表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/9

第8話:肩もみ、膝枕、そして誘惑

 翌日の午後。


 私は執務室で書類仕事をしていた。


 しかし、集中できない。


 昨夜のキスの感触が、まだ唇に残っているような気がする。


 柔らかくて、甘くて──


「蒼真」


 突然、背後から声がかかった。


 振り向くと、千紗──リーシャが立っていた。


「お疲れ様、蒼真。肩、凝ってない?」


「ああ、少し……」


「じゃあ、揉んであげる」


 言うが早いか、彼女は私の後ろに回り込んだ。


 小さな手が、私の肩に触れた。


「……っ」


 思わず息を呑んだ。


 彼女の手は、想像以上に柔らかかった。


 ふにふにとした、まるでマシュマロのような感触。


「力加減、どう?」


「あ、ああ……ちょうどいい……」


 彼女の指が、肩の筋肉をほぐしていく。


 気持ちいい。素直に、気持ちいい。


 ──だが、問題がある。


 彼女が近い。


 近すぎる。


 背中に、何か柔らかいものが触れている。


 ──胸だ。


 リーシャの胸が、私の背中に押し付けられている。


 控えめな大きさだと思っていた。確かに、見た目はそうだ。


 しかし、こうして直接触れると、その柔らかさは想像を超えていた。


 弾力があって、でも柔らかくて。


 私の背中に、ふにゅっと形を変えて密着している。


「蒼真? 顔、赤いよ?」


「き、気のせいだ」


「熱でもあるの?」


 彼女が心配そうに、私の額に手を当てた。


 顔が近い。


 漆黒の瞳が、至近距離で私を見つめている。


 長い睫毛。透き通るような白い肌。ほんのり赤い唇。


 ──キスしたい。


 いや、ダメだ。昨日一回しただろう。


「大丈夫、熱はないみたい」


「そ、そうか……」


「でも、念のため休んだ方がいいよ。ほら、膝枕してあげる」


「膝枕……?」


 彼女がソファに座り、ぽんぽんと自分の膝を叩いた。


「いや、それは……」


「遠慮しないで。婚約者なんだから」


 ──婚約者。


 確かに、婚約者だ。


 膝枕くらい、問題ないはずだ。


「……じゃあ、少しだけ」


 私は観念して、リーシャの膝に頭を置いた。


 ──柔らかい。


 驚くほど、柔らかい。


 彼女の太腿は、クッションよりも心地よかった。


 絹のスカート越しに伝わる、すべすべした肌の感触。


 ほどよい弾力と、温かさ。


「どう? 気持ちいい?」


「……ああ」


 正直に答えてしまった。


 彼女がくすくすと笑う。


「よかった」


 彼女の手が、私の髪を撫で始めた。


 優しい手つき。指先が頭皮をくすぐる。


 ──気持ちいい。


 眠くなってきた。


 しかし、同時に別の問題が発生していた。


 彼女の膝枕を受けているこの体勢。


 見上げると──彼女の顔がある。


 その向こうに──胸がある。


 下から見上げる形だ。


 スカートとブラウスの境目から、わずかに覗く白い肌。


 鎖骨。そして、その下の──


「蒼真?」


「な、なんだ……」


「さっきから、どこ見てるの?」


 ──バレた。


 私は慌てて目を閉じた。


「ど、どこも見ていない」


「嘘。顔が真っ赤だよ?」


「気のせいだ」


「ふーん……」


 彼女の声が、悪戯っぽく響いた。


「……見たかったら、見てもいいよ?」


「な……っ!」


 私は飛び起きた。


「何を言っている!」


「だって、婚約者だもん。いずれは見せるんだし」


「いずれは、であって、今ではない!」


「えー」


 リーシャが頬を膨らませた。


 ──可愛い。


 可愛いが、このままでは理性が持たない。


「仕事に戻る」


「つれないなあ」


 私は逃げるように机に向かった。


 心臓がうるさい。


 顔が熱い。


 ──あの角度から見た彼女の胸が、脳裏から離れない。


---


 数日後。


 リーシャの誘惑は、さらにエスカレートしていた。


「蒼真、お茶をどうぞ」


 彼女がカップを差し出してきた。


 ──胸元が、やけに開いている。


 今日のドレスは、いつもより露出が多い。


 鎖骨がしっかり見えている。そして、胸の谷間も。


 控えめな膨らみだが、寄せれば谷間ができる程度にはある。


 その谷間が、私の視界に飛び込んでくる。


「……ありがとう」


 私は努めて視線を逸らしながら、カップを受け取った。


 指が触れた。


 彼女の指は、いつも通り柔らかくて温かかった。


「蒼真」


「なんだ」


「今日、一緒にお風呂に入らない?」


 私はお茶を吹き出しそうになった。


「なっ……何を……」


「だって、背中流してあげたいし」


「ダメだ」


「えー、なんで?」


「なんでって……」


 言えるわけがない。


 君と一緒に風呂に入ったら、理性が崩壊するからとは。


「じゃあ、せめて着替えのお手伝いは?」


「それもダメだ」


「ケチ」


 彼女が拗ねたような顔をした。


 その顔が、また可愛い。


 ──いかん。心が揺らぐ。


「……稽古の後なら、タオルで汗を拭いてもらうくらいは……」


「本当!?」


 リーシャの顔がぱっと明るくなった。


「約束だよ!」


 ──しまった。


 余計なことを言ってしまった。


---


 稽古が終わり、人気がなくなった修練場。


 約束通り、リーシャがタオルを持って待っていた。


「お疲れ様、蒼真」


「ああ……」


 私は上着を脱いだ。


 肌着一枚になる。


「汗、すごいね」


 彼女がタオルで私の顔を拭いた。


 柔らかいタオルと、彼女の優しい手つき。


「首も拭くね」


「ああ……」


 タオルが首筋を滑る。


 ──気持ちいい。


 だが、それ以上に──彼女の顔が近い。


 汗を拭いてもらうために屈んでいるから、彼女と目線が同じ高さになっている。


 漆黒の瞳が、じっと私を見つめている。


「蒼真、鍛えてるんだね」


「まあ、剣術の稽古はしているからな」


「触っていい?」


「……えっ?」


 言う前に、彼女の手が私の腕に触れた。


 小さくて柔らかい手のひらが、私の上腕をなぞる。


「すごい。硬い」


「……」


 彼女の手が、肩へ移動した。


 鎖骨をなぞり、胸筋へ。


「ここも、硬いね」


 ──いろいろな意味で、硬くなりそうだ。


 私は彼女の手を掴んだ。


「そ、それくらいで十分だ」


「えー、もう少し触りたかったのに」


「ダメだ」


 私は逃げるように浴室へ向かった。


 ──危なかった。


 あのまま触られ続けていたら、隠しきれないものが……


 冷水を浴びよう。


 そう決意して、私は蛇口をひねった。


---


 夜。


 またもや、リーシャが私の部屋に来た。


 今夜の寝巻きは、いつもより薄い。


 いや、薄いというか──透けている。


 白い生地の下に、彼女の体のラインがはっきりと見える。


 細い肩。くびれた腰。そして──胸の形。


「蒼真、今夜も一緒に寝ていい?」


「……ああ」


 もう、断る気力がない。


 毎晩のことだ。今更抵抗しても無駄だとわかっている。


 ベッドに入る。


 彼女が隣に滑り込んでくる。


 ──近い。


 いつもより、近い。


 彼女の体が、私の体に密着している。


「蒼真」


「なんだ」


「今日、寒いの」


「……暖炉をつけるか?」


「ううん。蒼真があったかいから、くっついてたい」


 そう言って、彼女は私の胸に顔を埋めた。


 艶やかな黒髪が、私の顎をくすぐる。


 甘い花のような香り。


 そして──柔らかい感触。


 彼女の胸が、私の脇腹に押し付けられている。


 控えめな大きさ。しかし、確かな柔らかさ。


 弾力があって、ふにふにとしていて。


 押し付けられるたびに、形を変えて私の体に密着する。


「蒼真、心臓、すごい音がするね」


「……気のせいだ」


「嘘。ドキドキしてるでしょ?」


 ──バレバレだった。


---


 その夜。


 寝室のベッドにて。


 リーシャが、私の上に跨っていた。


「……ねえ、まだドキドキしてるね」


 彼女が私の胸に手を当てて言った。


「……仕方ないだろう」


「私のせい?」


「……」


「私が近くにいると、ドキドキする?」


 彼女が顔を上げた。


 月明かりに照らされた、美しい顔。


 漆黒の瞳が、期待に潤んでいる。


「……する」


 私は正直に答えた。


「君が近くにいると、どうしてもドキドキする。我慢するのが大変なんだ」


「へえ……」


 彼女が嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、もっと近くにいてあげるね」


「待て──」


 彼女が私の上に乗り上げてきた。


 馬乗りの姿勢。


 彼女の体重が、私の腰にかかっている。


 薄い寝巻き越しに、彼女の体温が伝わってくる。


 そして──彼女の柔らかい場所が、私の下腹部に密着している。


 柔らかい。驚くほど柔らかい。


 ふにゃりとした弾力が、私の体に押し付けられている。


 寝巻き越しでも、その温かさと柔らかさがはっきりとわかる。


「リーシャ……!」


「千紗って呼んで」


「千紗……これは……」


「なに?」


 彼女が無邪気に首を傾げた。


 ──この体勢で、無邪気もなにもないだろう。


「降りてくれ」


「嫌」


「なぜだ」


「だって、蒼真の困った顔、可愛いんだもん」


 ──可愛いのは君の方だ。


 そう言いたかったが、今の状況でそんなことを言ったら、さらに状況が悪化する。


「千紗」


「なに?」


「このままだと、俺は……」


「俺は?」


「……我慢できなくなる」


 彼女の目が、きらりと光った。


「いいよ? 我慢しなくて」


「ダメだ」


「なんで?」


「結婚式まで、あと二ヶ月だからだ。それまでは、絶対に──」


「絶対に?」


「絶対に、君を……抱かない」


 彼女が黙った。


 そして──ふふ、と笑った。


「蒼真って、本当に真面目だよね」


「当たり前だ」


「でも、それが好き」


 彼女が私の上から降りた。


 代わりに、私の隣に寄り添うように横になった。


「じゃあ、今夜はここまでにしてあげる」


「……助かる」


「でも、明日はもっと攻めるからね」


「勘弁してくれ……」


 私はため息をついた。


 隣で、千紗がくすくすと笑っている。


「蒼真」


「なんだ」


「好き」


「……俺もだ」


「早く結婚したいね」


「ああ。……心から、そう思う」


 彼女が私の腕を取り、抱きついてきた。


 柔らかい体が、私に密着する。


 胸の感触。太腿の感触。そして、甘い香り。


 ──ああ。


 本当に、結婚式が待ち遠しい。


 早く、彼女を正式に妻にして。


 そうすれば、もう我慢しなくていい。


 ──あと二ヶ月。


 長い、長い二ヶ月が始まった。


---


 そして、その翌日。


 千紗の攻撃は、さらに激しさを増した。


「蒼真、お風呂上がり」


 彼女が私の部屋に入ってきた。


 ──バスタオル一枚だった。


「なっ……!」


 私は思わず立ち上がった。


 白いバスタオルが、彼女の体を辛うじて隠している。


 肩から腕にかけては完全に露出。濡れた黒髪が、白い肌に張り付いている。


 バスタオルの上端から覗く、鎖骨のライン。


 そして、胸の膨らみを包むバスタオルの生地が、湿り気を帯びて肌に密着している。


 控えめな大きさだが、形がはっきりとわかる。


 上向きで、丸くて、柔らかそうで──


「何をじっと見てるの?」


 千紗が悪戯っぽく笑った。


「み、見てない!」


「嘘。今、私の胸、見てたでしょ」


「見てない!」


「じゃあ、どこ見てたの?」


「……」


 返答に詰まった。


「ふーん。で、蒼真」


 千紗が一歩、近づいてきた。


 水滴が、彼女の肩から滑り落ちる。


 鎖骨を伝い、胸の谷間へと消えていく。


 ──見るな。見てはいけない。


「タオル、もう一枚持ってきて」


「……は?」


「だから、タオル。髪拭くの」


「それなら、自分の部屋で──」


「蒼真に拭いてほしいの」


 彼女がさらに近づいてきた。


 甘い石鹸の香り。


 湯上がりの、ほんのりと上気した白い肌。


 バスタオルの隙間から覗く、太腿の曲線。


 そして、バスタオルに包まれた彼女のウエストが、信じられないほど細い。


 くびれから、お尻にかけてのなだらかな曲線。


 小ぶりだが丸みを帯びたヒップラインが、バスタオル越しにもはっきりとわかる。


「……わかった」


 私は観念して、タオルを取りに行った。


 ──逃げたかっただけかもしれない。


 彼女の体を直視し続けるのは、精神的に限界だった。


---


 タオルを持って戻ると、千紗はベッドに腰掛けていた。


 バスタオル姿のまま。


 白い脚を組んで、私を見上げている。


「お願い」


 彼女が黒髪を手で持ち上げた。


「優しく拭いてね」


「……ああ」


 私は彼女の後ろに回り、タオルで髪を拭き始めた。


 濡れた髪は、絹のように滑らかだった。


 指に絡みつく感触が、妙に色っぽい。


「ん……気持ちいい……」


 千紗が小さく声を漏らした。


 その声に、心臓が跳ね上がる。


「蒼真、もうちょっと強くていいよ」


「こ、こうか?」


「うん……そう……」


 彼女がまた声を漏らした。


 ──やばい。


 この声を聞いていると、理性が飛びそうになる。


「ねえ、蒼真」


「な、なんだ……」


「首も拭いて」


「首?」


「うん。ここ、濡れてるから」


 彼女がうなじを見せるように、髪を前に流した。


 白いうなじが、露わになった。


 うっすらと産毛が生えていて、水滴が光っている。


 ──きれいだ。


 こんなに綺麗なうなじは、初めて見た。


「蒼真? どうしたの?」


「い、いや……」


 私はタオルで、彼女のうなじを拭いた。


 指が、肌に触れた。


「……っ」


 千紗の体が、ぴくりと震えた。


「ちさ……?」


「ん……くすぐったい……」


 彼女の声が、甘く震えている。


 ──まずい。


 このままでは、本当にまずい。


「よ、よし、終わりだ」


 私は強引に切り上げた。


「えー、もっとやってよ」


「ダメだ。これ以上は……」


「これ以上は?」


 千紗が振り向いた。


 漆黒の瞳が、私を捉えている。


 湯上がりで上気した頬。濡れた唇。


 そして、バスタオルがずれかけて、胸の上部が──


「ち、千紗! バスタオルが……!」


「あ、ほんとだ」


 彼女はあっけらかんと、バスタオルを直した。


「見えちゃった?」


「み、見てない!」


「嘘。顔、真っ赤だよ?」


「だから見てない!」


「ふーん……」


 千紗がにやりと笑った。


「じゃあ、見たかった?」


「……っ!」


 返事ができなかった。


 正直に言えば──見たかった。


 あと少しずれていたら、彼女の胸が──


「やっぱり見たかったんだ」


「ち、違う……」


「正直に言っていいよ? 私、怒らないから」


「……」


「蒼真の欲しがりさん」


 彼女がくすくすと笑った。


 私は顔から火が出そうになりながら、逃げるように部屋を出た。

【作者からのお願い】

もし、「おもしろい」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク登録をしていただけるとうれしいです。また「いいね」や感想もお待ちしています!

また、☆で評価していただければ大変うれしいです。

皆様の応援を励みにして頑張りますので、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ