すれ違い
ある日偶然彼とばったり出会ってしまった...私の片思いの彼と...。
何となく街へと出かけ、久しぶりに沢山買い物何かしようかなって思って..上機嫌で街の通りを一人歩いてウィンドショッピングなんか楽しんでいた..最近友達と一緒にいるが疲れてきた...たまには一人になりたいってそう思ったから...でも..やっぱ家でゆっくりしていた方が良かったかもしれない...。人混みに紛れそれをかき分けて私は前を行く...ふとその時あの人の姿を見つけた...勇気を出して声でも掛けてみようかと思い小走りで近づいていった...すると、彼の横に誰かいることに気が付く...あれって...もしかして....
「..嘘...」
彼の横で微笑みながら腕を組んでいた女の子...それはクラスで噂されていた可愛らしい女の子...稲荷美優。最近彼とつき合っているんじゃないかって噂されていたっけ...しかも私の親友だ..。しばらく一気に重なった二重のショックでその場にたたずんで呆然としていた...。
「あれ?凛?」
不意に遠くでそう声がして、私はハッと我に返り気づかないふりをして急いできびすを返した。だって話したくもなかったから...走っている時、なんだか泣きそうな気がしてそれを抑えるのに必死で走った...絶対に泣かない!あたしの気持ちを美優は知らなかったんだから仕方ない...よく見ればお似合いだし、あの二人...明日会ったら笑顔で喜んであげなくちゃ....
「ありゃ?気づかなかったみたい。」
「え?凛がいたのか?」
一方、私の知らないところで、走り去った私の姿を見て美優は残念そうにそう言って頬に手を当てた...その後ろから、彼柏木海都が慌ててそう言うと気まずそうに頭をかく...彼は私の幼馴染み...
「見られたかな?」
「さぁ?あの子たまにほへ〜ってしてるからねぇ...」
「そうなんだよなぁ...」
翌朝、私は気を引き締めて学校へと向かう...昨日のことはショックだけど..ひと晩寝たら落ち着いてきたし!切り替え早いのが私の取り柄の一つだもん、きっと二人にあっても笑って話せる...きっと。
「おっはよぉ〜!」
教室に入るなり元気にそう挨拶したのは美優であった。彼女の笑顔を見て何となくほっとした...昨日のこと怪しまれて無くってよかったかも...。
「おはよ。」
私も何とか笑顔でそう言うと、席へと着いた。よし、普通でいられる...なんだか思ったよりショックじゃなかったのかも..そう思いつつドアにふと目を向けるとまさに海都が登校してくるところであった...目があった瞬間、私の心はものすごく混乱しだした..
「おはよ。」
「あ、おはよぉ〜!」
「お、おはよ...」
なんとか声をだしそう言うのが今の私にとって精一杯のことだった。けど、なんだか私の思考は思いっきり空回りして混乱している...お、落ち着かなくちゃ...とりあえず二人の事を笑顔で喜んであげなくては...そう思うけどなかなか頭が言うことを聞かない...なんだかそうしてるとここに..この二人の前にいるのがとても辛く、耐えられない...すぐにでもその場を去ってしまいたかったが金縛りみたいに動かない。
「どうしたの?凛?」
「...な、なんでも...ちょっと頭痛くって...保健室行ってくるね...」
「なんだ?本当に顔色悪いな...一人でいけるか?」
「平気!一人で行くから...」
なんだかほっといて欲しかった...海都の優しさがいつも嬉しいのに今はとても痛かった...だってもう、美優のものなんだもの。ふらふらした足取りで廊下へと出るとそのまま保健室まで行くとだれもいなかった...よかったぁ..。そう思った瞬間自然と涙が頬をつたって止めどなく流れた...それからしばらく、私は思いっきり泣いていた...。
「心配なら行けばいいのにぃ?」
教室、美優は心配そうにしている海都に向かってからかうようにそう言って背を思いっきり叩く...
「いってぇ〜...お前なぁ...人ごとだと思って。」
「思いは伝えろって言うでしょ?何のためにあたしが貴重な休日につきあってあげたのやら...」
「...でもなぁ〜...あいつ俺のことただの友達としかおもってねぇよ...」
「鈍いもんねぇ〜...二人とも。」
「はぁ?」
「さっさといけばぁ〜?そんな十年間も片思いしてんだったら。」
海都は少し戸惑ってから何か袋を手に取り教室を後にした...。そんな姿を美優は笑顔で見送る。
「肩が痛い...昨日変な寝方したせいかなぁ〜...」
一通り一人で思いっきり泣いたらなんだかすっきりして、私の思考は全く関係ない方向へと向きつつあった...今日の朝ご飯ちゃんと食べてくれば良かった...とか泣いたらお腹空いたなぁ〜...とか。私は物心ついたときから人前で泣いたことも、一人でこんなに泣いたこともなかった...久しぶりだなぁ〜...泣くなんて。すっきりした気持ちで顔を洗った後保健室を後にし、裏庭へと出る...授業なんかもう今はどうでもいいや...しばらく座ってほおづえをつきながら何とも無しにぼけ〜っとしていた。
ガララッ
私がこうしているころ、海都は保健室のドアを思いっきり開けていた。
「...なんでいないんだ?あいつ...」
からになった部屋の中を見て、溜息を一つつくと再び急いで廊下を走っていく..やがて、裏庭へと着くと私の姿を見つけつかつかと近づいてきた。
「おい..凛?」
「....」
私は全く気が付いていなかった...何とも無しに蝉の鳴き声を聞きながら木陰でぼけ〜っとしていたのだから...それに気が付いたのか、海都はさっきよりも大きな声でしかも耳元で私を呼んだ。
「凛!」
「うわぁ!?び、びっくりしたぁ...お、おお驚かせないでよ!?」
耳に手を当てながら、私は本当に驚いたので目を見開いて海都を見てそういう。
「さぼりか?」
「黙れ同類。私のことはほっといてよ...今現実逃避してたんだから。」
くるりと背を向け、私は再び前の体勢に立て直す...なんだかいつもの調子に戻ってきてる..人間思いっきり泣く事って必要なんだな...
「俺はお前を捜してたんだ!何で一つの場所にじっとしてられないんだ?」
「人間だし...」
「...なるほど。って耳塞ぐなよ!?」
「美優、心配してるわよ?」
「何であいつのことが?」
「つきあってるんでしょう?だって昨日二人が仲良く腕組んで歩いてるのみたし..なんか邪魔しちゃアレだから声は掛けなかったけどね?」
自分で何を言っているのかわからなくなってきた...これじゃあなんかひがみっぽくって嫌な感じ...でも心なしか顔は笑っているような気がした...。
「なんだあれかぁ?あれはちょっとな...でも、お前の勘違いだそれ。」
「この期に及んでなぁ〜に隠そうとしてんの?」
「嫌だから違うって!俺は..」
何か言いかけてから海都は言葉に詰まる...私は不思議そうに首を傾げその続きを待っていた。う〜ん...ならなんだというのだろうか?昨日何のために...
「これ買いに行くのつき合ってもらったんだよ...今日お前の誕生日だろ?それで..」
私の腕に綺麗にラッピングされた袋が押しつけられた...海都は、そっぽを向いていたが僅かに頬が赤くなっているのがわかった...なんだかそんな彼を見てると、私まで顔が熱くなってきた...えっと...勘違い...ってああ!そうか!
「あ、ありがとう。日頃お世話を掛けているからそのお詫びってことね?」
「お前俺がお袋に頼まれたと思ってるだろ?」
「え?違うの?」
私はこれはぼけているのではなく、本気でそう思って言ったのだが...なぜ溜息つくのだろう?海都は...
「凛...お前って前から思ってたんだけど..ものすっごく鈍いよな...」
「何よ?そんなことないわよ!体育はいつも5よ!」
「運動神経とは別だって....もういいや...そろそろ戻るぞ?」
海都に促され、私はそのまま廊下へと向かおうとした。その瞬間、耳元で何か彼が言った....
「え?」
前を行く海都を見て私はしばし時が止まったように動けず、たたずんで彼を見つめる...自分の顔が前よりも赤く熱くなり、心臓がばくばくと早く鳴っていくのがわかった。
「聞こえなかったか?」
その様子を見て、海都は苦笑し私を振り返るとじっと見つめる。
「しっかりと聞こえたわよ...」
「耳いいのな?それで?お前はどうなんだ?」
これを言うには勇気がいる...私はしっかりと深呼吸して心を落ちつかせると、海都の目を見て一言言った...好きだと。