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第5話:幼馴染モード全開! もう遠慮しない

 それから。


 千紗は、完全に「素」を出すようになった。


 いや、「素」というより──前世の頃と同じ、遠慮のない幼馴染モードだ。


「ねえ、蒼真」


 彼女は二人きりのときは「蒼真」と呼び、敬語も一切使わなくなった。


「今夜も、一緒に寝ていい?」


「……仕方ないな」


「なにそのしぶしぶ感。本当は嬉しいくせに」


「う……」


 図星だった。


 最初は抵抗していた添い寝も、今では毎晩の日課になっている。


 しかし、問題がある。


 ──彼女が、日に日に積極的になっているのだ。


「蒼真、暑い」


「窓を開けるか?」


「ううん、そうじゃなくて」


 彼女が寝巻きのボタンを、一つ外した。


 白い肌が、月明かりに照らされて露わになる。


「こ、こら! 何をする!」


「だって、暑いんだもん」


 さらにもう一つ、ボタンを外す。


 鎖骨が見えた。その下の、膨らみの始まりも。


「や、やめろ! 結婚式までは──」


「えー、まだ二ヶ月もあるのに?」


「二ヶ月だ! 二ヶ月は長い!」


「我慢できないの?」


 千紗が悪戯っぽく笑った。


 ──うっ。


 その笑顔が、可愛すぎて辛い。


「私は、いつでもいいよ?」


「俺がダメなんだ!」


「へえ……」


 千紗の漆黒の瞳が、妖しく光った。


「ねえ、蒼真。ちょっと見せてあげようか?」


「見せる……? 何を……」


 彼女がにやりと笑い、私の下半身に視線を落とした。


「いや、もう見えてるか。テントみたいに張ってるし」


「なっ……!」


 私は慌ててシーツを引き寄せた。


 ──バレていた。


 完全にバレていた。


「あははっ、真っ赤になってる! 蒼真、可愛い!」


「可愛いとか言うな!」


「だって可愛いんだもん。前世のときもそうだったよね」


 千紗がくすくすと笑う。


「告白できなくてモジモジしてたり、距離近いと顔赤くなったり。そういうの、全部知ってるから」


「う……」


「男のくせに意気地なし。前世でもそうだったよね?」


 彼女が私の顔を覗き込んだ。


 悪戯っぽい笑顔。でも、どこか愛おしそうな目。


「私がずっと隣にいたのに、全然気づかなかったし。鈍感だし、臆病だし。告白もしてこなかったし」


「それは……」


「でも、そこが好きなんだよね。ほっとけなくて」


 彼女が私の頬を両手で挟んだ。


「だから、この世界では私がリードしてあげる。蒼真は、ついてくればいいの」


「千紗……」


「なに? 文句ある?」


「……ない」


 私は観念した。


 こうなった千紗には勝てない。前世でもそうだった。


「よし、じゃあ話の続きね」


 千紗がベッドの上で、仰向けになった。


 寝巻きの裾が、太腿までめくれている。白い脚が、眩しいほどに眩しい。


 そして、寝巻きの裾が上がったことで、彼女のお腹が少しだけ見えていた。


 白くて滑らかな肌。きゅっとくびれたウエスト。そして、その中央にある可愛らしいおへそ。


 ──見るな。見てはいけない。


 だが、目が離せない。


「暑いなあ……」


 彼女がわざとらしく言いながら、扇情的に体をくねらせた。


 胸が揺れる。くびれた腰がしなやかに動く。


「ねえ蒼真、また反応してない?」


「……するなって方が無理だろ」


「あは、正直! でも我慢してるの、偉いね」


 ──反則だ。


 こんなの、絶対に反則だ。


「ねえ、蒼真」


「な、なんだ……」


「私のこと、可愛いと思う?」


「……思う」


「もっと、近くで見たくない?」


「…………」


 返事ができなかった。


 正直に言えば、見たい。


 できることなら、触りたい。


 だが、それをしてしまったら──


「ふふ、顔が赤いよ」


 千紗がくすくすと笑った。


「大丈夫、今日はここまで。……でも、明日はもっと攻めるからね?」


「勘弁してくれ……」


 私は枕に顔を埋めた。


「……ねえ、蒼真」


 千紗の声が、少しだけ真剣になった。


「なんだ……」


「私がこんなに大胆なの、びっくりしてる?」


「……正直、驚いている」


 前世の千紗は、もっと控えめだった。


 いつも俺の隣にいたけれど、こんなに積極的に誘ってくることはなかった。


「前世では、言えなかったから」


 千紗が、私の隣に寄り添ってきた。


「好きって言えなくて、ずっと後悔してた。だから、この世界では違う生き方をしようって決めたの」


「千紗……」


「それにね」


 彼女がくすりと笑った。


「私たち、この世界では偉いじゃない? あなたは辺境伯家の嫡男で、私は伯爵令嬢。責任もあるし、自由にできないこともたくさんある」


「ああ、そうだな」


「だからこそ、プライベートは自由にしなきゃ損損!」


 千紗が私の顔を覗き込んだ。


 漆黒の瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。


「いつ、また、何があるかわからないでしょ? 前世みたいに、突然死んじゃうかもしれない」


「……」


「だから、もう後悔は二度としたくないの。好きな人には、ちゃんと好きって言いたいし、やりたいことは全部やりたい」


 彼女の声が、少しだけ震えていた。


「蒼真が死んだって聞いて、飛び出して、そのまま……私も死んじゃったでしょ? あのとき思ったの。ああ、好きって言っておけばよかったって」


「千紗……」


「だから」


 彼女が私に抱きついてきた。


「この世界では、全力で蒼真を好きになる。恥ずかしいとか、遠慮とか、そういうの全部捨てる」


「……わかった」


 私は彼女の頭を撫でた。


「じゃあ、俺も覚悟を決めるよ。君の全力を、全部受け止める」


「……うん」


 千紗が私の胸に顔を埋めた。


「ありがとう、蒼真」


 ──ただし、結婚式までは手を出さない。


 それだけは、譲れない。


 私は心の中で、改めて誓った。


 このまま結婚式まで耐えられるだろうか。


 正直、自信がない。

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