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捜索という名のミイラ取り

で、放課後に綿密な打ち合わせという接待とドン引きする程の鹵獲勇者の利用計画を聞いた翌日の作戦決行日を迎えた。



「…ほぅ。そんな事になっていたのか」



物々しい程の騎士や冒険者の行列を横目で見ながら、あたかも知らずに坑道へ採掘しに来た風を装い案の定捜索隊に無理やり加わった片玉以外の勇者一行からおバカ勇者がここに来たはずというのを聞かされていた。



「君もその日ここへ来たと申請にはあった。何か知っているんじゃないのか?」


「生憎と知らないな。坑道は迷路みたいに複雑だ…入口で会っていたならまだしも俺は奥へ奥へと進んでいたし、お前たちの力量なら浅いところが精一杯のはずだ。迷って出口が分からなくなったといったところじゃないのか?」



相変わらずフィルムットが疑いの眼差しで見てくる。お前の妹、イフォルマくんに進呈するのだから安心して死んでくれや。この件はもう決まりす。


それはそうと、捜索隊一行は物々しい装備だが俺はこの前と同じ採掘用装備なわけだ。まあツルハシで斧スキル使えるけれども。釘バットも斧扱いみたいだし、斧スキルは槌とも兼用だから使い勝手がいい。



「そのさ、良ければだけど手伝ってくれないかな。坑道のマップは貰っているけど捜索範囲広いし、坑夫さんたちは騎士の人たちに同行するから詳しい人が近くに居てくれた方が心強いし…」



トルスが申し訳なさそうに提案してきた。計画通りと心の中でほくそ笑む。坑夫たちは騎士や冒険者に同行するよう仕向けたのは坑夫たちも魔王の手下だからだ。鉱山での採掘が学園維持の大事な収入源の1つなんだから当然である。



「…まあ、こんなに人が入っているなら採掘どころではないな。中の魔物も殺気立って何をするか分からない。良いだろう…但し、二次遭難になっては困るから嫌でも団体行動してもらうからな。後、俺は最後尾だ…後ろから刺されたくはないからな」



この言葉に一行はムッとするがわざとだ。そう言えば俺を疑うこいつらは考えを巡らせる。かといって案内役を失うわけにはいかないので俺の主張を飲まなければならない。従って…



「分かった。但し、僕ともう1人も最後尾だ…属性的にはアイリス、君にお願いしたい」


「…分かった」



ここで冥闇を名乗った事が活きてくる。闇と相対するのは光。そして、無属性の魔法は強弱に左右されない。俺がターゲットにしている2人が傍に居る。勿論、この場で殺す事は無いが、物理では俺に勝てないと思わせあえて初級魔法しか使わず魔法ならばという油断を生ませた昨日の午後の実技授業が功を奏したといったところか。


結局、先頭ををエグニス、ムルド、トルス。その後ろにルーチェとリリアン。最後尾に俺たちという並びで坑道を進む事になった。更に俺はツルハシを置いていく事になった。見た目は手ぶらだ…状況によっては丸腰の相手を坑道の中で魔物に殺されたように見せかけて集団で嬲り殺すようにしか思えない。だが、プレイヤー専用オプションであるアイテムボックスの中にはミスリル製の武器や防具やアクセサリー、更に無数の釘バットを入れてある。


そんな展開になったら楽なんだが、理由が疑わしいからでは弱い。生憎と俺たちの捜索する場所はドーナツを作った場所ではないから俺が何かしたのは分からないし、無闇にそんな事をすれば勇者はただの殺人集団なわけだが…いや、そんなの普通か。所詮勇者一行なんてのは殺人集団だ…俺の狂気に思える行動だって力が強すぎるだけで立場が違えば正義と思わせる事が出来る。まあ、悪の方が楽なんだがな…誰かに正しいなんて思わせるなんて面倒の極みだし。






数時間後、俺たちは捜索範囲である坑道をしらみ潰しに歩き続けた。俺以外のメンバーは鎧を着込んでいるので体力の消耗も激しいが諦める事はしない。律儀な奴らだ…



「落盤で通れない道が多いね。迂回出来るから良いけど…シャルロッテさんが下敷きになっていない事を祈るよ」



トルスの魔法スキルも低く、わざと落盤させてある通路を開くという真似は出来ない。少し開けた場所で休憩をする事になったが、ここがパーティ分断のポイント地点だったりする。



「あー…ところでキッシュちゃん。トイレってどうすればいいのかにゃ?」


「……ああ。通路の影とかで垂れ流せ。ダンジョンじゃよくある話だ」



ルーチェが尿意か便意を催した。本来ならばここの天井が崩れて分断の予定だったが都合が良い。俺の言葉を聞いてルーチェとリリアンは左の通路、ムルドとトルスは右の通路へそれぞれ歩いて行った。と同時に透明化していた魔族がその通路を塞ぐ形で落盤を起こした。



「なっ…通路まで下がれっ!」



俺はわざとらしく声を荒げて残りのメンバーに避難を呼び掛ける…が、それより早く天井が崩れエグニスと分断される。



「俺は奥の通路へ行く。お前たちは戻れ」


「分かった。迂回して出られる場所があるはずだ。僕たちもそちらへ向かう。後で落ち合おう」



エグニスも予定通り奥へと行き、俺はフィルムットとアイリスと一緒に来た道へと戻ってきた。茶番だったが、まあ及第点だ…まさかトイレで予定通り分断出来るとは思ってなかったが良しとしよう。



「マップはトルスが持っていたか…アイリス。道は覚えているか?」


「…分からない。あっちこっち歩き過ぎ」


「安心しろ。置き石をしておいたから行ってない方向はある程度分かる」



プレイヤー専用のマップ表示とは言わないが、ここで信用されなければならない。こいつらが一番疑ってるわけだし…



「…ある程度か。とりあえず皆と合流する事を考えよう。キッシュ、先頭を歩いてくれ」


「仕方ないな。但し、合流するまでだ。この状況で刺してきたらお前たちを巻き込んで天井を崩落させるからな」


「今のところ怪しい行動をしていないから信用する事にしただけだ。それはこちらも同じと言っておこう」



ホント、可愛くない奴だ…こんな奴だったかとも思うが、片玉とは言い争いしてるのも多かったっけ。



「早く行く…皆が心配」


「そうだな。エグニスはともかく、2人組になってしまった方は心配だ。どちらかが偽者であった場合、本物が殺されるかもしれない」


「…いい加減にしてくれ。僕たちの中に偽者なんて居ない。皆、魔王を倒すため集まった仲間だっ!」



いや、その仲間に裏切られて殺されただろお前と言いたいし、それを俺に適用してないだろうがと…



「…そういう事にしておこう。但し、俺は偽者だ。学園が偽者を炙り出すために送り込んだ監視者といったところだ」


「なっ…」


「…やっぱり、偽者…」



咄嗟に身構える2人。まあ、当然かもしれないが学園が送り込んだと言った事を頭に入れてないな…この状況なら仕方ないか。



「落ち着け。今のところお前たちをどうこうしようとは思っていない。偽者には然るべき処分を下す事になるがな…ヴァンの事は勇者の実力を試すつもりでやった事だ。多少の私怨はあったが、リリアンが回復させる事は見越していた。やり過ぎて完全回復とはいかなかったがな」


「…シャルロッテの事はどう説明する?」


「監視者といっても学園外までは知らない。プライベートでどうなるかは学園も管轄外だ…だが、学園も勇者を失うのは望まないからこそ冒険者まで雇って捜させている。俺が懸念しているのはシャルロッテが偽者でここへ捜索に来た勇者たちを罠に嵌めて殺すという事だ。さっきの落盤もあまりにも出来すぎている。魔王と結託して何かしらの方法で意図的にやったという可能性も捨てきれないだろう?」


「…言われてみれば、だがそれなら何故昨日は…」


「一緒に捜さなかったのかだろ…一緒に捜すよりは効率が良いから別で動いていただけだ。今日だってお前たちが強引に加わる事を見越して待っていた。それだけだ」



よくもまあ口から出まかせ言えるなと感心するよ、俺の口。完全には納得していないみたいだがする必要は無い。俺が偽者だが学園関係者と分かれば良いだけだ…決して額の証をさっさと消したかったからではない。



「今は一応信じる。それより皆と合流急ぐ…」


「……そうだな。キッシュの言う事は信じたくないが可能性がある以上、早く合流すべきだ。急ごう」


「ああ。行くぞ」



俺は背後に気をつけながら先を歩いて行く。まあ、辿り着く頃にはお仲間さんは坑道から消え失せているんですけどね。今頃、塞がれて行き止まりになっていると知らず辿り着いた先で四天王たちが正体を現して一方的な嬲りをしているはずだ。で、それが済み次第魔族によって塞がれていた通路が開かれ着いた時には神隠しのように消えていたとなる。


まあ、実際はロリ魔王の特殊能力によって四天王と勇者を回収するという展開だ。その後は四天王の飼育ペットとしての余生を過ごす事になる。まあ、トルスは良い奴だったんだが仕方ないよ。お前のお父上が悪いのだよと思う事にしよう。


結局、予定通りに事が進んだようでそれぞれの場所へ辿り着いた時には勇者たちの武器と防具、血溜まりを残して体は消え失せていた。蘇生させないといけないのか…面倒臭い。


神隠しか魔物に食われたか…この坑道には何かが居ると噂される事になるのは少し後の話だ。勇者たちは誰も見つからず推定死亡という事になり、フィルムットとアイリスは絶望しながらもおぼつかない足取りで俺と共に坑道を後にした。


果たして、勇者たちは生きているのか。偽者は誰だったのか…残りは片玉とこの2人。もはや、魔王を倒す気力も無いこの3人に生きる気力が戻るのか。そんな事は知らないが、メシウマなのは違いない。そう思わないと蘇生の時に見るグロに耐えられない気がする。

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