first
それはまだ世界に人間というものがいなかった頃の話。
金属で作られた壁と床を持つ部屋にある「雄」が腰かけていた。
「雄」はアダムという名前であった。
その体は筋骨隆々で、精悍な風貌であった。
その傍には美しい姿で清水のような気品さを持つ「雌」、イヴがいた。
二人は世界で唯一のヒトという存在だった。
食事を必要とせず、老いることもない唯二無三の存在。
アダムとイヴは世界に対して退屈を感じていた。刺激のない日々を罵り、小馬鹿にさえしていた。
あるとき、二人はある物を食べた。
その表面は蒼く、中は鮮やかな黄色をした林檎と言われる果実だった。
無味無臭のそれは不味いとさえ言えるもので、溢れる果汁は腐っているようにも見えた。
あまりの不味さに二人は目眩を起こし、地べたに倒れてしまった。
何時間そうしていたのかも分からず、意識のハッキリしない淀む視界の中、アダムは目覚めた。
不意に声が聞こえた。それは『ここは…何処だ?』という低い声だった。
アダムはその声に反応しようと振り向こうとしたが、体は動かずに立ち上がる動作をしてしまった。
そしてまた同じ声が響いた。
『今…何時なんだ』
アダムの体はアダムの意思に反してキョロキョロと首を左右に向けた。
『一体…何がどう…なった』
その声は不安の色を隠せない音をしていた。
そして、アダムは初めて気づいた。今まで、聞こえていたその声は自分の口から出ていたことを。
そして同時に諭した。自分の体は動かないのではなく、今声を発した「この者」に体を乗っ取られているのだと。
『それ以前に僕は……僕は…誰だ』
そして「私は」元の体には居ない。
さっき食べた「果実」の中にいるのだと。
そう認識したときには、アダムの意識は完全に果実、林檎に移った。
さっきまでのように乗っ取られた自分の体の中から物を見ることは出来ず、林檎の中からでしか物を見えなくなってしまった。
『誰か、人は居ないのか』
そう言い、アダムの体と偽の魂は何処かへいってしまう。
待ってくれ!私よ!それは私の体だ!!
思いはすれど声にならないアダムの叫びはアダムの体に届かぬまま、偽の魂ごと、どんどん遠ざかっていく。
くそ!何がどうなっているのだ!?なんで私が果実なぞにッ!?体よ!待ってくれ!
焦りながら声を出す中。
すると、近くから別の声、アダムと同じ種類の『声』が聞こえてきた。
無理よ。どれだけ叫んでも彼らには聞こえないわ。
その声は美しくも麗しい「女」の声。私と共に生きてきたイヴの声だった。
イヴ!?イヴなのか!何処に居るのだ!?
貴方の横よ、アダム。私も貴方と同じようなってしまったみたい。
なに!?では、あの蒼い果実にか!?
…ええ。
まさか!あの果実を食べてしまったせいなのか!?何者かと私達は入れ替わってしまったのか!?
そのようね…。
な、なんということだ…。どうして、どうしてこんなことに…ッ。
アダム……。
こうして、ヒトであるアダムとイヴの身の中に蒼い果実であった林檎の魂が宿ることで、ヒトは「ヒトの間」と書く人間となった。
やがて人間のアダムとイヴは子を産み、そして時が経ち、今へと繋がるのである。
この物語意味が分からないんだけど