君の言葉はガラスを透き通る ― 140文字小説集
2025年度に旧twitterで発表した140文字小説のまとめ。
ユーザー企画などの「お題」は不使用です。
140文字で軌跡を振り返れば、一年分の花束に
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【君の言葉はガラスを透き通る】
「人はなんのために生きていると思う?」哲学的なことを君が言う。君はぴたりと手のひらを窓に置く。光だけを通す透明なガラスを。君の視線の先には麗らと俳句の季語にもなりそうな景色が広がっている。ガラスが反射して君の表情が淡く映る。僕は押し黙る。君は振り返って「死ぬためだよ」と笑った。
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【46億年の奇跡】
みんなが輝く星に見える時、君の手の中の小さなものが石ころに見えるかもしれない。キラキラと輝いている星はずっと遠くにある星で、人生をかけても届かない場所にある。それにその星は太陽みたいなもので、僕たちが住んでいる地球とは違う。君は地球という場所が石ころだって理由だけで嫌いになれる?
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【疲れた心に沁みる味】
「お疲れさまでした」と差し出されたのは缶のホットココア。ブラックコーヒーが好きな僕には甘すぎるデザートだったが善意を受け取った。駅のホームでホッカイロ代わりにしていたココアを開ける。甘い匂いは実家で作ってもらった練ココアを思い出して、缶のココアは心まであたたかくなる味がした。
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【天国への前借りをしている人生】
どこにいてもこの時間になると自然と息が苦しくなる。透明な手で首を絞められているような感覚で喉に違和感を覚える。12時間おきの薬の効果が薄れた証拠だった。血中濃度が下がり始めたのだろう。逆説的に言えば、私がまだ「生きてる」証明だった。私は苦しみの中にいながら、生きている喜びを知る。
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【180度の和】
「何で止めなかったの!?」彼女の死にこたえている知人が涙まじりに叫んだ。止められるような状況でもなかった、と俺は思う。「今まで他人の言いなりの人生を歩んできたんだ。死に方ぐらい本人の希望通りにさせてやるのが友だちだろ?」俺の言葉は空虚だ。彼女にとって自由になる方法は死だけだった。
※「三角形の内角の和は180度である」※
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【君は透き通っている】
君を通すと景色が変わって見える。不純物が濾過されてキラキラと透明な光を受けたようだ。昇る太陽、欠けた月、硬い蕾、冷たい風。アスファルトの割れ目に生える植物。布団が干されたベランダ。どこにでもあるような風景で、誰も目にとめない。けれど君は季節を知り、営みにふれ、世界の中にいる。
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【千羽鶴は外の風の冷たさを知らない】
「季節を大切にしているよね」と僕が言うと彼女は曇り空のように笑った。「だって、そうしなきゃわからなくなってしまうから。ここだと曜日すら曖昧だもの」指先が千羽の鶴の中の一羽にふれる。色々な表情の鶴がいて、僕も一羽を緊張しながら折った。できるだけ早く不用品になるようにと祈りを込めて。
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【君在りて、僕は生かされている】
生は挑戦の連続だ。僕がしがみついているのは君がこの世界を美しいと言うからだ。君は何も知らない子どもじゃない。僕は人一倍、ひねくれているから、君の輪郭だってしっかり捉えているつもりだ。すべてを受け入れた君は生を謳歌している。そんな君に出会ってから、僕も美しいもの探し続けている。
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【大気中の窒素のような存在】
誰にも必要とされないぐらいがちょうどいい。僕は浅い息を繰り返す。少なくとも君の人生にとって必要不可欠な人間であってはいけない。誰にも期待をされず、誰にも顧みられないぐらいの軽さでいい。揺らぐ意識の中、僕の呼吸音だけが耳に残響する。まだ生きている、生きていたい、と体は訴えている。
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【よくある非日常】
あなたのために死ねるならそれほど人生ではなかった、と思います。最後にできる恩返しです。今までありがとうございました。それを直接できないことが心残りです。もうすぐ機能的に動いている呼吸音が終わりそうです。優しいあなたは私のためもに泣いてくれるでしょう。またねではなく、さようなら。
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【価値を決めるのは自分だ】
手紙の切手代は百十円。レターセットは百均でも買える。黒の油性ボールペンも。そのお金で高級食パンが一斤買える。三食分は、一日分の食事ができる。軽くなった財布と空腹を抱えて、郵便ポストの前に立つ。何年も会っていない友だちの名前だけしか知らない子どもの誕生の祝いを綴った手紙を投函する。
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【君の心が追いつくまで待つ】
君は誠実だから僕に「愛してる」とは言わない。その代わりに「大切な人だよ」と「好きだよ」と伝えてくれた。言葉を選ぶ君らしい不器用さを僕は愛している。だから寂しい気持ちがなかったと言えば嘘になるけど、二人だけの記念日に僕は君にプロポーズをした。君は涙を流して初めて愛してると言った。
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【桜の散る季節に君が言う】
「三日」君はそう呟いた。窓の外を見ているから表情は僕には見えない。「三日?」僕がオウム返しに尋ねると「私のために黒い服を着てくれる期間、それで充分だと思ってる」君は振り返った。長いこと外に出ていないために日に焼けていた肌は、真っ白になっている。「私のことはきちんと思い出にしてね」
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【日付と署名と押印を】
今日が終わろうとしている時間に遺書をしたためる。私しかいない部屋でペンを握り、紙に書いていく。紙を滑るペンは音がなく、私の右手は横に流れていく。私の呼吸の音が響く静かな時間。明かりは最小限。書き上げた紙を丁寧に折ってから白い封筒にしまう。今日も幸せだった、とだけ書いた遺書を。
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【神様がいるかどうかはわからないけど】
神様、どうしてこんな不条理な世界に私を置いたんですか? 他人から見ても絶賛、不幸です。産まれてきたいとも思ったことがない世界です。そこまで思考の底まで落ちていって、気がついた。一神教の信者みたいに礼拝したこともなければ、信仰をしたこともない神様だった。心が馬鹿みたいに軽くなった。
ブクマ、評価、ありがとうございます!
☆が★になるとめちゃくちゃ嬉しいので、お気持ちの分だけ色替えをしてくれると私が嬉しいです!
誤字報告も受け付けているので、心の広い目で見てもスルー出来ないような誤字脱字誤変換がありましたら、ぜひともご報告をお願いいたします!
周囲から誤字脱字女王と言われるほどリアルで言われるほど酷いので!
誤字をしたまま全世界に公開していて、年単位の後からこっそりと修正する方が恥ずかしいのです!




