英雄の継承
「ねぇ、〇〇〇〇〇〇。××ちゃんがいなくなっちゃったの」
「すまない、〇〇〇〇〇〇。私の代わりにこの食料を村まで届けに行ってくれないか」
「〇〇〇〇〇〇、大雨で橋が壊れて渡れなくなっちゃったんだ。どうにかしてくれないか」
ーー自分でどうにかしろよ。
この町の連中はとにかく人に頼る。自分で何とかしようという努力や姿勢なんてまるでない。全て他人任せのどうしようもない連中ばかりだった。
「助けてー! 〇〇〇〇〇〇!」
「お願いだ! 僕の大事な道具が奪われちゃったんだ! 〇〇〇〇〇〇、取り返してきてくれないか!」
「子供たちがさらわれた! 〇〇〇〇〇〇、皆を助けてくれないか!」
その上、治安も悪いときた。
悪さをするのはいつも決まった奴だが、警察や法が存在しないのかいつまで経っても悪事は繰り返されるばかりだった。
何度制裁を加えてもふざけた捨て台詞を残し、しばらくするとけろっとした顔でいつの間にか戻ってきてまた同じ罪を繰り返す。その理由もよく分からない。人の物を奪ったり、誘拐したりするが金銭を要求するわけでもない。どこから得ているのか分からない軍事力を持ち合わせているのも謎だ。
ーーさっさと死ねよ。
こんな奴がなぜ野放しになっているのか分からない。
普通なら死んでいるだろう攻撃にもこれまた謎の耐性と回復力で復帰してくる。普通じゃない存在なのは見た目と呼び名からも分かるのだが、どうにか抹殺できないだろうか。
だがそれよりも理不尽なことがある。
そのたびにこの世界がひどく狂っていることを実感させられる。
「ねぇ、〇〇〇〇〇〇。お腹空いた」
そう言って平気で人の頭を毟り取るのだ。
その瞬間の激痛たるやそれこそ気が狂いそうになる。人が脳味噌を千切られ食われているというのに、美味い美味いと笑顔を浮かべて平然としている。
それも一人や二人じゃない。この町の奴ら全員が、俺の頭は食べてもいいものだという同じ認識を持っているのだ。
でも俺はその全てを表に出せない。言葉も、感情も。
「じゃあ、僕の顔をお食べ」
本当の自分の感情とは全く別の言葉が自然と口から出る。
嫌だ嫌だと思っても、自ら頭をちぎり与え、好きでもない奴らのくだらない手助けをし、悪事を繰り返すバケモノに制裁を与える毎日。
「〇〇〇〇〇〇、新しい顔だよ」
異形ばかりの世界に存在する数少ない人間とおぼしき存在。だが俺からすればこいつこそ諸悪の根源だった。
どんな技術を使っているのか、そいつは当たり前のように人の頭部を量産している。劣化したり機能が落ちるとすぐにその場で交換が行われる。脳味噌を奪われているはずなのに、意識や思考などはそのまま継承される。本当の俺の意識は奥底に追いやられ、存在したままに。
甘くて美味しいと評判の頭部は、俺の目から見ればどう見ても人間の脳味噌にしか見えなかった。自分の脳味噌が食われている様は何度見ても不快で慣れなかった。
ーーどうしてこんな事に。
もうずっとこんなことが続いている。もといた世界はこうじゃなかったはずだ。だが気付いた時にはこの世界の英雄という役割を与えられていた。
俺より前と後があるのかは分からない。終わりがあるなら教えてほしい。
俺の中に残っているのは、この世界に来る瞬間の手前の記憶。
“〇〇〇〇〇〇は君さ”
それだけが頭にこびりついて残っていた。
何かは分からない。ただその言葉にひどく理不尽で矛盾したものを感じた。
〇〇〇〇〇〇はもういるじゃないか。
どうして俺が〇〇〇〇〇〇なんだ。
その感覚が最後であり始まりだった。
この世界に本当の平和が訪れれば、俺の地獄は終わるのだろうか。
しかしそれはいつになるのか。出口も終わりも分からない日々の中、俺は今日も英雄をやらされている。




