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水沢学園生徒会

水沢学園生徒会室にて

作者: 梨露

 水沢学園は、超の付く金持ち学校。

 いわゆる、立派なところのご子息やご令嬢の通う学校だ。

 だが、この私、坂部(さかべ) (りん)は平凡な一般市民である。

 ならなぜ、この私がこんなところに通えているか、端的に言って、奨学金制度があるからだ。

 決して裕福ではない私だが、頭のほうはなかなかよく、この奨学金制度に飛びついたのが、入学と同時になぜか生徒会役員に選ばれてしまったのだ。全くもってツイてない。

 これは、そんな私が所属する生徒会室での様子てである。


 私は、絶賛仕事中であった。

 役職は、書記。低くも高くもない、平凡な地位。

 仕事といっても雑用のようなものだけど、如何せん量が多い。おまけに、締め切りが明日ときた。誰だよ、ギリギリまで残したやつ。………私だ。

 急遽終わらせなくてはいけなくて、生徒会室に役員全員集合してもらい、放課後に居残りをしていた。


「おい、なに、手ぇ止めてんだ。さっさと動かせ、クソチビ」


 低いテーブルをはさんで向かいのソファに座る赤い髪のさる……ではなく男子生徒の言葉にカチンときた。

 しかし、原因が自分の為、言い返すことができない。悔しいので、じろりと睨みつけると鼻で笑われた。腹立つ。


 彼は、関道(せきどう) (つかさ)。2年生。役職は私と同じ書記。なんていう、厄職。

 短くカットした赤髪をいつも立たせている。大柄な体格をもつ、元バスケ部員。ヤンチャな少年のようだと人気がある、イケメン。腹立つけど、イケメン。


「まあまあ、二人とも。喧嘩してたら、終わらないよ」


 優しい声色でテーブルに紅茶をおいてくれたのは、ひとつ上の先輩。


「ありがとうございます。橘先輩」


 関島とは真逆の態度で、橘先輩に笑いかけてお礼を言う。

 (たちばな) 春臣(はるおみ)先輩。役職は議長。

 染めてない茶髪と垂れ目は優しそうで、まさしく癒やし系。その場にいるだけで癒される。気遣い上手で頼りになる先輩。文句なしのイケメン。


「たーちばなー、俺にもこーちゃ」


 手を上げて紅茶をねだる金髪にも、仕方なさそうに紅茶を持ってきてくれる橘先輩。本当に、優しい。


「さんきゅ〜」


 そう言って笑う姿は、男性なのに何故かセクシーだ。

 そんな彼は、霧島(きりしま) (かなで)。高3で役職は、会計。その顔に似合わず、細かい帳簿付けが得意だったりする。初めてその様子を見たときは、主婦かと内心突っ込んだものだ。

 脱色した長めの髪は下品ではなく、その声といいその目といい、やたらとセクシーな人。勿論、イケメン。


 すると、ずいっと、書類が目の前に差し出された。

 驚いて上を見上げると、強面な顔が見下ろしている。


「これ、終わった」

「あ、はい。ありがとうございました」


 お礼を言って、書類を受け取ると、彼は表情筋を動かすことなく、去っていった。 


 黒須(くろす) 篤人(あつと)。彼も高3で、役職は副会長。

 黒髪はスポーツ刈り。だが、ダサくない。体格がいいせいか。

 背が役員の中でも一番高い。顔は強面な上に無口なものだから、恐がられる。本当は、めっちゃ優しいのに。イケメン、というか、端正な顔立ちと言った風。


 受け取った書類を確認しながら、チラリと部屋の奥に目を向けた。

 そこにある大きなデスクに座るのは、我らが生徒会長、白崎(しろさき) (きょう)。3年だ。

 黒髪に銀縁眼鏡、切れ長な目は、真面目な性格を現してるよう。

 普段から滅多に笑わないところは黒須先輩と同じだが、こっちは冷たい。怒ってる時の声など、冷凍ビームかと思う。むしろ、空気が凍る。比喩なんかじゃなくて。

 なのに、当然のようにイケメンだ。容姿端麗という言葉がよく似合う。


 今更だけど、私には前世の記憶がある。

 そう、この世界は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界なのです。

 道理で、生徒会メンバーがイケメンばかりだ。

 その上、坂部燐というのは、主人公の初期ネームだったりする。ガッツリ主人公に転生していた。

 といっても、記憶が戻ったのはゲーム期間の後。おまけに元攻略対象者たちはすっかり攻略できる状態ではなかった。

 まぁ、私自身も攻略だの逆ハーレムだのに興味はなく、むしろ違う方に力を入れていたから、何にも起こらなかった。


「…………坂部」

「!!!はい、」


 突然、会長に呼ばれ、体がはねる。


「な、なんでしょう」

「?なんでそんな硬い口調なんだ?」


 うるさい!会長に呼ばれるとか嫌な予感しかしないんだよ!!と心の中で逆ギレするものの、表情にはださない。


「なんでもないですよー」


 へらりと笑って誤魔化す。

 うん、引き攣ってないはずだ。


「……そうか。それで、あとどれくらい掛かりそうだ?」


 会長が指指すのは私の手の中の書類。

 それと、他の人から渡されたものも見る。


「うん、これで全部終わりました」


 なんだかんだと優秀な彼らによって、仕事は無事終わった。

 皆、やれやれと伸びをしたり首をまわしたりしている。


「もうこんなことやらかすんじゃねーよ、ドチビ」

「言われなくても分かってるっての、山猿」

「んだと、コラ」


 お互いの言葉が引き金となって、睨み合いバトルが始まる。それを止めるのは、橘先輩。


「はいはい、睨み合わない。さっさと帰ろうよ」


 先輩の口から『帰る』という単語がでると、廊下の方から沢山の足音が聞こえてきた。

 すると間を置かないで、生徒会室の扉が開かれた。


「「「燐ちゃん!!!帰ろ!!!!」」」



 同時に私の両腕が拘束され、背後から抱きしめられる。両腕、背中にやわらかい感触があたる。

 右腕に背の低い少女が顔を上げた。


「お疲れ様ですわ、燐ちゃん!燐ちゃんが終わったら一緒に帰ろうと、待っていましたのよ!」

「翔子、こんな暗くなるまで……ありがとう」


 私のお礼ににっこり笑う、翔子。超可愛い。

 咲川(さきかわ) 翔子(しょうこ)。高2。クルクルと巻かれた髪に少しつり目な美少女は、ゲームの中では関道攻略の際のライバルキャラだ。

 生粋のお嬢様で、一応御曹司な関道の婚約者だ。

 ゲーム内では裏で手をまわして主人公を貶めようとする意地悪女王様的な子だったけれど、現実では、べたべたに甘えてくる、素直な子だ。関道になんか勿体ない。非常に勿体ない。


「ち、ちょっと!!翔子だけじゃなく、私も待ってたんですけどー」


 左腕で口を尖らすのは、松本(まつもと) (あかり)。高2。こちらは、橘先輩ルートのライバルキャラで、彼の幼馴染。肩口で髪は切りそろえられて、頭には水色のカチューシャ。


「分かってるよ。ありがと、灯」

「べ、別に、勝手に待ってただけだし、お礼を言われるようなことでもないけどー」


 今度は真っ赤になる灯。ツンデレ気質はゲームでも同じだが、向こうでは橘先輩に発揮されるものが私に働いている。めっちゃ可愛い。


「りんりーん、わたしにはー?なんにもないのー」


 そう言って、後ろからその豊満なお胸を押し付けてくるのは、竹野内(たけのうち) 胡桃(くるみ)さん。高3。霧島先輩ルートのライバルキャラ。

 大きな胸に細長い足、背も高いと、三拍子そろったモデル体型さんだ。

 さすが、ゲームでは上から威圧してきて、私の貧相な体を笑うだけある。その貧相さは現実でも変わらないけれど……。


「そんなことないですよー。胡桃さんも待っててくれて、ありがとうございますー」


 胡桃さんに似せた口調で返すと、クスクスと後ろから笑い声が聞こえる。ほんと、同姓なのに、ドキドキさせる人だ。


「そういえば、エルと皐月さんは?」


 そう聞くと、扉の向こうから、黒髪美女と、彼女に手を引かれた小さい金髪碧眼美少女がきた。


「お疲れ様、燐ちゃん。エルちゃんが転んじゃって、遅くなってしまったわ」


 エルちゃんと呼ばれた少女は、皐月さんの手を離すと、テテテとこちらによってきた。

 そのまま私のお腹のあたりをハグすると、顔を上げてニコッと笑った。


「燐、おつかれさま。一緒にかえろ?」

「ありがとう、エル」


 鼻血ものな笑顔に笑い返して、左右の二人に離してもらった手で彼女の頭を撫でる。

 エリミア・ロレンス、通称エルは、黒須先輩ルートのライバルキャラ。

 金髪ツインテールに碧眼、睫毛バッサバサな生粋のイギリス人だけど、日本に暮らしている、ちょっとぼんやりした少女だ。

 ゲームのヤンデレキャラとは大違いである。


 そんなやり取りをしていると、黒髪美女の皐月さんが近寄ってきた。


「相変わらずモテモテね、燐ちゃんは」


 そう笑う彼女は、新島(にいじま) 皐月(さつき)さん。ゲームの中では、白崎会長のルートのライバルキャラだった人。背中に流れる艷やかな黒髪が美しい。

 品行方正、成績優秀、大和撫子を代名詞に掲げる才女様だ。この人をライバルに競ったゲームの坂部燐の度胸はすごいと思う。


 そして彼女の言うとおり、自分で言うのもなんだけど、私は元ライバルキャラたちに好かれてる。それも大のつくほど。

 そう、私が攻略したのは攻略対象ではなく、そのライバルキャラ。逆ハーレムならぬ、親友ハーレムを形成したのだ!!

 もともとライバルキャラたちが可愛くて仕方なかった為、彼女たちにそれとなく猛アタック!!よって、彼女たちの『親友』の座を手に入れた。


「私も一緒に帰りたい、って言いたいところなんだけど……」


 言葉を切って顔を少し赤らめた皐月さん。その様子にピンとくる。


「もしかして、速水先生が待ってるんですか?」


 予想は正解だったらしく、皐月さんの顔が真っ赤になった。


「ま、まぁ、そんなところね」


 ワタワタしだした皐月さんがとても可愛い。

 そんな皐月さんは、保険医の速水先生と付きあっていたりする。速水先生は、ゲームのでは隠れキャラ。大人な男性で、様々なアドバイスをくれたりした。

 ゲーム内では会長と婚約していた皐月さんだけれど、現実ではそれより早く速水先生と想い合うようになり、今は、この学園の理事長でもある彼と婚約している。


「そんなことなら、早く行ってあげてください。先生が待ってますよ」


 そう言うと、照れ笑いしながら皐月さんは黒髪をなびかせ出て行った。それを見送ると、突然、私の体が軽くなった。


 あれ、と思い辺りを見渡すと、皆さん、各々の『彼氏』に捕まっていた。

 そう、ライバルキャラ達は、しっかりと攻略キャラをものにしている。まぁ、私が邪魔をしなかったのだから、当然と言えば、当然か。

 だが、彼女たちが彼氏にべたぼれかと言えば、生憎とそうでなく……


「ちょっと、司!何するのですか!!」

「うるせーよ!俺の許可なく、あいつにべたべたしてんじゃねーよ!!」

 関道に抱きあげられてしまった翔子。


「は、春くん!?」

「残念だけど、今日は坂部さんとのお出かけは、駄目かなぁ」

 橘先輩に抱きこまれた灯。


「胡桃、なんで俺がいるのに、坂部ちゃんの方に行っちゃうのかなぁ」

「なんでって、当り前でしょ。燐ちゃんの方が可愛いからよ」

 霧島先輩に背中から抱きつかれた胡桃さん。


「篤人、おろして」 

「駄目」

 黒須先輩に抱えられたエル。


 いやぁ、何の因果か、攻略キャラ達の矢印が、全力でライバルキャラへといってしまったんだよね。故に、溺愛。

 そう考えると、皐月さんは異例だ。

 確かに、速水先生にはライバルキャラがいなかった。まぁ、隠しキャラだからなのだが。

 てっきり、皐月さんと会長が付き合うものだと思っていたが、この場合、会長が振られたことになるのか……??


 考えを巡らせているうち、周りが騒がしくなってきた。


「どうしてあなたの許可なんかが必要なんですの!?……は!まさか、憐ちゃんに手を出す気なんですの!?そんなの許しませんわ!!憐ちゃんは私たちのものです!!」

「誰があんな奴いるか!!ったく、毎日毎日あいつとばっか帰んな!お前は、俺の婚約者だろ!!」

「だからなんですか!?私は燐ちゃんと帰りたいんですの!!」


 そんな痴話喧嘩を繰り広げる関道×翔子夫婦ではなく、カップル。

 対等に喧嘩しているようにみえて、翔子をその筋肉質な腕で抱き上げたままでいるところをみると、関道の方が優勢なのだろう。結果が見えるようだ。


「ちょっ!司!!どこいくんですの!!」


 予想通り、そのまま生徒会室の外へと運ばれていく翔子。


「帰るんだよ。俺の仕事も終わったしな」

「かえ!嫌ですわ!今日は憐ちゃんたちとクレープを食べに行く約束を――――」


 バタンと重厚な扉が閉ざされて翔子の声は聞こえなくなった。

 あーあ、行っちゃった。だが、あの状態の関道に逆らうのは、私も嫌だし、翔子も無理だろう。心の中で合掌して許してもらうことにしよう。


 続いてとばかりに視線を巡らせる。

 橘先輩の腕の中に優しく、だがしっかりと抱きこまれている灯が、彼を見あげて必死に説得をしていた。

 身長差があるために自然と上眼づかいになるのがかなり可愛い。いつも通りの頬笑みを浮かべている橘先輩も内心にやけまくっているに違いない。


「春くん、どうしてもダメ?燐とクレープ食べに行くの」

「今日は食事会があるって行ってただろう?万が一遅れでもしたら、出席者に申し訳が立たない」


 橘先輩と灯の家が行う食事会ならば、相当なお偉いさんまで呼ばれるんだろう。御子息御令嬢は大変だ。

 見るからにショボンとしてしまった灯は、こちらまで悲しくなってしまうような落ち込みよう。


「そんなに行きたいなら、今度連れて行ってあげるよ」

「………燐と一緒に行きたかったのに」


 ぼそりと呟かれた灯のセリフに、橘先輩の無言の重圧が私にかかる。

 ひぃぃぃ!!さっきまでの癒し系優しい先輩は何処へ!!てか、さりげなデートの約束をこじつけようとしたのを失敗したのは、私のせいじゃないぃぃぃ!!


「……今日は、灯の好きな『full‐rhe』のチョコケーキを用意してあるから、それで許してくれない?」

「ふ、『full‐rhe』のチョコケーキ……」


 結局、灯は超有名店のチョコケーキに釣られて、至極残念そうにしながらも橘先輩に連れてかれた。

 それを笑顔で見送って、強張っていた肩から力を抜く。


 と、突然、背後からやたらと卑猥?いや、セクシー??とりあえず、そんな声がして、鳥肌が立った。


「胡桃ー、最近冷たくない??」

「重いわよ、奏」


 砂糖を吐きそうなほど甘い霧島先輩の言葉を冷たくスルー胡桃さんは、彼に背中から抱きつかれていた。

 霧島先輩の左手は彼女の細腰にまわされ、右手はその細腕を撫でている。

 その右手は徐々に上へと登り、胡桃さんの顎をくいっとあげると、その顔を近づけた。


「あんまり冷たくすると、俺も容赦しないよ……?」


 その怪しげな声音に背筋がゾクッとした。もう、全身の毛の穴が開いたんじゃないかと思うくらいにゾクッとした。こんなもん、セクシーじゃない、普通に卑猥だ!!

 距離が離れている私でもこんなになっているんだ。キスができそうなほど顔を近づけられた胡桃さんはたまらないだろう。


「、わかった、わよ……」


 その頬をほのかに赤く染め、俯く胡桃さん。彼女はその性格から滅多に頬を染めることはない。

 だが、その様子は非常に愛らしく、思わず見とれていると、霧島先輩に睨まれた。いいじゃないか、同姓なんだから。


 そのまま胡桃さんは上機嫌な霧島先輩に手を引かれて帰って行った。


 2人を見送っていると、背後から大きな影が現れた。エルを抱いた黒須先輩だ。


「2人も帰るんですか?」


 そう問いかけると同時にうなづく無言カップル。

 どうやら、ほかのカップルのあれこれの間に、こちらの2人のお話は終わっていたようだ。


 あの中で最も大柄な黒須先輩に、あの中で最も小柄なエルは、その腕の中にすっぽりとおさめられていた。

 その体格の違いから、下手したら幼子をかどわかした怪しい現場に立ち会っている気もしてくるが、彼らはれっきとした恋人同士である。まぁ、実際何度か通報されかけたことはあるようだが……。


「お婆ちゃんが、来るって」


 嬉しそうに笑うエルは、幼少期、北欧で祖母に育てられた。

 エルは日本に移り住むとき、彼女の祖母はあちらに残ったが、年に数回、彼女の祖母は日本を訪ねるため、その日をエルは毎回とても楽しみにしているのだ。


「そっか。お婆さんとたくさん話しておいでね」


 うん、と大きく頷いて、2人は部屋を出て行った。


 バタンと扉が閉められ、さっきまでの騒がしさが嘘のように、生徒会室が静まる。


「……私も帰るか」


 皆でクレープを食べに行く約束は流れてしまったので、今日は直帰することにしよう。

 ソファの横に置いてあったカバンをとろうとすると、先にそれを持って行ってしまう手があった。

 それが、誰の手か。考えるまでもなく、唯一残っていたのは会長しかいないわけで。


「何しているんですか、会長」


 私のカバンを持ったまま見つめてくる会長に問いかける。


「坂部」

「はい?」


 名前を呼ばれたので返事をしたが沈黙を返されるだけで、だんだんイライラしてくる。

 さっさとカバンかえしてくれないかなぁ。


「………このあと、どうする予定だ?」

「どうするって……普通に帰るつもりですが?」

「そうか」

「はい」


 また、沈黙。

 なんだ、これ。新手の嫌がらせか?

 じれったくなって、無理やり取り返そうとカバンにてを伸ばす。


「後藤のメロンパン……」


 会長のその一言が、私の動きを止めた。

 後藤さんというのは、会長のお世話係というか、執事みたいな人だ。

 執事とか実際にいるんだぁ、って感じだったけれど、後藤さん自身はとってもいい人で、彼がつくるメロンパンは絶品だ。


「まさか……あるんですか……??」

「朝、作って待ってると言われてきた」

「待ってるって、会長のおうちで……??」

「まぁ、そうなる、な」

「…………」


 会長の目をじっと見つめる。じーっと。じーっと。


「……連れて行ってやろうか?」

「、いいんですか!?」

「………ああ」


 おっしゃ、きたぁぁぁぁ!!!両手を握りしめて、小さくガッツポーズする。

 後藤さんのメロンパンにありつけるなんて、最高の日だ、今日は。仕事のミスのことなど、私の頭から既に吹っ飛んでる。


「そうと決まれば、早く行きましょう!!」

「、ああ」


 なんだかうろたえている会長の背中をおして、廊下に出る。

 さあ、まってろよー!私のメロンパンーー!




**********



〈その日の朝 白崎邸にて〉


後「いいですか、ぼっちゃん。しっかり誘ってくるんですよ」

白「………………ああ」

後「なんですか、そのやる気のない返事は。そんなだから、彼女が入学してきたときに一目惚れしたというのに、未だに業務連絡でしか話せないんですよ」

白「それは今、関係ないだろう」

後「関係なくないでしょう。まったく、顔を赤くしている暇があったら、デートの1つや2つ、取り付けてくればいいものを」

白「!!!!!」


(顔が赤くなっている自覚のない白崎会長。まぁ、実際そんなに赤い訳じゃありません。後藤さんだからわかることです)



〈関道・翔子 お迎えの車内で〉


関「………翔子」

翔「…………………」

関「おい、翔子!」

翔「……………………」

関「いい加減機嫌直してくれよ」

翔「……………先週」

関「あ?」

翔「先週の月曜日から、お稽古が重なっていましたの。だから、燐ちゃんがご褒美にって、約束してくれて………」

関「………………」

翔「楽しみに……してましたのに………」

関「…………悪かったよ。無理矢理連れ出して」

翔「………………」

関「でもよ、今日は駄目だったんだよ。俺じゃなくて、坂部の方が」

翔「燐ちゃんが?どうして?」

関「……会長が、あいつんとこ誘うんだと」

翔「あぁ、会長が……。あの人が司に直接??」

関「いや、橘先輩経由だ」

翔「ふーん。やっぱり。とうとう告白する気にでもなったのかしら?」

関「いや、そこまではまだ早いんじゃないか?」

翔「なんだ。さっさと決めなさいよ、あのヘタレ」

関「(ヘタレ………)」


(翔子、会長に辛辣です)



〈橘・灯 お迎えの車内で〉


灯「あーあ、クレープ………」

橘「そんなに食べたかったなら、藤沢(橘家シェフ)に頼んであげようか?」

灯「んーん。いい。燐と一緒に駅前のクレープ屋さんに行きたかっただけだから」

橘「(また、坂部さん………)」

灯「燐がそこの秘密、教えてくれるって、言ってたから……」

橘「(ああ、だから坂部さんと)」

灯「でも、仕方ないよね。会長さんが頑張るんなら」

橘「!!灯、どうしてそれを!?」

灯「え?だって、今日、会長さん、ちょっとそわそわしてたでしょ。それに、私達が一緒に帰るって言ってたとき、なんだか青ざめてたし」

橘「………………」

灯「それに、春くんもね」

橘「え?俺?」

灯「うん。ずっと会長さんのことチラチラ見てたし、早く私達を燐から引き離したそうだったでしょ?」

橘「……………」

灯「いつも自信満々な春くんが珍しく心配そうなんだもん。こっちまで心配なっちゃったよー」

橘「………灯」

灯「ん?なに?」

橘「好きだよ」


(すいません、バカップルです。何気に鋭い灯ちゃんを書きたかっただけなんだけど、バカップルな話になってしまいました)



〈霧島・胡桃 空き教室で〉


胡「ちょっ…………奏!!なんでこんなとこに、ん!」

霧「ちょっと黙ろうか、胡桃」

胡「、ん…………や、……黙ろうか、って、なん!!」

霧「だから、黙れって」

〜15分経過〜

胡「ハァハァハァハァ…………」

霧「あー、すっきりした」

胡「す……………っきりしたじゃないわよ……………。なんなのよ………………急に……………」

霧「別にー」

胡「……………奏?」

霧「何?」

胡「拗ねてんの?」

霧「そんなわけ」

胡「あるでしょ」

霧「……………………」

胡「心配しなくても、会長の考えていることは聞いてるし、燐ちゃんと帰る気なんてなかったわよ」

霧「………………会長のこと、聞いてたの?」

胡「ええ、皐月から」

霧「そう………」

胡「ほら、もう帰るわよ」

霧「…………胡桃」

胡「ん?」

霧「もうちょっとだけ」


(これって、R15なんかなぁ……。なんだか、エロそうな2人です。はすがに車中は可哀想かなぁ、と。なので、空き教室でした)



〈黒須・エル ロレンス邸にて〉


エ「…………篤人」

黒「……………なんだ?」

エ「お婆ちゃん、遅いねぇ」

黒「…………そう、だな」

エ「道に迷っちゃったのかな」

黒「もう何度も来ているんだ。それはないだろう」

エ「飛行機、遅れちゃったのかな」

黒「今日は、すべての便ご予定通りのはずだ」

エ「もしかして、事故、とか………」

黒「もしそんなことがあれば、真っ先にここに連絡がくる」

エ「…………そっか」

黒「心配しなくても、待っていれば来るよ」

エ「…………………うん」

〜3分経過〜

エ「………………篤人」

黒「…………………なんだ?」

エ「お婆ちゃん、遅いねぇ」

黒「…………………そう、だな」

繰り返すこと、30回


(彼らは、会長のこととは関係なしに、忙しそうです)



〈白崎・燐 白崎邸にて〉


燐「ふおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」

後「たくさん食べてくださいね」

燐「ふあい!(モグモグ)」

白「(もう食ってる)」

燐「(モグモグ)会長?食べないんですか?」

白「いや、食べるが…………」

燐「いやぁ、ほんと、後藤さんのメロンパンは最高ですねぇ」

後「お褒めに預かり、光栄ですよ」

白「………………」

燐「会長、具合でも悪いんですか?」

白「……どういう意味だ?」

燐「だって、顔、すっごく強張っていますよ」

白「!!!」

後「(はぁ………)」

燐「具合悪いんなら、休んだほうが」

白「大丈夫だ。体に別状はない」

燐「なら、いいですけど」

白「……………」

燐「………………(モグモグ)」

白「…………ゴホン、あー、ところで、坂部」

燐「?なんですか?」

白「俺は、家にいてまで役職で呼ばれたくないんだが」

燐「はぁ…………それじゃあ、白崎さんで?」

後「この家には、白崎さんばっかりだと思いますよ」

燐「(えー………)なら、なんて呼べば?」

白「恭でいいだろう」

燐「(いきなり名前呼びかよ。まぁ、仕方ないか)あー、じゃあ、恭さん?」

白「………………」

後「(あ、坊っちゃんが固まった)」

燐「あれ?おーい、かいちょ、じゃないや。きょーさーん」


(白崎会長、少し頑張りました)


初めまして

最初から、なんだか、いろいろやらかした気がします。

こんなにおまけ、書く気はなかったんだけどなー。

ぶっちゃけ、自分の趣味全開で書きました。

お目汚しになるかもしれませんが、楽しんでくださる方がいらっしゃれば幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヘタレな会長様が告白する日は来るのでしょうか? 求ム続編!
[一言] これは、まあ色んな意味で大変ですね。攻略対象者達が!
[一言] 恋人達も気になるので連載して欲しいです!お願いします。
感想一覧
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