第1話:婚約者が距離を詰めすぎる件について
私──クロード・フォン・ブレイフォード──は、辺境伯家の嫡男として、何不自由ない生活を送っている。
十七歳。剣術も魔法もそこそこ。領地経営の勉強も順調。両親からの信頼も厚い。
──そして、婚約者がいる。
隣領の伯爵令嬢、リーシャ・フォン・フローリア。十六歳。
艶やかな黒髪に、漆黒の瞳。透き通るような白い肌。小柄で華奢な体つきながらも、胸元はふっくらと膨らんでいる。
控えめに言って、絶世の美少女だ。
そんな彼女と、私は三ヶ月前に婚約した。
両家の利益のための政略婚約──のはずだった。
だが、彼女は最初から、私に対して異常なほど親しげだった。
「クロード様、お疲れではありませんか? こちら、お好きな紅茶をご用意しました」
「クロード様、剣術の稽古はいかがでしたか? 汗をかかれたでしょう。タオルをどうぞ」
「クロード様、今日のお食事は羊肉のグリルです。……お好きだとお聞きしましたので」
なぜ、私の好みを全部知っている?
初対面のはずなのに。
政略婚約の相手なのに。
その違和感が、決定的になったのは、婚約から三ヶ月が過ぎた、ある夜のことだった。
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「クロード様、お休みの準備はできましたか?」
夜。私の寝室の扉が、ノックと共に開いた。
入ってきたのは、薄い寝巻き姿のリーシャだった。
──薄い寝巻き。
白い絹の生地が、彼女の体の線を透かしている。
肩にかかる黒髪。ほんのり上気した頬。漆黒の瞳は、期待に潤んでいる。
そして、寝巻きの胸元が大きく開いていて、柔らかな白い膨らみが──
「エ、リーシャ!? 何をしている!」
私は慌てて視線を逸らした。
心臓がうるさい。
見るな。見てはいけない。
彼女は婚約者だが、まだ正式な妻ではない。
手を出すわけにはいかない。
「夜這いですが」
リーシャはさらりと言った。
「よ、夜這い……?」
「はい。婚約者として、当然の権利かと」
「当然ではない! 結婚前だぞ!」
「でも、もうすぐ結婚するのですから、同じことです」
彼女がすたすたと近づいてくる。
薄い寝巻きの下で、胸が揺れている。
控えめな大きさだと思っていたが、こうして見ると──いや、見てはいけない。
「待て、待ってくれ」
私は両手を前に出して制止した。
「婚約者として、礼節を守りたい。結婚式までは──」
「我慢できないのですか?」
リーシャが首を傾げた。
その仕草が、異様に可愛かった。
「……私は我慢できますが?」
「いや、その、私が我慢できないとかではなく……」
「では、問題ありませんね」
彼女がさらに近づいてくる。
甘い花のような香りが鼻をくすぐる。
「リーシャ」
「はい」
「頼むから、自分の部屋に戻ってくれ」
「嫌です」
──即答だった。
漆黒の瞳が、じっと私を見つめている。
「クロード様と一緒にいたいのです。……だめですか?」
上目遣い。潤んだ瞳。小さく震える唇。
──ずるい。
こんな顔をされたら、断れないではないか。
「……わかった。だが、何もしないぞ。添い寝だけだ」
「はい!」
リーシャが満面の笑みを浮かべた。
花が咲いたような、眩しい笑顔。
その瞬間、私の心臓が跳ね上がった。
──可愛い。
可愛すぎる。
なぜ、こんなに可愛いのだ、この女は。
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