いのじゃ。


それよりも、隣の青いポニーテールのアバター……つまり、リンドウが操るスズランと名付けられたはずの仲間になるはずの女子じゃ。ヤる気満々じゃの。まあ、仕方ないのぉ……父親と母親を犠牲にされたのじゃから葵に対して思うところはわらわたちの中で一番ある。


だからといって八つ裂きにしても死なぬのじゃがな。指輪あるし。今の葵には罪がないとはいえ3度くらい息の根止めれば納得するじゃろうて。









妙な2人組…どうやらキルシュの知り合いみたいだけど、その片方が突然葵目掛けて襲ってきた。まあ、いつもふざけてる天罰よ……とはいえ、この中で最弱な葵を殺されるわけにもいかないから抵抗はしますけど。


相手の手から糸が放たれる…鋼糸と呼ばれる類いの武器みたいだけど、当たったら痛そうで済まない威力であるのは見ただけで分かる。咄嗟に葵は銅の剣で弾こうとするけどバターみたいに剣が切れるように折れた。あ、これミンチより酷くなるレベルだ…当たったら終わるわ。



「見ろ、剣がなまくらのようだっ!」


「知ってる知ってる」



かなりピンチだというのに葵は相変わらずだ。なまくらなのは最初から知ってただろうに。



「そのふざけた物言いが許されるのは世界でただ1人だけですっ!」


「…………いや、まあ気持ちは分かるのじゃがな。確実に悪影響出ておるだけなのじゃと割り切れ、それは」



キルシュが守ってくれたら一番なんだけども、あちらはあちらで鎌で露天商のボウガンから放たれる矢を撃ち落としてるわけで………どういう展開よ、それ。互いに翼出して飛ぶわ跳ねるわしてるし次元が違う…怪獣大決戦は他所でやれ。


とりあえず、あたしたちは葵に加勢しないと全滅待った無しだからカルアとシーラに声をかける。



「2人も加勢して4人がかりで立ち向かうわよっ!」


「否定。それは無理だと判断します」


「敵が2人だけと誰も言っていませんよ?」



振り向くと敵が居た。それも2人……あ、これ負けイベントだ。



「あの戦いの元凶となったカルアとシーラには罪を償ってもらいます」


「同左。それを率いていたクレアこと桐生みずきも同罪です。よって、ここで憂さ晴らしを実行します」



しかも身に覚えの無い恨みで強制的に戦わないといけないみたいだ。詰んだな、これ。







かつての精細さを欠いたわらわとは違い、生身であるシエルを名乗るアイリスの強さは本物じゃ。ゲガエルの天使の力を全て受け継いだ上に奴の使っておったボウガンを持っておる…………このからだでは神器も使えず敗戦は必至。



「強くなったの」


「……ママが弱くなっただけ」


「否定はせぬ」



あの戦いでわらわたちは死んだはずだった。しかし、妙な事が起こったのじゃ。すなわちパラレルワールドと呼ばれる世界への移行……キッシュと桐生柳に関係のあるものが全て消え去り、作り変えられようとする只中でわらわの意識は目覚めた。


当然、ソレイユが招いた世界の崩壊も無かった事となり、それを発端にする世界に生きる者は消滅する運命となるはずだった。


それを歪めたのはあやつをご主人と慕う小さき者であった。世界を喰らい、時を止めた。その中にわらわも含まれた。


しかし、あやつの残した加護が強過ぎアイリスたちは別の手段で命を留めた。


そして、わらわたちはアイリスを除いて、かつてあやつを生み出した方法で仮の体を作り上げ目的を果たそうとしている。


されど、急く事はないはずじゃ。順を追ってゆけば葵たちもわらわたちも強くなり目的も………



「………もしや、火急の事態なのか。イルムでも止められぬ程の」


「…3ミリ。それがママに残された距離」


「………………そうか。動いたのじゃな」



わらわたちは謎の力で消え去りパラレルワールドへと移行するはずじゃった。が、それを阻止しているのがイルムじゃ。イルムが取り込んだ世界の中に、消え去る間際のわらわの体…いや、正確にはわらわとアレアとカレア、クレアの存在と他の人々がおる。


そして、まだ体があるのなら時を戻せる。つまり、無かった事に出来る可能性があるのじゃ………いや、そんな事をしてもあやつは戻って来ぬ。あやつは存在そのものを対価にしたのじゃからの…………


わらわたちに出来る事は歪んだものを正し、勇者として悪女神ソレイユを葬る事のみ。その為に勇者召喚を利用すると決め転生した葵を待った。彼女がわらわたちの切り札である事には今も前世も変わりない………


はずなのじゃが、あやつ並みに思考狭窄状態なのじゃ。いや、元が元なだけに当然なのやもしれぬ。わらわたちすら洗脳してしまう程の能力と狂った状態と化す可能性を孕むのじゃがな。



「ママが死ねば、本当の意味でパパは消える。既に世界は上書きされてしまっている。パパの存在しない世界へと……指輪もその体も消える寸前でしかない。そうなれば………」


「させぬよ。その為にリンドウ……いや、スズランをけしかけたのじゃろう。あやつらの力を受け継いだスズランはわらわたちの中で最強じゃからな」



もう少しこの茶番を続けるとするかの。葵が真に目覚めるまで………

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