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死を待つ公爵の庭掃除  作者: よっし
第二章:過去と向き合う
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6話:王宮の尋問と、隠された真実

第六話「王宮の尋問と、隠された真実」


王都は、朝靄の中にその威容を現した。


高い城壁に囲まれた都は、石畳の道が整然と続き、色とりどりの旗が風に揺れている。中央には、王宮の尖塔がそびえ立っていた。


リディアは、馬車の窓からその光景を見つめた。


彼女は一度も王都に来たことがなかった。没落貴族の娘として、宮廷とは無縁の生活を送ってきたからだ。


「立派ね……」


「ああ。でも、美しさの裏には、醜い権力争いが渦巻いている」


ヴェルナーは、苦々しげに言った。


「この都で、真実よりも、噂と政治的思惑が優先される」


馬車は、王宮の正門へと向かった。衛兵が敬礼し、門が開く。


二人は、王国の心臓部へと足を踏み入れた。


***


謁見の間は、圧倒的だった。


高い天井、巨大なシャンデリア、壁を飾る歴代王の肖像画。そして、玉座には――


「よくぞ参られた、エーデルシュタイン公爵」


国王フリードリヒ三世が座っていた。


五十代半ばの国王は、威厳ある顔立ちをしていたが、その目には疲労の色が見えた。長年の統治が、彼の心身を蝕んでいるのだろう。


「陛下」


ヴェルナーは、片膝をついた。リディアも、隣で深々と頭を下げる。


「面を上げよ」


国王の声は、重々しかった。


「ヴェルナー・フォン・エーデルシュタイン。そなたが、長年の病から回復したと聞いた。それは、誠に喜ばしいことだ」


「ありがたき幸せにございます」


「しかし」


国王の表情が、厳しくなった。


「その回復の理由について、宮廷は懸念を抱いている。そなたの妻、リディア・オーウェンが、何か――不自然な力を用いたのではないかと」


リディアは、息を呑んだ。


「陛下」


ヴェルナーが口を開こうとしたが、玉座の横から別の声が割って入った。


「陛下、お言葉ではございますが」


現れたのは、長い灰色の髭を蓄えた老人だった。深紅のローブを纏い、杖には魔法の宝玉が埋め込まれている。


ヴァルター・フォン・クライスト。宮廷魔術師団長。


彼は、鋭い目でリディアを見つめた。


「この件は、単なる『懸念』ではございません。明白な異端魔術の疑いがあります」


「ヴァルター卿」


ヴェルナーの声が、低くなった。


「私の妻を侮辱するのか」


「侮辱ではありません、事実の指摘です」


ヴァルターは、冷たく言い放った。


「公爵、あなたは七年間、魔力の暴走により屋敷ごと呪いに包まれていた。それは、王国中が知る事実。数多の治療師、魔術師が試みても、誰一人として治せなかった」


彼は、杖でリディアを指した。


「なのに、この娘が現れた途端、呪いは消えた。あまりにも不自然ではありませんか」


「それは、リディアが――」


「『淀みを払う力』を持っているから?」


ヴァルターは、嘲るように笑った。


「公爵、そのような都合の良い力など、正統な魔術には存在しません。ならば、それは――古代の禁術しかありえない」


謁見の間が、ざわめいた。


壁際に並ぶ廷臣たちが、互いに囁き合っている。


「古代の禁術とは、生命を操る魔術。それは三百年前、我が王国が封印した、最も邪悪な術です」


ヴァルターは、声を張り上げた。


「その術は、確かに病を治し、呪いを解く。しかし、その代償は――使用者の魂を闇に堕とし、やがては周囲の全てを破滅させる!」


リディアは、震えそうになるのを必死に堪えた。


彼女の力が、そんな邪悪なものだというのか。


「リディア・オーウェン」


ヴァルターは、彼女に近づいた。


「問う。そなたは、その力をどこで得た? 誰に教わった? そして、何の目的で公爵家に入り込んだ?」


「私は――」


リディアは、声を絞り出した。


「何も、企んでいません。ただ、ヴェルナー様を――」


「嘘を申すな!」


ヴァルターの声が、響き渡った。


「そなたのような、どこの馬の骨とも知れぬ娘が、偶然にも公爵を救う力を持っていた? そんな偶然があるものか!」


「ヴァルター卿、それ以上は許さん」


ヴェルナーが立ち上がった。その瞳には、怒りの炎が燃えていた。


「リディアは、誰も傷つけていない。むしろ、彼女の力は――」


「では、証明していただきましょう」


ヴァルターは、冷たく微笑んだ。


「その力が、本当に『無害』なものであるかどうかを」


彼は、国王に向き直った。


「陛下、魔術師団による正式な審査を提案いたします。この娘の力の本質を明らかにし、それが王国にとって脅威でないことを確認すべきです」


国王は、しばらく沈黙していた。


やがて、彼は重々しく頷いた。


「……認める。ヴァルター卿、審査を執り行うがよい」


「御意」


ヴァルターは、満足そうに頷いた。


「では、リディア・オーウェン。我々と共に、魔術師団の審査室へ来ていただきましょう」


「待て」


ヴェルナーが、リディアの前に立ちはだかった。


「私も同行する」


「それはできません」ヴァルターは首を振った。「審査は、厳正に行われなければなりません。外部の干渉は認められません」


「リディアは、私の妻だ。一人で行かせるわけにはいかない」


「公爵」


その時、玉座の脇から声がした。


現れたのは、騎士団の制服を着た男――ディートリヒだった。


「審査中、私が公爵の代わりにリディア様をお守りします」


彼は、ヴェルナーを見た。その目には、『信じろ』というメッセージが込められていた。


ヴェルナーは、歯を食いしばった。


ここで強引に押し通せば、かえってリディアの立場が悪くなる。


「……分かった」


彼は、リディアを振り返った。


「大丈夫だ。すぐに終わる」


リディアは、震える声で答えた。


「はい……」


ヴェルナーは、そっと彼女の手を握った。


「俺を信じろ。必ず、お前を守る」


「はい」


リディアは、微笑もうとした。でも、その笑顔は引きつっていた。


彼女は、ディートリヒとヴァルターに連れられ、謁見の間を後にした。


残されたヴェルナーは、拳を握りしめた。


その手が、青白く光り始めているのに、彼は気づかなかった。


***


魔術師団の審査室は、王宮の最深部にあった。


石造りの部屋には、複雑な魔法陣が床一面に描かれている。壁には、魔力を測定する装置や、古代の魔術書が並んでいた。


「ここで、審査を行います」


ヴァルターは、魔法陣の中央を指した。


「そこに立ちなさい」


リディアは、恐る恐る魔法陣の中央に立った。


ディートリヒは、部屋の隅で腕を組み、じっと見守っている。


「では、始めましょう」


ヴァルターは、杖を掲げた。


魔法陣が光り始める。リディアの足元から、無数の魔力の糸が立ち上り、彼女の体を包み込んだ。


「これは……」


リディアは、息苦しさを感じた。魔力の糸が、彼女の内側に入り込んでくる。まるで、心の奥底まで覗き込まれているような感覚だった。


「ほう……」


ヴァルターの目が、鋭く光った。


「確かに、通常の魔力とは異なる『何か』がある。これは――」


彼は、魔法陣の輝きを強めた。


リディアの体が、ぐらりと揺れた。


「やめろ!」


ディートリヒが叫んだ。


「これ以上は、彼女の体が持たない!」


「黙っていろ、騎士」


ヴァルターは、冷たく言った。


「真実を明らかにするためには、多少の痛みは必要だ」


魔力の糸が、さらに強くリディアを締め付ける。


彼女の視界が、白く霞んでいく。


その時――


リディアの中で、何かが目覚めた。


それは、彼女自身も知らなかった、深い深い場所に眠っていた記憶だった。


***


――幼い日の記憶。


まだ五歳だった頃。リディアは、母の手を引いて森の中を歩いていた。


「お母様、どこへ行くの?」


「大切な場所よ、リディア」


母アイリーンは、優しく微笑んだ。


彼女たちは、森の奥にある泉に辿り着いた。澄んだ水が湧き出る、美しい場所だった。


「ここは、私が子供の頃、祖母に連れてこられた場所なの」


アイリーンは、泉の水に手を浸した。


「この泉は、特別な力を持っている。大地の淀みを浄化し、全てのものに清らかさをもたらす」


「浄化……?」


「そう。この世界には、目に見えない淀みが溜まるの。悲しみ、恨み、絶望――そうした負の感情が、時間と共に澱んでいく」


アイリーンは、幼いリディアを見つめた。


「でも、私たちの一族には、その淀みを払う力が受け継がれているの」


「私も?」


「ええ。リディア、あなたには特に強い力がある」


母は、リディアの手を取った。


「この力は、とても大切なもの。でも、同時に――人々に恐れられる力でもあるの」


「どうして?」


「人は、理解できないものを恐れるから。だから、リディア――」


アイリーンは、真剣な顔で言った。


「この力のことは、誰にも言ってはいけない。ただの『お掃除が上手な子』でいなさい。そうすれば、あなたは安全に生きられる」


幼いリディアは、母の言葉の意味を完全には理解できなかった。


でも、母の目に宿る不安を感じ取り、頷いた。


「約束する、お母様」


「いい子ね」


アイリーンは、娘を抱きしめた。


「いつか、この力を誇れる日が来ますように」


――記憶は、さらに深く潜っていく。


母が亡くなる直前。病床で、アイリーンはリディアの手を握った。


「リディア……私たちの一族のこと、話しておかなければ」


「お母様、喋らないで。体に障るわ」


「いいえ、これだけは……」


アイリーンは、か細い声で続けた。


「私たちは、『月の巫女』の末裔なの」


「月の巫女……?」


「かつて、この大陸を統治していた古代王国。その王国には、月の女神に仕える巫女たちがいた」


母の目が、遠くを見つめた。


「巫女たちは、月の力を借りて、大地を浄化していた。でも、王国が滅んだ後、巫女の力は『禁術』として封印された」


「どうして?」


「新しい権力者たちが、その力を恐れたから。月の巫女は、どんな呪いも解き、どんな淀みも払える。それは――既存の魔術体系を脅かすものだったの」


アイリーンは、リディアの頬を撫でた。


「だから、私たちは隠れて生きてきた。代々、この力を受け継ぎながら、ただの平凡な人間として」


「お母様も?」


「ええ。でも、リディア――あなたは違う」


母の目が、輝いた。


「あなたの力は、私や祖母よりもずっと強い。もしかしたら、何百年ぶりに現れた、真の月の巫女かもしれない」


「私が……?」


「ええ。だから、お願い」


アイリーンは、リディアの手を強く握った。


「いつか、あなたがその力を使う時が来たら――恐れないで。あなたの力は、美しく、尊いものなのだから」


それが、母の最期の言葉だった。


***


リディアは、目を開けた。


審査室に戻っていた。でも、何かが変わっていた。


彼女の体が、淡い金色に輝いている。


それは、月の巫女の力――本当の力が、目覚めた証だった。


「これは……!」


ヴァルターは、後ずさった。


「月の巫女……まさか、本当に存在したのか!」


リディアは、自分の手を見つめた。


手のひらから、柔らかな光が溢れている。それは、今まで使っていた力とは比べ物にならないほど、強く、純粋だった。


「私は……月の巫女」


彼女は、呟いた。


全ての記憶が、蘇った。母から聞いた話。祖母から母へ、母から自分へと受け継がれた力。


そして――この力が、なぜ封印されたのか。


「ヴァルター卿」


リディアは、魔術師団長を見た。


「あなたが恐れているのは、私の力が『邪悪』だからではありません。あなたたちの魔術体系を、脅かすからでしょう」


ヴァルターの顔が、引きつった。


「何を……」


「月の巫女の力は、あなたたちの魔術よりも古く、純粋です。呪いも、病も、淀みも――全てを浄化できる」


リディアは、一歩前に出た。


「それは、宮廷魔術師の存在意義を揺るがす。だから、封印したのでしょう? 『禁術』という名目で」


ディートリヒが、息を呑んだ。


ヴァルターは、しばらく沈黙していた。


やがて、彼は低く笑った。


「……賢い娘だ。その通りだ」


彼は、杖を構えた。


「月の巫女の力は、確かに強大だ。だからこそ、放置できない。三百年前、我々の先祖は、最後の月の巫女を火刑に処した」


ヴァルターの目が、冷たく光った。


「そして今、再び――歴史を繰り返す時が来たようだ」


「させるか!」


ディートリヒが、剣を抜いた。


「リディア様、私の後ろに!」


しかし、ヴァルターは動じなかった。


「騎士よ、無駄だ。ここは、私の結界の中。お前の剣など――」


彼が杖を振りかざした瞬間。


轟音と共に、審査室の扉が吹き飛んだ。


***


「リディア!」


現れたのは、ヴェルナーだった。


彼の全身からは、青白い光が溢れていた。それは、制御された月の魔力――エーデルシュタイン家の真の力だった。


「ヴェルナー様!」


リディアは、彼の名を叫んだ。


ヴェルナーは、まっすぐにリディアの元へ駆け寄った。そして、彼女を背に庇った。


「公爵!」


ヴァルターは、驚愕の表情を浮かべた。


「その魔力……まさか、お前、制御できるようになったのか!」


「ああ」


ヴェルナーの瞳が、深い青に輝いた。


「七年間、俺は自分の力を恐れていた。でも、もう違う」


彼は、リディアの手を取った。


「俺には、守るべきものができた。だから――」


二人の手が触れ合った瞬間、奇跡が起こった。


ヴェルナーの月の魔力と、リディアの浄化の力が、完全に融合したのだ。


青白い光と金色の光が混ざり合い、部屋全体を包み込んだ。それは、まるで満月の夜に降り注ぐ光のように、神聖で圧倒的だった。


「これは……」


ヴァルターは、杖を落とした。


その光の前では、彼の魔術など無力だった。


光は、審査室を超え、王宮全体に広がっていった。


謁見の間で待っていた国王も、廷臣たちも、その光を見た。


「何だ、この光は……」


国王は、窓辺に駆け寄った。


光は、王宮だけでなく、王都全体を包んでいた。そして――不思議なことが起こり始めた。


長年病に苦しんでいた人々の痛みが、消えた。


荒れ果てていた土地に、草が芽吹いた。


淀んでいた空気が、清々しくなった。


「浄化……されている」


国王は、呆然と呟いた。


「王都全体が……」


***


審査室では、光がゆっくりと収まっていった。


ヴェルナーとリディアは、手を繋いだまま立っていた。


二人の周りだけは、まだ淡く輝いている。


「ヴァルター卿」


ヴェルナーは、床に座り込んだ魔術師団長を見下ろした。


「俺の妻の力が、邪悪なものだと、まだ言うか?」


ヴァルターは、何も答えられなかった。


彼が目撃したものは、確かに『浄化』だった。それも、かつてないほど強大で、純粋な。


「月の巫女と、月の魔力の継承者……」


ヴァルターは、震える声で言った。


「伝説は、本当だったのか」


「伝説?」


リディアが尋ねると、ヴァルターは力なく笑った。


「古代王国には、予言があったという。『月の巫女と月の王が結ばれし時、世界は浄化され、新しい時代が始まる』と」


彼は、二人を見上げた。


「お前たちは――その予言の体現者なのかもしれん」


その時、審査室に国王が現れた。


「ヴェルナー公、そしてリディア・オーウェン」


国王の声は、先ほどまでの厳格さとは違い、畏敬を含んでいた。


「今、この目で見た。お前たちの力が、どれほど尊いものか」


彼は、二人の前に立った。


「リディア・オーウェン。そなたを魔女として告発した者たちは、愚かであった。そなたは魔女などではない――聖女だ」


リディアは、驚いて国王を見た。


「陛下……」


「この王国は、長年、古い因習に囚われすぎていた。月の巫女を封印し、真実を恐れてきた」


国王は、深く頭を下げた。


「許してほしい。そして――この国に、そなたの力を貸してはくれないか」


***


その日、王宮では緊急の会議が開かれた。


ヴェルナーとリディアは、国王の隣に座ることを許された。異例のことだった。


「諸卿」


国王は、集まった廷臣たちに告げた。


「本日より、月の巫女の封印を解く。そして、エーデルシュタイン公爵夫妻を、王国の守護者として認める」


廷臣たちは、ざわめいた。


しかし、王都全体が浄化された奇跡を目撃した彼らは、誰も反対できなかった。


「ヴァルター卿」


国王は、魔術師団長を見た。


「そなたは、リディア・オーウェンを魔女として告発した。その罪を、どう償う?」


ヴァルターは、立ち上がり、深く頭を下げた。


「陛下、そして公爵夫妻。私の無知と傲慢を、お許しください」


彼は、リディアを見た。


「私は、恐れていました。自分たちの知らない力を。そして、それが自分たちの地位を脅かすことを」


「ヴァルター卿」


リディアは、優しく言った。


「私は、誰の地位も奪うつもりはありません。ただ、困っている人を助けたいだけです」


ヴァルターの目に、涙が浮かんだ。


「なんと……慈悲深い」


彼は、床に膝をついた。


「どうか、この老いぼれに、あなたの力を学ばせてください。正しい魔術とは何か、改めて教えを請いたい」


リディアは、ヴェルナーを見た。


彼は、小さく頷いた。


「分かりました」リディアは微笑んだ。「でも、私が教えられることは少ないかもしれません。一緒に、学んでいきましょう」


***


会議が終わり、二人は王宮の庭を歩いていた。


夕日が、王都を赤く染めている。


「まさか、こんな展開になるとは思わなかった」


ヴェルナーは、ため息をついた。


「国王から、王国の守護者だなんて」


「私も、驚きました」


リディアは、笑った。


「でも、これで良かったのかもしれません。もう、力を隠す必要がなくなったから」


「ああ」


ヴェルナーは、リディアの手を取った。


「お前は、もう誰にも恐れられない。むしろ、慕われるだろう」


「それは、ヴェルナー様も同じです」


リディアは、彼を見上げた。


「ヴェルナー様の魔力も、もう『呪い』じゃありません。『祝福』です」


二人は、しばらく黙って歩いた。


やがて、ヴェルナーが口を開いた。


「なあ、リディア」


「はい?」


「俺たちの屋敷に、戻ったら――」


彼は、少し照れたように視線を逸らした。


「月樹を、一緒に見ようと思うんだ。きっと、もっと育っているはずだから」


リディアの顔が、ぱっと明るくなった。


「はい! 絶対、新しい枝が出ていますよ」


「ああ。そして、母の作った庭園を、完全に蘇らせよう」


「記憶の庭園も、温室も、全部」


「ああ。二人で」


ヴェルナーは、リディアを見つめた。


「これからも、ずっと二人で」


リディアは、涙ぐんだ。


「はい。ずっと、ずっと」


夕日の中、二人は抱き合った。


長い試練を乗り越え、ようやく手に入れた、本当の絆。


そして――これから始まる、新しい人生への希望。


王宮の塔の上では、ディートリヒが二人を見下ろしていた。


「やるじゃないか、ヴェルナー」


彼は、小さく笑った。


「お前の選んだ女性は、本物だったな」


風が、優しく吹き抜けた。


それは、もう死の風ではなく――


新しい命をもたらす、春の風だった。



***


【第六話 了】

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