番外編3:幼馴染の決意 ~ディートリヒ視点~
番外編3「幼馴染の決意 ~ディートリヒ視点~」
ディートリヒ・フォン・シュヴァルツヴァルトは、王宮の自室で手紙を読んでいた。
差出人は、ヴェルナー・フォン・エーデルシュタイン。
幼馴染にして、親友。
そして――七年間、ずっと心配していた男。
『ディートリヒ
久しぶりに手紙を書く。
元気にしているか。
俺は――少し、変わった。
いや、大きく変わったと言うべきか。
妻を娶った。リディア・オーウェンという娘だ。
彼女は、不思議な力を持っている。
淀みを払う力を。
そして、彼女が来てから、この屋敷は――俺は、変わり始めている。
いつか、お前に会わせたい。
彼女を。
そして、お前にも見てほしい。
俺が、もう一度笑えるようになったことを。
ヴェルナー』
ディートリヒは、手紙を握りしめた。
「ヴェルナー……」
彼の目に、涙が浮かんだ。
七年間、待っていた。
親友が、再び立ち上がる日を。
そして、ついに――
その日が来たのだ。
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ディートリヒとヴェルナーは、幼い頃から一緒だった。
二人とも名門貴族の息子で、王都の同じ学院に通っていた。
ヴェルナーは、聡明で優しく、誰からも慕われる少年だった。
そして、母親を深く愛していた。
「ディートリヒ、見てくれ」
十歳のヴェルナーが、嬉しそうに見せてくれたのは、押し花だった。
「母上が、温室で育てている花なんだ。綺麗だろう?」
「ああ、綺麗だな」
「いつか、お前も屋敷に来いよ。母上の庭を見せてやる」
ヴェルナーの笑顔は、太陽のように明るかった。
でも――
その笑顔が失われる日が、来た。
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ヴェルナーが十六歳の時。
母、アリシアが病で亡くなった。
葬儀の日、ディートリヒはヴェルナーの隣にいた。
親友は、一滴も涙を流さなかった。
公爵として、強くあらねばと――
自分に言い聞かせているようだった。
でも、ディートリヒには分かっていた。
ヴェルナーが、どれほど母を愛していたか。
そして、どれほど悲しんでいるか。
「ヴェルナー」
葬儀の後、ディートリヒは声をかけた。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
ヴェルナーは、無表情で答えた。
「俺は、公爵だ。泣いている暇はない」
「でも――」
「心配するな、ディートリヒ。俺は、強い」
でも、その言葉は――
まるで、自分自身に言い聞かせているようだった。
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それから数日後。
ディートリヒは、王都でヴェルナーの屋敷が「呪われた」という噂を聞いた。
急いで屋敷に向かうと――
門の前で、衛兵に止められた。
「申し訳ございません。公爵様は、誰にも会われません」
「俺は、ヴェルナーの友人だ! 通してくれ!」
「それでも、お断りするようにと……」
ディートリヒは、強引に門を突破しようとした。
でも、その瞬間――
黒い霧が、門から溢れ出してきた。
「うっ……!」
ディートリヒは、息苦しさを感じた。
これが、噂の「呪い」か。
彼は、必死に中に入ろうとした。
でも、霧が濃すぎて、近づけない。
「ヴェルナー!」
彼は、叫んだ。
「ヴェルナー、俺だ! 開けてくれ!」
でも、返事はなかった。
やがて、窓が開いた。
二階の窓から、ヴェルナーが顔を出した。
その顔は――
まるで、生気を失った石膏像のようだった。
「帰れ、ディートリヒ」
冷たい声だった。
「お前まで、巻き込みたくない」
「何を言っている! お前は、俺の親友だ!」
「だからこそだ」
ヴェルナーの目には、深い絶望があった。
「俺は、もう終わりだ。この呪いは、誰も解けない。だから――お前は、離れていてくれ」
「ヴェルナー……!」
窓が、閉められた。
ディートリヒは、その場に立ち尽くした。
そして、拳を握りしめた。
「くそ……!」
彼は、無力だった。
親友を救うことが、できなかった。
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それから七年間。
ディートリヒは、何度もヴェルナーの屋敷を訪れた。
でも、毎回追い返された。
ヴェルナーは、誰にも会おうとしなかった。
ディートリヒは、騎士団で働きながら、ずっと心配していた。
治療師を紹介したり、魔術師を派遣したり――
できる限りのことをした。
でも、誰もヴェルナーを救えなかった。
「俺は……何もできないのか」
ディートリヒは、自分の無力さに打ちのめされた。
でも、諦めなかった。
いつか、必ず――
親友を、救い出す。
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そして、その手紙が届いた。
ヴェルナーからの、七年ぶりの手紙。
『妻を娶った』
『彼女が来てから、俺は変わり始めている』
『もう一度笑えるようになった』
ディートリヒは、手紙を何度も読み返した。
そして、涙を流した。
「よかった……」
彼は、心から安堵した。
「よかったな、ヴェルナー」
親友が、ついに闇から抜け出そうとしている。
それが、どれほど嬉しいことか。
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しかし、その喜びも束の間だった。
王宮から、新しい命令が下った。
『エーデルシュタイン公爵とその妻を、王宮に召喚せよ』
『公爵の妻、リディア・オーウェンが、魔女の疑いあり』
ディートリヒは、愕然とした。
「魔女……?」
彼は、すぐに上司に抗議した。
「待ってください! リディア・オーウェンは、公爵を救った恩人です!」
「それが問題なのだ」
上司は、厳しい顔で言った。
「正体不明の力で、公爵の呪いを解いた。それは、危険だと判断された」
「でも――!」
「これは、王命だ。ディートリヒ、お前が召喚の使者として行け」
ディートリヒは、拳を握りしめた。
でも、命令に逆らうことはできない。
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エーデルシュタイン公爵家に向かう道中、ディートリヒは悩んでいた。
ヴェルナーを救った女性を、告発しなければならない。
それは、あまりにも残酷だった。
屋敷に着くと、アーデルベルトが出迎えた。
「ディートリヒ様、お久しぶりでございます」
「アーデルベルト……久しぶりだな」
老執事は、ディートリヒを応接室に案内した。
そして――
ヴェルナーが現れた。
七年ぶりに見る親友は――
変わっていた。
顔色は良く、目には光があった。
「ディートリヒ……」
「ヴェルナー!」
ディートリヒは、親友に駆け寄った。
「お前、本当に……!」
「ああ」
ヴェルナーは、小さく笑った。
「俺は、もう大丈夫だ」
その笑顔を見た瞬間、ディートリヒの目に涙が浮かんだ。
「よかった……本当に、よかった」
二人は、抱き合った。
七年間の空白が、一瞬で埋まった。
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でも、喜びの再会も束の間。
ディートリヒは、苦渋の表情で王命を伝えなければならなかった。
「ヴェルナー……実は、用件があって来た」
彼は、召喚状を取り出した。
ヴェルナーの表情が、厳しくなった。
「……そうか」
「すまない。俺も、反対したんだが……」
「分かっている。お前のせいじゃない」
ヴェルナーは、召喚状を受け取った。
そして、リディアを呼んだ。
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リディア・オーウェンは、ディートリヒの想像以上に――
普通の、優しそうな娘だった。
魔女などという雰囲気は、微塵もない。
「初めまして、ディートリヒ様」
彼女は、丁寧に礼をした。
「お初にお目にかかります」
ディートリヒは、彼女を観察した。
栗色の髪、優しい瞳、穏やかな笑顔。
そして、ヴェルナーを見る目には――
深い愛情があった。
「リディア様……」
ディートリヒは、彼女に頭を下げた。
「ヴェルナーを、救ってくださり、ありがとうございます」
リディアは、驚いた顔をした。
「いえ、私は……」
「いいや」
ディートリヒは、顔を上げた。
「俺は、七年間、ヴェルナーを救えなかった。どんなに努力しても、無理だった」
彼の声が、震えた。
「でも、あなたは――ヴェルナーに、光をもたらしてくれた。それだけで、俺は感謝してもしきれない」
リディアは、涙ぐんだ。
「ありがとうございます……」
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王命を伝えた後、ディートリヒは二人に誓った。
「俺は、王宮でお二人を守ります」
「ディートリヒ……」
「審査中、俺が傍にいる。そして、もし――」
彼は、剣に手をかけた。
「もし、リディア様が不当に扱われるようなことがあれば、俺は剣を取ります。たとえ相手が王宮でも」
「それは、反逆罪だぞ」
ヴェルナーが、心配そうに言った。
「構わない」
ディートリヒは、きっぱりと言った。
「俺は、騎士だ。守るべきものを守る。それが、俺の誇りだ」
「ディートリヒ……」
ヴェルナーは、親友の肩を叩いた。
「ありがとう」
「礼には及ばない。お前は、俺の親友だ」
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王都での審査。
ディートリヒは、約束通り、リディアの傍にいた。
ヴァルターが、リディアを追い詰めようとした時――
ディートリヒは、何度も剣に手をかけそうになった。
でも、リディアは――
強かった。
彼女は、恐れることなく、自分の信念を語った。
そして、ヴェルナーと共に、驚くべき力を見せた。
王都全体を包む、浄化の光。
その光を見た瞬間、ディートリヒは理解した。
この二人は、特別なんだと。
運命で結ばれた、二人なんだと。
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審査が終わり、リディアが「聖女」として認められた時。
ディートリヒは、心から安堵した。
「よかった……」
彼は、ヴェルナーに声をかけた。
「お前の妻は、本物だったな」
「ああ」
ヴェルナーは、微笑んだ。
「俺の、全てだ」
ディートリヒは、親友の幸せそうな顔を見て――
心から、嬉しくなった。
「ヴェルナー」
「何だ?」
「お前が、幸せそうで――俺も、嬉しいよ」
ヴェルナーは、ディートリヒの肩を叩いた。
「ありがとう、ディートリヒ。お前がいてくれて、本当に助かった」
「いや、俺は何も――」
「いいや」
ヴェルナーは、真剣な目で言った。
「お前は、七年間、俺を見捨てなかった。それだけで、十分だ」
ディートリヒの目に、涙が浮かんだ。
「ヴェルナー……」
「これからも、頼む。親友として」
「ああ」
ディートリヒは、力強く頷いた。
「もちろんだ。これからも、ずっと」
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その夜、ディートリヒは王宮の自室で、日記を書いた。
『今日、ヴェルナーが救われた。
七年間、ずっと心配していた親友が、ついに光を取り戻した。
それは、リディア・オーウェンという、不思議な娘のおかげだ。
彼女は、魔女などではない。
聖女だ。
そして、ヴェルナーにとって――
かけがえのない、伴侶だ。
俺は、この二人を守ろう。
親友として。
騎士として。
どんな困難が待っていても――
この二人の幸せを、守り抜く。
それが、俺の使命だ』
ディートリヒは、ペンを置いた。
そして、窓の外の月を見上げた。
満月が、優しく輝いていた。
「ヴェルナー、リディア」
彼は、呟いた。
「お前たちの未来に、祝福を」
風が、優しく吹いた。
それは、まるで――
誰かの「ありがとう」という言葉のようだった。
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【番外編3 了】
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