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第五話

 展望台へ上がると裕樹は思わず耳を塞いだ。飛行船の周りを飛び回る巨大なコウモリのような生き物が鳴いているのだ。だが、それよりも目についたのは、船の上に乗っている巨大な鳥だった。嘴は大きく伸び、体は羽毛ではなくなめした革のようで、翼というよりは腕と体の間に膜が張られたような姿だった。さっきはなかった砲台がコウモリを撃ってはいるが、数が多くて焼け石に水状態だ。

「ビッグ・グリーズ……」

「今年はバルトが大量発生した年ですから……それに釣られたんだと」

 ビッグ・グリーズと呼ばれた鳥は楽しそうにバルトと呼ばれたコウモリを食べている。仲間を何匹も食べられたのであろうバルトも反撃しているが、あまり利いているようには思えない。

「人を襲うような魔物じゃないけど……このままじゃ船が落ちるね。追い払う前にさっきの男達を助けないと」

 探すと、ビッグ・グリーズの足下で震えていた。どうやら目覚めたようだが腰が抜けて立てないらしい。今まで潰されていないのが不思議だ。

「裕樹さん、足に集中すれば魔力はそっちにいくはずです。もしもの時は魔法石を押してください。そこがスイッチになってますから」

 何のスイッチかは聞かなかったが、すぐに走り出した。一瞬で男達の元へ辿り着く。抱えようと手を伸ばすと丁度、ビッグ・グリーズの太い足が迫る。思わず右手で弾いたが、難なく足は飛ぶ。襲うためではなく直すために動かした足を飛ばされ、ビッグ・グリーズは大きくよろめき倒れた。その衝撃で船もガクンと落ち込む。裕樹はすぐに二人を抱え、同じ速さで戻る。

「馴染んでいるようですね」

 リアに手甲の様子を見られる。特に意識することもなく手甲を利用できているようだ。

「ちょっと裕樹何やってるの!」

「この船の動力は魔法石ですから沈むことは……」

「違う違う」

 リアの声を遮ってキャロが指を差す。その方向を見ると、ビッグ・グリーズがこちらを見据えていた。

「あらら、お怒りのようで……」

 突き出された嘴を軽くかわす。この手甲は反応速度まで上げてくれるのか。

 気づくとさっきまでうるさかったバルトも消え去り、さっき助けた男二人もいなくなっていた。

「エサがなくなったから飛んでくと思ったけど……」

 再び突き出された嘴をまたかわし、今度は警棒を叩きつける。

「随分と戦い馴れたんだね」

 だが、今の攻撃で警棒は根元から砕けている。

「あいつの嘴硬いんだな」

「当たり前だよ」

 言いながらキャロは適当に引き金を引く。外れると思ったが不思議なことに、弾はおかしな軌道を描いてビッグ・グリーズの目に当たった。

「弾に魔法をかけてみました」

 説明するようにキャロは言う。

「弾速は遅くなるけど当てやすくなるから。専用の銃じゃないから時間かかったけど」

 片目を潰されたビッグ・グリーズは慎重になったようだが、まだ飛び立とうとはしない。追撃をかけようとすると、裕樹とキャロの後ろからビッグ・グリーズに向かって黄色い弾が連続で飛んでいく。振り返るとリアが砲台に立っていた。

 最初は耐えていたビッグ・グリーズもすぐに鳴き声を上げて飛び去った。戻って来ないことを確認してリアが下りて来た。

「いつの間に」

「あれは人力で動かせるようにもなっているんです。魔法石を使っていますから魔力が尽きない限り弾切れを起こさないところがいいですよね」

 急に重たい物がなくなった船はフワリと浮力を取り戻す。

「早く中に戻ろう。説明するのも大変だから」

 船内では早くも明かりが戻り始め、職員達が中を見回っていた。捕まったら説明が大変だと三人は、コッソリと部屋に戻り眠りについた。


 次の日。あんなことがあったのに飛行船は無事、ユーバイ諸島に着いた。裕樹は意外に思っていたが、キャロに言わせれば「船が襲われるのなんて日常茶飯事だから会社も一々謝ってられない」ということだった。

 降りたのはユーバイ諸島唯一の空港、レウィントン国際空港。俗に高山都市と呼ばれるこの都市は、その呼び名の通り高い山の頂上にある。故に外に出るとすぐ、裕樹は肩で息をしていた。古代遺跡のような建築物が並ぶこの都市は観光地としても人気で、周りを見ると同じように息を荒くしている人がいた。

「早く下に降りよう……」

 麓行きの馬車を見ながら裕樹は言う。だがキャロは辺りを見渡していた。

「そうしてあげたいんだけど……あった。まずはあそこだね」

 キャロが向かった先には、剣が交差された模様の看板を下げた店があった。近付いてみると店頭にまで武器が並び、予想通り武器屋だった。

 店内には外以上に武器が陳列され、全てを見て回るだけで日が暮れそうだ。

「リアは何か持ったりするの?」

「いえ、私はあまり戦闘はしませんので」

 二人が見ている間に裕樹は店内をウロウロする。武器のことはわからないのもあったが、左手の手甲だけで十分だという意識もあった。なので武器を見ているのも、探すというよりも眺めるに近かった。

 店内は意外と広く、見ている間に二人の声も聞こえなくなっていた。馴れてきたのかそれ程息苦しくもなくなっていた。合流しようとも思わずなおも奥へと進む。すると、ほかの武器とは展示から違う剣があった。

 見た目はただの剣だが、柄頭の石が印象的だった。パッと見ると宝石のようだが、裕樹は直感的にこれが魔法石だと感じていた。心なしか光っているようにも思える。なぜだか、ずっと見ていたくなる魅力があった。

「その剣が気になるのかい?」

 危うく悲鳴をあげるところだった。てっきり自分とキャロ達だけかと思ったらほかにも人がいたようだ。振り返ると、ローブを目深に被った人物が立っていた。先程の声から男だと推測できる。

「君は……ハンターかな?」

 ハンターというものが何かはわからなかったが、軍人とバレないように裕樹は頷いた。だが男はそんなことはどうでもいいようだ。すでに剣の方に視線が移っている。

「この剣に魅せられていくつもの争いが起こり、何人も死んだ。あまり関わらないことだね」

 見た目は怪しいこの男だが、その言葉にはなぜか引きつけられていた。

「なにをしに来たんだ? ハンターが武器屋に来て観光はないだろう」

「秘境バオイヤガムに……調査で」

 驚いているのが雰囲気でわかる。

「中々……あそこに行くならバオリ族に会うといい。何を調査しているかはわからないが、力になってくれるだろう」

 それだけ言うと男は去っていった。入れ違いにキャロとリアが顔を出した。

「いたいた。探したよ」

「買い物終わりましたよ」

 二人について出る時、もう一度剣の方を見たがやはり心は引っかかっていた。

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